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聖女の国の王族達編
第91話 聖女の国の王族達 最終話 ーもうひとりの家族ー☆
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次の日、アダマスとラズベリーは王族の墓地の離れにいた。そこには色とりどりの花が飾られた小さな石碑があった。
「ーー昨日はどうでしたか?」
「ふふっ、生きていてよかった。まさか、アレクセイとクリステイルと寝ることができるとはな」
「そうですわね。セージも最近は嫌がりますものね」
はははっ、アダマスは笑った。
「息子が成人するのもいいものだ。アレクセイはとうに私の背を抜いているんだ。王宮に来たときはクリステイルより小さかったのになーー」
アダマスが涙を拭う。
「駄目な父親で申し訳ないなー」
ムサイエフと刻印された石碑にアダマスは触れる。
「もう五歳になるのかー、早いな」
ラズベリーが涙を流した。
「本当にすまない、ラズベリー」
「…………」
口をハンカチで押さえ、ラズベリーは首を振る。
そのとき、墓地の入り口に人の気配を感じ、アダマスは振り返った。今日は誰も入れるなとパボンに命じたはずだがーー。
アダマスは目を見張った。
そこには、黒の礼装に身を包んだ息子達が立っていた。アレクセイやクリステイルにミント、留学中のセージまでいる。アレクセイの側には聖女琉生斗がいた。琉生斗はアレクセイを促した。
「な、どうして……」
自分達の前まで歩いてきた息子達を見て、アダマスは戸惑った。
「陛下は墓まで持っていきたい話だったかもしれないけど、兄弟の事は教えてあげないとダメじゃないかなーー?」
琉生斗が言う。
俯いたクリステイルはどんな顔をしているのかは見えないが、アダマスは眉をひそめた。
「あー、クリスが気づいたんだよ。母親が、やった事にー」
「ーーすみません。ラズベリー様。謝って許される話ではないありませんが、本当に、本当に、母が、……」
クリステイルの悲鳴のような泣き声に、ミントも涙を見せた。
「ーー泣かないでください、王太子殿下。わたくしは大丈夫です。悲しさはどうにもなりませんが、わたくしには四人も子がいますもの……」
優しい嘘だろうが、ラズベリーは涙を拭いて義理の息子に微笑んだ。
「親父も早く教えてくれりゃいいのに、オレ末っ子じゃなかったんだな」
セージが言った。
「どっちだったんだよ?」
「ーー男の子だった。ーー名前はムサイエフ」
アダマスが石碑の下から箱を取り出した。子供達の前で小さな箱を開ける。
そこには、赤みがかった金色の髪が入っていた。ラズベリーが泣き崩れた。大泣きのミントが母に寄り添う。
アレクセイは黙ったまま、琉生斗がいつもするように箱に手を合わせた。
「ーールチアにはラズベリーの妊娠を隠していたのだがな、その日は運悪く会ってしまったのだ」
クリステイルが肩を震わせた。
「ちょうどアレクセイが大火傷を負ったと知らせがきた。一瞬の間だった。ルチアがラズベリーの腹を斬りつけたーー」
アダマスは目を閉じた。
「子は即死だった。ラズベリーも出血がとまらなくて、もう駄目かと思ったが、私とパボンで何とかしたーー」
深くアダマスは息を吐いた。
「ーーただの言い訳だ」
クリステイルは頭を振った。
「すまぬな。アレクセイーー。私はおまえを選ばなかった」
「父上……」
アレクセイは静かに父を見た。
「理由はパボンから聞いて知っていましたからーー。私は何とも思っておりません」
アダマスは、あの裏切り者、と呟いた。
「父上がクリスの為に黙っていたのは、私にもよくわかります。私とて、ベルダスコン公爵の前であんな事を言うつもりはなかった……」
アレクセイは目を伏せた。
「兄上……」
「父上も私もおまえが大切だから隠しておきたかったー」
