220 / 410
列車は走るよ。何乗せて? 編
第10話 列車は走るよ。何乗せて? 1
しおりを挟む
別日に設けた海水浴も、大賑わいだった。
国王夫妻も参加し、パボンも子供連れでやって来て、しっかりとお父さんしていた。
良い父親だな、と琉生斗は感心する。まぁ、自分の父親と比べると誰でも良い父親なのだろうがーー。
東堂は魔法騎士候補生を引率し、始終危険のないように目を光らせていた。
海水浴の次は納涼会である。
こちらも屋台の出店や、企画などで忙しい琉生斗であったのだが、それとは別にあることに頭を悩ませていた。
「仮縫いは終わったから、次からは本縫いね」
「はい!本当に、なんてお綺麗なんでしょうー」
「ちょっとずつしか出来ないけど、殿下の誕生日には間に合わせないとーー」
美花とマーサが、自分を見てうっとりしている。いや、自分ではない。自分達が作る純白の衣装にだ。
純白の衣装は、琉生斗に合わせたウエディングドレスだ。襟は立襟だがレース素材で、肩や腕もレースだ。胸からは切り替えられているが、純白の生地に銀の刺繍が入るらしい。
ズボンは履かせてもらえるが、上着は後ろ裾がふんわり膨らみ、腰から幾重にも布を重ねていく。
「ーー完全にスカートだろー」
もう、やめようやーー、と心底嫌そうな顔をするが、二人には通じない。
もう一着マネキンが着ている衣装は、漢服のアレンジだ。まあ、あっちならなんとかーー。
「絶対にやんない」
服を脱ごうとした琉生斗に美花が言う。
「写真だけは撮りなさいよ」
きつく言われる。
「何でだ?」
「あんた、結婚は一回きりなんでしょ?向こうだってそうなら、殿下は結婚式できないのよ」
そんなのかわいそうじゃない、と美花が続けた。
「あんただって我慢してる事あるでしょうけど、きっと向こうだって、言いたい事言えずに我慢してるわよ。これから弟も結婚するのよ。羨ましい、って思ったりするわ」
だからせめて、と美花が強く語った。
琉生斗は下を向いた。
アレクは結婚式したかったのかなーー、気にした事なかったけどーー。
「ルート。明日はヒョウマと一緒に鉄道を見に行くがルートはどうする?」
「場所は?」
「バッカイアのバスラ領にある車庫だ」
琉生斗は固まった。妻の様子にアレクセイが目を細める。
「ーーそれって、向こうの王太子さんは、来るの?」
アレクセイが首を振った。
「明日は来ないそうだ。試運転の日は何があっても行くと言っていたが」
「そ、そうか」
顔を合わせるの気まずいだろうなーー、と琉生斗が考えていると、アレクセイの美しい瞳がすぐ近くにあった。
「やはり、何かあったのだなー?」
視線が厳しい。
「あー、やー、うー?」
琉生斗は視線を横にしたが、頬を押さえられる。
「うー、まあ、おまえには言っといた方がいいかーー」
実はなーー、
「兵馬、ラルジュナさんと、やっちゃったんだって」
アレクセイが目を開いたまま、沈黙した。
「あいつも、両親、特に父親からの拒絶がこたえたんだろうなー。しょげちゃって、ラルジュナさんのとこ行ったそうなんだよ。ほら、あの人励ますのとかうまそうじゃん」
楽しく騒いじゃおー、みたいな。
「ーー襲ったのか」
「違うみたい。合意の上だって」
「ーーつい最近の打ち合わせではそんな感じはなかったが」
「一回きりだって。遊びでもなくて、後は普通にしましょう、なんだと」
ほんとあのタレ目、と琉生斗は肩を怒らせた。
「ーーそうか……」
「言い方悪いけど、弱ってる人間に優しくすりゃ、大抵は落ちるよな。あの人そういう人か?」
アレクセイが首を振る。
「ああ見えて真面目な男だ」
危ないのはむしろアスラーンの方なのだがーー。
「そうなんだーー。試運転の日はおれも行くから、明日は兵馬よろしくな」
「わかった」
話が終わり琉生斗からキスをする。抱き抱えてソファに横たえられ、強く深く唇でつながる。
「なあーー」
「どうした?」
「もし、だけどーー、おれが女だったらどうだった?」
アレクセイが琉生斗の顔をまじまじと見る。返事に困ったような彼の顔を見て、琉生斗は質問を取り消した。
「あぁ、やっぱりなし。変な事聞いて、ごめん!」
琉生斗はアレクセイの服を脱がしながら、首すじにキスをした。肩の傷にも念入りに唇を這わせる。
「ーー何か悩みが?」
「ーーないよ」
大事にしよう、と琉生斗は思った。
おれの大事なアレクを、大切にしよう、と琉生斗は誓った。
国王夫妻も参加し、パボンも子供連れでやって来て、しっかりとお父さんしていた。
