188 / 307
聖女の国の王族達編
第86話 聖女の国の王族達 7 ー父と娘達のデートー
しおりを挟む
「殿下!今日は大変ですぞ!まずはこの書類!すべて目を通していただきたい!」
ヤヘルが将軍室に来たアレクセイの前に山積みの書類を並べた。
「ーーわかった」
「これが終わってもまだまだ大変ですぞ」
「何がだ?」
「トードォと武者修行の旅に行きますので、ついてきて下さい!」
ヤヘルの力強さにアレクセイは目を瞬いた。
「これ、ヤヘル。殿下に何を頼んでいる。すみません、殿下ーー。トードォの武者修行には私が同行しますので」
「あら、わたくしが行きますわよ」
「ならば、私がご一緒しましょう!」
アンダーソニーやルッタマイヤにトルイスト、彼らがなぜか東堂の武者修行に同行しようとしている。アレクセイは首を傾げながら、彼らをとめた。
「いや、私が行こう」
「「「どうぞ、どうぞ!」」」
アレクセイは目を丸くし、さらに首を傾げた。
王族の食堂室でお茶を飲んでいたアダマスは、表情も暗く覇気がなかった。クリステイルが来なくなってからは毎日こうだ。
ミントもどうしていいかわからず、ただその場にいるだけ。
せめて、セージがいればーー。
「陛下、聖女様です!」
パボンが嬉しそうに言うと、扉が大きく開いた。
「陛下!行くぞ!」
くすんだ銀色のつなぎのような服を着て、聖女琉生斗はあらわれた。
「ルート?」
アダマスはポカンと聖女の顔を見た。
「おはようございます。お義父様」
花蓮は琉生斗と揃いの服を着ている。色はベージュだが。
「おはよう。どこに行くのだ?」
「おう、せっかく娘が増えたんだから、息子の事は忘れて付き合えよ」
「ん?」
「パボンさん、転移よろしく!ほら、ミント、動きやすい服着替えて来いよ!」
「あっ、はい!」
慌てて立ちあがる。
ミントは胸のドキドキがとまらなかった。それは琉生斗に会えたからなのか、彼が今の状況をなんとかしてくれることへの期待なのかーー。彼女は走った。
「陛下!あれなんだ!」
「あれはワーオーキツネザルだな」
やっぱあっちの動物と似てるな。
琉生斗はバッカイア帝国のアドベンチャー動物園に来ていた。ここの事は兵馬に調べてもらい、イベントもおさえてくれている。一家にひとり兵馬がいればいい、と琉生斗は常に思う。
「ルートくん、あっちからペンギンが歩いて来るわよ」
花蓮がはしゃいだ。
「ほんとだ、寒くなくて大丈夫なのか?」
「熱帯ペンギンだからな。暑い国にしかいない」
「へぇー」
盛りあがる二人にやや呆れているのはミントだ。
「聖女様、おいくつでしたか?」
動物園ではしゃぐなんて、子供みたいなところもあるのですわね。
「あはははっ。来年は二十歳だよ」
「楽しいならいいじゃないか」
アダマスが目を細めた。
「うん。楽しいよ。おれ、動物園来たことないもん」
琉生斗はとても楽しそうに笑った。ミントは目を見張る。
そういう人もいるんだーー、という驚きがミントの目にあらわれている。
慈しまれて育ったプリンセスには、琉生斗の感覚はわからないかもしれないーー。アダマスは目を細めた。
子供には様々な事を教えないといけないのに、終わった後に気づくことが多い。
後から言ったところで、そのときには必要なくなる。
アダマスの記憶の中に、動物園で小さなアレクセイとクリステイルが、一定の距離を保ちながら歩く姿があった。クリステイルは兄の側に行きたそうなのに、アレクセイはすぐに離れて行ってしまう。
どうすればいいのか考えている間に、アレクセイはルチアによって氷の海に落とされ、自分達に寄らなくなった。
自力で海から出た息子は、その後アンダーソニーやヤヘルの側にいるようになる。自分も一歳を過ぎた双子の愛らしさと世話に、その事実から逃げた。
アダマスは深い溜め息をつく。
花蓮がペンギンの横で歩きながら歌を歌う。観光客が立ちどまり、人だかりができていく。
「花蓮ー!ホワイトタイガー見に行くぞ!下から見れるんだって!」
「はーい。ペンギンさん、またねー」
その後も琉生斗と花蓮は、目を輝かせてあちこちまわった。アダマスが知っていることを教えると、真剣な顔で相槌を打つ。ミントにはなかなかできないことだ。
「陛下、物知りだね」
「ルートも覚えておきなさい。熊の倒し方を」
使うときがないことを祈るよーー、と琉生斗はつぶやいた。
「こっち公園だって。パボンさんが場所とりしてくれてるよ」
公園の入り口には紫陽花が咲いている。
「おれ、青色が好き」
「わたしはピンクがいいわ」
琉生斗と花蓮は花に近づき、好みの色を言い合う。
「クリスくんにお部屋の色が何がいいか聞かれたからピンクって言ったの。そしたら、クリスくん困ってたわ。何色がよかったのかしら?」
「あいつは白が多いよな」
「白は汚れが目立つでしょ?お掃除大変ね」
「魔法でやるだろ。ずるいよな。アレクなんか指振りゃきれいになるのに、おれはシンデレラのように床を拭くんだぜ」
「ルートくん、お掃除好きでしょ?」
「そうだな。最近は暇があれば草取りしてるよ」
