ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。(第一部、第二部、第三部)

濃子

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その遺跡は神経が衰弱する。編 (ファンタジー系)

第36話 その遺跡は神経が衰弱する。 7 ー東堂はルートを落とすー 

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 火は、1回目は巨大な火事を東堂が剣圧で消したのだが、2回目はーー。
「ひゃあ!火山じゃねえか!あれ、マグマだろ!こっちにくるぞ!」
 山の頂上から赤いマグマが流れてくる。
 東堂が慌てて斜面をおりようとするが、琉生斗は落ち着いたものだ。
「溶岩流は案外スピードがない。十分逃げられる。火砕流はやべーけど」
「僕のスピードじゃきついよ~」
「時速1、2キロだぜ。さすがにーー」
「笑うな!ルート!」
 笑いをこらえたが吹き出してしまう。
「魔法陣がどこにあるかわかる?」
 視力のいい東堂が山頂を見た。
「なんか、あそこ光ってんぞ」
「なら、溶岩流を消そう」
 琉生斗が言うと東堂は嫌そうな顔をする。
「剣圧でか?」
「氷系の魔法使えねーのか?」
「うーん。やってみるけどよ」
 期待しないでね、と東堂は可愛く言った。
 両手をかまえて魔力を練り上げる。
氷の槍アイスランス!」
 空中から氷の槍が出現し、溶岩流に突き刺さる。しかし、溶岩流の流れはとまらない。
「だよなーー」
 東堂は項垂れた。
「え!どうすんの!?」
 兵馬は逃げ出す気満々で尋ねる。
「よし。やりますか」
 琉生斗が首を鳴らした。
「はあ?」
 東堂が尋ねる間もなく琉生斗は集中し、指を鳴らす。
氷山アイスバーグ
 突然、火山が氷山に変わった。
「はあー、疲れんな」
「すごい!ルート!」
 兵馬が震えながらはしゃいだ。
「じゃあ、上に行くか」
「滑らないか心配だよ」
「ちょっと待てぇ!どうやって魔法を撃ったんだよ!」
「うーんと、火山の面積を考えてー、距離と高さとかけてーー」
「じゃねーわ!」
 東堂はがなり、琉生斗はにやりとした。
「元々魔法は撃てるのよ」
「はあ?」
「ただしおれの場合、神力を魔力に変換して魔法を撃つから、時間がかかるんで撃たないんだ」
 さっむー、と琉生斗は身体をこすりながら氷の山を登る。早く登らないと、今度は凍えてしまう。
 東堂は目が点になった。
「ミハエルさんから聖魔法習わないの?」
「だって、じいちゃん、処女かどうかを見破る聖魔法から、っていうんだぜ」
「あー、いやだね」
「しかし、やりすぎたな。ちょー寒い」
「こういう場合、何使うといいんだろうね?」
 風じゃこっちも危ない目にあいそうだし水かな?、と兵馬は首を傾げた。
「あー、もう布団に入って寝たい」
「寝かしてもらえないのにね」
「ーーおまえも言うなぁ」
「補佐官なんでね。いつも思うけど、入っていいなら服ぐらい着てて欲しいよ」
 のんきに会話する二人に東堂はキレた。
「くっそ!マジこの腐れ聖女!」
「うるさい!ショボ魔力!」




 その言葉は思った以上に東堂をへこませ、琉生斗は彼のご機嫌をとることになった。
「どうせ俺なんかーー」
「いや、すごいって!おまえはすごいヤツだよ!」
「あーあ、ルートいじめた」
「おまえも何としてくれよ!」
「そんなことよりルート。もうアレをめくるしかないよ」
「え?」
「マジか!とうとう来たか!」
 東堂は復活した。
「よしよし、どっちを落とそうかなー」
 げへへっ、と東堂は笑いながら琉生斗にカードを引かせる。琉生斗は苦笑いだ。
 ヘビのカードが光り、三人は光に包まれてーー。


「おし!行ってこい!おまえらぁ!」
 東堂は笑いだした。腹の底からゲスい笑いだ。
 大穴から触手がうねうねと伸びている。兵馬は真っ青になって琉生斗を見た。
 琉生斗は顔色も変えずに、魔法陣を探す。
「おっ、あそこに魔法陣があるな。東堂、押さなくていいから」
 穴の中に魔法陣がある。それは触手によって見え隠れしているのだがーー。
「それは、押せと言ってるんだろ!」
「やめなよ東堂!殿下にバレたら殺されるって!」
「んな、恥ずかしいこと、こいつが殿下に言うかよ!」
 東堂は琉生斗の背中を押した。
 琉生斗は触手の巣に落ちていった。


 ざっーー。


「えっ?」
 東堂は目を丸くした。
 触手が逃げた。琉生斗が着地する前に、脱兎のごとく逃げ出したのだ。
「な、なんで?」
 唖然とした東堂に、兵馬が、あっ!と言った。
「ルートは弱い魔物だとエンカウントしない」
「はあ!」
「それこそ、ドラゴンクラスぐらいじゃないと、怖くて近寄れないんだ」
 琉生斗はゆっくり魔法陣の方に歩いていく。その度に、触手の魔物が逃げていく。
「何だそりゃ!さっきもそうすりゃよかっただろ!」
「ーーいやいや、魔蝕もそうなんだけど、やっぱり実物みないと、自分より強いかわかんねえのよ。おい、おまえら」
 琉生斗は触手に話しかけた。
「あの背の高い方、襲え」
 東堂は目を剥いた。
「え?」
 なんでだ?なんであいつに従うわけ?
 触手が東堂目指して移動する。
「ちょ、ちょっと待って!」
 いつの間にか兵馬は琉生斗の方に走っている。
「こら、裏切り者!」
「裏切ってないよー。最初から僕はルートの味方だよー……」
「ぎゃあ!やめてーー!」
 東堂は、あらぬところまで触手に襲われている。
「もう!あん!」
 触手に埋まっていく東堂を見て、琉生斗と兵馬は笑い崩れた。

 いやんーーもう……。




「ーーもう誰も信じない……」
 東堂は俯いたまま、哀愁を漂わせている。
「よし、兵馬。海と雲、どっちが先がいい?」
「どっちも嫌ぁーー」
 兵馬はまた泣き出す。
「ホント、おまえは、姉ちゃんのが強いなー」
 東堂が呆れたように言う。
「あのガッツをちょっとは見習えよ」
「得手不得手あるんだよ!」
「ちょっとはどうにかならないとなー」
「うるさいよ!だいたい、これ全部クリアしたら終わりなんだろうね!」
 兵馬の言葉に、東堂は首を振った。
「知るかよー。けど、これじゃ試し斬りにもならねえよ」
 東堂にとってはそうだろう。
 では、この遊びは、誰の為に造られたものなのかーー。
「この遺跡、古い感じだけど、どのぐらいなのかなー。ルートわかる?」
 兵馬が話しかけると、琉生斗は薄く笑った。
「ーーああ」
「はあ?わかんのに言わねえの、おまえーー」
 東堂の口を、兵馬は後ろから押さえた。兵馬は気づいたのだ、琉生斗が口に出せない理由をーー。
「ルート、カード引いてよ!」
 兵馬は促した。
「ーーおぅ。どっちがいい?」
「恐いほう、後にしようかな~」
「なら、海かー。東堂にくっついてろよ」
「もちろん!」
「おまえ動きづれーよ」
「見捨てないで、お願いー」
 光が三人を包みーー。
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