ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。(第一部、第二部、第三部)

濃子

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風の噂に聞きましたが。編

第55話 風の噂に聞きましたが。 3 ☆

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 噂の渦中の聖女様は、旦那様に組み敷かれ、耳もとで愛を囁かれながら、気持ち良さそうに喘いでいた。
「あ、あっー」
 逃げようとする身体を、強く抱き寄せるアレクセイ。身体を横に向け、アレクセイは琉生斗の口に指を入れた。
 指をいやらしく舐めていた琉生斗は、一瞬動きを止める。
「は、はれくー」
 アレクセイは指を抜く。
「魔蝕だ。わりいけど、抜いてー」
 最近、夜多いなーー、と琉生斗は愚痴る。
「ーーあぁ」
 少し不満げなアレクセイが、琉生斗を四つん這いにして腰をあげさせ激しく動かす。

 そっちかー、言葉って難しいなぁー、と琉生斗は甘く激しい快楽を得ながら、思った。
 

 今までは夜に魔蝕が発生した場合、警備隊が気付かなければ、大惨事になる事が多々あった。
 琉生斗が聖女になってからはその被害が無くなった。魔蝕の発生がわかるからだ。
 意外な事に、夜の魔蝕の発生率は、そうたいしたことはない。これはいかに魔蝕とはいえ、絶対的な闇である夜の前に、遠慮しているとの説がある。

 やや腰の引けた聖女様は、アジャハン国北部プルウィア領に降り立った。雨を意味するプルウィアの名の通り、雨量が多い土地である。
 夜に大雨、なかなかの悪条件である。
「アレク、いける?」
 レインコートを着た聖女様である。
「あぁ」
 アレクセイが視界が悪い中、結界で魔蝕を覆った。
 魔蝕は雨と共に、地面へ逃げるように這っていく。アレクセイの結界は、逃げる事を許さなかった。
 琉生斗は聖女の証を握りしめて、祈った。
 白い光が、まばゆく、魔蝕を飲み込んでいく。
 地面から魔蝕が鋭く突きあがる。琉生斗の前に展開された強力な結界に突き刺さり、折れていく。
 魔蝕はそのまま、光の中へと消えていった。


 信頼、それがないと浄化はうまくいかない。
 琉生斗はアレクセイを信頼しているし、アレクセイもまた、言うまでもない事だった。
 彼がいれば自分には危険はないと信じている、彼がいれば浄化は絶対にできると信じきっていた。
 
 聖女と護衛。
 
 お互いがお互いの為に、強くありたいと願っている。それは、今に限らずはるか昔から受け継がれてきた先代達の想いだ。
「雨は大丈夫か?」
 心配そうにアレクセイが尋ねた。
「平気だ」
 と、言いながら、琉生斗はくしゃみをした。
 アレクセイは慌てた。
「大丈夫だって。帰ったらあったまろうぜー」
 琉生斗はココアでも淹れてもらおうと思った。



 離宮に戻ると、旦那様は先程より激しく奥方の愛を求めた。

 いや、だからねーー。

 違うとは言えない空気である。体温があがっていくーー、琉生斗はアレクセイの身体に自分の身体をこすりつけて、あれ?と思った。

 おれの方が熱い?

 いつもならアレクセイの身体の方が熱く感じるのだがー。変だなー、と思いながら、琉生斗は最後の快感を味わう。

 水を飲ませながらアレクセイは言った。
「ルート、風邪を引いたのか?」
 わかってたならやめろよ、とは言わずに、琉生斗は頷いた。琉生斗の体温の違いぐらい、わからないアレクセイではないだろう。

 まったくこいつはーー。

「ちょっとあついぐらいー。寝たら治るよ」
 欠伸をして琉生斗は寝た。何だかアレクセイにかじられた耳の辺りが痛いが、冷やす程ではなかったーー。




 ーーのだが、次の日から琉生斗は高熱が出た。
 おまけに耳の下が腫れている。

「ヒョウマ!ルートが!」
 アレクセイから話を聞き、兵馬と医療班長ナイチンが離宮に現れた。
「あー、これはー」
「おたふく風邪ですねー」
「なんだ、その病気は!重いのか!」
 二人の平静さをよそに、アレクセイは動揺している。
「ルート、ワクチン打ったって言ってたけど、かかったんだー」
「いやいや、このお歳でこれぐらいなら効いたんでしょう。そういえば最近、魔法騎士候補生の中で流行ってましたねー」
「あっ、あのときくしゃみした子がいたよ。せめて横向いてくれたらよかったのに、ルートうつったんだね」
 注意しなきゃ駄目だったなー。兵馬は反省した。
「これで魔蝕が出たらきついねー」
 兵馬は溜め息まじりに言う。
「結界でしばらく保たせる」
 アレクセイはつらそうに、琉生斗の冷やしタオルを取り替えた。
「私が代わってあげたい……」
 神に祈るようにアレクセイは琉生斗の手を握る。
「殿下、やってないの?小さい頃だと、うつっても気づかないぐらい軽いらしいよ。まぁ免疫がつかないと何回もやるらしいけどーー」
「ルートーー」
 琉生斗の手を握りしめ、アレクセイは泣きそうだ。

 いや、大丈夫だってーー、と兵馬達は引きつる。




 そのとき、離宮の入口付近で人の気配がするのをアレクセイは感じた。彼の様子を見て、兵馬は立ち上がった。
「僕、出るよ」
 兵馬が出ていくと、入口にクリステイルが立っていた。
「すみません。突然ーー」
 クリステイルの後ろには、彼の近衛兵長ヒョードルが控えている。近衛兵が一人とは珍しいな、と兵馬は思った。
「あの、兄上と聖女様はーー」
「あぁ、しばらく無理だね。一週間ぐらいかな」
「えっ?」
  また?やってんのー?と、クリステイルは目を丸くした。
「ルートがね、魔法騎士候補生の子からおたふく風邪もらったみたいで、高熱でダウンしてるの。てか、流行ってるってわかってるんだったら、聖女様の近くに来ちゃだめだよね」
 兵馬は溜め息をついた。
「くしゃみしてた子がいたから、飛沫感染したみたいだよ。もちろん、殿下も看病で離れないし」
 兄ならそうだろう、とクリステイルは思った。
「魔蝕が起こったら、殿下はとめるだろうけど、ルートは行くだろうなーー」
 困ったように兵馬は話す。クリステイルは後ろのヒョードルを、振り返った。
 これ以上ないぐらい顔が青い。
「ーー私の子も、少し前にかかりましたーー」
「あっそうですか、気を付けて下さいね。じゃあね、王太子殿下。用事なら落ち着いてから聞くよ。今は殿下を落ち着かせなきゃ。自分が代わりたいってうるさいからーー」
「はい、すみませんーー」
 クリステイルとヒョードルは頭を下げた。
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