142 / 410
大隊長の恋編
第44話 大隊長の恋 4 ー琉生斗は最初から嫌だったー
しおりを挟む
トルイストと美花のデートは面白いほど上手くいった。美花もトルイスト相手だと緊張しないし、会話も弾み楽しい時間を過ごせた。
会計も美花がお手洗い行っている間に済まされていたし、道も安全な方を歩かせてくれる。
何より騎士服を着ていないトルイストが新鮮で、いつもより話しやすかった。
最後は川沿いの公園で、薔薇が咲いているからと誘われ見に行った。
無限に広がるような薔薇園に驚き、薔薇の種類と香りを楽しむ。
パボン夫妻も子供達を連れて見に来ていた。
トルイストを見て、パボンは目を丸くする。
「お、おまえがー、じょ、女子とーー」
「失礼ですよ」
トルイストが眉を顰めた。
マリアも、唖然としている。
夕方、美花がトルイストに女子宿舎まで送ってもらった事で、魔法騎士団は大荒れに荒れた。
「おい、この腐れ聖女、どういうつもりだ!」
東堂が、離宮に殴り込んできた。
そのとき、琉生斗はアレクセイとお風呂に入っていたので、ちょっと待ってろー、と明るく言った。
「ぶぶっー、さて向こうは食い付くかなー」
琉生斗の様子に、アレクセイは妻の服を着せながら溜め息をつく。
「何をやっている?」
「アレク、おれの事好きか?」
「もちろんだ」
「うん。おれもアレクが大好きで、全部アレクがはじめてだ」
アレクセイは頷いた。
「けど、アレクはそうじゃないだろ?」
少し、怒ったような琉生斗にアレクセイは黙った。
「デートでもエッチで、一番はじめじゃなくてもいいんだよ。はじめがいいとも限らないしなーー」
はじめてが上手くいかないなんて、よく聞く話だ。
「アレクは、そういうのわかるか?」
アレクセイは黙ったままだ。
「おれ以外をこんな風に抱いたのかとか、考えなきゃいけない奴の気持ちなんか、わかんないだろーー!」
「ルート……」
琉生斗は、暗くならないように言った。
「ちょっとつついて上手くいくときもあるんだよ。アレクは黙っててなー」
気持ちがわからないなら、と琉生斗は浴室から出ていく。
「なんだよ、東堂」
「トルイスト大隊長とファウラ大隊長が殴り合いの喧嘩になったぜー」
「ほぉー、思った以上に効果が出たな」
「両大隊長共、五日の謹慎処分だとよ。引っかきまわして何がしてぇーんだ!」
「いやいや、これからですよ。大物が出てきますよー」
「はあ?」
アレクセイが東堂にお茶を出す。
「殿下、そんなんいいですよ!」
東堂は大慌てだ。
あれ?
おかしい、と東堂は首を捻る。
アレクセイのいつもの気迫が、今はさっぱりなくなっている。
何があったんだー、と東堂は不気味な思いをしながら離宮を後にした。
「ルート……」
「なんだよー」
琉生斗は旦那様の上でご奉仕中だ。
「……嫌ならやめていい」
言いにくそうに、アレクセイは言う。
ビンタしてやろうか、と琉生斗は思った。
「そうか」
琉生斗は裸でアレクセイの隣に寝転がった。
すっげー嫌な自分だ。
だがいい加減、こんな嫌な自分とおさらばしなければならないーー。
今を大事にしてくれてるアレクセイを、悲しませる事はしてはいけないーー。
それでも、くさくさするのは、琉生斗がすべてにおいて初心者だからだーー。
東堂がいう経験値なんて、クソ喰らえだーー。
すべてがはじめての人が、向こうもそうなんて、そんな訳がないのに、琉生斗は何が悔しいのかよくわからなくなった。
「まったく、娘一人に大隊長ともあろう二人がーー」
アンダーソニーが、呆れたように頭を抱える。
「殿下にも来ていただいて、事の経過をご報告する」
トルイストとファウラは、お互い目も合わせずに無表情で立っている。
アレクセイが将軍室に入ってきた。静かに何の気配もなくーー。ゾッとするような、無の歩き方だ。
「申し訳ありません。二人には謹慎処分を言い渡しました」
アンダーソニーが頭を下げた。
「いや、アンダーソニー、処分は取り消しで構わない」
色のないアレクセイの声だった。
「トルイストには、ルートが無理を言った。申し訳ない」
ファウラが驚いた顔でトルイストを見た。彼は顔色を変えずに答えた。
「いえ、思いがけず楽しい時間を過ごす事ができ、聖女様には感謝致します」
トルイストの言葉に、ファウラが視線を外した。
「ミハナの事はどう思う?」
アレクセイの問いに、生真面目にトルイストは答える。アンダーソニーが目を丸くしている。
「いい素質をもった、魔法騎士です」
「女性としては?」
「はっ?」
トルイストは戸惑った。アレクセイがそんな事を気にするとはーー。
「いえ、特にー」
「そうかー。ルートの友だ。大事にして欲しい」
アレクセイはゆっくりと視線をファウラに向ける。
「ファウラはどうかしたのか?」
その言葉に、ファウラは下を向いた。
「ーー申し訳ありません。失礼致します」
ファウラは退出した。トルイストも頭を下げて出ていく。
「殿下、どうされましたかー?」
力のない表情に、アンダーソニーは青ざめる思いだ。
「何も…」
アレクセイは消えそうな声で首を振った。
会計も美花がお手洗い行っている間に済まされていたし、道も安全な方を歩かせてくれる。
何より騎士服を着ていないトルイストが新鮮で、いつもより話しやすかった。
最後は川沿いの公園で、薔薇が咲いているからと誘われ見に行った。
無限に広がるような薔薇園に驚き、薔薇の種類と香りを楽しむ。
パボン夫妻も子供達を連れて見に来ていた。
トルイストを見て、パボンは目を丸くする。
「お、おまえがー、じょ、女子とーー」
「失礼ですよ」
トルイストが眉を顰めた。
マリアも、唖然としている。
夕方、美花がトルイストに女子宿舎まで送ってもらった事で、魔法騎士団は大荒れに荒れた。
「おい、この腐れ聖女、どういうつもりだ!」
東堂が、離宮に殴り込んできた。
そのとき、琉生斗はアレクセイとお風呂に入っていたので、ちょっと待ってろー、と明るく言った。
「ぶぶっー、さて向こうは食い付くかなー」
琉生斗の様子に、アレクセイは妻の服を着せながら溜め息をつく。
「何をやっている?」
「アレク、おれの事好きか?」
「もちろんだ」
「うん。おれもアレクが大好きで、全部アレクがはじめてだ」
アレクセイは頷いた。
「けど、アレクはそうじゃないだろ?」
少し、怒ったような琉生斗にアレクセイは黙った。
「デートでもエッチで、一番はじめじゃなくてもいいんだよ。はじめがいいとも限らないしなーー」
はじめてが上手くいかないなんて、よく聞く話だ。
「アレクは、そういうのわかるか?」
アレクセイは黙ったままだ。
「おれ以外をこんな風に抱いたのかとか、考えなきゃいけない奴の気持ちなんか、わかんないだろーー!」
「ルート……」
琉生斗は、暗くならないように言った。
「ちょっとつついて上手くいくときもあるんだよ。アレクは黙っててなー」
気持ちがわからないなら、と琉生斗は浴室から出ていく。
「なんだよ、東堂」
「トルイスト大隊長とファウラ大隊長が殴り合いの喧嘩になったぜー」
「ほぉー、思った以上に効果が出たな」
「両大隊長共、五日の謹慎処分だとよ。引っかきまわして何がしてぇーんだ!」
「いやいや、これからですよ。大物が出てきますよー」
「はあ?」
アレクセイが東堂にお茶を出す。
「殿下、そんなんいいですよ!」
東堂は大慌てだ。
あれ?
