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強国バルド編 (ファンタジー系)
第29.5話 墓参り
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日が過ぎたけど、怒られないかなーー。
「黒い喪服って、結構着るよな」
一着は必ず持ってた方がいいアイテム。ただし、王子様はたくさん、ございますがーー。
「そうだな」
旦那様の黒の礼装姿に、鼻血が出そうな聖女様だ。今日は普通のシャツで、黒のジャケットは、光沢のある黒い刺繍糸で縁取りされている。
いつもの騎士服より、身体の線がわかり、妙に色気が出る。
聖女様は相変わらずの法衣、黒色だ。
ーーいやいいんですけど、おれだってスーツとかバッチリ決めたいときあるよー。
彼の伴侶でいる間は駄目らしい。
一度、「数年後には着れるかもな」と軽く言ったところ、その後の機嫌が悪すぎて、機嫌取りがものすごく大変だったので、今は冗談でも言わないようにしている。
「先代、気悪くしてないかなー?」
何と先代の命日を忘れていた。
しかも理由がひどい、ダラダラ毎日セックスしてただけなんてーー。
ティンから、好きな花を聞いて作ってみたが、お気に召されるだろうかーー。
「母は向日葵が好きだったんですがー」
こちらは春に向日葵が咲かない為、アレクセイが暖かい国をまわって手に入れてくれた、小さなクリーム色の向日葵。
可愛らしい向日葵に、白いバラやかすみ草を合わせる。ロードリンゲンキキョウも、ちゃんと入れておく。
「ばあちゃん達の墓、ちゃんと掃除してんのかなー」
やってないだろうが、掃除代行ぐらい頼んで欲しい。
「気になるのか?」
「それなりにだよ。そういえば、こっちは亡くなっても四十九日とかしないんだな」
スフェーンのときになかった気がする。
「四十九日?」
アレクセイが不思議そうに聞き返すので、琉生斗は無いのだと判断する。
「向こうでも国によってはなかったけど、元の国は細かったのかもな」
琉生斗はあちらの国を、うちの国や自国とは言わない。元の国と、もはや過去形だ。
「亡くなってからも、三途の川を渡るのに銭がいるとか、お祀りもので罪が軽くなるとか、色々言われてるんだぜ」
「ーー誰か見たのか?」
「死んで地獄ってところに行って、生き返った人の話があるんだよ」
アレクセイは首を傾げた。
そりゃ、そんな反応だよな、と琉生斗は思う。
命日のときの花は、片付けられたのだろう。スズの墓に花はなかった。
花を献花し、琉生斗は手を合わせた。こちらは頭を下げるだけの風習だが、なんとなく手は合わせたい。
先代、ごきげんはいかがですか、琉生斗です。遅くなりすみませんーー。
何とか一年やりました、まだ一年です。こんちきしょうです。一生浄化って、冗談じゃないですよー。健康にも気をつけなきゃならないし、美容にも気をつけにゃならんなんて、罰ゲームっすよねーー。
おまけに男なのに子供産むって、どうなってんだよ、おれの人生聖女だけかよ、って思わなくもないですがーー。
琉生斗は訳がわからなくなったので、手を合わすのをやめて、ふと横を見た。
「!」
『あら、気付いた?』
琉生斗はアレクセイの方を向いたが、彼はまだ目を閉じて頭を下げたままだった。
琉生斗はゆっくりと後ろに移動する。
大木に寄りかかって老人が寝ていた。髪の毛を後ろで縛り、アダマスが歳を取ったような顔をしている。
『コランダムよ、よく寝るのよ』
「お噂はかねがね。寝てるけど、ハンサムですね」
やはり、アレクセイもこのレベルになるかと思うと、琉生斗はなんとか髪の毛だけでも死守しようと決意する。
『アレクセイはどう?』
「えー、めっちゃ優しくて、めっちゃカッコイイですよー」
照れながら言う。
『そうなのー。よかったわー。それだけが気がかりでね』
「話します?」
『やめとくわ。ルートに聞かせたくない話はできないしね』
スズの言葉に、琉生斗は目を丸くした。
『ルート、アレクセイを愛している?』
質問に鼻を掻く。
「もちろんー」
『自分が死んだら世界が大変な事になるなんて、毎日プレッシャーでしんどいわね』
スズは目を伏せた。琉生斗も、それは感じている。
『だからこそ、アレクセイを愛しなさい。世界なんかどうでもいい、彼の為に明日も生きたいのなら、その気持ちが大切なの』
琉生斗は頷いた。スズと琉生斗にしかわからない感情だ。
あなたと生きたいー。
あなたの為だけに生きたいーー。
だから、生き抜きたいーー。
『また、来年まっているわ。向日葵をありがとう。ルートが作ってくれたの?』
「あぁ」
『なんでもできるんでしょ?』
「そんな事ないよ」
『わたしが女神様に頼んだもの。次の聖女は、テーブルマナーも、ダンスもできて、楽器も弾けるような子がいいって』
琉生斗は目を見開いた。
「なんで?」
『わたしができないから、バカにされ続けたからよ』
スズは悔しそうに言った。
「それで、なのかー」
うちのばあちゃん、まさか知ってたのかなー。
「ルート」
アレクセイが変な顔をして立っている。
「また、誰かと話しているな?」
「わかって言ってんだろ。先代だよ」
それはそうだな、とアレクセイはスズの方へ頭を下げた。
琉生斗が何かを言う前に、スズとコランダムは消えていた。
「スズ様は何か言っていたか?」
「うーん。おれがいるとアレクの恥ずかしい話ができないって」
「ーーそうか」