良い父親だな、と琉生斗は感心する。まぁ、自分の父親と比べると誰でも良い父親なのだろうがーー。
東堂は魔法騎士候補生を引率し、始終危険のないように目を光らせていた。
海水浴の次は納涼会である。
こちらも屋台の出店や、企画などで忙しい琉生斗であったのだが、それとは別にあることに頭を悩ませていた。
「仮縫いは終わったから、次からは本縫いね」
「はい!本当に、なんてお綺麗なんでしょうー」
「ちょっとずつしか出来ないけど、殿下の誕生日には間に合わせないとーー」
美花とマーサが、自分を見てうっとりしている。いや、自分ではない。自分達が作る純白の衣装にだ。
純白の衣装は、琉生斗に合わせたウエディングドレスだ。襟は立襟だがレース素材で、肩や腕もレースだ。胸からは切り替えられているが、純白の生地に銀の刺繍が入るらしい。
ズボンは履かせてもらえるが、上着は後ろ裾がふんわり膨らみ、腰から幾重にも布を重ねていく。
「ーー完全にスカートだろー」
もう、やめようやーー、と心底嫌そうな顔をするが、二人には通じない。
もう一着マネキンが着ている衣装は、漢服のアレンジだ。まあ、あっちならなんとかーー。
「絶対にやんない」
服を脱ごうとした琉生斗に美花が言う。
「写真だけは撮りなさいよ」
きつく言われる。
「何でだ?」
「あんた、結婚は一回きりなんでしょ?向こうだってそうなら、殿下は結婚式できないのよ」
そんなのかわいそうじゃない、と美花が続けた。
「あんただって我慢してる事あるでしょうけど、きっと向こうだって、言いたい事言えずに我慢してるわよ。これから弟も結婚するのよ。羨ましい、って思ったりするわ」
だからせめて、と美花が強く語った。
琉生斗は下を向いた。
アレクは結婚式したかったのかなーー、気にした事なかったけどーー。
「ルート。明日はヒョウマと一緒に鉄道を見に行くがルートはどうする?」
「場所は?」
「バッカイアのバスラ領にある車庫だ」
琉生斗は固まった。妻の様子にアレクセイが目を細める。
「ーーそれって、向こうの王太子さんは、来るの?」
アレクセイが首を振った。
「明日は来ないそうだ。試運転の日は何があっても行くと言っていたが」
「そ、そうか」
顔を合わせるの気まずいだろうなーー、と琉生斗が考えていると、アレクセイの美しい瞳がすぐ近くにあった。
「やはり、何かあったのだなー?」
視線が厳しい。
「あー、やー、うー?」
琉生斗は視線を横にしたが、頬を押さえられる。
「うー、まあ、おまえには言っといた方がいいかーー」
実はなーー、
「兵馬、ラルジュナさんと、やっちゃったんだって」
アレクセイが目を開いたまま、沈黙した。
「あいつも、両親、特に父親からの拒絶がこたえたんだろうなー。しょげちゃって、ラルジュナさんのとこ行ったそうなんだよ。ほら、あの人励ますのとかうまそうじゃん」
楽しく騒いじゃおー、みたいな。
「ーー襲ったのか」
「違うみたい。合意の上だって」
「ーーつい最近の打ち合わせではそんな感じはなかったが」
「一回きりだって。遊びでもなくて、後は普通にしましょう、なんだと」
ほんとあのタレ目、と琉生斗は肩を怒らせた。
「ーーそうか……」
「言い方悪いけど、弱ってる人間に優しくすりゃ、大抵は落ちるよな。あの人そういう人か?」
アレクセイが首を振る。
「ああ見えて真面目な男だ」
危ないのはむしろアスラーンの方なのだがーー。
「そうなんだーー。試運転の日はおれも行くから、明日は兵馬よろしくな」
「わかった」
話が終わり琉生斗からキスをする。抱き抱えてソファに横たえられ、強く深く唇でつながる。
「なあーー」
「どうした?」
「もし、だけどーー、おれが女だったらどうだった?」
アレクセイが琉生斗の顔をまじまじと見る。返事に困ったような彼の顔を見て、琉生斗は質問を取り消した。
「あぁ、やっぱりなし。変な事聞いて、ごめん!」
琉生斗はアレクセイの服を脱がしながら、首すじにキスをした。肩の傷にも念入りに唇を這わせる。
「ーー何か悩みが?」
「ーーないよ」
大事にしよう、と琉生斗は思った。
おれの大事なアレクを、大切にしよう、と琉生斗は誓った。
12
お気に入りに追加
255
あなたにおすすめの小説
とある文官のひとりごと
きりか
BL
貧乏な弱小子爵家出身のノア・マキシム。
アシュリー王国の花形騎士団の文官として、日々頑張っているが、学生の頃からやたらと絡んでくるイケメン部隊長であるアベル・エメを大の苦手というか、天敵認定をしていた。しかし、ある日、父の借金が判明して…。
基本コメディで、少しだけシリアス?