おかしい、と東堂は首を捻る。
アレクセイのいつもの気迫が、今はさっぱりなくなっている。
何があったんだー、と東堂は不気味な思いをしながら離宮を後にした。
「ルート……」
「なんだよー」
琉生斗は旦那様の上でご奉仕中だ。
「……嫌ならやめていい」
言いにくそうに、アレクセイは言う。
ビンタしてやろうか、と琉生斗は思った。
「そうか」
琉生斗は裸でアレクセイの隣に寝転がった。
すっげー嫌な自分だ。
だがいい加減、こんな嫌な自分とおさらばしなければならないーー。
今を大事にしてくれてるアレクセイを、悲しませる事はしてはいけないーー。
それでも、くさくさするのは、琉生斗がすべてにおいて初心者だからだーー。
東堂がいう経験値なんて、クソ喰らえだーー。
すべてがはじめての人が、向こうもそうなんて、そんな訳がないのに、琉生斗は何が悔しいのかよくわからなくなった。
「まったく、娘一人に大隊長ともあろう二人がーー」
アンダーソニーが、呆れたように頭を抱える。
「殿下にも来ていただいて、事の経過をご報告する」
トルイストとファウラは、お互い目も合わせずに無表情で立っている。
アレクセイが将軍室に入ってきた。静かに何の気配もなくーー。ゾッとするような、無の歩き方だ。
「申し訳ありません。二人には謹慎処分を言い渡しました」
アンダーソニーが頭を下げた。
「いや、アンダーソニー、処分は取り消しで構わない」
色のないアレクセイの声だった。
「トルイストには、ルートが無理を言った。申し訳ない」
ファウラが驚いた顔でトルイストを見た。彼は顔色を変えずに答えた。
「いえ、思いがけず楽しい時間を過ごす事ができ、聖女様には感謝致します」
トルイストの言葉に、ファウラが視線を外した。
「ミハナの事はどう思う?」
アレクセイの問いに、生真面目にトルイストは答える。アンダーソニーが目を丸くしている。
「いい素質をもった、魔法騎士です」
「女性としては?」
「はっ?」
トルイストは戸惑った。アレクセイがそんな事を気にするとはーー。
「いえ、特にー」
「そうかー。ルートの友だ。大事にして欲しい」
アレクセイはゆっくりと視線をファウラに向ける。
「ファウラはどうかしたのか?」
その言葉に、ファウラは下を向いた。
「ーー申し訳ありません。失礼致します」
ファウラは退出した。トルイストも頭を下げて出ていく。
「殿下、どうされましたかー?」
力のない表情に、アンダーソニーは青ざめる思いだ。
「何も…」
アレクセイは消えそうな声で首を振った。
97
お気に入りに追加
255
あなたにおすすめの小説
とある文官のひとりごと
きりか
BL
貧乏な弱小子爵家出身のノア・マキシム。
アシュリー王国の花形騎士団の文官として、日々頑張っているが、学生の頃からやたらと絡んでくるイケメン部隊長であるアベル・エメを大の苦手というか、天敵認定をしていた。しかし、ある日、父の借金が判明して…。
基本コメディで、少しだけシリアス?
エチシーンところか、チュッどまりで申し訳ございません(土下座)
ムーンライト様でも公開しております。


一級警備員の俺が異世界転生したら一流警備兵になったけど色々と勧誘されて鬱陶しい
司真 緋水銀
ファンタジー
【あらすじ】
一級の警備資格を持つ不思議系マイペース主人公、石原鳴月維(いしはらなつい)は仕事中トラックに轢かれ死亡する。
目を覚ました先は勇者と魔王の争う異世界。
『職業』の『天職』『適職』などにより『資格(センス)』や『技術(スキル)』が決まる世界。
勇者の力になるべく喚ばれた石原の職業は……【天職の警備兵】
周囲に笑いとばされ勇者達にもつま弾きにされた石原だったが…彼はあくまでマイペースに徐々に力を発揮し、周囲を驚嘆させながら自由に生き抜いていく。
--------------------------------------------------------
※基本主人公視点ですが別の人視点も入ります。
改修した改訂版でセリフや分かりにくい部分など変更しました。
小説家になろうさんで先行配信していますのでこちらも応援していただくと嬉しいですっ!