少し動揺したアレクセイが可愛かったので、琉生斗は彼の身体を抱いてキスをした。
また、一年がんばりますよーー。
「黒い喪服って、結構着るよな」
一着は必ず持ってた方がいいアイテム。ただし、王子様はたくさん、ございますがーー。
「そうだな」
旦那様の黒の礼装姿に、鼻血が出そうな聖女様だ。今日は普通のシャツで、黒のジャケットは、光沢のある黒い刺繍糸で縁取りされている。
いつもの騎士服より、身体の線がわかり、妙に色気が出る。
聖女様は相変わらずの法衣、黒色だ。
ーーいやいいんですけど、おれだってスーツとかバッチリ決めたいときあるよー。
彼の伴侶でいる間は駄目らしい。
一度、「数年後には着れるかもな」と軽く言ったところ、その後の機嫌が悪すぎて、機嫌取りがものすごく大変だったので、今は冗談でも言わないようにしている。
「先代、気悪くしてないかなー?」
何と先代の命日を忘れていた。
しかも理由がひどい、ダラダラ毎日セックスしてただけなんてーー。
ティンから、好きな花を聞いて作ってみたが、お気に召されるだろうかーー。
「母は向日葵が好きだったんですがー」
こちらは春に向日葵が咲かない為、アレクセイが暖かい国をまわって手に入れてくれた、小さなクリーム色の向日葵。
可愛らしい向日葵に、白いバラやかすみ草を合わせる。ロードリンゲンキキョウも、ちゃんと入れておく。
「ばあちゃん達の墓、ちゃんと掃除してんのかなー」
やってないだろうが、掃除代行ぐらい頼んで欲しい。
「気になるのか?」
「それなりにだよ。そういえば、こっちは亡くなっても四十九日とかしないんだな」
スフェーンのときになかった気がする。
「四十九日?」
アレクセイが不思議そうに聞き返すので、琉生斗は無いのだと判断する。
「向こうでも国によってはなかったけど、元の国は細かったのかもな」
琉生斗はあちらの国を、うちの国や自国とは言わない。元の国と、もはや過去形だ。
「亡くなってからも、三途の川を渡るのに銭がいるとか、お祀りもので罪が軽くなるとか、色々言われてるんだぜ」
「ーー誰か見たのか?」
「死んで地獄ってところに行って、生き返った人の話があるんだよ」
アレクセイは首を傾げた。
そりゃ、そんな反応だよな、と琉生斗は思う。
命日のときの花は、片付けられたのだろう。スズの墓に花はなかった。
花を献花し、琉生斗は手を合わせた。こちらは頭を下げるだけの風習だが、なんとなく手は合わせたい。
先代、ごきげんはいかがですか、琉生斗です。遅くなりすみませんーー。
何とか一年やりました、まだ一年です。こんちきしょうです。一生浄化って、冗談じゃないですよー。健康にも気をつけなきゃならないし、美容にも気をつけにゃならんなんて、罰ゲームっすよねーー。
おまけに男なのに子供産むって、どうなってんだよ、おれの人生聖女だけかよ、って思わなくもないですがーー。
琉生斗は訳がわからなくなったので、手を合わすのをやめて、ふと横を見た。
「!」
『あら、気付いた?』
琉生斗はアレクセイの方を向いたが、彼はまだ目を閉じて頭を下げたままだった。
琉生斗はゆっくりと後ろに移動する。
大木に寄りかかって老人が寝ていた。髪の毛を後ろで縛り、アダマスが歳を取ったような顔をしている。
『コランダムよ、よく寝るのよ』
「お噂はかねがね。寝てるけど、ハンサムですね」
やはり、アレクセイもこのレベルになるかと思うと、琉生斗はなんとか髪の毛だけでも死守しようと決意する。
『アレクセイはどう?』
「えー、めっちゃ優しくて、めっちゃカッコイイですよー」
照れながら言う。
『そうなのー。よかったわー。それだけが気がかりでね』
「話します?」
『やめとくわ。ルートに聞かせたくない話はできないしね』
スズの言葉に、琉生斗は目を丸くした。
『ルート、アレクセイを愛している?』
質問に鼻を掻く。
「もちろんー」
『自分が死んだら世界が大変な事になるなんて、毎日プレッシャーでしんどいわね』
スズは目を伏せた。琉生斗も、それは感じている。
『だからこそ、アレクセイを愛しなさい。世界なんかどうでもいい、彼の為に明日も生きたいのなら、その気持ちが大切なの』
琉生斗は頷いた。スズと琉生斗にしかわからない感情だ。
あなたと生きたいー。
あなたの為だけに生きたいーー。
だから、生き抜きたいーー。
『また、来年まっているわ。向日葵をありがとう。ルートが作ってくれたの?』
「あぁ」
『なんでもできるんでしょ?』
「そんな事ないよ」
『わたしが女神様に頼んだもの。次の聖女は、テーブルマナーも、ダンスもできて、楽器も弾けるような子がいいって』
琉生斗は目を見開いた。
「なんで?」
『わたしができないから、バカにされ続けたからよ』
スズは悔しそうに言った。
「それで、なのかー」
うちのばあちゃん、まさか知ってたのかなー。
「ルート」
アレクセイが変な顔をして立っている。
「また、誰かと話しているな?」
「わかって言ってんだろ。先代だよ」
それはそうだな、とアレクセイはスズの方へ頭を下げた。
琉生斗が何かを言う前に、スズとコランダムは消えていた。
「スズ様は何か言っていたか?」
「うーん。おれがいるとアレクの恥ずかしい話ができないって」
「ーーそうか」
少し動揺したアレクセイが可愛かったので、琉生斗は彼の身体を抱いてキスをした。
また、一年がんばりますよーー。
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