ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。(第一部、第二部、第三部)

濃子

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ラズベリー様のお茶会編

第62話 ラズベリー様のお茶会 2 ー加賀琉生斗はすねているー

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 王妃様主催のお茶会は、野外で行われた。明るいが日差しは柔らかく、汗をかかないような温度に魔法で調節している。


 名目としては、先王の崩御につき様々な行事がなくなり、会う機会が減った皆様とお話がしたいわん、という王妃の会である。
 純白に近い黄色のドレスは、彼女の清楚さをさらに引き立てている。陛下からのダイヤモンドの装飾品もすごい。


 指輪のダイヤモンド、エグい大きさだなーー。


 自分もアレキサンドライトの大粒の指輪をはめているけど、と琉生斗は思った。

 見栄の張り合いに参加してるよーー、おれ。


 色とりどりのお菓子や花が並ぶ、白とピンクの美しいテーブルと椅子。招かれた御婦人達とその令嬢達は、夢のような時間を有意義に楽しんだ。

 琉生斗も王妃様に紹介されて挨拶はしたが、まぁ反応の薄い事に、少々いじけている。

 今は一人で客を観察中だ。ラズベリーは自分の取り巻き達との話に熱中している。情報交換も大事な仕事だからなー。


 ーーもしかしなくても、おれって人気ない?


 一人だけ男というのもあるのだろうがーー、同性婚が許されている国でも跡取り問題があるから、貴族は異性婚が主流なのだろう。


「ハーベスター公爵夫人がいらしたわー」
 御婦人方がざわめいた。

 華やいだ空気をまとい、王妃ラズベリーの実家ハーベスター公爵家の公爵夫人ナビエラが義理の娘のベルガモット、息子の婚約者の美花を伴ってこの場に現れた。

 自信が漲るような姿勢、圧倒的な公爵夫人筆頭のオーラが彼女からは出ていた。
 ベルガモットの美しさも群を抜く。琉生斗と目が合うと、ベルガモットは嫣然と微笑んだ。


 ーーうわあ、色っぺー。東堂なんかが見たら、鼻血を噴くぞ。


 淡い紫のドレスを着ているが、首元はきっちり隠している。だが、肩はしっかり出してショールを巻いている。

 お洒落な人だよなー、さすがは公爵家の姫だ。修道院にいても美容の手入れは欠かしてなかったのだろう。肌がピカピカだ。

 そして、ピンクのドレスを着て、カチンコチンなのが、美花だ。

 初々しいと捉えてもらえればいいけどー。
 

 琉生斗の思惑とは裏腹に、美花のまわりには令嬢の人だかりができていた。裏表のない性格が令嬢達にとっては新鮮なのか、話題が尽きる事がない。

「殿下がファウラ様を師匠にして下さったんですけど、最初は本当に何やっても怒らないし注意しないし、大丈夫かなこの人って感じだったんですー」


 馴れ初めを披露中かーー。



「聖女様、今日はありがとうございます」
 ベルガモットが琉生斗の側に来てくれた。
「気いつかわんでいいよー」
「ふふっ、お隣座りますね」
 ベルガモットが椅子に腰をかけると、メイドがお茶を用意しに来た。

「皆、聖女様の美しさに、近寄れないのですわ」
「へ?」
 そんなわけないだろ、と琉生斗は行儀悪く肘をついた。

 今日はラズベリーの勧めで、白銀色の裾の長い立襟の上着にズボンだが、肩から腕の部分がレースになっている。口にも紅を引かされた。もはや女装だなんだという気力が、琉生斗にはない。
「当たり前だけど、女の人ばっかだな」
 ベルガモットは笑う。

「どの貴族も、男の側室や愛人がいますわよ」

 え!と、琉生斗は目を丸くした。

「お父様にも、お母様より長い付き合いの愛人がおられますが、殿方です」
「あ、そうなのか。知ってんの?」
 失礼だとは思ったが聞いてみた。
「ええ、うちの家令ですもの」

