ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。(第一部、第二部、第三部)

濃子

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大隊長の恋編

第44話 大隊長の恋 4 ー琉生斗は最初から嫌だったー

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 トルイストと美花のデートは面白いほど上手くいった。美花もトルイスト相手だと緊張しないし、会話も弾み楽しい時間を過ごせた。

 会計も美花がお手洗い行っている間に済まされていたし、道も安全な方を歩かせてくれる。
 何より騎士服を着ていないトルイストが新鮮で、いつもより話しやすかった。


 最後は川沿いの公園で、薔薇が咲いているからと誘われ見に行った。
 無限に広がるような薔薇園に驚き、薔薇の種類と香りを楽しむ。

 パボン夫妻も子供達を連れて見に来ていた。

 トルイストを見て、パボンは目を丸くする。
「お、おまえがー、じょ、女子とーー」
「失礼ですよ」
 トルイストが眉を顰めた。

 マリアも、唖然としている。
 


 夕方、美花がトルイストに女子宿舎まで送ってもらった事で、魔法騎士団は大荒れに荒れた。














「おい、この腐れ聖女、どういうつもりだ!」
 東堂が、離宮に殴り込んできた。
 そのとき、琉生斗はアレクセイとお風呂に入っていたので、ちょっと待ってろー、と明るく言った。

「ぶぶっー、さて向こうは食い付くかなー」
 琉生斗の様子に、アレクセイは妻の服を着せながら溜め息をつく。

「何をやっている?」
「アレク、おれの事好きか?」
「もちろんだ」
「うん。おれもアレクが大好きで、全部アレクがはじめてだ」
 アレクセイは頷いた。


「けど、アレクはそうじゃないだろ?」
 少し、怒ったような琉生斗にアレクセイは黙った。
「デートでもエッチで、一番はじめじゃなくてもいいんだよ。はじめがいいとも限らないしなーー」

 はじめてが上手くいかないなんて、よく聞く話だ。

「アレクは、そういうのわかるか?」
 アレクセイは黙ったままだ。
「おれ以外をこんな風に抱いたのかとか、考えなきゃいけない奴の気持ちなんか、わかんないだろーー!」
「ルート……」
 琉生斗は、暗くならないように言った。
「ちょっとつついて上手くいくときもあるんだよ。アレクは黙っててなー」
 気持ちがわからないなら、と琉生斗は浴室から出ていく。






「なんだよ、東堂」
「トルイスト大隊長とファウラ大隊長が殴り合いの喧嘩になったぜー」
「ほぉー、思った以上に効果が出たな」
「両大隊長共、五日の謹慎処分だとよ。引っかきまわして何がしてぇーんだ!」
「いやいや、これからですよ。大物が出てきますよー」
「はあ?」

 アレクセイが東堂にお茶を出す。
「殿下、そんなんいいですよ!」
 東堂は大慌てだ。


 あれ?


 おかしい、と東堂は首を捻る。
 アレクセイのいつもの気迫が、今はさっぱりなくなっている。
 何があったんだー、と東堂は不気味な思いをしながら離宮を後にした。








「ルート……」
「なんだよー」
 琉生斗は旦那様の上でご奉仕中だ。
「……嫌ならやめていい」
 言いにくそうに、アレクセイは言う。
 ビンタしてやろうか、と琉生斗は思った。
「そうか」
 琉生斗は裸でアレクセイの隣に寝転がった。
 
 すっげー嫌な自分だ。

 だがいい加減、こんな嫌な自分とおさらばしなければならないーー。
 今を大事にしてくれてるアレクセイを、悲しませる事はしてはいけないーー。

 それでも、くさくさするのは、琉生斗がすべてにおいて初心者だからだーー。

 東堂がいう経験値なんて、クソ喰らえだーー。

 すべてがはじめての人が、向こうもそうなんて、そんな訳がないのに、琉生斗は何が悔しいのかよくわからなくなった。














「まったく、娘一人に大隊長ともあろう二人がーー」
 アンダーソニーが、呆れたように頭を抱える。
「殿下にも来ていただいて、事の経過をご報告する」

 トルイストとファウラは、お互い目も合わせずに無表情で立っている。
 アレクセイが将軍室に入ってきた。静かに何の気配もなくーー。ゾッとするような、無の歩き方だ。

「申し訳ありません。二人には謹慎処分を言い渡しました」
 アンダーソニーが頭を下げた。
「いや、アンダーソニー、処分は取り消しで構わない」
 色のないアレクセイの声だった。

「トルイストには、ルートが無理を言った。申し訳ない」
 ファウラが驚いた顔でトルイストを見た。彼は顔色を変えずに答えた。

「いえ、思いがけず楽しい時間を過ごす事ができ、聖女様には感謝致します」
 トルイストの言葉に、ファウラが視線を外した。


「ミハナの事はどう思う?」
 アレクセイの問いに、生真面目にトルイストは答える。アンダーソニーが目を丸くしている。

「いい素質をもった、魔法騎士です」
「女性としては?」
「はっ?」
 トルイストは戸惑った。アレクセイがそんな事を気にするとはーー。

「いえ、特にー」
「そうかー。ルートの友だ。大事にして欲しい」
 アレクセイはゆっくりと視線をファウラに向ける。

「ファウラはどうかしたのか?」
 その言葉に、ファウラは下を向いた。
「ーー申し訳ありません。失礼致します」
 ファウラは退出した。トルイストも頭を下げて出ていく。
「殿下、どうされましたかー?」
 力のない表情に、アンダーソニーは青ざめる思いだ。

「何も…」
 アレクセイは消えそうな声で首を振った。



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