エチシーンところか、チュッどまりで申し訳ございません(土下座)
ムーンライト様でも公開しております。


一級警備員の俺が異世界転生したら一流警備兵になったけど色々と勧誘されて鬱陶しい
司真 緋水銀
ファンタジー
【あらすじ】
一級の警備資格を持つ不思議系マイペース主人公、石原鳴月維(いしはらなつい)は仕事中トラックに轢かれ死亡する。
目を覚ました先は勇者と魔王の争う異世界。
『職業』の『天職』『適職』などにより『資格(センス)』や『技術(スキル)』が決まる世界。
勇者の力になるべく喚ばれた石原の職業は……【天職の警備兵】
周囲に笑いとばされ勇者達にもつま弾きにされた石原だったが…彼はあくまでマイペースに徐々に力を発揮し、周囲を驚嘆させながら自由に生き抜いていく。
--------------------------------------------------------
※基本主人公視点ですが別の人視点も入ります。
改修した改訂版でセリフや分かりにくい部分など変更しました。
小説家になろうさんで先行配信していますのでこちらも応援していただくと嬉しいですっ!
https://ncode.syosetu.com/n7300fi/
この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
幼い精霊を預けられたので、俺と主様が育ての父母になった件
雪玉 円記
BL
ハイマー辺境領主のグルシエス家に仕える、ディラン・サヘンドラ。
主である辺境伯グルシエス家三男、クリストファーと共に王立学園を卒業し、ハイマー領へと戻る。
その数日後、魔獣討伐のために騎士団と共に出撃したところ、幼い見た目の言葉を話せない子供を拾う。
リアンと名付けたその子供は、クリストファーの思惑でディランと彼を父母と認識してしまった。
個性豊かなグルシエス家、仕える面々、不思議な生き物たちに囲まれ、リアンはのびのびと暮らす。
ある日、世界的宗教であるマナ・ユリエ教の教団騎士であるエイギルがリアンを訪ねてきた。
リアンは次代の世界樹の精霊である。そのため、次のシンボルとして教団に居を移してほしい、と告げるエイギル。
だがリアンはそれを拒否する。リアンが嫌なら、と二人も支持する。
その判断が教皇アーシスの怒髪天をついてしまった。
数週間後、教団騎士団がハイマー辺境領邸を襲撃した。
ディランはリアンとクリストファーを守るため、リアンを迎えにきたエイギルと対峙する。
だが実力の差は大きく、ディランは斬り伏せられ、死の淵を彷徨う。
次に目が覚めた時、ディランはユグドラシルの元にいた。
ユグドラシルが用意したアフタヌーンティーを前に、意識が途絶えたあとのこと、自分とクリストファーの状態、リアンの決断、そして、何故自分とクリストファーがリアンの養親に選ばれたのかを聞かされる。
ユグドラシルに送り出され、意識が戻ったのは襲撃から数日後だった。
後日、リアンが拾ってきた不思議な生き物たちが実は四大元素の精霊たちであると知らされる。
彼らとグルシエス家中の協力を得て、ディランとクリストファーは鍛錬に励む。
一ヶ月後、ディランとクリスは四大精霊を伴い、教団本部がある隣国にいた。
ユグドラシルとリアンの意思を叶えるために。
そして、自分達を圧倒的戦闘力でねじ伏せたエイギルへのリベンジを果たすために──……。
※一部に流血を含む戦闘シーン、R-15程度のイチャイチャが含まれます。
※現在、改稿したものを順次投稿中です。
詳しくは最新の近況ボードをご覧ください。

どこにでもある話と思ったら、まさか?
きりか
BL
ストロベリームーンとニュースで言われた月夜の晩に、リストラ対象になった俺は、アルコールによって現実逃避をし、異世界転生らしきこととなったが、あまりにありきたりな展開に笑いがこみ上げてきたところ、イケメンが2人現れて…。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

せっかく美少年に転生したのに女神の祝福がおかしい
拓海のり
BL
前世の記憶を取り戻した途端、海に放り込まれたレニー。【腐女神の祝福】は気になるけれど、裕福な商人の三男に転生したので、まったり気ままに異世界の醍醐味を満喫したいです。神様は出て来ません。ご都合主義、ゆるふわ設定。
途中までしか書いていないので、一話のみ三万字位の短編になります。
他サイトにも投稿しています。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる