ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。(第一部、第二部、第三部)

濃子

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魔法騎士大演習 亡霊城編(ファンタジー系 長編)

第79.5話 亡霊城 後日談

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「牢屋の中で、ガルムスやカシム達が死んでいたらしい」
 アダマスが告げた内容に、会議室はざわめいた。

「警備の者が、気付いたときにはー」
 首を振る王弟アスター、神聖ロードリンゲン国の国家元帥だ。

「叔父上、ーー警備は信用できる者でしたか?」
 アレクセイの問いに、アスターは頷いた。
「ラトゥールだ」
 警備司令長官、グラスファイト侯爵ラトゥール。ルッタマイヤの兄である。

「兄がワイバーン島に?」
 ルッタマイヤが眉根を寄せた。
「魔監査室から見た映像の異変に気付き、行ったそうだ」

 映像の中の彼らが、まったく動かなくなったので不審に思い、現地に赴いたところ死んでいたという。

「侵入者はなかったのですか?」
 クリステイルが尋ねる。アスターは頷く。
「確認されなかった」

「ーー時限式の魔法かー」
 アレクセイの呟きに、将軍達は目を見張った。
「時期が来れば発動するように、魔法をかけていたのですかーー」
「ハオルと手を組んでいた可能性がある。あいつが好きそうな手だな」

 アレクセイは目を閉じた。
 自分のやる事をアピールしなければ気がすまない、鬱陶しい男ーー。
 琉生斗を傷付けた、アレクセイにとっては到底許すことのできない男だがー。

「失礼致します。殿下、ようやくバルド国元帥が吐きました。やはりハオルは脱獄しています」
 トルイストの報告に、アレクセイは深い溜め息を漏らす。

「ーー仕留めればよかったな」
「兄上ーー」

 どこで何を企んでいるか知らんが、ルートに手を出してみろーー。

 アレクセイの目に、身体から発せられる気に、誰もが恐怖心を抱いた。




「ーーアレクセイ殿下」
 その中、教皇ミハエルが口を挟んだ。会議中はアスターの隣で、静かに成り行きを見ていたようだが。

「何か?」

「お言葉がありました」
 会議室がざわついた。

「何とおっしゃられた?」
 ミハエルは溜め息をついた。
「教皇?」
 クリステイルも緊張して兄と教皇の顔を交互に見た。


「悪神ラヴァを斬るように、とーー」


 教皇ミハエルは言葉を出すと、そのまま俯いた。
 会議室は水をうったように静かになった。緊張感にクリステイルは耳の痛みを覚える。

「ーー付与は?」
 静かな声でアレクセイは問う。

「神と悪魔の磁場内で、魔法が使えますーー」
「なるほど……」
 アレクセイは頷いた。
「それが必要になるとの仰せか………」
「アレクセイー」
 アダマスが不安気に息子を見た。

「心配は無用です。あなたの息子はとうの昔に人ではない」

 アレクセイは立ちあがった。

「やはり、あそこにいるのだな」
「ええ。行かれるのでしたら、その間、私が魔蝕の浄化に同行しますよ」
「ーー時期を考える」

「来年は魔蝕の活動が増える年です。殿下抜きでは聖女様も苦しいでしょうなー」
「そうだな」
 父に挨拶をすることもなくアレクセイは場から下がった。



「教皇、いまの話はどういうことですか!」
 クリステイルが取り乱して大声を張る。

「王太子殿下はご存知ないと?」
「何をです!」
「知らないなら知らないままがよろしいかと……。ねえ、陛下?」

 ミハエルに話を振られアダマスは顔を曇らせた。

「教皇ー。それ以上は……」
 アンダーソニーが話を遮る。

「はいはい。殿下の父は、陛下ではないですからね。殿下が大火傷したときも、あなた来ませんでしたもんね。先王がスズ様にどれだけお叱りを受けたか」
 アダマスは下を向く。

「ーーその結果、元王妃はーー」
「やめよ!」
 アダマスが叫んだ。

「母上が、何です?」
「ーー王太子殿下、あなたにはつらいお話ですよ。いや、あなたもわかっているのに知らない振りをしている。罪深い親子ですね」
 ミハエルはゆっくりと立ち上がった。

「では、失礼致します。やはり王宮は居心地が悪い。スズ様もよくおっしゃっていたー」
 
 ミハエルが去った後、恐ろしいほど凍りついた空気に、皆まばたきひとつできなかった。












「はあー」
 クリステイルは溜め息をついた。そのわざとらしさに兵馬が呆れる。

「何?何か聞いて欲しい話があるの?」
「ーーすみません。愚痴です」
「はいはい。聞くだけなら聞きますよ」

 クリステイルと兵馬は婚約関係の話をしていた。だが、クリステイルがまったく話を聞いていない。これでは時間の無駄だと兵馬が話を変えた。


「実はですねーー」

 クリステイルは先ほどの会議室での様子を兵馬に話した。兵馬が目を丸くしながら耳を傾ける。

「どう思います?」
「まあ、単純に陛下って最低だね」
「ーーそうですよね。父上は何を考えていたのだろう
……」

 その当時のアダマスのことを知らないから判断できないが、ひどい話だ。

「殿下の大火傷ってあれでしょ?魔力封じて火山口に落とされたやつでしょ?」
「そうです」
「普通、死んでるよね。何で生きてるの?」

 兵馬の言葉にクリステイルは固まった。

「え?気づいてなかったの?」
 愕然とした表情で兵馬がクリステイルを見た。

「王太子もズレてるよね?てか、兄を神格化しすぎてるよ。知ってる?殿下ってあんまり肉とか食べないでしょ?大火傷の後遺症で消化器官が弱ってるから、食べられないんだよ」

「あ……」
 クリステイルは言葉を失った。

 そうだ、兄は食事量が少なく、水分しか摂取しないときもある。背は自分のほうが低いが、体重はあきらかに自分のほうが重いだろう。

 赤くなってクリステイルは俯いた。

「王太子、神殺しゴッドスレイヤーを知ってるよね?僕も最近教皇に聞いたんだけど、神になれなかった神崩れのドラゴンと違って、悪神って神をやめた存在、神堕ち、なんだってね。それを殿下は斬ってるって聞いたよ」

 兵馬の話にクリステイルは返事もない。

「斬ると、特典みたいな付与がつくみたいだね。殿下の場合、魔力無限と自然治癒、だって」

 ぼんやりと、そうなのか、とクリステイルは思った。

 だからあんなに強いのかーー。

「その代わり呪いも受けるんだって。教皇は教えてくれなかったけど。また悪神を斬るなら、付与もあるけど、呪いも受けることになるんだー。怖くないのかな……」
 
 クリステイルは目を見張った。驚きに言葉が出ない。

「前にジュナ王太子と話したときがあってね、あのときはわからなかったけどーー」
 兵馬が溜め息をついた。

「教皇から呪いを受けるって聞いて、ピンときたよ」
「何がです?」
「呪いの内容だよ。言わないけど」

 クリステイルは静かな目で兵馬を見た。

「ねえ、王太子。死にたいときに死ねないって地獄でしかないよね?火山口に落ちても生きてるんでしょ?」

 クリステイルの目から涙があふれた。

「どんな状態か想像でしかないけど、溶かされても治癒してまた溶かされて、助けられるまでその状態だったんでしょ?」
 号泣に兵馬が顔をしかめる。

「本当死んだほうがマシだったよね。王太子もだけど、陛下何してたのかな?そのとき助けたのって、士長と団将だったそうだよ。教皇とスズさんの治癒聖魔法で、なんとかなったらしいけど、その二人の治癒聖魔法なんて、もはや奇跡超えじゃん」

 現在、琉生斗も勉強中だが、聖女の治癒聖魔法は治癒魔法の中でも最高位に位置する。その威力は、制約はあるものの死んだ者を生き返らせる事もできる。

 琉生斗は自分の魔蝕を使って、生と死をひっくり返すことができるので、すぐに取得できそうなものだが、そう簡単なものではないらしい。

「お兄ちゃんかっこいい!とか言ってないで、大変な面も見てあげてね。僕、次の予定があるから行くよ」

 兵馬が書類を整理して必要な分をクリステイルの前に置いた。


 その日から、クリステイルは自身の宮から出なくなった。アダマスが何を言っても無駄だった。

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