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海水浴に行きましょう。編

第6話 海水浴に行きましょう。6☆

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 セージは兄と自分の前にコップを置き、カルヴァドスを注ぐ。だが、自分用にはわからないように、シャーランにアルコールを抜く魔法をかけてもらった。

「勝負だ!」
 セージは一気に飲んだ。アレクセイは、「美味いな」と言いながら味わって飲んでいる。

「おい!次だ!」

 全員が、大丈夫なのかセージ殿下、という顔だ。

 アレクセイの顔色は変わらなかった。二杯、三杯と進む中、「チーズが欲しい」とまで言い出した。

 ーーあれ?弱くないじゃんーー?

 セージが首を傾げた、そのときーー。

 パタン。



 アレクセイが机の上に倒れた。

 うそぉーー!

 その場にいる全員に衝撃が走る。

「うわ、マジ弱いんだー」
 東堂は水を探す。
「殿下!医者を呼んで来ます!」
 トルイストも医療班を呼ぼうと走って行く。

「殿下!どうされました!」
 異変に気付いたアンダーソニーとルッタマイヤがアレクセイに駆け寄ってきた。ルッタマイヤは、コップに気付き眉を顰めた。

「何を飲まれたんです?」
「親父のカルヴァドスだ。オレの勝ちだな!」
 セージははしゃいだ。

「「はあー!」」

 アンダーソニーとルッタマイヤは叫んだ。

「ヒョウマ殿ー、ありがとうございます、って兄上!どうなさいました!」

 浮かれていたクリステイルは、兄の姿を見て青ざめた。アンダーソニーがクリステイルをとめる。

「王太子殿下、安全なところへお逃げ下さい!」
「どうしたんです!」
 兄へ近付こうともがく。

「アルコールです!」
「ええぇぇー!飲んだんですか!」
 クリステイルの顔に死相が浮いた。

「わ、私、がんばりますから!ルッタマイヤ軍将、カレンをお願いします!」
「わかりました!ヤヘルを連れて来ます!」
「できれば教皇や神官を!」

 ルッタマイヤが花蓮を連れて転移した。東堂はアレクセイに水を飲まそうと近付く。

「トードォ殿!駄目です!」
「へっ?」

 瞬間、東堂は吹っ飛んだ。海の中に叩きつけられる。



 皆、口を開けたまま何もできなかった。その中、アンダーソニーだけは動いていた。東堂に保護魔法をかけるために。

「ーー何とか間に合ったか……」
 アンダーソニーが汗をぬぐった。

 アレクセイはゆっくりと身を起こす。
 美しさが荒れ狂うような色香が、その瞳から立ち上がった。視線ひとつで、すべてを魅了してしまいそうな深い海の藍色の双眸。

 いつもと空気が違うーー。兵馬は恐怖した。

 薄く笑っているのに、普段の無表情の方が優しく見える。
 圧が、いつもより強い。何が怖いのか、わからないぐらい恐怖にかられる。

 セージは、怯えて後退った。誰もがアレクセイの放つ圧力に怯えている。

「ど、どういう事です?」
 ファウラが尋ねるが、クリステイルは大声を出した。

「全員、保護魔法を全開に!死にますよ!」
 言葉が終わると同時に、セージがアレクセイの拳に、飛んだ。

「セージ殿下!」
 トルイストが足場魔法で、セージを受け止めた。

 クリステイルとアンダーソニーは強力な結界を展開したが、アレクセイに素手で割られる。
 美しい微笑みだった。

「トルイスト!行きますよ!」
 ファウラが剣を構えた。

「ああ!」
 トルイストも魔法剣を出す。二人で逆方向から斬りつけに行くが、アレクセイに軽く流され、蹴りをくらう。

 ガードしても、これかーー!

「ベルガモット!逃げろ!」
「トルイスト!」



「まったく、誰が殿下にお酒なんか飲ませたんですか?」

 教皇ミハエルがあらわれ、最上級の結界聖魔法を展開する。魔法を使う者は聖魔法とは相性がよくない。これは、アレクセイにも効いたのか、少し考えるような顔をする。

「避難できる者はしなさい。どれぐらい飲んだんです?」

 アレクセイが結界を壊し始めた。魔弾マジックバレットを撃ち込む。

「コップ三杯です!」
 美花が叫んだ。
「ーー15分かー」
 クリステイルが呻いた。

「何なの?」
 兵馬は目を見開いたまま、町子に庇われていた。

「兄上はお酒を飲むと、普段抑えてる力のリミッターのようなものが外れるようです」
「え?」

 酒乱なの?

