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日常編5

第95話 王都日和13 ーマーブルストリートの騒ぎー

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「マーブルストリートに行きたいんだ。こいつを捜したいんだけど」
 アレクセイは琉生斗の額に自分の額を重ねた。
「ーーわかった」
 キスをして離れる。
 脳内の記憶を読ませたが、事情もわかっちゃったかなーー、と琉生斗は目を泳がせる。
「教皇にはとめられているようだが」
「まあまあ、行こうぜ」
 琉生斗はアレクセイの腕にしがみついた。その妻を愛おしげに抱きしめて、アレクセイはキスをする。光がたゆたうように二人は消えた。




 マーブルストリートに転移した二人だが、いつもなら活気ある商店街が、異様な空気に包まれている事を感じる。
「何だろう?」
 アレクセイは眉をしかめた。
「ルート、記憶の男だ」
「え?」
 ひとだかりの中、警備隊員に囲まれた男が抵抗している。
「おまえの手配書だ。罪状は、自分が知っているだろう?」
「何の事だ!?!オレはわからない!」
「何を言っている。おとなしく来い!」
 警備隊員に無理やり腕を掴まれ、手錠を掛けられようとしている。
「なんでなんだよ!本当にわからないんだよ!!何の罪なんだよ!」 
「トーマス!嘘でしょ!」
「マアリ!オレを信じてくれよ!」
「だって!神殿が間違うわけないじゃない!」
 琉生斗はひとだかりをかき分けようと前に行こうとするが、アレクセイにとめられる。
「アレク!」
 アレクセイは琉生斗を抱き上げ、宙を飛んだ。
「わおっ」
 ひとだかりを飛び越え、警備隊員の前にひらりと下り立つ。何とも優雅な動きだ。
「え?」
「あ、アレクセイ殿下?」
「えー?ははっー!」
 驚き過ぎた警備隊員達が地に頭を伏せた。
「よい。ルート」
「ーーアレク、この人違う」
 琉生斗は目を凝らしながら言った。
「顔は一緒なのか?貴公は双子か?」
 問われてトーマスは答える。どこにでもいそうな顔といえばそんな顔だ。
「いえ、違います!似た兄弟もいません!」
「ルート」
「放してあげて」
 琉生斗が言うと警備隊員達はトーマスから離れた。
「皆さんお騒がせしてすみません。この人は犯罪者ではありませんから、いつも通りにしてください」
 琉生斗が大きな声で言うと、警備隊員達が姿勢を正した。
「あ、ありがとうございます!せ、聖女様ですよね?」
 琉生斗は考えた。この場合、何が正解なのかー。
「いかにも」
 偉そうだよ。
「そうだよーん」
 ラルジュナみたいだ。
「バレてしまっては仕方ない」
 違うかーー。

「そうだ。あまり顔を見ぬように」
 アレクセイが答え、トーマスは頭を下げた。
「聖女様、警備隊員のビュラです。我々は神殿から依頼されたのですがーー」
「説明はするよ。どこか場所がないかなー」
「それでしたら、うちのカフェにどうぞ」
 トーマスが目の前の店を指差した。外観も看板もとてもきれいなカフェだった。
 琉生斗は店の隣を見た。狭い暗そうな道がある。だが、近くに学校らしき建物は見えない。

 ーー結構離れてるのかもな。

「きれいなカフェだね」
「まだ開いて半年です」
「ありがとう。あなたから話しを聞きたいからちょうどいいや」





「助けていただいてありがとうございます。聖女様。わたしはトーマスと言います。ここでカフェをやってます」
 琉生斗の前にカフェオレが置かれた。
「トーマス、話しを聞きたいんだけど。今年の五月ぐらいに何か魔法を使われた覚えはない?」
 琉生斗の問いにトーマスは首を捻った。
「店が軌道に乗ってきた頃かーーー。いえ、そんな覚えはありませんが……」
「ちょっと、真剣に考えてよ!変な客がいたでしょ!」
 マアリがトーマスに詰め寄る。
「あっ」
 トーマスが、あれかな?、とつぶやいた。
「魔法ではないのですが、お客に、仮面を付けてと言われました」
「仮面?」
 アレクセイが眉をしかめた。
「ええ、真っ白な面で、目や鼻や口の部分も穴がないんですよ。息ができないからと断ったんですが、一瞬だからと言われ、付けました」
「ようそんな怪しいもんつけたな」
「大勢のお客さんで、たくさん注文いただいたんですよ。ハンサムな方が多かったので覚えています」
 トーマスは頭をかいた。
「アレク、わかるか?」
「ああ、変化へんげの仮面だ。面をつけた者の顔になる事ができる。ただし、面をつける時間が短ければ効果は数分程度、元の白い面に戻る。昔魔導具研究室が作ったものだな」
「それ、どうなったんだ?」
「悪用が多かったため回収されたはずーー、私が留学中のときの代物だ」
「トーマス。そのとき、外は暗かったか覚えてる?」
「そうですね。その団体客で閉めようと思っていましたから。あっ、客のひとりが先に帰ると言ったような気がします」
「トーマスに仮面をつけてもらって、店を出て、すぐに事を起こした」
「トーマスの顔で悪事をー。信じられないー」
 マアリはつらそうに項垂れた。
「でも、聖女様、なぜその男ではないと?」
 警備隊員のビュラが尋ねた。
「あまり言えない話なんだ。まあ、トーマスを連行したところで、司祭のイワンやドミトリーならわかっただろうけど、誤解は早く解かないとトーマスも店に影響がでるだろ?」
「そこまで心配していただいてありがとうございます!」
 トーマスは深く頭を下げた。
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