ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。(第一部、第二部、第三部)

濃子

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魔法騎士大演習 亡霊城編(ファンタジー系 長編)

第73話 亡霊城攻略 9 ー嫉妬深い二人ー

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「ルートー」
「ん?」
「着いた」
 あれ?おれ寝てたのか、呑気だなー。
 アレクセイの肩から頭を起こすと、目の前に、台座に刺さった光る錫杖があった。
「おぉ!本当にあったじゃねえか」
 あれ?
「なあ、アレク。槍が飛んで来なかったか?」
「あぁ」
 琉生斗はアレクセイから降りた。アレクセイは身体が離れるのを嫌がったのだがー。後ろを見て琉生斗は目を瞠る。
 折られたり粉砕した状態で、無数の槍が落ちていた。
「ごめん」
 まあ、呑気に寝ていた自分だことー、琉生斗は自分に呆れる。
「大した事はない」
 本当に何でもなかったのだろう。揺れをまったく感じなかったー。
 そのとき、琉生斗はアレクセイに後ろから抱きしめられた。
「どうした?」
「愛しすぎてー」
「はいはい。帰ったらね」
 嫌か?と尋ねられ、ミハエルじいちゃん達見てるだろ?と返す。
「見えないようにしてきた」
 だからってーー。
「ーー遺跡っぽい場所は、やだなー」
 
 古い臭い、ところどころに痛みがある石壁ー。
 
 琉生斗はポツリと言った。その声の調子に、アレクセイは気が付いた。
 頬にキスをし、すまない、と言う。
 
 いくら時空竜の女神様のされた事とはいえ、あの行為の後、恋人を目の前で失いかけている。
 場所によってははっきりと思い出してしまい、声も出せないほど恐ろしくなるときがある。

「よし、錫杖抜こうー」
 琉生斗は台座にあがり、光る錫杖に手をかける。
 ピリッとくるものがあったが、それはするりと抜けた。
「おっほー!おれ、すげぇー聖職者っぽくね?」
 振り回しながら言うと、アレクセイはくすりと笑う。
「そうだな、聖女は聖職者なのか、難しいところだ」
 それはおれの人柄の問題なのか?と、琉生斗は目を細めた。
「ほれ、アレク」
 アレクセイに光る錫杖を渡すと、彼は二、三度錫杖を振る。
「ーー軽いな」
 物足りないらしい。
「え?結構重いよ」
 さすがに重さを付加した剣を振ってる人は、言う事が違う。琉生斗など、アレクセイの剣を持ち上げる事はできない。せいぜい引きずるぐらいだ。
「前にミハエルじいちゃんが、アレクが次の教皇になるって言ってたけどーー」
「あぁ、臣籍降下を願い出たときに、神殿から打診があったらしい。父が断ったようだが」
「王族から教皇になったりするのか?」
 マリア・テレジアの旦那みたいな。あれは、神聖ローマ帝国の皇帝だったかー。
「普通はない」
 はっきりとアレクセイは言った。
「ふーん。是が非でもアレクでって事?」
「ーー詳しい事はわからない」
「あんまり遊んでなかったからだろ?」
 アレクセイが返事に詰まった。
「そんな事、じいちゃん言ってたもんなー。まぁ、王族様の遊びが、どの程度なのか知りませんが」
 琉生斗は歩き出した。
 慌てるようにアレクセイが後を追う。
「ルートーー」
「いいよ、いいよ。おれに魅力がなかったんだから、しょうがないよな?」
「ーーなぜそうなる?」
「おまえ、いつおれの護衛になるって決まったんだ?」
 琉生斗の問いに、アレクセイは黙った。
「言えねぇよな?遊んじゃったの、決まった後だもんな」
「ーールート……」
 すたすたとアレクセイを振り切るように琉生斗は進む。
「ルート!何でもするから、お願いだからーー」
 アレクセイは必死で琉生斗を抱き寄せた。
「ふーん。別に気にしなくていいよ。そのときのアレクが、やりたかった事なんだろ?」
「ルートーー」
 一階に戻る階段の手前で、アレクセイは言った。
「誓って、ルートが思うような事はしていないーー」
 琉生斗の目つきが鋭くなった。

 このアホ!遊びと真剣な交際なら、遊びの方がまだましだ。
 遊んじゃったごめん、てへっ、で済ましとけ。

「おまえも大変だねー。いい加減こんなうっとおしい奴とは別れたほうがいんじゃね?」
「ルート」
 琉生斗はくさくさとした気持ちになりながら、階段を登る。アレクセイは少し怒ったような顔で付いてきた。


 コンコン、と上の板を叩くと、ゆっくりと板があがる。
「聖女様!大丈夫でしたか!ぎゃあ!」
 不機嫌そうなアレクセイを見たカロリンが、飛び上がって悲鳴をあげた。
「な、なんで!」
 腰を抜かしている。
「ミハエルじいちゃんに聞いてないのか?攻略に必要だったんだ。初っ端で詰んでよー」
「旦那様が?」
「あー、人間なら誰でもよかったんだけどな」
「それはそれはー、わたしでなくてよかった。聖女様と二人っきりになった事がバレたら、どっちみち最後は人生が詰みますからね」
 カロリンは、クラリス達は先に進んだと告げた。
「そうだ、聖女様。困った事態になりました」
「何だよ」
「転移が使えません」
 ん?
 琉生斗は不思議そうな顔をした。アレクセイに視線をやると、彼は辺りを見回して、何かに気付いたようだ。
「ーーマチコかー」
「はい、魔導師のマチコさんが亡霊に取り込まれたそうで、城のまわりに超強力な結界が張られ、転移ができなくなり、ティン殿もこちらに来れません」
 マチコならありうる、とアレクセイが言う。
「町子は無事なの?」
「司教クラリスが助けたそうなので、マチコさんは意識不明ですが無事です。ただ、亡霊のほうがーー」
「すげぇーパワーアップしたんだ」
「はいー」
 カロリンは項垂れた。
「あっ、カロリン、これ持ってて」
「えー!わたしなんかが持つものじゃありません!」
「重いんだよ。じゃあ、ここに置いてくかー」
「床に置いちゃ駄目です!わたしが持ちます!」
 光る錫杖を床に置こうとすると、カロリンは泡を吹きながら止めにかかった。そのとき、偶然カロリンの手が琉生斗の手に触れた。
「ぎゃあ!」
 カロリンはアレクセイに腕を捻じ曲げられた。
 琉生斗は呆然としてその様子を見た。
「ーーおまえ、ひでーな」
「そうだな」
「すみません!わたしが悪いんです!」
 カロリンは泣いて謝った。
「どう考えても悪いのはアレクだろ」
「ああ」
 アレクセイはカロリンの腕を治癒した。
「ああ、じゃねえよ。謝れ」
 琉生斗の言葉を聞こえない振りをして、アレクセイは横を向いている。
「聖女様、クラリスの気配がしますので、わたしはそちらと合流します」
「あぁ。ごめんな。心が狭いヤツでよ」
「と、とんでもないです!」
 カロリンは逃げるように走って行く。
「ーー本当、アレクもおれの事言えねえなー」
 琉生斗は深い溜め息を漏らした。

 まったく、お互い嫉妬深いよなーー。

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