「本人は知らないんですよー。覚えてないらしくーー」

 酒乱だ。

「私も兄上もお祖父様の葬儀の後で、父上に薦められてはじめて飲んだんですが、飲んだ後兄上がああなっちゃってー。全員でかかっても止められなくてーー」
「全員てー」

「私、父上、叔父上、アンダーソニー士長達に、教皇と神官達です。そのときは一杯だったので、5分でとまってくれたんです」

 止められなかったんだーー、陛下ちゃんとセージに言っとけよ!と誰もがここにいない王に怒りを向けた。

 アレクセイがミハエルの結界を壊した。
 東堂が聖剣を下方から振り上げた。アレクセイは足でとめ、そのまま浮いて東堂を蹴った。

「ぐはっ!」
 美花の保護魔法がなかったら、死んでいただろう。

「殿下!」
 アンダーソニーとヤヘルが結界を張る。アレクセイはからかうように結界をノックした。

 簡単に割れる。

「ありゃー!」
「ヤヘル!もっとがんばらんか!」

「行きますわよ!」
 ルッタマイヤが剣で斬り付ける。受け止められ、剣が粉々になる。ヤヘルも後ろから刃を向けたが、稲妻のような蹴りに巨体が吹っ飛ぶ。

「拘束!」

 ミハエルが最高峰の拘束聖魔法をかけた。イワンとドミトリーが後ろで補助に入る。
 アレクセイが動きを止める。

「このまま、保たせます!」
「教皇!」

 すごい!

「ヒョウマ!聖女様はどこです!」

「あっ、ルート寝てる!」
 そうだ、と兵馬は我に返った。

「起こして来なさい!」
「はい!」

「聖女様に危害を加えないとは限りませんよ!」

 あのとき、体調不良により琉生斗はいなかった。だからこそ、わからないのだ。この状態の兄に聖女様がわかるのかーー。

「王太子殿下、甘いですね」
 ミハエルは馬鹿にしたように言った。

「き、教皇!」
「もう無理です!」
「情けない!」

 アレクセイは拘束の聖魔法を破った。
 左手をゆっくりとあげる。
 全員、目を見張り、青ざめた。
 

 指が動くーー。
 薄く開いた唇の、美しさに、見惚みとれる間はなかった。

 何としてでも結界を、でなければーー、誰もが死の覚悟をした。





 そのとき、
「何だよ、もうちょっと寝かせろよー」

 兵馬は強引に連れてきた琉生斗を、アレクセイの前に突き出した。琉生斗は目をこすりながらアレクセイを見た。

 目が合った。

「ん?アレク、どうかしたーー」
 自分を見るアレクセイの目が、熱に潤んでいく。
 琉生斗は唇を塞がれた。

「ちょっ」
 琉生斗は懸命にもがくが、キスは深く激しくなり、アレクセイの手は背中をまさぐりはじめる。

「ちょっと待て!」

 ここはダメだろ!なあ!公開処刑かよ!と、跳ね除けようと琉生斗はがんばるが、力で敵うはずがない。

「み、ミハエル、じいちゃんーー」

 机に押さえ込まれ水着を脱がされそうになっている琉生斗に、ミハエルは溜め息をついた。

「あそこに、いい無人島がありましたなー」
「転移いたしましょうー」
 アンダーソニーが転移魔法をかける。

「ちょ、マジかーー!」
 二人は重なったまま消えた。






「はあー、さすが聖女様ー」
「アレクセイ殿下の頭の中は、聖女様しかありませんからねー」
 ミハエルが肩を叩く。

「おまえ達も、もう少し精進しなさい」
 イワンとドミトリーは、はい、と頷いた。

「すごいわね、ルート」
 美花は目の前での濃厚なキスに、ドキドキがとまらない。

「やばいもん見ちゃった~。みんな避難して残念ね~」
「ナスターシャちゃんは見たくないでしょ」

 お互い顔を赤らめて、美花はファウラの様子を見に走り、町子は怪我人がいないか確認した。

「東堂くん~、大丈夫~?」
「平気、平気。マジ激強だなーー」

 なあ、デュランダル、すげぇーなあの人。普段はあの力、抑えてんだぜーー。





 セージはショックを受けていた。

 目の前で兄とキスをして組み敷かれた琉生斗を見て、あの二人はそういう関係なのだ、という現実を突きつけられたのだ。

「ルート、嫌がってなかったーー」

 ポツリと呟いた。どんなに自分ががんばろうと、琉生斗は兄が好きなのだ。

 では、自分はどうしたらいいのかーー。

 セージは肩を叩かれる。
「片付け、手伝うよ」
 シャーランとレイラーンがセージを励ました。

「おまえらーー」
「泣かない、泣かない」
「ーー泣いてねえわ」
 少年は、少しだけ大人になった。










「あぁー、もう駄目だってーー」

 泣こうがわめこうが効果がない。

「アレク!これ以上、イキたくない!やだぁー!」

 あん!

 気が変になるほどナカを責められ、琉生斗は意識が飛びそうになっている。

「ーーかわいい」

 アレクセイは舌で琉生斗の耳を舐めた。

 記憶がはっきりしてきたときには、もうとめられない状態だった。愛しい人の中に、激しく自分を突き刺していた。

 気付いた後は砂浜から移動し、綺麗な岩場の上を魔法で柔らかくして、琉生斗を横たえた。中に入ってしまった砂を掻き出して、丁寧に水で洗う。

 そして、また最初から愛し合いーー。

 幾度も絶頂を繰り返し、琉生斗は激しく痙攣した後に気絶してしまった。それを見て、アレクセイは満足気に琉生斗を抱きしめる。

 強く頬ずりをして溜め息を漏らした。

「愛しているーー」

 どうしてこんなにもきみが愛しいのかーー。
 


 それにしてもーー。自分はお酒に弱かったのかーー。
 今後は気をつけよう、とアレクセイは反省した。

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