https://ncode.syosetu.com/n7300fi/
この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

せっかく美少年に転生したのに女神の祝福がおかしい
拓海のり
BL
前世の記憶を取り戻した途端、海に放り込まれたレニー。【腐女神の祝福】は気になるけれど、裕福な商人の三男に転生したので、まったり気ままに異世界の醍醐味を満喫したいです。神様は出て来ません。ご都合主義、ゆるふわ設定。
途中までしか書いていないので、一話のみ三万字位の短編になります。
他サイトにも投稿しています。
幼い精霊を預けられたので、俺と主様が育ての父母になった件
雪玉 円記
BL
ハイマー辺境領主のグルシエス家に仕える、ディラン・サヘンドラ。
主である辺境伯グルシエス家三男、クリストファーと共に王立学園を卒業し、ハイマー領へと戻る。
その数日後、魔獣討伐のために騎士団と共に出撃したところ、幼い見た目の言葉を話せない子供を拾う。
リアンと名付けたその子供は、クリストファーの思惑でディランと彼を父母と認識してしまった。
個性豊かなグルシエス家、仕える面々、不思議な生き物たちに囲まれ、リアンはのびのびと暮らす。
ある日、世界的宗教であるマナ・ユリエ教の教団騎士であるエイギルがリアンを訪ねてきた。
リアンは次代の世界樹の精霊である。そのため、次のシンボルとして教団に居を移してほしい、と告げるエイギル。
だがリアンはそれを拒否する。リアンが嫌なら、と二人も支持する。
その判断が教皇アーシスの怒髪天をついてしまった。
数週間後、教団騎士団がハイマー辺境領邸を襲撃した。
ディランはリアンとクリストファーを守るため、リアンを迎えにきたエイギルと対峙する。
だが実力の差は大きく、ディランは斬り伏せられ、死の淵を彷徨う。
次に目が覚めた時、ディランはユグドラシルの元にいた。
ユグドラシルが用意したアフタヌーンティーを前に、意識が途絶えたあとのこと、自分とクリストファーの状態、リアンの決断、そして、何故自分とクリストファーがリアンの養親に選ばれたのかを聞かされる。
ユグドラシルに送り出され、意識が戻ったのは襲撃から数日後だった。
後日、リアンが拾ってきた不思議な生き物たちが実は四大元素の精霊たちであると知らされる。
彼らとグルシエス家中の協力を得て、ディランとクリストファーは鍛錬に励む。
一ヶ月後、ディランとクリスは四大精霊を伴い、教団本部がある隣国にいた。
ユグドラシルとリアンの意思を叶えるために。
そして、自分達を圧倒的戦闘力でねじ伏せたエイギルへのリベンジを果たすために──……。
※一部に流血を含む戦闘シーン、R-15程度のイチャイチャが含まれます。
※現在、改稿したものを順次投稿中です。
詳しくは最新の近況ボードをご覧ください。
龍の寵愛を受けし者達
樹木緑
BL
サンクホルム国の王子のジェイドは、
父王の護衛騎士であるダリルに憧れていたけど、
ある日偶然に自分の護衛にと推す父王に反する声を聞いてしまう。
それ以来ずっと嫌われていると思っていた王子だったが少しずつ打ち解けて
いつかはそれが愛に変わっていることに気付いた。
それと同時に何故父王が最強の自身の護衛を自分につけたのか理解す時が来る。
王家はある者に裏切りにより、
無惨にもその策に敗れてしまう。
剣が苦手でずっと魔法の研究をしていた王子は、
責めて騎士だけは助けようと、
刃にかかる寸前の所でとうの昔に失ったとされる
時戻しの術をかけるが…

どこにでもある話と思ったら、まさか?
きりか
BL
ストロベリームーンとニュースで言われた月夜の晩に、リストラ対象になった俺は、アルコールによって現実逃避をし、異世界転生らしきこととなったが、あまりにありきたりな展開に笑いがこみ上げてきたところ、イケメンが2人現れて…。
某国の皇子、冒険者となる
くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。
転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。
俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために……
異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。
主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。
※ BL要素は控えめです。
2020年1月30日(木)完結しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる