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聖女の国の王族達編
第82話 聖女の国の王族達 3 ーお兄ちゃんとブラコン弟ー
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「クリス、体調はどうだ?」
布団の中の弟に声をかける。
「ーー何をしに来られました?」
「様子をみてくれと頼まれた」
「でしょうね!頼まれなければ来ないでしょ!」
クリステイルが布団を跳ね除けた。自慢のプラチナブロンドがくしゃくしゃだった。
「そうだな。おまえも早くこんな宮からは出たいんじゃないのか?」
アレクセイの顔を、クリステイルはまじまじと見つめた。
「ここは、おまえの母親の気が残っている。申し訳ないが、怖いな。おまえは怖くないのか?」
クリステイルは力なく俯いた。
「ーー母親ですから……」
「そうか。おまえは強いな」
いいえ、とクリステイルは呟いた。
母親から殴られていたときからは強くなったとは思う。だが、それは強さじゃなくて、したたかさなんじゃないだろうかー。
「兄上はどうして私を恨まないのですか?」
苦しみを絞り出すような声でクリステイルは言う。
「いや、私もおまえに恨まれて当然のことをしている」
「どうしてです?」
「おまえの母親は、私のせいで亡くなっている」
クリステイルは兄を見た。
「ーーそうですよね。いくらなんでも私が祈っただけでは亡くなりませんよね」
何事もなかったかのように言い、クリステイルは窓の外を見た。青空が見える。
その窓はいつも開いていた。一日中、季節を問わず。
クリステイルはその窓を閉めることができなかった。窓を閉めるのは、母親が自分を殴る合図だったからだ。
「あんな、母ですみません……」
クリステイルは頭を下げた。何度謝っても足りる話ではないが。
「私も何度死んでくれと思ったかわかりません。けど、……」
拳を強く握りしめるクリステイルを、アレクセイが静かに見ていた。
「やはり、つらいものですね……」
兄が頷いた。
「ーー兄上は、私のことをどう思います?」
「弟だ」
答えははっきりとしていた。
「それだけですか?」
「ああ。それだけだ」
「ひどいな、兄上はーー、家族じゃないですか」
クリステイルは額に手を置いた。
「いや。私の家族はルートだけだ」
驚いた顔でアレクセイを見る。
「もう、私などいらないと?」
「そうだな。他の者のことなど考えられない。ルートを幸せにする事だけを考えている」
「なんて、残酷なことを言うのでしょうねーー」
「そうか?だが、おまえも他所見をしている場合ではない。伴侶を得るということを軽く考えすぎだ。おまえには他に婚約者がいたはず、他所を見ていてはその者達にも失礼だ。私など見ずに自分の伴侶を見ろ。おまえはカレンと家族になるのだろ?」
クリステイルの大きな瞳がさらに大きくなる。
「ーーそうですね……」
「ルートがよく言う。結婚は嫁の方がきついことが多い、おまえは王太子なのだから尚更カレンの負担は大きい。それを背負わせるのか、共に背負うのかはおまえ次第だ。私達はもう子供ではない。うずくまって助けを持つのは、これまでとせよ」
そういうと、アレクセイは静かに部屋から出て行った。
「きっついなー」
クリステイルがぼやく。
「でも、やっぱりかっこいいー」
次の日から何事もなかったようにクリステイルは政務に励んだ。あまりに普通すぎて、側近達も首を傾げる程だった。
ただ、変わったことと言えば、少しでも時間ができれば神殿に行き、花蓮に会うようになった。クリステイルは花蓮と住むための宮を新設することにした。
「わたし、外の色はピンクがいいわ。ビビッドカラーなピンク」
「ピンクかー」
花蓮の言葉にクリステイルは頭を抱えたという。
布団の中の弟に声をかける。
「ーー何をしに来られました?」
「様子をみてくれと頼まれた」
「でしょうね!頼まれなければ来ないでしょ!」
クリステイルが布団を跳ね除けた。自慢のプラチナブロンドがくしゃくしゃだった。
「そうだな。おまえも早くこんな宮からは出たいんじゃないのか?」
アレクセイの顔を、クリステイルはまじまじと見つめた。
「ここは、おまえの母親の気が残っている。申し訳ないが、怖いな。おまえは怖くないのか?」
クリステイルは力なく俯いた。
「ーー母親ですから……」
「そうか。おまえは強いな」
いいえ、とクリステイルは呟いた。
母親から殴られていたときからは強くなったとは思う。だが、それは強さじゃなくて、したたかさなんじゃないだろうかー。
「兄上はどうして私を恨まないのですか?」
苦しみを絞り出すような声でクリステイルは言う。
「いや、私もおまえに恨まれて当然のことをしている」
「どうしてです?」
「おまえの母親は、私のせいで亡くなっている」
クリステイルは兄を見た。
「ーーそうですよね。いくらなんでも私が祈っただけでは亡くなりませんよね」
何事もなかったかのように言い、クリステイルは窓の外を見た。青空が見える。
その窓はいつも開いていた。一日中、季節を問わず。
クリステイルはその窓を閉めることができなかった。窓を閉めるのは、母親が自分を殴る合図だったからだ。
「あんな、母ですみません……」
クリステイルは頭を下げた。何度謝っても足りる話ではないが。
「私も何度死んでくれと思ったかわかりません。けど、……」
拳を強く握りしめるクリステイルを、アレクセイが静かに見ていた。
「やはり、つらいものですね……」
兄が頷いた。
「ーー兄上は、私のことをどう思います?」
「弟だ」
答えははっきりとしていた。
「それだけですか?」
「ああ。それだけだ」
「ひどいな、兄上はーー、家族じゃないですか」
クリステイルは額に手を置いた。
「いや。私の家族はルートだけだ」
驚いた顔でアレクセイを見る。
「もう、私などいらないと?」
「そうだな。他の者のことなど考えられない。ルートを幸せにする事だけを考えている」
「なんて、残酷なことを言うのでしょうねーー」
「そうか?だが、おまえも他所見をしている場合ではない。伴侶を得るということを軽く考えすぎだ。おまえには他に婚約者がいたはず、他所を見ていてはその者達にも失礼だ。私など見ずに自分の伴侶を見ろ。おまえはカレンと家族になるのだろ?」
クリステイルの大きな瞳がさらに大きくなる。
「ーーそうですね……」
「ルートがよく言う。結婚は嫁の方がきついことが多い、おまえは王太子なのだから尚更カレンの負担は大きい。それを背負わせるのか、共に背負うのかはおまえ次第だ。私達はもう子供ではない。うずくまって助けを持つのは、これまでとせよ」
そういうと、アレクセイは静かに部屋から出て行った。
「きっついなー」
クリステイルがぼやく。
「でも、やっぱりかっこいいー」
次の日から何事もなかったようにクリステイルは政務に励んだ。あまりに普通すぎて、側近達も首を傾げる程だった。
ただ、変わったことと言えば、少しでも時間ができれば神殿に行き、花蓮に会うようになった。クリステイルは花蓮と住むための宮を新設することにした。
「わたし、外の色はピンクがいいわ。ビビッドカラーなピンク」
「ピンクかー」
花蓮の言葉にクリステイルは頭を抱えたという。
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