「あにうえーー!」
大泣きのクリステイルは、アレクセイの足元に崩れ落ち泣き続けた。兄は膝をついて泣く弟の肩に手を置き、弟が泣きやむまでじっとしていた。
「ヒョロ兄貴は泣き虫だな」
セージが鼻をすすった。
夜ーー。
離宮では、いつものようにアレクセイが琉生斗を抱いていた。だが、いつものような激しさはない。
甘えるような仕草のアレクセイに、琉生斗は彼の首に腕をまわしてキスをする。頬を寄せたり唇でなぞったりして触れ合いを楽しむ。
そのうちに、優しく触れるだけのキスでは足りなくなり、自分から舌を入れ、彼の口の中を自分の舌で満たしていく。舐めたり唇を噛んだり、長い間キスを楽しみながら、琉生斗は身体をピタリとアレクセイに密着させた。
くっついてるだけで、幸せなんだけどなーー。
首すじを這うアレクセイの唇と舌に、琉生斗は甘い声をあげた。彼の艶のある黒髪をすきながら、身体を離さずに抱きしめ続ける。
今日はとことん、甘やかしてやろうーー、琉生斗は気合いを入れるーー。
「ーーなあ、アレク」
やりきって満足気な聖女様は、ゼーゼー肩で息をしながら旦那様を見た。
「うん?」
こちらは余裕の旦那様だ。
「どっちも大切なのに、どっちかしか助けられないって、無理だな」
「ーーそうだな」
アレクセイは琉生斗を包むように抱きしめた。
「例えば、この先子供が生まれたとき、おれか子供、どっちかしか助けられないなら、おまえはどうする?」
アレクセイは黙った。
「神竜だから、大丈夫ってのはなしね」
「ーー考えられないな」
「そうだよな……」
神竜を産んでその子を自分の子供だと思うのも、なかなか難しい気もするが。
「選択するって、大変なことだよな」
「ああ」
琉生斗とアレクセイはキスをした。
「なあ、アレク。おれのひとり部屋作ってよ」
「作らない」
「たまにはひとりでやりたい事もあるの!」
「ない」
「ほんとに、ケチ!」
「わからずや」
琉生斗は目を丸くした。アレクセイの言葉に、次第に笑いが込み上げてくる。
「ふふっ、言うじゃねえかー」
琉生斗はいつまでも笑っていたらしい。
「ーー昨日はどうでしたか?」
「ふふっ、生きていてよかった。まさか、アレクセイとクリステイルと寝ることができるとはな」
「そうですわね。セージも最近は嫌がりますものね」
はははっ、アダマスは笑った。
「息子が成人するのもいいものだ。アレクセイはとうに私の背を抜いているんだ。王宮に来たときはクリステイルより小さかったのになーー」
アダマスが涙を拭う。
「駄目な父親で申し訳ないなー」
ムサイエフと刻印された石碑にアダマスは触れる。
「もう五歳になるのかー、早いな」
ラズベリーが涙を流した。
「本当にすまない、ラズベリー」
「…………」
口をハンカチで押さえ、ラズベリーは首を振る。
そのとき、墓地の入り口に人の気配を感じ、アダマスは振り返った。今日は誰も入れるなとパボンに命じたはずだがーー。
アダマスは目を見張った。
そこには、黒の礼装に身を包んだ息子達が立っていた。アレクセイやクリステイルにミント、留学中のセージまでいる。アレクセイの側には聖女琉生斗がいた。琉生斗はアレクセイを促した。
「な、どうして……」
自分達の前まで歩いてきた息子達を見て、アダマスは戸惑った。
「陛下は墓まで持っていきたい話だったかもしれないけど、兄弟の事は教えてあげないとダメじゃないかなーー?」
琉生斗が言う。
俯いたクリステイルはどんな顔をしているのかは見えないが、アダマスは眉をひそめた。
「あー、クリスが気づいたんだよ。母親が、やった事にー」
「ーーすみません。ラズベリー様。謝って許される話ではないありませんが、本当に、本当に、母が、……」
クリステイルの悲鳴のような泣き声に、ミントも涙を見せた。
「ーー泣かないでください、王太子殿下。わたくしは大丈夫です。悲しさはどうにもなりませんが、わたくしには四人も子がいますもの……」
