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日常編5

第93話 王都日和11 ー結局それができることが最強ー

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「ちーす!アレク来てる?」
 琉生斗は法衣のまま、魔法騎士団の兵舎の前まで歩いてきた。
「あっ、はい。将軍室の方に」
 若い魔法騎士が驚きながらも答えた。
「ありがとうー、おう!葛城」
「ルート!もう!ちょっと聞いてよ!何なのよ、あの授業!あれ、嘘よね!あんなことしないわよね!」
 美花が琉生斗に食ってかかるのをレノラがとめる。
「あんなことって何だよ?」
「きゃー!ヤダー!口に、口に、!ぎゃあーー!」
「口に入れるのか」
「ぎゃあ!ぎゃあ!何言ってんのよ、あんたぁ!変態変態!」
「ーーレノラさん、こいつ大丈夫か?」
「昨日からずっとこうなんです」
 レノラが困ったように言った。
「この調子じゃ訓練にならないだろ?」
「ファウラ大隊長を避けてるんですーー」
「可哀想にーー」
「ええ」
 大隊長、落ち込んでます。
「だって、だって、だってーー」
 美花はパニックになっている。
「安心しろ、すぐにできるようになる」
 琉生斗はにっこりと笑った。
「で、で、できる~?ああ、そっかー。あんたプロだったわねー」
 向こうもだけど。
「何だよ、プロって。おれの職業を何だと思ってるんだよ」
「よく言うわよね。聖職者はーー」
「性職者ってか、うるせーわ!」
「もう、そんな事より、あたしはどうしたらいいのよー」
 どうもしないだろ。
「最初はデカさにビビるかもしれないが、慣れれば何ともない」
「デカさにーー」
「聖女様ーー」
 レノラが下を向いて笑いをこらえている。
「え?あんな、ほっそいのに、デカいのー?」

 ーーお父さんとどっちが大きいのかしら(意外に娘は父のサイズを知っている)。

「おれらの国の奴がちっさいんだろうなーー、前に男子兵舎に行ったときマッパな奴何人か見たけど、東堂が一番小さかったなー」
 琉生斗は頷いた。レノラは爆笑している。
「ファ、ファウラ様のは見なかったでしょうね!」
 葛城よ、何の心配をしている。
「ファウラなんか風呂あがりでも服着てそうじゃん」
「そ、そうよね。大きかったらどうしよう!」
「頼んで見てこようか?」
「バカ!何言ってんのよ!あたしのファウラ様のを勝手に見ないで!」
「何に怒ってんだよ」
 見てないし。
「まあ、ファウラ立ちションとかしそうにないしなー」
 育ちがお上品だし、座ってしてそう。
「せ、聖女様、将軍室に行きませんか?」
 口を押さえながらレノラは琉生斗を促した。
「そうだ。おれ、行くわ!またなー」
「はい」
「きゃあ、きゃあ、きゃあー!」
 しばらくはあんなんだろうなーー、琉生斗ははじめてを思い出した。自分はアレクセイがしてくれたのを真似ただけだが、女子はどうすんだろ?友達や先輩に聞いたりするのかなー。



「失礼しますー。アレク暇?」
「暇なわけないでしょう」
 トルイストが眉をしかめながら琉生斗を見た。
「聖女様、妻とよくお茶をするみたいですね。とても楽しいと言ってましたよ」
「ああ、おれも休憩中に話し相手ができてうれしいよ」
「ところでーー、妻に言い寄る神官はいないでしょうね?」
「そんな命知らずいるかよ」
 中に入ると将軍達が笑顔で迎えてくれた。
 その中にファウラの顔を見て、琉生斗は視線をそらした。

 ーーあかん、笑ってまう。

「どうした?ルート」
 書類を書きながらアレクセイは尋ねてくる。忙しいようだ。
「忙しそうだから、また後でいいよ。ソニーさん、兵士名鑑ある?」
「ありますよ」
「魔法騎士以外、うーん。非正規のでいいや。ちょっと見せてくれる?」
「はいはい」
 アンダーソニーが動こうとするのをとめて、トルイストがファイルを出した。
「写真あるよね」
「それはもちろん。誰かお捜しですか?」
「ちょっとねー」
 アレクセイが耳を澄ませている。
「ルッタマイヤ、今日はここまででいいか?」
「だめでございます。王太子殿下の分を殿下が処理する事になったのですから」
 間に合いませんわ。
 ルッタマイヤがきっぱりと言う。
「クリスの事務処理能力はすごいな」
「唯一殿下より優れている部分ですわね」
 なかなかひどい事を女将軍は言った。
「おっ、」
 琉生斗はひとりの男に目をとめた。しばらく見た後、ファイルを閉じた。
「ありがとう、トルさん。今度ベルさんとお茶会開くんだ」
「おやおや、仲がよろしいですな。誰を呼ぶんです?」
「今のところ、ラズベリー様とナビエラ様」
 ファウラが書類を落とした。目が開かれている。
「ーーおまえ、目があったんだ」
「ありますよ。母とですか?」
「うん。義理の親娘なのに、仲いいよな」
「ーーそうですね。そういえば、聖女様はいつ姉が、いや兄が男だと気づかれたのですか?」  
 ややこしいな。
「うーん。性別なら去年ルナ修道院に行ったときに気づいたよ」
「ほう、聖魔法ですか?」
「使ってるつもりはなかったんだけどね」
「どういう風に視えるのですか?」
「単純に色かなー。男と女で色が違うのは知ってる?」
「ええ」
「男の方が血が薄く視えるんだよ。女の方が色が濃い。あれ、面白いのは裸は視えないんだよ。視たいものの一部分しか視えないって言うか、それが視えれば一発でわかるのにな」
「なるほど。聖魔法には良識があるのでしょうね」
「おれ、集中力足りない方だから、可視化は無理だな。司祭以上なら臓器まで視えて、どこが病気になってるかわかるみたいだけどさ」
「そこまで万能でなくともよろしいのでは?」
「そりゃおれの場合、魔蝕が浄化できれば問題ないからな」
「結局それができるのが、最強なのですが」
「ああ、浄化が亡霊に効くなら、他の魔物にも効くのかな?」
「おそらくはーー」
 ファウラが何かを考えるような顔をしたが、ふと視線を横に向けた。
 慌ててファウラは手元の書類を片付けだした。
「ん?」
 琉生斗はアレクセイを見た。彼はファウラを睨んでいる。右手に持ったペンがなぜか折れていた。
「ーーおまえ、部下に嫌われる上司だな」
 琉生斗が言うとルッタマイヤが笑った。
「もう少し、待ってくれ」
 アレクセイは折れたペンを交換した。
「そう?そういえばトルさん、東堂を見なかったけど、どっか行ってんの?」
「熱を出して寝てます」
「えーー!どうしたんだよ、珍しいな」
「団将との武者修行に疲れたようです」
 ヤヘルが、がはははっ、と笑った。心当たりのある琉生斗も苦笑いだ。
「そりゃ、お見舞いでも買ってこないといけないな」
「ですな!」
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