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列車は走るよ。何乗せて? 編

第11話 列車は走るよ。何乗せて? 2

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 かといって、女装に抵抗を無くす手段なんて限られている。普段からその要素を取り入れるしかない。

「これ、聖女様、集中力がありませんぞ」

 今日もミハエルは元気だ。いい歳の取り方してんだな。おれもこれぐらいになったらーー、さすがにセックスは無理だろう。
 だけど、もう少しで、聖女生活も終わるってんで、変なテンションきちまってるだろうなーー。

「じいちゃん、おれちょっと自分が嫌いになってんだよー」
「おや、そのわりには変わらずただれていらっしゃいますがー」

 余計な事言うなーー。ドミトリーが笑っているだろう。

「美花とマーサさんが、おれのウエディングドレス作ってんのよ。まあまあ痛いやつ」
「はあ、着たくないんですか?」

 なかなかできることじゃありませんよ、とミハエルが続けた。

「そりゃそうだよ。忙しい中、他にもやる事いっぱいある中進めてくれてんだよー。すげぇー、嬉しいんだけどさー」

 溜め息をつく。

「おれが女だったら、こんな悩みなかったんだ。アレクだって、豪華な結婚式やってたはずなんだし」
 琉生斗は俯いた。
「スズ様だって、結婚式はしてませんよ」
 ミハエルの言葉に、琉生斗は目を丸くした。

「コランダム殿下のお身内が、本当に嫌いでねー。呼ばなきゃならないなら絶対に嫌だ、と言って聞きませんでした。ですが、お写真は撮りましたよ。ティン殿が持っているでしょうな」

 そうなんだ、琉生斗は呟いた。

「アレクもさ、おれが男だったから、がっかりきたよな。きっとー」
「それだけやりこんでて、がっかりも何もないでしょ」
 ドミトリーが馬鹿にしたように言う。

「聖女が男なんて、詐欺もいいところだ」

「スズ様の前のタケ様は、男の身で絶対に無理だ、とそういうときは性転換の魔法を使って、なさってたそうですよ」

 琉生斗は弾かれたように顔をあげた。

「ーータケさんも、男なのか?」
「ええ、本名は竹之助たけのすけさまです。アレクセイ殿下がどうしても無理なら、魔法を使ってたと思いますけどね」

 ミハエルが、やれやれ、と息を吐いた。

「ーーあいつ、男と付き合ってたのか?」
 琉生斗の言葉にミハエルが眉をあげた。
「聞いてどうするんです?」
「教えてくれてもいいだろ!」

 苛立ったように、琉生斗が言う。ミハエルは目を細めた。

「男は、聖女様がはじめてですよ。嬉しいですか?」
「んなわけねーだろ!」

 やっぱり、すごい無理してたんだーー。自分ばかり被害者ぶってて、本当に申し訳ない。

「でもやっぱり女の人はあるんだーー」
 琉生斗は崩れ落ちた。
「何もない方がいいんですか?」

 そりゃ神官ぐらいしか無理じゃないですかね?と、言いながら、ドミトリーが部屋を出ていった。

「大丈夫。遊びですー」
 爆弾発言を残してーー。

「そんなんも嫌だーー!」
 琉生斗は泣いた。

 もう、ドミトリーはーー、ミハエルが溜め息をついた。

 自分が嫌だーー。

「聖女様、今日はお身体がつらいんですよね?水鏡の間に行きましょう。元気が出ますよ」
 琉生斗は頷いた。

 素直に水鏡の間に入る。

 一面の青空と青く透明な水面。
 聖女と教皇以外には歩く事も出来ない、歩けば沈む、水鏡の床だ。
 琉生斗が歩く度に、水面に波紋が広がる。琉生斗はある程度進むと膝を折った。

 祈りを捧げる。


 ここに来ると、琉生斗は思う。

 自分て、聖女なんだなー、と。
 何分、いや何時間でもこうしていても苦にならない。

 おれって嫌なヤツだーー。

 琉生斗は悲しくなってきた。



 愛シ子ハイイ子ーー。



 ありがとうーー、女神様ーー。












「アレクセイ殿下、聖女様は水鏡の間におられます。まだ女神様とお話の最中でございます」

 教皇ミハエルが琉生斗を迎えに来たアレクセイに、恭しく頭を下げた。
「そうかーー」
「少し気の乱れがございましたから、その時期かとーー」

 アレクセイは目を伏せた。

「ルートにばかり、つらい思いをさせるな」
 教皇が微笑む。
「お二人で選んだ道でございましょう」
 その言葉に、アレクセイは頷いた。

 ガシャン。

「おや、出てこられましたかーー」
 ミハエルが琉生斗に近付いていく。
「あ、じいちゃん、お疲れさん。待っててくれたんだ」
「殿下が迎えに来ておられます」
「え?忙しいのにわりいなー。用事はすんだのか?」

 琉生斗は明るく声をかけた。アレクセイが琉生斗を抱きしめた。

「アレクーー、神殿ではまずいぞ」
 と、言いながら琉生斗は抱きしめ返した。
「はいはい。聖女様、もっと精神修行をなさいませ。来年は、魔蝕の動きが活発になる年です。今のままでは負けますよ」
「ーー了解でーす」

 絶対に負けないように、がんばりますよーー。

「ルートー……」
「心配すんなよ。だいぶあのときの不安定さをコントロールできるようになってきたんだから」
 琉生斗は背伸びをしてアレクセイにキスをした。
 
 好きだーー。おれの旦那さんーー。まじで好きだーー!

「ーー何叫んでんですか?」
 冷静なミハエルの声に、琉生斗は我に返る。
「ーーあれ、おれ口に出てた?」
 確認するようにアレクセイを見た。彼は少し眉根を寄せている。

 なんでそういちいちカッコいいかなーー。

「はいはい。のろけは結構。もうお帰り下さいーー」
「えっ!」
「ルート、女神様に何かされたか?」
 ミハエルが振り返った。
「いや、普通に話してただけだけどーー」

 主におれが愚痴って、励まされてーー。

「女神様に愚痴が言えるとはーー、あなただけでしょうなーー」

 琉生斗はミハエルの発言のおかしさに気付いた。呆然とアレクセイを見ると、彼は頷いた。
「まじかよー。解除できる?」

 アレクならチョチョイのちょいだろーー。

「いや、心を読む魔法はあっても、心の声を外に出す魔法というのはーー。元素がどうなっているのかーー。解析はするが、女神様は何と?」
「あっ、そうだなー」
 
 女神様ー、どうなってんだよー。おれ、困るんだけどーー。



 ルートハ、ソレデイイーー。暫ク、ソノママーー。




 女神様のお言葉に、ミハエルが目を丸くした。
「心の声が漏れているのですかーー。それは大変ですねー。しょうもない事ばかり考えてるからー」

 呆れたようにミハエルが言い、琉生斗をじっと見た。

「そこまで心配されて、本当に稀有な聖女様だ」

 聖女なんて、みんなそんなもんだろーー。

「いいえ、聞いたことがありません」
 ミハエルが首を振る。
「鱗を二枚にしていただいた事といい、アレクセイ殿下が爪をいただいた事といい、恐ろしい聖女と護衛がいたもんですよ」

 なんか、じいちゃん怒ってんな、と琉生斗は考えそうになって、何とか考えないようにする。

「面倒くさいなー」

 行儀悪く舌打ちする。
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