 おーい、リーフ、やるなおまえ。

 普通は妻と愛人は分けてやるもんだろ。

「お父様の趣味の狩猟にも、必ず同行してるそうですわ」

 何を狩るつもりなのかーー。

「じゃあ、ベルガモットさんが屋敷に帰ってきてもいたんだ」
「ええ。お久しぶりですね、と言われました」


 複雑ーー。複雑ーー。貴族無理ー。


「わたくし、そう思うと女も男もあまり関係ないのだと思いますわ」
「なら、何が大事なんだ?」
「ーー引力ですわ」

 ほう、引き合う力が必要ですかー。

「一方が引かなくなったり、もう一方が強すぎたりしても上手くいきませんわ。同じ気持ちを持ち続けないと、すぐに破綻します」

 純愛を貫いた人の言うことは、重みが違う。

「ですが、一緒にいる人の事をあまり見なくなってしまうのが夫婦です。そのまわりばかり気にしてしまう」

 琉生斗も頷いた。なーんかわかる、そいつの言う事は信じられなくてまわりを信じるっていうか、いや、それが正しいときもあるから難しいんだよ、人間関係って。


「聖女様には関係のないお話ね」
「いやいや、とんでもない。絶賛飽きられないように努力してんよ。ベルガモットさん、シリカ知ってる?」
「毎日飲んでますわ。聖女様、朝はビタミンCの化粧水、夜はレチノールの化粧水ですわよ」
「ビタミンCだけじゃダメなのかー」

 美容男子の盛り上がりを見ていた令嬢達が、琉生斗とベルガモットの会話に入りたそうにしている。

「あ、あの聖女様、し、失礼しますー」
 勇気を出して声を掛けてくれたのは、ミントのご学友のイリアだ。
「あぁ、イリア。美人な叔母様ができて良かったな」
「ええ。ご尽力いただいたそうでありがとうございます」
 騎士服ではなく、淡い緑のかわいいドレス姿だ。

「あ、あの。本当に弟が申し訳ありませんでした!」
「いやいや、全然。テオドロスも、東堂と仲良くやってるみたいだよ」
「はい!最初こそ早起きがつらい、娯楽がないと言っていたそうですが、今は憧れの魔法騎士達と過ごせて、すごく楽しんでいるみたいです」  

 あいつは面倒身がいいから、よくやってるだろう、と琉生斗は思った。

「母も本当に、色々知らない人でーー」
 と、母親のサリイの方を目だけで見る。

 その母親は、王妃からの招待に、今までの絶望を忘れて浮かれきっているようだ。ラズベリーの取り巻きの後ろの方にいて、話題に相槌を打っている。

 ああいう生き方もしんどいよなーー。

「聖女様、お花も聖女様が生けられたんですよね?」
 王妃の側にある、巨大な花瓶にさされた花々。各テーブルにあるフラワーアレンジメント。

 バッカイア国から国花である青いバラをいただき、白い花と混ぜて作ってある。
「あぁ、季節的に涼しい感じがいいかなーと。向こうの世界には青いバラは存在しないんだぜ、なんか作るの無理みたいで。バッカイアで見たときは仰天したよー」

 すごい、とイリアは笑った。後ろのヒッタルナも、今日はイリアと同じ淡い緑のドレスだ。

「今、淡い色が流行りなのか?」
「そうなんですー。去年は原色でしたけどー」
「大変だなー、女子はーー」

 琉生斗が言うと、イリア達は声を出して笑った。

「聖女様は色が決まってるんですよね?」
「そう、正装の場合は白と銀色、そこに金色の飾り布が入ると神殿の行事なのよ」

 興味深く話を聞いてくれる、良い子達やなー、ミントは何してんだよ、お姉様に挨拶ぐらいしろやーー。

 ミントは美花と盛り上がっていた。
 それを見て琉生斗は安堵した。警戒心が強いミントが打ち解けて話をしている。さすがは兵馬の姉、話術で人の心を掴むのは得意なのかもしれない。

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