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聖女の国の王族達編

第86話 聖女の国の王族達 7 ー父と娘達のデートー

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「殿下!今日は大変ですぞ!まずはこの書類!すべて目を通していただきたい!」
 ヤヘルが将軍室に来たアレクセイの前に山積みの書類を並べた。
「ーーわかった」
「これが終わってもまだまだ大変ですぞ」
「何がだ?」
「トードォと武者修行の旅に行きますので、ついてきて下さい!」
 ヤヘルの力強さにアレクセイは目をしばたいた。
「これ、ヤヘル。殿下に何を頼んでいる。すみません、殿下ーー。トードォの武者修行には私が同行しますので」
「あら、わたくしが行きますわよ」
「ならば、私がご一緒しましょう!」
 アンダーソニーやルッタマイヤにトルイスト、彼らがなぜか東堂の武者修行に同行しようとしている。アレクセイは首を傾げながら、彼らをとめた。
「いや、私が行こう」
「「「どうぞ、どうぞ!」」」
 アレクセイは目を丸くし、さらに首を傾げた。






 王族の食堂室でお茶を飲んでいたアダマスは、表情も暗く覇気がなかった。クリステイルが来なくなってからは毎日こうだ。
 ミントもどうしていいかわからず、ただその場にいるだけ。

 せめて、セージがいればーー。

「陛下、聖女様です!」
 パボンが嬉しそうに言うと、扉が大きく開いた。
「陛下!行くぞ!」
 くすんだ銀色のつなぎのような服を着て、聖女琉生斗はあらわれた。
「ルート?」
 アダマスはポカンと聖女の顔を見た。
「おはようございます。お義父様」
 花蓮は琉生斗と揃いの服を着ている。色はベージュだが。
「おはよう。どこに行くのだ?」
「おう、せっかく娘が増えたんだから、息子の事は忘れて付き合えよ」
「ん?」
「パボンさん、転移よろしく!ほら、ミント、動きやすい服着替えて来いよ!」
「あっ、はい!」
 慌てて立ちあがる。
 ミントは胸のドキドキがとまらなかった。それは琉生斗に会えたからなのか、彼が今の状況をなんとかしてくれることへの期待なのかーー。彼女は走った。








「陛下!あれなんだ!」
「あれはワーオーキツネザルだな」
 やっぱあっちの動物と似てるな。
 琉生斗はバッカイア帝国のアドベンチャー動物園に来ていた。ここの事は兵馬に調べてもらい、イベントもおさえてくれている。一家にひとり兵馬がいればいい、と琉生斗は常に思う。
「ルートくん、あっちからペンギンが歩いて来るわよ」
 花蓮がはしゃいだ。
「ほんとだ、寒くなくて大丈夫なのか?」
「熱帯ペンギンだからな。暑い国にしかいない」
「へぇー」
 盛りあがる二人にやや呆れているのはミントだ。
「聖女様、おいくつでしたか?」
 動物園ではしゃぐなんて、子供みたいなところもあるのですわね。
「あはははっ。来年は二十歳だよ」
「楽しいならいいじゃないか」
 アダマスが目を細めた。
「うん。楽しいよ。おれ、動物園来たことないもん」
 琉生斗はとても楽しそうに笑った。ミントは目を見張る。

 そういう人もいるんだーー、という驚きがミントの目にあらわれている。

 慈しまれて育ったプリンセスには、琉生斗の感覚はわからないかもしれないーー。アダマスは目を細めた。
 子供には様々な事を教えないといけないのに、終わった後に気づくことが多い。
 後から言ったところで、そのときには必要なくなる。


 アダマスの記憶の中に、動物園で小さなアレクセイとクリステイルが、一定の距離を保ちながら歩く姿があった。クリステイルは兄の側に行きたそうなのに、アレクセイはすぐに離れて行ってしまう。
 


 どうすればいいのか考えている間に、アレクセイはルチアによって氷の海に落とされ、自分達に寄らなくなった。
 自力で海から出た息子は、その後アンダーソニーやヤヘルの側にいるようになる。自分も一歳を過ぎた双子の愛らしさと世話に、その事実から逃げた。


 アダマスは深い溜め息をつく。



 花蓮がペンギンの横で歩きながら歌を歌う。観光客が立ちどまり、人だかりができていく。
「花蓮ー!ホワイトタイガー見に行くぞ!下から見れるんだって!」 
「はーい。ペンギンさん、またねー」
 その後も琉生斗と花蓮は、目を輝かせてあちこちまわった。アダマスが知っていることを教えると、真剣な顔で相槌を打つ。ミントにはなかなかできないことだ。
「陛下、物知りだね」
「ルートも覚えておきなさい。熊の倒し方を」
 使うときがないことを祈るよーー、と琉生斗はつぶやいた。



「こっち公園だって。パボンさんが場所とりしてくれてるよ」
 公園の入り口には紫陽花が咲いている。
「おれ、青色が好き」
「わたしはピンクがいいわ」
 琉生斗と花蓮は花に近づき、好みの色を言い合う。
「クリスくんにお部屋の色が何がいいか聞かれたからピンクって言ったの。そしたら、クリスくん困ってたわ。何色がよかったのかしら?」
「あいつは白が多いよな」
「白は汚れが目立つでしょ?お掃除大変ね」
「魔法でやるだろ。ずるいよな。アレクなんか指振りゃきれいになるのに、おれはシンデレラのように床を拭くんだぜ」
「ルートくん、お掃除好きでしょ?」
「そうだな。最近は暇があれば草取りしてるよ」
 アダマスは二人の話に入った。
「宮を新設するのだ」
「ほえー、さすがだな。おれにはなかったのに」
 琉生斗は目を細めた。
「造ればいい。離宮の裏など芝生を張っているだけだろう?」
 あそこを造成すればーー、とアダマスが言うと琉生斗は首を振った。
「言ってみただけだよ。おれの寝室がないから欲しいって言ってんのにさ、くれないんだよ。おれにだって、ひとりでーこいて寝たいときもあるっつうの」
 アダマスは吹き出した。
「そのうち用意するだろう」
「そりゃ作ってくれなきゃ困るよ。いざアレクに愛人ができたときに、おれの寝る場所がないなんて」
 外でテントとかいいかもしれないが。
「おやおや、浮気即離婚はやめたのか?」
「七十歳になってまで、んなこと言うかよ」
 アダマスは爆笑した。
 ミントは父の笑う顔を見て、ほっと息をついた。
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