ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。(第一部、第二部、第三部)

濃子

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その遺跡は神経が衰弱する。編 (ファンタジー系)

第30話 その遺跡は神経が衰弱する。1 ー東堂嫉妬されるー

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 それは、ちょっとした事件になった。
 東堂が、時空竜の女神様から、長剣を下賜かしされたのだ。
 その名も聖剣デュランダル、正真正銘の神宝だ。
 
 女神様より神宝しんほうを下賜された者が、小隊長でいいのか、会議は割れた。
「大隊長がひとつ空くのだから、そこにするというのは?」
 アダマスの言葉に、現大隊長達は沈黙した。アンダーソニー達も、難しい顔をしている。
「さすがに、実力が伴いません」
 アレクセイが進言した。だが、彼も下賜された意味を考えれば、いずれはそうなるというのもわかっている。
「では、中隊長はー」
 そうなると、新たに大隊長になる者が不憫な気もしないでもない。
 会議は沈黙が続いた。
 やる気はあるし、向上心もある、とてもいい人材なのはわかるのだがーー。

 若すぎるーー。琉生斗と違って誕生日もきていない為、まだ十八歳なのだー。
 アダマスは深く息を吐いた。

 ーースズ様のときは、たいした問題もなかったのに。



「見ろ!美花!」
 話題の中心はそんな事も知らず、のんきにまわりに自慢していた。
「はいはい。すごいすごいー」
 何回目なの、このやり取り。
「ねぇ、ルート」
「あぁ?」
 今日の琉生斗は、デニム生地のシャツにズボンだ。デニム生地いいな、と美花は思う。
「なんで、東堂だけなのよーー」
 美花も少し拗ねている。
 いや、兵馬も拗ねている。町子だって口には出さないが、何で、という顔をしている。
「いや、女神様に聞いてるんだけどさ、別にたいした意味はない、って言うのよー」
 ふーん、と皆は納得してない顔をした。
「どっちみち、僕は使えませんよ」
 兵馬が一番拗ねていた。
「まぁ、おまえらがそういうなら何とか頼んでみるからー」

「「「はぁ!」」」
 三人は目を剥いて怒った。

「東堂は何もしなくても貰えたのに、あたし達はあんたが頼まなきゃ貰えないわけ!」
「聖女様、様々ですねー」
「ルート君て、すっごく嫌味ね~」
  
 あー、地雷踏んだ。琉生斗は落ち込んだ。
 
 だからって、どうすりゃいいのかねー。女神様もジョークです、って持って帰ってくれないかなーー。
 
 琉生斗が考えていると、王宮のほうからファウラが歩いてきた。
「あっ、ファウラ様。会議は?」
 美花の問いに、ファウラは苦笑いだ。
「平行線ですね。さぁ、訓練に戻りますかー」
「はい!」
 美花が元気に駆け出した。ちゃんとファウラの後ろを歩いている。
「じゃあね、あたしも戻るわ~」
 町子が箒にのって、飛び立った。
「あれ、絶対尻痛てぇーよな」
 琉生斗が言うと、兵馬は笑った。
「みんながルートみたいに、万年尻痛病じゃないんだから」
「うるせーわ。最近はそんなに痛くねぇわ」
 なぜ、と聞かれると答えにくいがーー。

 ちょっと良い潤滑油を見つけた、とは言えない聖女様だ。

「すげぇー軽い!どっかで試せねえかなー」
 東堂は剣を振りながら、呟いた。

 ワカッターー。

 琉生斗は青ざめた。
「あかん!おれ抜きで!おれはマジで嫌です!」
 時空竜の女神様の言葉に、琉生斗は大声を出した。
「アレクーー!」
 叫んだが、時すでに遅しーー。

 アレクセイが駆け付けたときには、琉生斗達の姿は消えていた。

 すぐに気配を追う、感知を広げる、出来ることはしたが、どれも徒労に終わった。

 ドコへーー?

 彼ノ修行ーー。

 アレクセイは女神様からの返事に、深い溜め息をついた。なぜ、妻まで連れて行くのか、理解に苦しむ。





「ん?なんだ?」
 景色が変わり、東堂は辺りを見回した。
「おまえがいらん事いうからーー」
 琉生斗は膝から崩れた。どこの建物かわからないが、レンガ造りの古い神殿のようだ。
「何か、変な転移だったねー」
「こっち来たときと、似てるだろ?」
 琉生斗の言葉に兵馬が目を見開いた。
「まさか、今のがーー」
「時空転移。おれが目指してるやつね」
 東堂は顔がハテナだ。
「あー、速すぎてわからないね」
「だろ?何でそうなるの?って感じだわな」
 琉生斗と兵馬は通じ合っている。

 目の前には、石の石像が並んでいた。巨人だろうか、槍を携えている。道はひとつしかなく、そこを通るしかなさそうだ。
「東堂、行って来い」
 琉生斗が言うと、東堂は剣を構えた。
「なんだ、あれが動くのかー」
 楽しそうに笑う。

 走るー。

 石像が動き出す。槍が東堂に向く。
「ほっ」
 東堂は地面を蹴って、石像を斬る。勢いでまわり、さらに飛んで次の石像を斬っていく。
「うわぁー、すごいなー」
「葛城の動きとは全然違うなー。アレクを真似てる気もするけど」
「姉さんは僕と一緒で、元々運痴だよ」
 そうだった、と琉生斗は頷く。

 叩き割るように、石像を斬る。斬れなければ、斬れるまで剣を振る。
 好戦的な戦いだ。
「あいつがいると楽でいいけど、おれたちのいる意味がねえな」
「それは言えてるね。ねぇ、転移魔法が使えないよ」
「だろうなー。ちょっと集中するから」
 琉生斗はこめかみに指を当てた。アレクセイの下へ、光を走らせる。
 かすりもしない、かなり遠い。
 
 もっと速く、速く届け、光よ、駆けろーー。
 琉生斗のまわりから光が弾けていく。
 
 アレクドコーー?

 オレガワカルーー?



 頭が痛い、これ以上は無理だーー。
 
 琉生斗は脳の接続を切った。
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