優しい嘘だろうが、ラズベリーは涙を拭いて義理の息子に微笑んだ。
「親父も早く教えてくれりゃいいのに、オレ末っ子じゃなかったんだな」
セージが言った。
「どっちだったんだよ?」
「ーー男の子だった。ーー名前はムサイエフ」
アダマスが石碑の下から箱を取り出した。子供達の前で小さな箱を開ける。
そこには、赤みがかった金色の髪が入っていた。ラズベリーが泣き崩れた。大泣きのミントが母に寄り添う。
アレクセイは黙ったまま、琉生斗がいつもするように箱に手を合わせた。
「ーールチアにはラズベリーの妊娠を隠していたのだがな、その日は運悪く会ってしまったのだ」
クリステイルが肩を震わせた。
「ちょうどアレクセイが大火傷を負ったと知らせがきた。一瞬の間だった。ルチアがラズベリーの腹を斬りつけたーー」
アダマスは目を閉じた。
「子は即死だった。ラズベリーも出血がとまらなくて、もう駄目かと思ったが、私とパボンで何とかしたーー」
深くアダマスは息を吐いた。
「ーーただの言い訳だ」
クリステイルは頭を振った。
「すまぬな。アレクセイーー。私はおまえを選ばなかった」
「父上……」
アレクセイは静かに父を見た。
「理由はパボンから聞いて知っていましたからーー。私は何とも思っておりません」
アダマスは、あの裏切り者、と呟いた。
「父上がクリスの為に黙っていたのは、私にもよくわかります。私とて、ベルダスコン公爵の前であんな事を言うつもりはなかった……」
アレクセイは目を伏せた。
「兄上……」
「父上も私もおまえが大切だから隠しておきたかったー」
「あにうえーー!」
大泣きのクリステイルは、アレクセイの足元に崩れ落ち泣き続けた。兄は膝をついて泣く弟の肩に手を置き、弟が泣きやむまでじっとしていた。
「ヒョロ兄貴は泣き虫だな」
セージが鼻をすすった。
夜ーー。
離宮では、いつものようにアレクセイが琉生斗を抱いていた。だが、いつものような激しさはない。
甘えるような仕草のアレクセイに、琉生斗は彼の首に腕をまわしてキスをする。頬を寄せたり唇でなぞったりして触れ合いを楽しむ。
そのうちに、優しく触れるだけのキスでは足りなくなり、自分から舌を入れ、彼の口の中を自分の舌で満たしていく。舐めたり唇を噛んだり、長い間キスを楽しみながら、琉生斗は身体をピタリとアレクセイに密着させた。
くっついてるだけで、幸せなんだけどなーー。
首すじを這うアレクセイの唇と舌に、琉生斗は甘い声をあげた。彼の艶のある黒髪をすきながら、身体を離さずに抱きしめ続ける。
今日はとことん、甘やかしてやろうーー、琉生斗は気合いを入れるーー。
「ーーなあ、アレク」
やりきって満足気な聖女様は、ゼーゼー肩で息をしながら旦那様を見た。
「うん?」
こちらは余裕の旦那様だ。
「どっちも大切なのに、どっちかしか助けられないって、無理だな」
「ーーそうだな」
アレクセイは琉生斗を包むように抱きしめた。
「例えば、この先子供が生まれたとき、おれか子供、どっちかしか助けられないなら、おまえはどうする?」
アレクセイは黙った。
「神竜だから、大丈夫ってのはなしね」
「ーー考えられないな」
「そうだよな……」
神竜を産んでその子を自分の子供だと思うのも、なかなか難しい気もするが。
「選択するって、大変なことだよな」
「ああ」
琉生斗とアレクセイはキスをした。
「なあ、アレク。おれのひとり部屋作ってよ」
「作らない」
「たまにはひとりでやりたい事もあるの!」
「ない」
「ほんとに、ケチ!」
「わからずや」
琉生斗は目を丸くした。アレクセイの言葉に、次第に笑いが込み上げてくる。
「ふふっ、言うじゃねえかー」
琉生斗はいつまでも笑っていたらしい。
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