ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。(第一部、第二部、第三部)

濃子

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大隊長の恋編

第42話 大隊長の恋 2 ーアレクセイの職業ー

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「これはこれは聖女様、ごきげんはいかがかな?」
 アダマスは笑顔で琉生斗を迎えた。その顔と、会議室の空気にげんなりする。

 まさかの女神様の裏切りにより、琉生斗が他の男性(神様だが)にときめいている証拠が残ってしまうとはーー。


 なぜだ、女神様ーー。なぜなんだーー。
「本当にあのときの、息子のへこみっぷりには、父として心が痛みーー」
「父上ーー」
 クリステイルも兄の顔を伺いながら、笑いを堪えている。

「陛下、そんな事はどうでもよろしい」
 ティンが琉生斗を助けた。
「琉生斗、異界から神を喚ぶ事ができるのか?」

 前屈みになりながら、ティンが尋ねる。

「いやいや、あれは本当に、たまたまなんだよ。一気に神力が底をついたんだぜ」
 琉生斗は心臓を指差した。

「ここを通り道にして時空から来てもらうんだけど、そのとき時空にいる神様や神獣が反応してくれたり、なかったり。ただ、驪竜りりょう神農しんのうじいちゃんはどこにいるか光で繋がってるから、神力次第で喚べるんだよ」

 はー、とティンは目を輝かせている。

「た、試しにーー」
「喚んでもいいけど、驪竜はだめだなー。今寝てるなー。あ、じいちゃんはいける?」
  琉生斗が心臓に手を当て、開く。
 するりと頭に二本の角がある、草を噛じる老人が出てきた。
「神農じいちゃん、薬草や、病気を治してくれる」
 琉生斗の紹介に、わしはもっと偉いんじゃ、と神農は言う。
「はあー、すごい!」
 ティンはかじり付くように神農のまわりを動く。アダマス達も興味津々だ。

『主よ、人質は終わったようだな』
「あぁ。その節はお世話になりました」
『礼が遅いわ』
 はははっ、忘れてた、と琉生斗は言った。
「バルドの事か?」
 アレクセイが尋ねる。
「そうそう、食事に毒ばっかり入ってるから、じいちゃんに頼んで水の草とか出してもらったんだー」
「ほぅー」
『水玉草と腹持ちそうだ』
「!」
 ティンが薬草を手に取り、子供のようにはしゃいでいる。

「どういうきっかけでこうなったのだ」
「うん?あぁ、女神様に鱗をもう一枚もらってから」
「いつ?」
 アダマスは怪訝な顔をした。
「言ってなかったか。アレクが倒れる前、おれは鱗をもう一枚もらったんだー」
 アダマスは脱力した。
「ーーアレクセイ、振られないように努力せよ」
「心得ております」
 兄の憮然とした表情に、クリステイルは吹き出しそうになる。

「聖女様、大人の余裕が欲しいのなら、私とどうだ?」
 アダマスの言葉に、アレクセイは親を殺すかのような視線を投げる。
「陛下ーー?陛下なんか、顔が良いだけで超ガキじゃん」
 何言ってんだよ、と言われアダマスは落ち込んだ。
「ん?でも待てよー」
 琉生斗は考える。他の男をぶつけて、反応を見るー。よくある手だが、いいかもしれない。
 

 ただし、誰をぶつけるかーー。


 考え出す琉生斗に、神農が告げる。
『主は婿殿から魔力をもらっとるのかー』
「あっ、ごめん、アレク」
 琉生斗は謝る。
 婿殿、新鮮な呼び方にアレクセイの口元が緩む。
『なるほど、主の婿殿は、神殺しゴッドスレイヤー、か』

 え?

「何だそれ、職業?」
『悪神を斬った事があるだろう?』
 神農の言葉に、アレクセイは軽く頷いた。
『悪神と言えど神には違いない。神を殺せる人間はもはや人ではない、魔人じゃ』


 会議室に、音がなくなる。琉生斗はその意味がわからなかった。
「魔人だとマズイの?」
『主も魔人のようなものだからのぅー、気にはならんか。婿殿は気で人を殺す事もできるだろう』
 たしかに、とクリステイルは思った。

『悪神達の特性を受け継いでおる、多方面になーー。まぁ、主にはそのぐらいがいいわな』
 神農はそう告げ、姿を消す。
 
 なんだか、爆弾発言を残していかなかったかー。

 琉生斗はアダマスやティンの顔色に、少し不安を覚えた。
「おっ」
 琉生斗は気付いた。
「アレク、魔蝕だ」
「わかった。失礼致します」
 アレクセイを連れ立って外に出る。
「ここ、どこだかわかる?」
 琉生斗はアレクセイのこめかみに触れる。
「ミッドガル国ルーダ方面だなー。近くまで行った事がある」
 そこからは飛ぶ、とアレクセイが言った。
 王宮の転移魔法禁止区域を出て、二人は消えた。






「魔人かー」
 アダマスが唸った。
「暗黒大陸の話でしょうね」
 ティンが頷く。
「暗黒大陸ーー、兄上はそこにいたのですかー」
 アダマスが溜め息をついた。
「ルチアとバドムに、いい留学先がある、と言われてなーー」
 クリステイルは黙った。
「七歳か八歳か、そのぐらいから十歳までいただろうーー」
 姿を見ないと思っていたら、そんな所へーー。

「地獄、でしたでしょうね」
 ティンが呟いた。
「そうだなーー」
 アダマスは項垂れた。
 














 ミッドガル国ルーダ方面は、家や建物がひしめくように並んでいた。緑地も少なく、とにかく栄えた町だ。

 魔蝕は出たばかりだろう、結界師達が大慌てで、結界を展開し、住民は警備隊の指示に従って避難している。
「あなた達も避難して下さい!」
 警備隊の男が叫んだ。

「はぁいー」
 その緊張感の無さに、警備隊の男は眉を顰めた。
「アレク、中ぐらいだ」
「そうか」
 アレクセイが頷き、結界師のかけた結界より強力な結界で魔蝕を抑えた。
 琉生斗は聖女の証を握る。


 光が、光が広がっていくーー。
 魔蝕の闇を結界が包み、光が飲み込むー。
  

 勢いよく魔蝕は浄化されたーー。


「おし、いけたな」
「ああ」
 アレクセイが愛おしげに琉生斗に触れた。二人は国に帰った。


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