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風の噂に聞きましたが。編
第57話 風の噂に聞きましたが。 5
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問題は深刻を極めた。
アダマスとアレクセイに入った亀裂は予想以上に国を揺るがした。
まずは神殿、教皇ミハエルが聖女の取り扱いについての説法を各所で行った。
「時空竜の女神様がお決めになられた方を『淫乱悪女』とは、もうこの国は神に見放されるでしょうね」
これには王都どころか国が揺れた。元帥アスターはこの話を他国に漏らさぬように、国境警備隊にはきつく取り締まりを要請した。友好国アジャハン国やバッカイア帝国ならともかく、ミッドガルやラズヴァンダの王子に知られると、聖女を寄こせと言ってくるかもしれない。アスターも引きつる思いだ。
さらには魔法騎士団のトップの将軍達。陛下の招きには応じず、魔法騎士候補生の見直しをする、との返事があったという。
「どうして候補生達は謝らなかったのかしらー」
「親の躾が悪いのでしょうねー」
「兵士に責任をなすりつけるなんて」
「本当にーー。恥知らずですわね」
噂の強さを、サリイとマリイは知る。普段は自分達がよその家庭はどうだ、子供はどうだ、結婚は、という側なのにーー。
「それにしても、おたふく風邪を聖女様にうつすなんてー。わざわざくしゃみをかけたみたいですわよー」
「アレクセイ殿下がお怒りになられるのも仕方のない話ですわね」
二人の貴婦人は、絶望に押し潰されそうだった。
「で、殿下、申し訳ありません!私の甥が、とんでもない事をー!」
アレクセイが魔法騎士団に姿を見せると、トルイストは飛んで行って頭を下げた。
声もかけずにアレクセイはそれを見ていた。
「殿下、こちらにどうぞ」
アンダーソニーが、アレクセイを促した。
その顔を見て、あれはダメだ、と東堂は感じた。
寵愛が過ぎるアレクセイの事だ。琉生斗の苦しむ姿など、拷問でしかないのだろう。
目が、許さない、と言っている。
治る病気だしそこまで、とも思うが、琉生斗は聖女だ。かからなくていい病気ならかからないほうがいい。魔蝕は待ってくれないのだから。
あれは、子供なら軽いが、大人になるとひどいって聞いたなあー、ヤツもひどいのかもなー、と東堂は琉生斗の身を案じた。
ひとつだけいい事があるとすれば、大人になっておたふく風邪にかかると、男性の場合、子種がなくなるという噂だ。
琉生斗には関係ないー、そこはよかったかもな、と東堂はひどい事を考えた。
そして、やはり魔蝕は待ってくれなかった。
「アレクー、行くぞ…」
熱は下がったが体力のない琉生斗を、アレクセイはとめた。
「無理だ。とてもじゃないが、連れていけない」
泣きそうな顔で琉生斗を抱きしめる。
「大丈夫。もう、かなり広がってる。じいちゃんに聖魔法かけてもらってから行こう」
「それだけ弱っていると聖魔法も危険だ」
結界でなんとかする、とアレクセイが言うが琉生斗は首を振る。
「アレクをひとりで行かせない……。おれがやだよ……。少し回復できればいいから…」
琉生斗は文字通り身体に鞭を打って聖女の証を握りしめた。
「行くぞ、アレク」
ミハエルも同行し、神聖ロードリンゲン国西ドルイ村に転移する。
村人はよその村へ避難した後だろう、数人の結界師が真っ青な顔でオロオロしていた。
「あっ、聖女様!」
病んでおられるはずなのにー。
アレクセイが結界を張り直した。彼に抱き上げられたまま、琉生斗は結界のすぐ側まで移動する。
聖女の証を握りしめるー…。
力が入らないーー。
それに気づいたのかアレクセイが琉生斗の手を握りしめた。二人で聖女の証を強く握る。
浄化の光が魔蝕を覆うように走った。
ミハエルは周辺に気を配りながら結界を補充していく。
魔蝕の範囲が広い。
「お身体が弱ってらっしゃるのに……」
結界師達は泣き出した。
そうですよ。本当にこの方は聖女なのですよーー。
ミハエルは魔蝕が消え光がおさまっていくのをじっと見ていた。
「ーールート、もう大丈夫だ」
アレクセイに言われ琉生斗は頷いた。
「はあ」
「よくがんばりました、聖女様」
「サンキューじいちゃん。まだまだだよ。これからなんか、妊娠しても来なきゃなんないんだぜ」
「ほほほっ、そうそう。スズ様もかなり愚痴を言ってましたよ」
そりゃそうだろう。身体に負担がかからないところにはまわしてもらえそうもない。
「アレク、手握ってくれてありがとー」
超よかった、と琉生斗に囁かれアレクセイは耳が赤くなる。
「はー、だいぶ良くなった……」
「はいはい。無理はなさらないように」
三人は、主に琉生斗とミハエルが話をしながら国へと帰った。
一週間程で琉生斗は全快した。
「まさか、おたふく風邪にかかるとはなー」
ワクチンも絶対ではないーー。
アレクセイから温めたタオルをもらい顔を拭く。
「ふぅー、ありがとう」
気持ちいいやー。
「ーールート」
「ん?」
「私の領地に行かないか?」
「あぁ、視察に連れてってくれるのか?行くよ」
琉生斗は二つ返事だ。
「ルート、愛してる」
「うん。ありがとう、看病悪かったな」