アダマスは二人の話に入った。
「宮を新設するのだ」
「ほえー、さすがだな。おれにはなかったのに」
琉生斗は目を細めた。
「造ればいい。離宮の裏など芝生を張っているだけだろう?」
あそこを造成すればーー、とアダマスが言うと琉生斗は首を振った。
「言ってみただけだよ。おれの寝室がないから欲しいって言ってんのにさ、くれないんだよ。おれにだって、ひとりで屁ーこいて寝たいときもあるっつうの」
アダマスは吹き出した。
「そのうち用意するだろう」
「そりゃ作ってくれなきゃ困るよ。いざアレクに愛人ができたときに、おれの寝る場所がないなんて」
外でテントとかいいかもしれないが。
「おやおや、浮気即離婚はやめたのか?」
「七十歳になってまで、んなこと言うかよ」
アダマスは爆笑した。
ミントは父の笑う顔を見て、ほっと息をついた。
ヤヘルが将軍室に来たアレクセイの前に山積みの書類を並べた。
「ーーわかった」
「これが終わってもまだまだ大変ですぞ」
「何がだ?」
「トードォと武者修行の旅に行きますので、ついてきて下さい!」
ヤヘルの力強さにアレクセイは目を瞬いた。
「これ、ヤヘル。殿下に何を頼んでいる。すみません、殿下ーー。トードォの武者修行には私が同行しますので」
「あら、わたくしが行きますわよ」
「ならば、私がご一緒しましょう!」
アンダーソニーやルッタマイヤにトルイスト、彼らがなぜか東堂の武者修行に同行しようとしている。アレクセイは首を傾げながら、彼らをとめた。
「いや、私が行こう」
「「「どうぞ、どうぞ!」」」
アレクセイは目を丸くし、さらに首を傾げた。
王族の食堂室でお茶を飲んでいたアダマスは、表情も暗く覇気がなかった。クリステイルが来なくなってからは毎日こうだ。
ミントもどうしていいかわからず、ただその場にいるだけ。
せめて、セージがいればーー。
「陛下、聖女様です!」
パボンが嬉しそうに言うと、扉が大きく開いた。
「陛下!行くぞ!」
くすんだ銀色のつなぎのような服を着て、聖女琉生斗はあらわれた。
「ルート?」
アダマスはポカンと聖女の顔を見た。
「おはようございます。お義父様」
花蓮は琉生斗と揃いの服を着ている。色はベージュだが。
「おはよう。どこに行くのだ?」
「おう、せっかく娘が増えたんだから、息子の事は忘れて付き合えよ」
「ん?」
「パボンさん、転移よろしく!ほら、ミント、動きやすい服着替えて来いよ!」
「あっ、はい!」
慌てて立ちあがる。
ミントは胸のドキドキがとまらなかった。それは琉生斗に会えたからなのか、彼が今の状況をなんとかしてくれることへの期待なのかーー。彼女は走った。
「陛下!あれなんだ!」
「あれはワーオーキツネザルだな」
やっぱあっちの動物と似てるな。
琉生斗はバッカイア帝国のアドベンチャー動物園に来ていた。ここの事は兵馬に調べてもらい、イベントもおさえてくれている。一家にひとり兵馬がいればいい、と琉生斗は常に思う。
「ルートくん、あっちからペンギンが歩いて来るわよ」
花蓮がはしゃいだ。
「ほんとだ、寒くなくて大丈夫なのか?」
「熱帯ペンギンだからな。暑い国にしかいない」
「へぇー」
盛りあがる二人にやや呆れているのはミントだ。
「聖女様、おいくつでしたか?」
動物園ではしゃぐなんて、子供みたいなところもあるのですわね。
「あはははっ。来年は二十歳だよ」
「楽しいならいいじゃないか」
アダマスが目を細めた。
「うん。楽しいよ。おれ、動物園来たことないもん」
琉生斗はとても楽しそうに笑った。ミントは目を見張る。
そういう人もいるんだーー、という驚きがミントの目にあらわれている。
慈しまれて育ったプリンセスには、琉生斗の感覚はわからないかもしれないーー。アダマスは目を細めた。
子供には様々な事を教えないといけないのに、終わった後に気づくことが多い。
後から言ったところで、そのときには必要なくなる。
アダマスの記憶の中に、動物園で小さなアレクセイとクリステイルが、一定の距離を保ちながら歩く姿があった。クリステイルは兄の側に行きたそうなのに、アレクセイはすぐに離れて行ってしまう。
どうすればいいのか考えている間に、アレクセイはルチアによって氷の海に落とされ、自分達に寄らなくなった。
自力で海から出た息子は、その後アンダーソニーやヤヘルの側にいるようになる。自分も一歳を過ぎた双子の愛らしさと世話に、その事実から逃げた。
アダマスは深い溜め息をつく。
花蓮がペンギンの横で歩きながら歌を歌う。観光客が立ちどまり、人だかりができていく。
「花蓮ー!ホワイトタイガー見に行くぞ!下から見れるんだって!」
「はーい。ペンギンさん、またねー」
その後も琉生斗と花蓮は、目を輝かせてあちこちまわった。アダマスが知っていることを教えると、真剣な顔で相槌を打つ。ミントにはなかなかできないことだ。
「陛下、物知りだね」
「ルートも覚えておきなさい。熊の倒し方を」
使うときがないことを祈るよーー、と琉生斗はつぶやいた。
