ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。(第一部、第二部、第三部)

濃子

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日常編5

第94話 王都日和12 ーアレクセイはぬいぐるみを飾らないー

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 アレクセイは書類から解放されると、人通りの少ない庭を選んで転移した。
「ルート」
 強く抱きしめて唇を奪う。
「アレクー」
 唇の重なりを楽しむと、琉生斗はアレクセイの胸に頬を寄せ、くくっ、と笑った。
「どうした?」
「いやいや、好きだとさわりたくなるんだなー、と思ってさ」
 アレクセイは目をつむった。昼間からそんな可愛い事を言われてはーー。
「愛している、ルート」
 深いキスを繰り返しながら、アレクセイは琉生斗の腰を押さえた。
「ちょ、アレク!だめだって!」
「ーールート……」

「何やってんの?」
 冷静な声の方を見ると、美花が難しい顔をして立っていた。
「いや、別になー」
「キスだ」
 美花はコケた。
「ここ、もうすぐ国王夫妻が散歩に通るわよ。あたしはその先触れ」
「へぇー、ちゃんと仕事してんだ。近衛兵の仕事じゃないのか?」
「あの人達、すぐに忙しいからって仕事振ってくるのよ」
「ふうん。パボンさんはいい人なのにな」
「いい人過ぎてもダメよね」
「アレク、挨拶してから行くか」
「ああ」
 美しく咲いた百合を楽しみながら、近衛兵に囲まれたアダマスとラズベリーが歩いてくる。息子と嫁を見てにこやかに手を振った。

「ごきげん麗しゅうございます。お義父様、お義母様」
 琉生斗は優雅にお辞儀をした。美花が仰天して目を丸くしている。
「ああ。おかげで元気になったぞ」
「ありがとう。ルート」
「お役に立てて光栄でございます。ところで陛下。厚かましいとは存じますが、お願いがございますーー」
「何だ?」
 琉生斗の言葉にアレクセイが首を傾げた。
「離宮の裏の造成、許可していただきたくーー」
「許可しない!」
「いいぞ。自分の部屋が欲しいのだろう」
「父上!」
「部屋ぐらい造ってあげなさい。ティンに頼んでおこう。あいつならアレクセイに破壊されない宮が造れるだろう」
 おしっ!と琉生斗がガッツポーズをするのに対して、アレクセイは敵のような目で父親を睨んでいる。
「なぜ部屋がいる?」
「おまえぬいぐるみ飾ったら、うっとおしい、って怒ったじゃん。自分は観葉植物ばっかり増やすのにさ」
「ああいうのは鼻が痒くなる」
「そんなんだから、女神様に、かわいくない男、って言われてんだよ」
 琉生斗の言葉にアレクセイは目を細めた。
「置くとこないから、自分の部屋を作って飾るの」
「いらない」
「もう!おれだって、気楽にゴロゴロする部屋が欲しいの!」
 アレクセイは、いつもゴロゴロしてるのに、とは言わなかった。
「アレクセイ、妻の言う事はちゃんと聞いてやらないとなー」
 アダマスが笑いながら言った。二人の会話にラズベリーは上品に笑う。
「アレクセイ殿下もお鼻が痒くなりますのねー。陛下も駄目ですものね」
「そうだ。ああいうものは置かないほうがいい」
 会話を聞きながら、美花は目を瞬いた。
「そうかー。王子様の奥さんは大変なのねー。気軽に物も増やせないし、きっと気軽におならもできないわね」
「誰が屁っこき部屋が欲しいって言ってんだよ。アレクんとこはメイドがいないだけましだ。おまえのとこなんか、わんさかいるから大変だな」
「えっ!屁もこけないの!」
「知らねーわ!」
 ははははっ、と大声で笑いながら国王夫妻は歩きだす。
「それにしても、あんたすごいわね」
「何が?」
「挨拶よ」
「最近ちゃんとしないとじいちゃんに怒られるんだよ。おう、も禁止されてさ」
「さっき、言ってたわよ」
 えー、マジかよ?、と琉生斗は眉根を寄せた。
「っていうか、避けるのは本当にやめとけよ」
 美花は表情を曇らせた。
「わかってるわよ……。でも、どうしたらいいのよ。パニくっちゃうんだもん」
 しょんぼりした美花に琉生斗は上を見た。アレクセイが首を傾げる。
「アレク、耳」
 琉生斗はアレクセイの耳に美花の困っていることを話す。
「そうか。ミハナが言いにくいのなら、私がファウラに伝えておこう」
「えー!何でそうなるんですかぁ!」
「ミハナも普通にしておけばいい。ファウラにも避けた理由を質問しないように言っておこう」
「あー、うー、それでいいのかなー」
 眉毛を上げたり下げたり、美花は忙しい。
「いんじゃねえの。いますぐ結婚するんじゃないんだし」
「うーん。それもそうよねー。あたしも普通にしよう!」
「ああ。それがいい」
 アレクセイは頷いた。
「ありがとうございます。変態殿下、じゃなかったアレクセイ殿下!」
 美花は陛下の歩いて行った道を走って行く。難しい顔をしたアレクセイの肩を琉生斗は叩いた。
「じゃあ、ファウラへのフォローはよろしく。変態な旦那様」
「ーールート、凄いことしてやろうか?」
「ごめんなさい」
 軽口叩いてすみません。
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