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聖女の禁域編

第104話 聖女の禁域 最終話 ★

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 水鏡の間の扉が開いた。

「ルート!」
 アレクセイが琉生斗に駆け寄り、愛しい妻を抱きしめた。

「何だよ、大袈裟だなーー。あっ……」
 琉生斗は廊下に立つ兵馬と東堂を見て悟った。

「ーーどう言えばいいのか考えてたから、手間が省けたな」
「ーーそうだね」
「東堂はどうすんだ?帰れるようになったら帰るのか?」

 琉生斗の問いに、東堂は首を振った。

「今は考えねえ。どうせすぐには帰れないんだろうし、おまえによけいな事を考えさせたくはない」
 きっぱりと言い切る姿に琉生斗は目を細める。

「とりあえずは、ロン毛を目指すぜ」
 琉生斗は吹きだした。
「兵馬も伸ばすか?」
「僕はいいかなーー」

 嫌そうに兵馬が言った。

「町子や花蓮には黙っておくよ。姉さんは落ち込みが酷かったから、ファウラ大隊長に迎えに来てもらったよ」
「そうかーー」

「僕も行くよ。君も無理はしないようにね」
「ああ……」

 兵馬ー、と口に出すより早く、兵馬は行ってしまった。


「あいつもだいぶへこんでるな」
 東堂が同情するようにつぶやいた。

「じゃっ、おれ深夜警備当番だからー」
「仮眠できなくて、悪いな」
「しねえよ、そんなのー」

 東堂はすっきりしたような表情で、足取りも軽く歩いていった。

「お疲れ様でした。聖女様ー」
 ミハエルとイワンが頭を下げる。

「じいちゃん。かなりやばいな、おれ」
「精神修行の時間を増やしますよ」
 ミハエルの目に、決意のような光が滲む。
「おう」
「おう、じゃありません」

「はい!」
 琉生斗は元気よく答えた。アレクセイが琉生斗にキスをするーー。



「ーーまだ、する気ですか?続きは家でお願いしますよ」
 イワンが面倒くさそうに言うまで、琉生斗とアレクセイのキスは続いた。













 ーーーーー。

 
 深夜、ラルジュナは気配を感じベッドから飛び起きた。剣を掴もうとして、動きをとめる。よく知る気配だったからだ。
「どうしたのー?こんな時間にー」
 兵馬が扉の前に立っていた。暗くて顔が見えない。ラルジュナはためらいもなく兵馬に近付いた。

 ーー泣いてるー。

 兵馬が声もなく涙を流していた。ラルジュナは兵馬を抱き寄せる。

「ーー何かつらい事があったんだねー。気の済むまで泣きなよー」
 ラルジュナの言葉に嗚咽おえつをもらす。
「ーっ、うっ、ーーっう、……ふっー」
「よしよしー」

 兵馬が泣き止むまで、ラルジュナはそのままでいたーー。






 ーー徐々に落ち着いた兵馬は、ラルジュナから身体を離そうとした。だが、彼の腕の力は強く、自分の力では、そこからは抜けられなかった。

 頬にラルジュナの片手が添えられ、上に向けられる。
「ヒョウマーー」

 そのまま唇が重ねられ、兵馬は目を見開いた。

「ふっ」
 慌てて顔を下に向ける。部屋が暗くてよかった。たぶん耳まで真っ赤になっているだろう。



 兵馬の耳元でラルジュナが囁いた。
「慰めてあげたいー、いいー?」
 その艶めいた声色に、自分の身体がビクリとする。緊張の為か、身体が強張っていく。



 視線を外した兵馬は小さく頷いた。
 ラルジュナが微笑み、震える肩を抱く。
「おいでー」
 
 ベッドは月明かりがさしていた。きれいな水色の満月が窓から見える。
「いいでしょー?お月さまってキレイだよねー」

 視線に気づいたラルジュナが言った。
 優しく押し倒されて兵馬は目を閉じた。眼鏡が外され、コトッ、と小さな音が聞こえる。

 音がないって不思議だ。ドラマのそういうシーンには、必ず音楽が流れていたから。

 現実は、人の動く音しかしないんだーー。



 こんな関係になりたいたわけじゃないーー、手早く脱がされる衣服に抵抗感を覚える。まだ、自分は冷静だ。両親に疎まれたぐらいで、この人を利用してはいけない。

 やめる、って言おう。早く言わなきゃーー。




『……見つからないほうがいい、って二人とも言ってたな……』



 お父さんーー。
 


 兵馬は血のつながっていなかった、優しい父親を思い出す。


 お父さん、僕なんか嫌いだよね、騙されてたんだもの、当たり前だよねーー。




『兵馬は、列車が好きだなー。将来は同じ所で働くかー?』



 涙があふれてくる。



 兵馬はラルジュナに甘えるように身を寄せた。

 引き返せなかったーー。彼の唇が、優しすぎたからかもしれない。

 誰でもいい、誰かにすがりたかっただけだーー、この人にそんな感情はない。肌を重ねていると、温かくて安心するだけーー、明日になったら平気だから。

 平気だからーー、平気にするからーー。

 月明かりを見ていると、兵馬は冷静さが消えていくような気がした。満月の気にあてられ、このまま狂っていってしまうのだろうか。

 彼の唇や舌、長い指からの愛撫に思考が飛ぶ。自分の身体がはじめて味わう快感だ。何も考える事ができず、ただ身体が快楽に啼き、彼を欲しがっていく。


 ーーそんな真剣な顔しないでよ、いつもみたいに笑ってよーー。
 

 太腿の内側を舌が這う。兵馬は気持ちの良さと、これから身に起こる事への恐怖で身体がちぢこまってしまう。

「痛かったら、言ってねー。やめるからー」
 怖いぐらい優しい声でラルジュナが笑った。

 ーー痛いぐらいなんだ、今日しかないのだから。

「ーーいけるよ」
 
 長い時間をかけ、二人はつながったまま愛し合ったーー。
 
 













「ーーあのな、アレク」
 案の定、ものすごく甘やかされている琉生斗は、さすがにひどいと思い、アレクセイに注意をした。

「いま、足悪いわけじゃないんだから、トイレまで入ってくるな」
「ーー心配で」
「何の心配なんだよ」
 琉生斗は頭を抱える。

「はあー、気にしてもしょうがないだろ?修行次第では大丈夫かもしれないし」

「ーー私の力が足りなかったのだろう」
「だから、気にしてもしょうがないって」
「恥だ」
 アレクセイは言い切り、琉生斗を見た。
「ルートをそんな目に合わすなど、私は何をしていたのかーー」
「アレク、いい加減にしとけ。後、出てくれ」
「見守ろうかとーー」

 何をだ?琉生斗は泣きそうになった。


「まっ、お互いがんばる余地があるなら、がんばろうぜ」

 そう言って琉生斗はアレクセイと拳を突き合わせた。

「アレク。おれ、アレクが大好きだ」



 いまもこれから先もーー。



 琉生斗の笑顔にアレクセイは顔を赤らめた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 この章で、第二部は終わりになります。後は補足の話になります。
 読みにくい話をここまで読んでいただき、お付き合いいただいて、本当にありがとうございます。感謝の気持ちしかありません。

 話が多くなってきましたので、そのときは、また、お手数ではありますが、ぜひ!お気に入り登録をよろしくお願いいたします!
 ありがとうございました。    

              濃子
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