ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。(第一部、第二部、第三部、第四部)

濃子

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ラズベリー様のお茶会編

第63話 ラズベリー様のお茶会 3 ーヤヘル・ヴァッツはできる男ー

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「失礼、聖女様」
 上から見下すような声が聞こえた。琉生斗は顔をあげると、真っ赤なドレスを着た、ベルダスコン公爵夫人メメリが立っていた。

「いえ、ベルダスコン公爵夫人。お会いできて光栄にございます」
 琉生斗は立ち上がって頭を下げた。メメリはわざとらしく、息を吐く。

「ご結婚おめでとうございます。本来は義妹が嫁ぐものだと思いますが、聖女様なら仕方のない事なのでしょうね。公爵家令嬢が側室になるわけにはいかないし、ナスターシャはどこに嫁がせればよろしいのでしょうか?」

 溜め息混じりに尋ねられ、琉生斗は微笑んだ。

「ミッドガルの王子が、奥方を探していましたよ。どうです?」

 正妃かは知らないがーー。メメリは嫌そうな顔を扇で隠した。

「聖女様は、跡継ぎの心配をしなくてよろしいから、お気楽なのでしょうね?」
「ええ。魔蝕の浄化に行くのに、子を育ている余裕はありませんから」
 

「そうでしたわ。聖女様はあくまで聖女様の大事な役目の為に、ご結婚されるのでしたわね。夫婦仲がどうとかは関係ありませんわね。子を持つ親の気持ちがわからぬも道理」

 肩を竦めてまわりに同意を求めるメメリ。そこにのっかったのがサリイとマリイだ。

「そうですわ!年端もいかぬ子供を親元から離すなんて!」
「鬼の所業ですわ!」

 二人は吠える。その少し離れたところにいるのが、カタリナ男爵夫人マーノ、ジュラ男爵夫人テルミ、タラナ子爵長男キキエ夫人カラエだ。何とも言えない顔で成り行きを見守っている。

「おや、断っていただいてもいいと伝えましたよ」
 ここを味方につけたのかーー、琉生斗は感心したように微笑んだ。

「断れば魔法騎士団への入隊はない、とおっしゃられたそうじゃありませんか!」
「脅しです!」
「戦いの場において、爵位では生命を守れませんよ」
 ゆっくりと琉生斗は言葉を紡いだ。この人達には何を言っても無駄かもしれないが、伝えるだけは伝えておこう、そう思ったのだ。


 聖女の言葉に場内のざわめきが収まり、静かになった。
 皆が気になっていたのだろう。

「はあ?」
「ご子息があのままでは、もしものときにまわりの魔法騎士も助けてくれないでしょう。礼儀と信頼が足らぬものは、あの組織では役に立ちません」
 言葉の重みにサリイとマリイは下を向いた。
「だからと言って貴族の子息を軽んじるとは、不敬も同じ事ですわ!」

「メメリ夫人、あなたの夫の剣の師匠は」
「え?」
「ベルダスコン公爵ノーマン、剣の師は、団将ヤヘル。エンディ侯爵家のトルイストもそうですね。ヤヘルは平民出ですが、我が夫の剣術の師でもありますよ」

 うっ、とメメリは息を呑んだ。

「トルイストがなぜあの若さで大隊長になれたかご存知ですか?士長や団将が指示を出せば、誰よりも早く一番に駆けつけるのがあの男です」

 ベルガモットが、ふふっ、と微笑む。

「ですが、トルイストがファウラに敬意をはらっているところなど見た事はありませんし、ファウラは、一新兵にも頭を下げます。他の騎士からの信頼も厚く、爵位を傘にきている姿など、誰もみたことはないでしょう」

 これは事実である。美花とナビエラは誇らしそうに頷く。

「ご子息を思う気持ちは、大変立派だとは思いますが、子の持てぬ私にそれを理解せよ、とは傲慢この上ない。事情があって授からないのは、男女でもあることでしょう」

 王弟アスターにも子供はいない。奥方は若いが病弱なのは、爵位のある者なら周知の事実だ。

 サリイとマリイは青ざめた。

「子供は家で育ちますが、学ぶのは外です。ご子息が今の考え方のままで、王太子殿下の時代がきたときに、通用する人材になると思っているなら考えが浅い」

 三人はドキッとした。確かにスズ様は、先王にも現王にも意見が言える身分だった。


「ーー申し訳ありませんーー」
 メメリは真っ赤になりながら謝った。この方は公爵夫人より位が高い方、なのにそれを表だって使う方ではないーー。わたしなど、相手にする価値がないんだわーー。

「いいのですよ。それに、すでに夫は、私に来世まで誓ってくれておりますから」

 ダイヤモンドより高価な、大粒のアレキサンドライトの指輪を見せるように恥じらうと、その姿にサリイとマリイは顔を引きつらせた。場内からも溜め息や、失望の声が聞こえる。

「あ、ああーー」
「失礼します!」
 真っ赤な顔で悲鳴をあげて、二人の姉妹は場内から出ていく。メメリもすごすごと義妹の所へ戻り、ナスターシャに何か諭されている。

「もう、母がすみません!」
 帰ったら叱っておきますから!イリアが言った。
「いいよ。面白かったしー」
「ふふふっ、聖女様には物足りない相手ですわね」
 いい惚気でしたわよ、とベルガモットは微笑む。
「いやいや、子供の心配をできるなんて、尊敬するよ」
「あら、子供の事なんか心配してませんわよ。自分のプライドのためでございましょう?」
 ベルガモットは優雅に微笑んだ。

「もう、トルさんも毎日ドッキドキだろ?」
「昔から、かわいい方ですのよーー」
「あの男にそんな部分あんの?って言いたいところだけど。それ、わかる。自分だけが知ってるかわいい部分だよな?」
 ベルガモットは声をたてて笑った。
「それこそ、あの方に、可愛らしい部分があるのですか!」
 ほほほっ、とベルガモットは笑いが止まらない。
「ああ見えてよー、おれがーーしてやらねえと拗ねるの」
 扇を開いてベルガモットにだけ聞こえるように話すと、彼女は大爆笑した。
「もう、ほほほっ、聖女様ったらーー。ほほほっ」
 笑いがとまらない。

 まわりの御婦人方や令嬢は、ベルガモットを羨ましそうに見ていたという。

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