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聖女の禁域編
第105話 その次の日。 ☆
しおりを挟むちょっと待ってよー。
僕のバカーー。
やってしまった後は、後悔しかない。兵馬は隣で寝ている人物を起こさないように服を探した。
ーーハンサムだな、やっぱり。
しばし見惚れる。
いやいやいや、早く帰らないとーー、花蓮も心配してるかなー。と、思いつつ行為を思い出して赤面してしまう。
琉生斗に聞いていた後ろのダメージは、想像以上だったため、眠りにつく前に治癒をかけてもらったのだがーー。
ーー感触は残ってるよ……。……恥ずかしい……。
そっと抜け出し、服を着て、転移魔法を使おうと手を胸の前にあてるーー。
「おはようー、もう行くのー?」
声はかけられたが、兵馬は振り向かなかった。
「ーーうん、ありがとうー」
絶対に顔なんか見られないって。
「いやだ、礼なんか言わないでよー」
慰めてもらった事を、申し訳ないと思いながら兵馬は言った。
「ーーえーと、そのー」
「何ー?」
声の優しさにほだされそうになる。
「ーー忘れてください」
「えっ?」
「これからも普通に接してくださいーー」
兵馬の言葉に、背後の気配が変わったような気がした。
沈黙の後、ラルジュナが言った。
「………………わかったよー」
声が硬く感じられる。
兵馬は振り向かずに転移した。普通は王太子の部屋で魔法など使えない。特別に使えるようにしてもらったのだ。
「最低だな、僕ーー」
一方的に甘えるだけ甘えておいて、なかった事にしたいだなんてー。
でも、きっと向こうは気にしないだろう。自分と違って経験も豊富だろうし。
離宮の隣にある家に帰ると、ソファに寝転がる。自分から、彼の匂いがする。
「お風呂、入らなくちゃーー」
でも、もう少しこのままでいたいー。
兵馬は目を閉じた。
「ーーそうでしたか。それでミハナは」
朝一、ファウラは東堂に美花の事を尋ねた。美花は昨日は一晩中泣いていて、事情も聞けなかったらしい。
「それは、ショックでしょうね」
「あいつ、落ち着きましたか?」
「ーー泣きやみましたが、今日はもう駄目でしょうね。気分転換にどこか景色のいい所に連れて行きますよ」
いい人だなー、と東堂は感心した。
「しかし、その未来の聖女様の方が問題ですね。殿下は大丈夫でしょうか?」
「無理っすね。話の途中で泣きそうだったんでー」
「トードォ、士長達だけにでもいまの話をしておいてください。くれぐれも話が広がる事のないように」
「わかりました」
美花の事は、婚約者に任せておけば大丈夫だろう。
「兵馬は大丈夫だったかな」
あの日、両親が離婚するかも、と悩んでいた兵馬の事だ。ひとりで泣いていたかもしれない。
だが、まずは士長の所だ。琉生斗の未来を何とかしなくてはーー。
「強くならねえと」
東堂は自分に言い聞かせるように言った。
「そんな事にーー」
東堂の話にアンダーソニーも呆然とするよりなかった。
「ーーしばらくは殿下が駄目でしょうな」
「御前会議はどうにもなりませんが、書類関係はわたくし達で何とかいたしましょう」
ヤヘルとルッタマイヤが頷き合う。
「しかし、トードォ。おまえはよかったじゃないか!」
ガハハっ、とヤヘルは東堂の背中を叩いた。
「痛いっすよ、師匠!」
そうは言うが東堂は嬉しそうだ。付きものが取れたような顔をしている。
「先を知る事は、良いような悪いような……」
溜め息をついたアンダーソニーに、ルッタマイヤが頷いた。
「案じても仕方ありませんが、歴代最強の神力をもつと言われるルート様が、そうなってしまう事情が未来にはあるのですね」
「何とも言い難いーー。よし、トードォ、訓練内容の見直しだ。トルイストを呼んでこい」
「うす!」
「悩むより行動あるのみだ!」
ヤヘルの言葉に、東堂は力強く頷いた。
「うす!」
東堂がいなくなった将軍室で、アンダーソニーは深く息を吐いた。
「士長ーー」
ルッタマイヤが士長を案じた。
「いや、希望はあるー。何より未来の殿下が笑っておられるのだから」
「ーーそうですわね」
「わしらちゃんと生きてますかね?」
「そうだな。私は、ソニーさん達、と言われたから確定だな」
「まあ、ずるいですわー」
「達、に誰が含まれるのかーー」
将軍達はしばらく揉めたようだ。
「アレクー。仕事はいいのか?」
本当にくっついて離れないなーー、琉生斗は旦那様の態度に、呆れ返っている。何をするにも少し動くだけでも気にされる、動かれる。未来の自分なんか大変だろうなー、と自分に同情してしまう。
深い愛情からなのはわかるのだがーー。いま気にしてもしょうがないではないか。
アレクセイがキスをねだった。
もはや、朝からだけでも何回目かわからない。
「アレク。仕事大丈夫なら、ちょっとしようか」
昨日してないしなー、と琉生斗から誘うとアレクセイは目を輝かせた。
かわいいやつだなーー、と琉生斗は照れた。
「あっ、アレク!イイッ!あんっ」
対面座位でアレクセイに下から突かれ、琉生斗は気持ちよさそうに喘いでいる。彼の首にきつく腕をまわし、動きに合わせて腰を振る。
「ルート、愛している!」
噛みつくようなキスをされ、琉生斗は震える。
「あん!!」
身体が震えるとそこもよく動き、最奥の刺激に琉生斗は頭を振った。これだけ近いとお互いのはく息を吸い合いしてるんだろうな、とアレクセイの汗や肌の匂いに満たされながら琉生斗は思った。
「あっ、ヤバッ、すぐクる!」
身体が跳ねる。身体の奥が快感を期待して、焦れていく。
「ルートーー」
「アレクーーー!」
絶頂を迎えても、アレクセイの動きはとまらなかった。
「やだぁ~、待ってよぉ~、やめてぇ~~」
自分の甘ったるい声にも気づかないぐらい、琉生斗の脳内は沸騰していた。
「もう、大好き!」
その日、二人の行為は終わらなかった。
教皇ミハエルも、そのまま三日は放っておいたそうだーー。
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読んでいただきありがとうございます。
もう2話ほど補足の話になります。
お付き合いいただきありがとうございます。
濃子
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