ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。(第一部、第二部、第三部)

濃子

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大隊長の恋編

第46話 大隊長の恋 6 ーファウラの決意ー

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「この度、籍を入れました事を報告致します」
 アレクセイも臨席中の将軍室に、トルイストが妻を伴ってやってきた。

 トルイストが笑みを浮かべている。隣に慎ましく佇む、ハーベスター公爵家三女のベルガモットも、にこやかに頭を下げた。

「よかったなぁー。まぁ一回ぐらいはしないとなぁ」
 ヤヘルが愛弟子の結婚を喜んだ。
「おめでとう、トルイスト。よかったわねベルガモット」
 ルッタマイヤはわけを知っているのか、目で合図をした。

「あ、ああ、よかったなぁー」
 美花はなんだったのだろう、とアンダーソニーは首を傾げる。

 アレクセイは、ふっと目を伏せた。
「トルイスト」
「はっ!」
「めでたい事だ」
「ありがとうございます!」
「だがーー」
「はい?」
「けして、ゴールではない。また最短の道もない、そこを二人で乗り越えて行くがよい」
「はっ!身に沁みるお言葉、ありがとうございます」
 トルイストが頭を下げた。
 

 殿下ーー。三人の将軍はアレクセイの為に泣いた。





「へー、結婚したんすかー。ファウラ大隊長のお姉さんと!」
 東堂や他の騎士にもまったくバレずに、ベルガモットは女性だった。
「式はいつですか?」
「あぁ、人は呼ばないが、二人で」
「きゃあ、ロマンチック!」
 美花が悲鳴をあげる。

「ミハナさん?」
「はい!」
「うちの人がお世話になりましたー」
 やや牽制するベルガモット。
「はい!デートプランを練ったりして、面白かったです!」
 美花もにやにやして答える。

 うふふっ、とやり合う二人である。


「あ、姉上ー」
 ファウラが歩いてくる。
「あら、お久しぶり」
 ベルガモットが、頭を下げる。
「あなたも酔狂ですねー。こんなのと結婚とはー」 
 ファウラの言葉に、トルイストは彼の胸ぐらを掴んだ。
「人の女を、こんなのとは何だ?」


 きゃああああー!カッコイイ!

 美花と東堂は黄色い悲鳴をあげた。ベルガモットは口に手を当てて真っ赤になっている。

「それは、すみませんーー」
 ファウラが素直に謝った。
「きさまは爵位は上だろうが、私の弟なのだからなー」
 心底嫌そうな顔のファウラだ。
「ファウラ様、修行に行きましょう!」
 美花は師を促した。
「ーーええ」
 美花達は修行場へ歩いていく。

「ーーミハナ」
「はい?」
「トルイストの事はよかったのですかーー」
「はい、何とも思ってませんけど」
 ファウラは言葉に詰まる。
「ファウラ様ー」
「何です?」



「公爵の奥さんて、大変ですか?」
 ファウラは立ち止まって、まじまじと美花を見た。
「でも、あたし、側室だからやる事は少ないですかねー」

 てへへっ、と美花は頭を掻いた。


 やっぱり自分はファウラが好きだ。側室だろうとそのへんの小石でもいい、この人の近くにいたい。


「ミハナーー」
 ファウラは美花を抱きしめた。はじめて男の人に抱きしめられ、美花の身体は緊張で凍った。

 けど、なんて硬い身体なのかしらーー。胸がドキドキして、変になりそう。

「誓います。ミハナひとりを愛するとー」
「ええぇーー!」
 いきなり重すぎない、美花は戸惑った。
「いや、そんな滅相もない!」
「父の事は無視して構いません!」

 な、なんかこの国の男の人って、極端なの多くないー?

 軽い男女交際ばかり聞いてきたので、なんだか重さを感じてしまう。

「え、えと、あたしなんかでよければお願いします!」

 えい!女は度胸だ!ちっちゃくたって、あたしは負けない女子よーー。




 めでたい話は続き、ハーベスター公爵家長男ファウラと、葛城美花の婚約が決まるーー。

 兵馬は最後までぶつぶつ言っていたと言うーー。
 










 琉生斗は神殿の中庭を歩いていた。
 薔薇が咲き誇る庭は、甘い香りに溢れていて、気持ちが、ざわついてしまう。
「ほどほどでいいんだよ、なんでもーー」
 コップの水も多すぎると溢れてしまう。途中でとめないと、上手くいかないーー。

 だが、いまはとめ方がわからないー。
 喧嘩したいわけじゃない、どうしようもない事を責めても何か変わるわけじゃないー。

 ただ、自分の中の解決だ。

 琉生斗は深い息をついた。
 彼に誰かの肌が染み付いてると思うと、悲しくて仕方がないー。そんな事は当たり前の事だと、思えない自分が嫌だー。



「まぁ、聖女様」
 近衛兵に囲まれ、王妃ラズベリーが歩いているー。
「こんちはー」
「修行ですか?」
「あぁ、後、もうちょい髪の毛切ってもらうの」
「伸ばしませんの?」
 男だって、おれはよーー。
「暑くなってくると、束ねる方が涼しいですわよー」
 ラズベリーは、束ねた髪の毛を見せる。細い首のうなじがとてもきれいで、琉生斗はドキドキした。

「ふふっ」
 ラズベリーは楽しそうに微笑む。

 なるほど、陛下もこうやって陥落されたんだな、と琉生斗は確信した。

「お隣よろしくて?」
「あ、ああ。どうぞー」
 琉生斗はベンチにハンカチを引いた。
「ありがとうございます」
 優雅にラズベリーは笑う。こんな人は嫉妬なんか無縁だろうなー、と琉生斗は思う。

 近衛兵達は少し離れた場所で待機している。誰かが走っていったから、王妃がここで足をとめた事を王宮に知らせに行ったのだろう。

「いつも兵に囲まれて大変だよな」
「あら、それが彼らの仕事ですわ。本来なら聖女様にも兵士はつくのですよ」
「そうなのか?」
「聖女様を守らずしてどうします。アレクセイ殿下が護衛でいるから、つけないだけですわ」

 はじめから、彼がいるから特典満載なんだろうな、と琉生斗は思う。

「アレクセイ殿下と喧嘩でもなさりました?」
「え?」
 まだ落ち込んでんのかーー、しょうがねえ事を怒って悪いって謝ったのにーー。

「謝ったよ、おれはーー」
「まぁ、大人ですことー」
 ラズベリーは花が開くように笑う。守ってあげたくなる女性だ。
「男の人は、案外子供じみていますのよ」

 おたくの旦那様だろ、と琉生斗は突っ込みたかった。

「うまく手綱をお握りなさいませ。女はたくましくしたたかでなければーー」
 ラズベリーの言葉を遮るように、琉生斗は言った。
「どうやって?ラズベリー様は悲しくなかったの?」

 ラズベリーは目を丸くした。

「陛下にはたくさん愛人がいるじゃん、自分が一番だと安心なものなの?」
 琉生斗の言葉に、ラズベリーは微笑んだ。
「はっきり言って、むかついてますわよ」

 おぉ。

「最初は、愛してるのは君だけだ、とか言っちゃって、その内にあちこち愛人を作ってーー。むかつくに決まってますわ!」
「そりゃーそうだよな!」
 琉生斗は深く頷いた。

「悔しくて枕を叩き続けた事もありますわよ。でも何も変わらなかった。その内に、わたくしも歳をとります。仕方のないことだと、諦めてしまいましたー」
 沈黙した琉生斗に、ラズベリーは続けた。

「歳をとるのもいいものですわー。寛容になりますから、大抵の事は流せますもの」

 ほほほっ、とラズベリーは笑う。

「そういう人だとわかって嫁ぎましたが、あの頃の自分は可哀想でしたわー。いま、過去の自分を誉めておりますのよ。結局、わたくしが一番大事ですものー」

 それだけは信じていますわ、と王妃は話を締め括った。

「いま許せない事を、無理に解決なさる必要はありませんわ」
 日にち薬とも言いますでしょう?

 近衛兵が近付いてきた。ラズベリーに声を掛ける。
「では、聖女様、失礼致します」
 ラズベリーは立ち上がり、琉生斗に頭を下げた。
「あぁ。ありがとう、ラズベリー様」
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