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ラズベリー様のお茶会編
第60話 クリシュナ領地にて
しおりを挟む本当に、おれアレクといるの好きだなーー、と琉生斗は彼の腕の中で抱かれながらつくづくそう思う。
「こっちは少し寒いんだなー」
「大丈夫か?」
アレクセイが強く琉生斗を抱いた。
「今これだけ寒いんなら、冬は毎日雪だな」
「そうだな」
「スキーとかスケートやるの?」
「しているのを、見たことはある」
深いキスを繰り返す。終わった後もなかなか離してはくれない。
もう、やだアレクのばかー。好きすぎー!
朝と晩、床を魔法で適温に温めてくれてるのもすごい素敵ーー。旦那様の自分への寵愛が怖い、聖女様である。
しかし、琉生斗は琉生斗でベルガモットに教えてもらったマリンコラーゲンの洗顔で顔を洗ったり、プラセンタを飲んだり、唇のパックをしたり涙ぐましい努力を地道に続けている。髪の毛の為のシリカも忘れてはいけない。
体重も変化しないように調整しているなんて、食べれるときに食べないとという昔の自分が聞いたら大笑いしそうだ、と琉生斗は思う。
それもこれも天然でお美しさが頂点の旦那様のためである。隣に並んで失笑を避けるためにも、琉生斗は努力するのであった。
いま、琉生斗とアレクセイは、アレクセイのクリシュナ領地の別邸に滞在中だ。
保存魔法がかけられた屋敷は、住人がおらずともいつでも住めるようにきれいな状態だった。外観はやはり白を基調とした色使いで、離宮より装飾品や調度品もなく、主人がここに来るなんて、と屋敷の方が驚いているのではないだろうか。
視察に来ても、泊まりはなかったはずだ。毎日一緒にいるため、それはわかる。
ん?
毎日一緒にいるのに急に浮気となったら、彼はどんな言い訳をするのだろうかー。魔蝕がでれば、最中でも琉生斗の側に来なければならない。
考えたらアレクも不自由だよな、と琉生斗は思う。
ちなみに王族領を管理する役職に付いているのが、クリシュナ王族領管理士のヴァルダ夫妻。人の良さそうな三十代の仲良し夫婦だ。
琉生斗は子供達の為に、バッカイア国の遊具をプレゼントした。夫妻には涙を流して喜ばれてしまった。秋に子供が産まれるらしく、産まれたらお祝いに来ます、と言うと、夫人は感激のあまり倒れてしまった。
大きな公園を造ってもらおうかなーー。あの湖の周りなんかいいかもしれない。支柱を魔法で刺せるなんて、掘削機や油圧ショベル無しでなんでもできるってすごいわな、と琉生斗は色々計画する。
何と言っても、ここで秘密裏に子育てしなければならないかもしれないのだから、ときどきここに来るというアリバイを作っておかなければ、と琉生斗の計画に隙はない。
子供の事は考えると頭が重いが、教皇ミハエルのバックアップつきだ。
まぁ、何とかなるだろう。
兵馬ぐらいには話したい琉生斗なのだがーー。
アレクの補佐官なんだし、ミハエルじいちゃんに聞いてみようーー。
スズも子育てしながら魔蝕の浄化に行ったのだろうから、ティンを誰かに預けたはずだ。
働きながら子供の預け先を確保しなきゃならないなんて、母親は大変だよな。と、琉生斗は想像で吹き出した。
昨日はクリシュナ領地にある金山と銀山を見学したり、五色の湖を見に行ったり動きすぎた。
朝だというのに、琉生斗はうとうとと眠りにつくーー。やる事をやっていたのも原因の一つだがーー。
朝寝、最高!である。
気付けば、外から強い日差しが入ってくる。まぶたが眩しくなり、琉生斗は目を開けた。
自然に起きれるように、アレクセイがカーテンを調節してくれたようだ。
「ルート、昼過ぎだ」
「あぁ、悪い。寝すぎた」
寝過ぎは夜寝られなくなるというが、どうせあまり寝られないので、琉生斗には関係がない。終わったらバタンだ。
もっとも、終わらせてくれるまでが長い道のりなのだがーー。
「今日はゴルゴン谷の吊橋はどうだ?」
「へー、板が落ちないだろうな」
「ロープはいつ見ても切れそうだ」
琉生斗は笑った。
ゴルゴン谷の吊橋をいちゃいちゃしながら渡ったり、川で遊んだり、川魚を塩して焚き火で焼いたり、また別の日には馬に乗って大森林を散策したりーー。
雨の日には、琉生斗がピアノを弾きながらゆっくりし、アレクセイがかなり上達したヴァイオリンを披露して奥方を喜ばせたり、二人で毎日を楽しんだ。
二人で眠るときに琉生斗はいつも祈るー。
アレクが、生きていてくれますようにーー。おれの側で生きていてくれますようにーー。
詳しくは聞いていないが、地獄を生きてきた彼の心が、少しでも癒えていたらいいな、と琉生斗は思う。
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