ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。(第一部、第二部、第三部)

濃子

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海水浴に行きましょう。編

第3話 海水浴に行きましょう。3

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「失礼しまーす。アレクいる?」

 この世で唯一、兄をとめる事ができる人物が食堂室に入ってきた。扉がない事に首を傾げ、部屋の惨状に目を丸くする。

「何してんの?」

 アレクセイは無言だった。琉生斗が気にせずに口を開いた。

「セージ、海なんだけどさー。東堂に話したら、モロフやソニーさん達も行きたいって言うんだ」 
「えっ?」
「百人ぐらいになるけど、陛下、いい?」

 琉生斗の問いに、アダマスがしっかりと頷いた。

「好きに使え」
「サンキュー。じゃ、セージ、明後日な。ダチ呼べよ。クリスも花蓮が来るから、都合が合えばーー」
「行きます!ぜひ!」

 クリステイルは元気が出た。

「ミントも、ナス達誘ってやれよー」
「え!いいんですの!」

 ミントがはしゃぎ、長兄の視線に気付いて口を閉じる。

「大勢が嫌じゃなけりゃな。ほれ、アレク、ナルディアに行くぞ」

 琉生斗がアレクセイを引っ張った。

「テントとか椅子はソニーさん達、飲み物は東堂達、バーベキュー食材はおれらで調達するから、セージは氷菓子を用意してくれ」

 セージはその言葉に、首を捻った。

「オレが?」

 あーあ、とクリステイルが肩を竦める。
 
 我らが聖女様は、人の為に動かない奴が大嫌いなのだ。

「無理ならいいよ。陛下、ビーチ貸してくれてありがとう」

 頭を下げて食堂室から出て行く妻に続き、アレクセイは扉を直し、アダマスに頭を下げた。

「食事中に失礼致しました」

「ーーたまにはおまえ達も来い」

 剣は無しでな、とアダマスは苦笑いだ。

「二人で楽しみたいのでーー」
 アレクセイの涼し気な目が、勝ち誇ったようにセージを見た。

「うわぁ、陰険野郎ー」

 セージが舌を出した。

「兄上、氷菓子は私が用意しますので」
 クリステイルの言葉に、アレクセイは軽く溜め息をついて頷いた。

「あぁ」
 








「ホント何してたんだ?」

 呆れた琉生斗の唇にキスがくる。

 廊下で頭を下げているメイド達が、きゃあきゃあ言っているので、見られているんだろう、と琉生斗は思った。

 アレクセイが歩きながら、魔法で衣服をいつも着ている簡素な騎士服へと変える。

「あー!もうちょい着とけよー」

 カッコよかったのにー。できたらそれで襲って欲しいーー。

「そういえば、王族の正装のときは、魔法で着替えないんだな」
「あれは、着せる仕事の者がいるからな」 

 なるほどー、と琉生斗は納得した。仕事は取っちゃ駄目だな。

「ナルディアで肉と野菜買って、オランジーで海鮮買おう。大量に買わなきゃー。すぐ冷凍できるだろ?」

「あぁ」
 アレクセイが薄く笑う。

 いつの間にか人が増え、魔法騎士団のトップ達も進んで手を貸すーー。

「明後日、当番なんかで行けない人もいるから、そういう人にも別日設定しようぜ」
「そうだな」

 ルートは本当にーー。女神様より女神様だーー。

 アレクセイの心の声が、偶然耳に入った時空竜の女神様は、おおいに苦笑なされたそうだ。












 海水浴当日ーー、絶好の海日和である。

 転移魔法でアダマスのプライベートビーチにきた琉生斗は、すでに張られたテントに案内される。奥には宿泊用に別荘が建てられていた。
 
 プライベートビーチならではの建物だろう。 

「早いなー」
 テント、もう立てたのかーー。

「魔法で立てますから」
 トルイストが言う。Tシャツにサーフパンツという姿に、琉生斗は吹き出した。

「お、おまえ、泳ぐんだー」
「泳ぎますよー。妻は泳ぎませんがーー」

 優雅にお辞儀をしたベルガモットは、首元まである白いワンピースだ。

「きょ、今日も美しいなー」
 東堂が顔を赤らめた。こっちはTシャツも無しだ。

「いやー、もう女性陣の水着が楽しみで寝られなかったぜ。ルッタマイヤ軍将、どんなかなー」

 わくわくしている東堂には申し訳ないがーー。

「おまたせー」
「おはよ~」

 美花と町子があらわれる。東堂は振り返り、吹き出す。

「なんだよ、おまえら。田植えでも行くのか?」
 全身黒のラッシュガードに、白黒ボーダーのTシャツとステテコを着た二人に、東堂は大受けだ。

「ーー東堂」
 琉生斗が東堂の肩を叩いた。

「なんだよー」
 東堂は琉生斗の指差した方向を見た。

 愕然とするーー。

 ルッタマイヤをはじめ、レノラ、ミント達でさえ、全身黒のラッシュガードにボーダーのTシャツとステテコなのだ。

「なんでだーー!」
 東堂は膝から崩れ落ちた。

「淑女の国だからなー」

「ノオォォォーー!」
 雄叫びに、トルイストが溜め息をついた。

「トードォは何を言っているんだ。早く飲み物を準備するぞ。ベル、喉は渇いていないか?」

「ふふっ、大丈夫ですわ」

「ーー東堂、オランジーやバッカイアの普通のビーチなら、ビキニの姉ちゃんもいるぞ」

 え?と東堂は復活した。

「うちはそもそも海がないから、水着が流行らねえんだよ」

 魔法使えなきゃ、移動に時間がかかるしーー。誰も海水浴の為に、長時間移動なんかしない。

「鉄道はどうなってんだ!」
「いま、試運転中だよ」

 兵馬が答えた。

「僕、遊んでる場合じゃないんだけどーー」
「おまえ、海に来ても遊ばないだろ」

「ーー悪かったね。殿下も、来月の開通式に間に合うように、急いで欲しい事もあるのにー」

 兵馬がぶつくさ言いながら、書類を広げている。

「ホント、奥さんに甘いよねー」
 じろりと兵馬に睨まれ、アレクセイは薄く笑う。

「あぁ」

 うん。ゲロ甘飴玉より甘いんだよね。

「殿下、泳ぎます?」
「おれ行くぞ!」
  琉生斗もバッチリ淑女水着である。

 東堂は盛大に吹き出した。
「もう、昔のおまえが見たら、泣くなーー」 

 笑い死ぬ、と東堂は涙目だ。

「慣れれば何ともない」

 準備運動をしながら琉生斗がアレクセイに声をかける。

「どうすんだ?」
「泳ぐ」
 こちらは黒の全身ラッシュガードに白いTシャツとサーフパンツだ。クリステイルからのプレゼントらしい。

「白も似合うな」
 琉生斗がうっとりとした表情で夫を見つめる。

 今日は襟元まで服がないので、首すじに付いたキスマークが見えるが、アレクセイは気にもしない。

「ーーおまえもかなり、やべーヤツだな」
 牽制しまくってんなー、と東堂は呆れる。
「自分でもそう思う」


 琉生斗も自覚はあるので、深く頷いた。
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