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日常編5

第96話 王都日和14 ー兵馬の推理ー

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 琉生斗はすぐに神殿に行き、ミハエルに話しをした。
「けど、じいちゃん。学校の帰りにあのカフェがあるんだったら、アミはトーマスに気づかなかったのかな?」
「身体の記憶と人物が違いますから」
「?」
「脳は違う人物を犯人だと思っていました。私は身体の記憶の方を本物の犯人だと思いましたがーー」
「アミは変化を見破ったのか?」
「いえ、まったく別の人物を犯人と思い込んでいるとしかーー」
「誰だったんだ?」
 ミハエルは言いにくそうに、その人物の名を口にした。

「ヒョウマです」

 !

「ーーそれは、嘘だな……」
 琉生斗は動揺を隠すように何度も頷いた。
「そうでしょうな」
 ミハエルも大袈裟に頷く。

「なんでなんだよ!じいちゃん!あいつがそんな事するかよ!」
「私だってそんな事はないと思っていますよ!」
「ヒョウマとその娘は知り合いだったのか?」
 興奮する琉生斗とミハエルを気にせずに、アレクセイは口を挟んだ。
「アミの父親のスミス氏は、マーブルストリートの組合長です」
「ヒョウマと面識があるのか…」
 そうだ、あいつマーブルストリートの応援金とか補助金とかやってたなー。
「何で兵馬を犯人と思ったんだよ!」

 そもそもあいつが人を気絶させられるわけがない!

「ルート、落ち着いて。いまティン殿が変化の仮面について調べてくれている」
「そっちが解決しても、アミの中じゃ兵馬が犯人なんだぞ!もう、じいちゃん記憶消しといてよ!」
「本人が消さないと言いましたからねー」
「こっそり消してよ!」
「それは聖魔法の悪用になります」
 琉生斗とミハエルは睨み合った。
「ルート、ヒョウマはやっていない」
「そうだけど!記憶の中だけでも嫌なんだよ!」
 琉生斗はアレクセイにしがみついた。
「くそっ」
 アレクセイは優しく背中を撫でた。
「教皇、たしかにヒョウマだったのか?」
「ーーどちらかと言えばヒョウマならいいのに、という感じですかね」
「何だよそれ」
 琉生斗は声を尖らせた。
「聖女様はどちらだと思います?憎いから犯人だと思い込む、好ましいから犯人だと思い込む」
「憎いからだろ?」
 琉生斗は首を傾げた。
「まだまだですねー。聖女様はーー」
 ミハエルは溜め息をついた。





「アレクセイ殿下~。変化の仮面の在庫を確認したところ、ひとつなかったそうよ~」
 町子が箒を振り回しながら走ってきた。
「ここ、魔法使えなくて嫌~」
「歩きゃいいだろ」
「一度飛ぶと歩けないの~」

 ふうん。羨ましい話だね。

「いつからかわかるか?」
「用具入れ室に入れっぱなしで見てないからわからないって~」
 ずさんねー。
「前から思ってたけど、魔導具研究室潰したほうがよくないか?」
「良い人もいるのよ~。基本は変人だけど~」
 町子は庇うものの、魔導具研究室はガルムスが使用した感知阻害の手錠もそうだが、色々やらかしている。
「しかし、変化の仮面は使い勝手が悪い」
 アレクセイが考えながら話す。
「そうよね~。長く付けてもせいぜい数十分しか保たないそうよ~」
「数十分あれば何かはできそうだけどーー」
「そうかしら~。そんなすぐに他人のフリなんかできないから、念入りな下調べも必要よ~」
 それはそうだなー。



「アミもその日は遅くなったから裏道を通ってる。突発的すぎて対応できるはおかしいよな。犯人はたまたま仮面をトーマスにつけてもらって、外へ出たらアミがいたからトーマスになって襲ったなんて、偶然頼み過ぎだ」
「うーん~。誰が得をするかね~」
 話しを聞いて町子は小首をかしげる。
「何だよ、それ。仮面を持っているヤツじゃないのか?」
「話を聞くと、その人は頼まれたんだろうね」

「え?」

 琉生斗は振り返る。そこには憮然とした兵馬と、ピースをしたきらきら王太子ラルジュナが立っていた。
「兵馬!」
「私が知らせましたよ」
 ミハエルが息を吐いた。
「ヒョウマ、わかりましたか?」
「殿下、記憶してる?」
「ああ」
 アレクセイは白手を取り出し手にはめた。その手で兵馬の額に触る。
 兵馬の頭の中にアレクセイの見た記憶が流れていく。



「はいはい、わかりましたよ。マーブルストリート行くから、殿下よろしく。町子はこの紙に書いている人達呼んできて」
 兵馬はテキパキと言った。
「本当にわかったのか?」
「うん。君も毒が抜けたもんだね。わからないのか?」
「え?」
「よく、聞いていたらわかる話だよーー」

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