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海水浴に行きましょう。編

第2話 海水浴に行きましょう。2

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「ひどいー」

 掠れた声で抗議をした。アレクセイは溜め息をついた。

「どっちが?」

 え?まさかおれなのかーー。

「嫌なら嫌って言えばいいじゃん!」
「海なら行ったはずだがー」

 アレクセイは憮然としたまま、妻を抱き寄せた。

「おまえ、ちっとも泳がせてくんなかったじゃんか!海見ながら一日セックスしてただけだろ!」

「とてもよかった」

 アレクセイは楽しそうに思い返す目をした。

「川に行っても同じだしーー。ばかたれっ!おれは健全に泳ぎたいんだよ!」

「だからといってセージと行くとはなー」
「なんだよー。一緒に行きたいなら行きたいって、言えばいいのにさーー」

 琉生斗はぶつぶつ言いながら、アレクセイにキスをねだった。

「無言はねえだろー?愛している、ぐらい言えよ」
「あぁ」

 アレクセイは耳にキスをしながら、「愛している、ルート」と囁いた。琉生斗は、うんうんそうそう、と頷く。

「愛し合おう、ルート」

 琉生斗は笑顔のまま固まった。

「ーー終わったよな……」
「準備運動はな」
「もう、無理だってーー。足もあがんないってー」

「そのままでいい」
 頬を撫でる手が熱い。

「本日は製造終了だ!」
 アレクセイは笑った。

「後ろだけでいけるだろ?」
 甘くねっとりとするような声で囁かれ、琉生斗は気を失いかけた。

「おまえなんか知るか!ばーかばーか、ばーかぁ!」








 
 ーー日差しが眩しい。
 まるでオレを祝福しているようだ。

 王族専用の食堂室で、セージはごきげんな顔で朝食を食していた。

「まぁ、セージ。とても楽しそうね」

 ラズベリーがにこにこと紅茶を口につける。

「そうだ、親父。ビーチ貸してよ。海に行きたいんだ」

 セージが言うと、アダマスは頷いた。

「いいぞ。楽しむといい。いつなのだ?」

 あら、わたくしとは行かないのね、とラズベリーががっかりする。

「もう、親と行く歳じゃねえよ」
「そうは言っても、危険は多いですから。ご学友と行くにせよ、近衛兵を連れて行きなさい」
「ヒョロ兄貴はうるせえなー」

 セージはぶーたれた。

 いや、トードォがいるのなら、近衛兵などいらないだろうーー。あんなのいたら鬱陶しくてしょうがないー。


 急に、廊下が騒がしくなった。

「なんだ、うるさい」
 アダマスがパボンに言うと、近衛兵長は頷いて出て行く。
 が、慌てて引き返してきた。

「へ、陛下!」
 パボンほどの男が、取り乱して駆け込んでくる。

「な、どうしたパボンー」
「アレクセイ殿下がー!」
「アレクセイがどうした?」
「剣を抜いております!」

 !

「な、な、なー」
 言葉が出ない。
 何があったのだ。

 クリステイルは目を見開きながら、セージを見た。

 弟が青ざめている。
「セージーー」
 クリステイルは頭を押さえた。



 バン!



 扉は塵も残らないほど、きれいに消し飛んだ。

「セージーー」
 恐ろしいほど美しく、その美しさ故に身が震えるほどに怖い、長兄アレクセイの降臨である。

 衣服も騎士の正装服だ。

「あ、あ、アレクセイ殿下!」

 ラズベリーが腰を優雅に抜かした。ミントも仰天してカップを落とす。

「兄上!ここでは剣をお仕舞い下さい」
 なんとかクリステイルがアレクセイをとめる。国王の御前、いくらなんでも抜き身はまずい。

「大義名分があれば問題はない」
「え?」
「セージ、決闘を申し込む」

 アレクセイが白手袋を外し、セージの目の前に落とした。

 !

「何を言っているんだ!おまえとセージで、決闘になるわけがないだろう!」 

 大人げない、と言う父親の言葉に、セージの顔は引きつった。

「そうですよ!兄上、落ち着いて下さい!セージ、兄上に何をしたんだ!」

 クリステイルに詰め寄られ、セージはそっぽ向く。

「兄ちゃんには、何もしてねえよ」
「じゃあ、何だ!」

 セージは不貞腐れた顔のまま、ぼそりと言う。

「海に、ルートを誘ったんだけどーー」


 あほたれ!!!


 クリステイルは頭を抱えた。ラズベリーも項垂れる。

「何をしとるんだ!セージ!」
 アダマスは激高した。

「いいじゃんか!ヒョウマとトードォを連れて行けば、ただの楽しい海水浴じゃんー」

「人妻を誘うとはなー」

「兄上、構えないで下さいー。セージ、聖女様はご結婚なされ、れっきとしたアレクセイ妃殿下です。二度と軽率な真似はしないようにー」

「えー、ルートが行きたいなら、行かしてあげればいいじゃん。ケチな旦那ー」

 黙れーー、クリステイルは泣きそうになる。兄の顔を見ると、もう攻撃しそうな顔だ。

 パボンや近衛兵達も、腰を抜かしたまま役にたちそうもないー。



 もう、終わった。自分の人生もここまでかーー。
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