たいした事はない、とアレクセイは琉生斗にキスをした。
看病してもらう、ってちょっとうれしいなぁ、と琉生斗は思う。
アダマスとアレクセイに入った亀裂は予想以上に国を揺るがした。
まずは神殿、教皇ミハエルが聖女の取り扱いについての説法を各所で行った。
「時空竜の女神様がお決めになられた方を『淫乱悪女』とは、もうこの国は神に見放されるでしょうね」
これには王都どころか国が揺れた。元帥アスターはこの話を他国に漏らさぬように、国境警備隊にはきつく取り締まりを要請した。友好国アジャハン国やバッカイア帝国ならともかく、ミッドガルやラズヴァンダの王子に知られると、聖女を寄こせと言ってくるかもしれない。アスターも引きつる思いだ。
さらには魔法騎士団のトップの将軍達。陛下の招きには応じず、魔法騎士候補生の見直しをする、との返事があったという。
「どうして候補生達は謝らなかったのかしらー」
「親の躾が悪いのでしょうねー」
「兵士に責任をなすりつけるなんて」
「本当にーー。恥知らずですわね」
噂の強さを、サリイとマリイは知る。普段は自分達がよその家庭はどうだ、子供はどうだ、結婚は、という側なのにーー。
「それにしても、おたふく風邪を聖女様にうつすなんてー。わざわざくしゃみをかけたみたいですわよー」
「アレクセイ殿下がお怒りになられるのも仕方のない話ですわね」
二人の貴婦人は、絶望に押し潰されそうだった。
「で、殿下、申し訳ありません!私の甥が、とんでもない事をー!」
アレクセイが魔法騎士団に姿を見せると、トルイストは飛んで行って頭を下げた。
声もかけずにアレクセイはそれを見ていた。
「殿下、こちらにどうぞ」
アンダーソニーが、アレクセイを促した。
その顔を見て、あれはダメだ、と東堂は感じた。
寵愛が過ぎるアレクセイの事だ。琉生斗の苦しむ姿など、拷問でしかないのだろう。
目が、許さない、と言っている。
治る病気だしそこまで、とも思うが、琉生斗は聖女だ。かからなくていい病気ならかからないほうがいい。魔蝕は待ってくれないのだから。
あれは、子供なら軽いが、大人になるとひどいって聞いたなあー、ヤツもひどいのかもなー、と東堂は琉生斗の身を案じた。
ひとつだけいい事があるとすれば、大人になっておたふく風邪にかかると、男性の場合、子種がなくなるという噂だ。
琉生斗には関係ないー、そこはよかったかもな、と東堂はひどい事を考えた。
そして、やはり魔蝕は待ってくれなかった。
「アレクー、行くぞ…」
熱は下がったが体力のない琉生斗を、アレクセイはとめた。
「無理だ。とてもじゃないが、連れていけない」
泣きそうな顔で琉生斗を抱きしめる。
「大丈夫。もう、かなり広がってる。じいちゃんに聖魔法かけてもらってから行こう」
「それだけ弱っていると聖魔法も危険だ」
結界でなんとかする、とアレクセイが言うが琉生斗は首を振る。
「アレクをひとりで行かせない……。おれがやだよ……。少し回復できればいいから…」
琉生斗は文字通り身体に鞭を打って聖女の証を握りしめた。
「行くぞ、アレク」
ミハエルも同行し、神聖ロードリンゲン国西ドルイ村に転移する。
村人はよその村へ避難した後だろう、数人の結界師が真っ青な顔でオロオロしていた。
「あっ、聖女様!」
病んでおられるはずなのにー。
アレクセイが結界を張り直した。彼に抱き上げられたまま、琉生斗は結界のすぐ側まで移動する。
聖女の証を握りしめるー…。
力が入らないーー。
それに気づいたのかアレクセイが琉生斗の手を握りしめた。二人で聖女の証を強く握る。
浄化の光が魔蝕を覆うように走った。
ミハエルは周辺に気を配りながら結界を補充していく。
魔蝕の範囲が広い。
「お身体が弱ってらっしゃるのに……」
結界師達は泣き出した。
そうですよ。本当にこの方は聖女なのですよーー。
ミハエルは魔蝕が消え光がおさまっていくのをじっと見ていた。
「ーールート、もう大丈夫だ」
アレクセイに言われ琉生斗は頷いた。
「はあ」
「よくがんばりました、聖女様」
「サンキューじいちゃん。まだまだだよ。これからなんか、妊娠しても来なきゃなんないんだぜ」
「ほほほっ、そうそう。スズ様もかなり愚痴を言ってましたよ」
そりゃそうだろう。身体に負担がかからないところにはまわしてもらえそうもない。
「アレク、手握ってくれてありがとー」
超よかった、と琉生斗に囁かれアレクセイは耳が赤くなる。
「はー、だいぶ良くなった……」
「はいはい。無理はなさらないように」
三人は、主に琉生斗とミハエルが話をしながら国へと帰った。
一週間程で琉生斗は全快した。
「まさか、おたふく風邪にかかるとはなー」
ワクチンも絶対ではないーー。
アレクセイから温めたタオルをもらい顔を拭く。
「ふぅー、ありがとう」
気持ちいいやー。
「ーールート」
「ん?」
「私の領地に行かないか?」
「あぁ、視察に連れてってくれるのか?行くよ」
琉生斗は二つ返事だ。
「ルート、愛してる」
「うん。ありがとう、看病悪かったな」
たいした事はない、とアレクセイは琉生斗にキスをした。
看病してもらう、ってちょっとうれしいなぁ、と琉生斗は思う。
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