「こっち公園だって。パボンさんが場所とりしてくれてるよ」
公園の入り口には紫陽花が咲いている。
「おれ、青色が好き」
「わたしはピンクがいいわ」
琉生斗と花蓮は花に近づき、好みの色を言い合う。
「クリスくんにお部屋の色が何がいいか聞かれたからピンクって言ったの。そしたら、クリスくん困ってたわ。何色がよかったのかしら?」
「あいつは白が多いよな」
「白は汚れが目立つでしょ?お掃除大変ね」
「魔法でやるだろ。ずるいよな。アレクなんか指振りゃきれいになるのに、おれはシンデレラのように床を拭くんだぜ」
「ルートくん、お掃除好きでしょ?」
「そうだな。最近は暇があれば草取りしてるよ」
アダマスは二人の話に入った。
「宮を新設するのだ」
「ほえー、さすがだな。おれにはなかったのに」
琉生斗は目を細めた。
「造ればいい。離宮の裏など芝生を張っているだけだろう?」
あそこを造成すればーー、とアダマスが言うと琉生斗は首を振った。
「言ってみただけだよ。おれの寝室がないから欲しいって言ってんのにさ、くれないんだよ。おれにだって、ひとりで屁ーこいて寝たいときもあるっつうの」
アダマスは吹き出した。
「そのうち用意するだろう」
「そりゃ作ってくれなきゃ困るよ。いざアレクに愛人ができたときに、おれの寝る場所がないなんて」
外でテントとかいいかもしれないが。
「おやおや、浮気即離婚はやめたのか?」
「七十歳になってまで、んなこと言うかよ」
アダマスは爆笑した。
ミントは父の笑う顔を見て、ほっと息をついた。
111
お気に入りに追加
243
あなたにおすすめの小説
結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、転生特典(執事)と旅に出たい
オオトリ
BL
とある教会で、今日一組の若い男女が結婚式を挙げようとしていた。
今、まさに新郎新婦が手を取り合おうとしたその時―――
「ちょっと待ったー!」
乱入者の声が響き渡った。
これは、とある事情で異世界転生した主人公が、結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、
白米を求めて 俺TUEEEEせずに、執事TUEEEEな旅に出たい
そんなお話
※主人公は当初女性と婚約しています(タイトルの通り)
※主人公ではない部分で、男女の恋愛がお話に絡んでくることがあります
※BLは読むことも初心者の作者の初作品なので、タグ付けなど必要があれば教えてください
※完結しておりますが、今後番外編及び小話、続編をいずれ追加して参りたいと思っています
※小説家になろうさんでも同時公開中
突然異世界転移させられたと思ったら騎士に拾われて執事にされて愛されています
ブラフ
BL
学校からの帰宅中、突然マンホールが光って知らない場所にいた神田伊織は森の中を彷徨っていた
魔獣に襲われ通りかかった騎士に助けてもらったところ、なぜだか騎士にいたく気に入られて屋敷に連れて帰られて執事となった。
そこまではよかったがなぜだか騎士に別の意味で気に入られていたのだった。
だがその騎士にも秘密があった―――。
その秘密を知り、伊織はどう決断していくのか。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
地味顔陰キャな俺。異世界で公爵サマに拾われ、でろでろに甘やかされる
冷凍湖
BL
人生だめだめな陰キャくんがありがちな展開で異世界にトリップしてしまい、公爵サマに拾われてめちゃくちゃ甘やかされるウルトラハッピーエンド
アルファポリスさんに登録させてもらって、異世界がめっちゃ流行ってることを知り、びっくりしつつも書きたくなったので、勢いのまま書いてみることにしました。
他の話と違って書き溜めてないので更新頻度が自分でも読めませんが、とにかくハッピーエンドになります。します!
6/3
ふわっふわな話の流れしか考えずに書き始めたので、サイレント修正する場合があります。
公爵サマ要素全然出てこなくて自分でも、んん?って感じです(笑)。でもちゃんと公爵ですので、公爵っぽさが出てくるまでは、「あー、公爵なんだなあー」と広い心で見ていただけると嬉しいです、すみません……!
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
R指定はないけれど、なんでかゲームの攻略対象者になってしまったのだが(しかもBL)
黒崎由希
BL
目覚めたら、姉にゴリ推しされたBLゲームの世界に転生してた。
しかも人気キャラの王子様って…どういうことっ?
✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻
…ええっと…
もう、アレです。 タイトル通りの内容ですので、ぬるっとご覧いただけましたら幸いです。m(_ _)m
.
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる