ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。(第一部、第二部、第三部)

濃子

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風の噂に聞きましたが。編

第54話 風の噂に聞きましたが。 2

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「トードォ、少しいいか?」
 あれから数日後、トルイストが東堂を呼び止めた。
「なんすか?師団長」
 東堂はトルイストに連れられ、将軍室に行く。
「失礼、場をお借りします」
「かまわんよ」
 トルイストはアンダーソニーに頭を下げた。
 応接用に置いてあるソファに促され、東堂は腰を降ろした。三将軍は忙しく書類に目を通している。
 その横で、ファウラがエリヤフに書類の説明をしていた。
 ちなみに、エリヤフの方が年上で、三十二歳だ。実直な彼は一生懸命に仕事を覚えていた。
「トードォ、確認したいのだがなーー」
 トルイストが言いにくそうに、言葉を出した。
「私の兄からなのだが、兄の息子テオドロスが、おまえに理不尽に怒られたと言っているそうなのだーー」
「はい?」
 テオドロス、テオドロス、どっかで聞いたなあー、と東堂は記憶を辿る。
「うん?」
 眉根を寄せる東堂に、トルイストは言う。
「おまえが聖女様と行っている、幼児運動教室のときらしいのだがー」
「あ、ああ、思い出しました!」
 東堂は手を叩いた。
「魔法騎士候補生の子供達っすね。幼児運動教室に入って来ようとしたんで、聖女様がいるときは登録者以外入れないと、付き添いのディアルトさんに説明したんすよ」
 それを聞き、トルイストは難しい顔をした。聞き耳を立てていた将軍達は、軽く肩を竦めた。
「それは、向こうが悪いなーー」
「そうっすよ。あいつら、ルートの悪口なら仕方ないとして、殿下は自分達より身分が低いって馬鹿にしたんすよー!」
 東堂が怒りながら言うと、トルイストが固まった。いや、アンダーソニーや、ヤヘル、ルッタマイヤまで凄まじい形相をしている。
 ファウラは息を吐き、エリヤフは場の空気に背筋を正した。
「せ、聖女様の、わ、悪口ーー」
「うす!殿下をたぶらかしてる淫乱悪女だそうっす!」
 事実ですけどね、と東堂は笑う。
「おい、トルイスト、そりゃ駄目だな」
 ヤヘルが顎を触った。
「魔法騎士候補生ですわよね?態度がゴミですわ」
「あ、そうそう。ルートが威勢のいい二人組みの事を、王太子のヘッタクソなマント持ちの二人組みだ、って言ってました」

 何の事っすかね?

 東堂は明るいが、魔法騎士将軍室は、闇が垂れ込めていった。
「ーーそれで、ヒョードルは、子息の話を丸呑みに?」
 アンダーソニーが溜め息をついた。
「いえ、義姉上に怒りをぶつけられたそうでーー」
「あらまぁ、社会に出たことがない人は、駄目ですわね」
 ルッタマイヤが顔知りなのか、侮蔑するように言う。
「はぁー、トルイスト。こちらは何一つ落ち度がないと、ヒョードルに告げよ」
「はい。申し訳ありません。私がテオドロスにじかに聞けばよかったのですがーー」
「どうせ、サリイに邪魔されたのでしょ?」
 ルッタマイヤの指摘に、トルイストは黙った。
 ん?何だ?と東堂は不思議そうな顔をした。



 問題は、大きくなっていったーー。
 ヒョードルはトルイストから事の経緯を聞いて、すっかり青ざめた。
「さ、最悪、爵位の取り潰しになるかもー」
 と、トルイストより厳しい顔をした男が青ざめているのを見て、妻のサリイも自分の犯した罪に震えがとまらなかった。
「ど、どうしましょう。わたしったら、あの子の話を鵜呑みにして、そ、そうだわ、お姉様に相談しましょうー」
 サリイは実の姉でもある、マデラン伯爵夫人マリイに泣きついた。だが、マリイも自分の息子に非があるだけで、どうにもならない。
 そこで二人は懇意にしているハーベスター公爵夫人に助けを求めたが、公爵夫人ナビエラは溜め息をついて、首を振った。
「そこを、なんとかー」
「わたくし達を助けて下さいませー」
 二人は泣き落としにかかり、ナビエラは夫のリーフに相談したが、リーフは「なぜそんな愚かな事を!」
と怒鳴り、相手にされなかった。

 聖女様には、我が家の致命的な弱みを握られている、夫がどうにかしてくれるわけがないーー。

 ナビエラは仕方なく、息子のファウラに話をした。
 ファウラは馬鹿にしたような目で母を見た。
「話はトードォから聞いています。テオドロスとミストンや、その場にいた候補生に謝罪に行かせればよいでしょうに」
「でも、子供に責任を取らせるなんてーー」
 ファウラは呆れ返った。
「御婦人方はその考え方が、いけないのですよ。子供でも悪い事をしたのなら、自分で責任をとらせないと」
 正しい言い分だが、彼女達は理解してくれるだろうかーー。ナビエラは溜め息をついた。




 当然、ナビエラの話をサリイとマリイは受け入れなかった。
「む、息子に謝罪にいけと!」
「まぁ!公爵夫人、何をおっしゃるの!」
 驚愕に目が血走っている。 
「それしかありませんわ。御子息と共に、アレクセイ殿下の元に謝罪に行かれては?」
 ナビエラの言葉に、二人は顔を見合わせた。

 なぜ、こんな事にーー。
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