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聖女の国の王族達編

第85話 聖女の国の王族達 8 ー楽しい時間ー

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「こちらですよー」
 パボンとマリアが花がきれいな場所に、テントを張って待っていてくれた。
「ありがとう。マリアさんもごめんね」
「いえいえ、女子みんなで作りましたから」
 マリアが女性魔法騎士で作った色とりどりのお弁当を広げる。
「お口に合いますか不安ですがーー」
 
「美味しいー」
 ミントが玉子焼きに目を輝かせた。
「スクランブルエッグとは違う、何ですか?」
「これは葛城の玉子焼きだな」
「そうです。ファウラの胃袋をつかんだ逸品らしいですわ」
「玉子焼きでつかんだの?おれなんか金目鯛の煮付けでようやく美味い、って言わせたのに」
「お兄様が美味しいと?」
「うん」
「お兄様、あまり食べませんでしょう?」
「だな。おれの方が腹が出てる」
 琉生斗は笑った。花蓮もつられて笑った。
「今日はみんな連れて来てるんでしょ?」
 琉生斗がマリアに話しかける。
「ええ。動物園の横の遊具で遊んでますわ。小さい子用の遊具もたくさんあって、すごいですわね」
「そうなんだよ。うちにも作る予定」
 琉生斗はマリアの肉団子を食べて、目を丸くした。
 美味い、肉がゴロゴロした肉団子だー、噛むたびにジューシーな肉汁が出るー。
「マリアさん、これすごい美味しいよ!」
「あら、ありがとうございます」
「マリアさんは、これでパボンさんを落としたのか?」
「いーえ。猛アタックに渋々です」
「はははっ、そうなんだぁ!」
 パボンの苦笑いを見て琉生斗は大笑いだ。
「折れちゃったの?」
「趣味を理解するなら、と」
「趣味……」
「おほほほほっ」
 マリアははぐらかした。


「遊具施設を造るのか?」
 また、私の知らないうちにーー、別にいいけど、とアダマスは苦笑した。
「うん。兵馬がラルジュナさんに交渉してくれてるんだ。そうだ、兵馬秋からバッカイアの大学に通うんだぜー。おれも通っちゃだめか?」
「駄目だな。アレクセイの負担が大きくなるだろう」
「そうだよな」
「それでなくともルートは自分の存在を軽く見ているからな」
「そんな、自分大切、なんてヤツ嫌だろうが」 
「自分は大切にしなきゃ駄目だろう」
 アダマスに正論で諭される。



「次、バッカイアイルカのショーだぜ、行こう!」
 琉生斗は張りきってアダマス達を促した。
「ルートは元気だな」
「うん。元気。魔蝕がでないことだけ祈ってるけど」
「まさかーー」
 アダマスの顔色が変わる。
「うん。今日のことはアレクには内緒」
「帰ったら殺されるなー」
「ソニーさんやヤヘルさん達が、がんばってくれてるはず」
 琉生斗は頷いた。
「まあ、殺されたら何とかするから」
「殺される前に助けてくれ」
 涙目のアダマスは、バッカイアイルカに盛大に水をかけられた。


 花蓮とミントがアドベンチャー動物園の目玉、パンパンダを食い入るように見る中、アダマスは琉生斗に話しかけた。
「今日はすまんな。おかげで元気がでた」
「陛下も案外ヘタレだよな」
「皆、ルートみたいに強くはない」
「いい歳こいた息子の事なんてほっときゃいいじゃん。なんでそこまでこだわるの?」
「ーー懺悔でしかないな。何もやってこなかったからな」
「何もしなくとも、存在に感謝はしてるよ。ただ、口に出せないだけ」
 だといいがなーー。
「楽しい時間はあっという間だ。優しい娘達に囲まれて、私は幸せだな」
 アダマスは目頭が熱くなる。

 そこへまわりのざわめきとともに、きらびやかな美青年が現れた。
「やっほー、ルートー」
 あいかわらずのキラキラとした装飾品。今日のメインはアンデシンラブラドライト、レインボーカラーがとでも美しい。
「どう?楽しんでる?」
「兵馬に、ラルジュナさんー」

 なんでいつも一緒なんだよーー、琉生斗は引きつりそうになるのを抑えて挨拶をする。 

「お邪魔してます。ここ、動物の魅せ方とか、すげえ研究してるよな」
「そうそうー。自然にストレスが溜まらないように、飼育員達も考えてくれてるんだー。昔はそうでもなかったんだけどボクが来たときに、『二度は来ないかな』って言ったらしくて、その後改善したんだってー」
「言いそうだよね」
 兵馬がつっこむ。
 ラルジュナさんが何を言うかなんて知らねえわーー、琉生斗はパンパンダの方に視線を戻した。
 おれのほうが仲良しだろ?、ぐすん、と琉生斗は心で泣く。
「昔、アレクセイとクリステイルを連れてきた事がある」
「えっ?アレク来たことあんの?」
 動物園に?
「ルートー、殿下だって、子供のときがあったんだから」
「いや、そうだよな。ラルジュナさんて、アレクとはー」
「うん、十二歳のときアジャハンの王立学院がはじめてだよー。あいつ誕生日遅いから十一だったかなー?もう、今みたいな感じだったよー。無表情で何聞かれても返事もしないのー」
「何で仲良くなったのさ」
 ヒョウマ、タメ口はまずいだろ、とアダマスはヒヤヒヤした。
「んー?ボクそういうの気にしないからねー」
 ラルジュナはウインクした。
 全員が頷いた。
「じゃあ、ボク行くねー。パンパンダが気に入ったんならぬいぐるみいっぱい買ってねー。ルート達が来るからたくさん用意したんだぁー」
 きらきら王太子は用事があるのか、兵馬と歩いて行く。

 琉生斗は、親友の後ろ姿を見送った。


「ルートくん、えらいわー」
「花蓮、兵馬がー」
 琉生斗は泣くのを堪えた。花蓮に励まされながら琉生斗はお土産屋に入っていった。


 アダマスは眉を寄せて考えている。
 ーーあれは、まずいなーー。アレクセイは知っとるのかーー。
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