ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。(第一部、第二部、第三部)

濃子

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強国バルド編 (ファンタジー系)

第25話 強国バルド 9 激突

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 突如、琉生斗は首を引っ張られた。

 いつの間にか首枷をされている。手枷も付けられ、引きずるようにして連れて行かれる。

 手枷には見覚えがあった。

 今度はデスモンド国でつけられたものだ。

「おまえが、獣人の奴隷制度を裏で操っていたのか?」

 琉生斗の問いに、ハオルはにやりとした。

「おもしろかったか?奴隷の売買はーー」

 最低な奴だなー。

「アレクに殺されろ」

 ハオルは、やや怯んだ。

「そこまで来ているようだが、王都の結界は壊せないだろう。諦めてすごすごと帰る様を、見に行くぞ」

 鎖を引っ張られてつんのめる。

 エントが支えてくれたので、転けはしなかった。



 結界かー、琉生斗は亀裂が走った空を見て首を傾げる。

 なんかあったのかなーー?空、こんなだったっけ?





 あれ?



 色が動いてる?



 琉生斗は目を瞠った。

 わかった。

 アレクセイではこれはわからないかもしれないが、あいつならーー。











 鉄の森を抜け、アレクセイは国の結界の前に立った。カルヤンが言うように、高密度な三角形の集合体だ。破るには、かなり圧縮した魔力が必要だ。



「どうするのだ、アレクセイ殿下」

 カルヤンが不安気に聞くが、ロードリンゲン国の者は誰もそんな顔をしていない。

「壊す」

 いや、だから壊せないのだ、とカルヤンは言いかける。

 

魔弾マジックバレット

 低くアレクセイが言う。



 結界から、空を走るような音が響く。風穴が開くように、破壊された一点から、結界が壊れていく。

 カルヤンは呆然と立ち尽くした。

 アレクセイや、彼の部下達は事もなさ気に結界をくぐり抜け、浮遊魔法の準備に入った。



 自国が誇る鉄壁の結界。それを魔力を練ることもなくー。

 我々は何に喧嘩を売ってしまったのだー。



 汗を拭うーー。

 カルヤンは恐ろしくて仕方がなかった。







 王都の結界前まで飛び、すぐに結界が壊せるか解析をしようとする、がーー。

「アレクセイ、王都が破壊されている」

 結界の中をはっきりと視ることができるティンが、告げた。

「何がー?」

「地震が起きたのかーー。地層が剥き出しになっている」

 アレクセイもよく目を凝らすと、王都の無残な姿を視ることができた。



 ルートだ。

 何があったーー。

 アレクセイは、それは空間が裂けたのだと気付いた。



 不安を隠すように、皆に「用心せよと」言う。

「解析するわね~」

 町子とティンは結界を解析する。

 他の者は戦闘に備えた。





 結界内から浮遊してくる集団が見えた。

 濃い灰色の軍服を着ている。

 バルド国の兵士だ。

「アレクセイ殿下、魔法騎士団だ!」

 カルヤンが叫ぶ。

 王都の結界を飛び出し、彼らは整列した。

 千人近くが、アレクセイ達のまわりを取り囲む。

「おやおや、カルヤン殿下、人質ですか?」

 一番前に立った男が言った。

「ベールス士長、私は降伏した。おまえ達も聖女を返すよう、ハオルを説得にいけ!」

 ベールスは頷いた。

「たしかに、聖女は返した方がよいでしょうね。女神様がお怒りになっておられる」

 溜め息をつく。

 国の有り様がひどすぎる。これは神の怒りであろう。

「取り返せば、返しましょう」

 ベールスの言葉に他の隊員が笑った。

「アレクセイ殿下、お会いできて光栄でございます。我が軍を二度も壊滅状態に追い込んだ方が、まぁなんと線の細いことーー」

 

 騙されるな、と東堂は言いたい。
 この細い見かけから繰り出される剣の重さは、話にならないぐらい凄まじいぞ。



「我が軍の空軍も、よほど油断したのでしょうなー」

「話は終わったか?」

 アレクセイがつまらなさそうに言った。

「アンダーソニー、容赦するなよ」

「心得ております」

 優しい士長の顔が、鬼のような形相へと変わっていくのを、東堂は息を呑んだ。

 ルッタマイヤ、ヤヘルも、剣を構えた。

 大隊長達も、隙のない構えを見せる。



 すごいー、プレッシャーで汗が吹き出る。

 東堂は額の汗を払った。



 直後、激突は起きた。



 アレクセイは結界を見たままだ。その横で、アンダーソニーとベールスは斬り合い、魔法を撃ち合う。

 ルッタマイヤは結界をかけ、アレクセイを守りながら魔法騎士達を撃退していく。

 剣の振りの速さに、バルド国の兵士は目を丸くしている。まるで、紙の棒でも振っているかのようだ。

 突き、払い、速すぎて魔法が撃てない。

 これが神聖ロードリンゲン国の魔法騎士のトップ。大人数をものともせずに制圧していく。

 東堂と美花も、構えた。自分達が弱いとわかればここばかりを狙うだろう。東堂は美花を見る。

 美花は頷いた。

 魔法騎士が斬りかかる。東堂は受けて、弾く。

 屈む。

究極の嵐パーフェクトストーム!」

 極限の嵐が、魔法騎士達を直撃する。



 すっげーなぁ。

 師匠がいいんだろうがー。



 東堂はファウラをちらりと見た。彼はこちらを見ずに、自身の戦闘に集中している。
 美花が魔法を撃つための時間稼ぎは、東堂に任せる、と思っているのかーー。



 俺っていいとこねぇなー。



 魔法騎士なんだから、ガンガン魔法が撃てたらいいのだがーー。

 ふと気付くと、剣が光を帯びている。

 魔法剣だ。

 素早くアレクセイを見ると、指を鳴らすような仕草をしていた。



 ありがてぇー。

「おっしゃあ~!」

 相手の撃つ魔法によって、属性が変化する魔法剣だ。

 東堂は軽快に相手を斬りつけた。

 そして、美花に魔法を撃たせる。美花が魔力切れを起こしそうになると、斬り合い、時間稼ぎをした。

 息のあった戦い方に、トルイストは大きく頷いた。

「いいコンビだ」

 ファウラに話しかける。

「ーーそうですね」

 短くファウラが返した。





「わかんない~どうしよう~」

 町子は困っていた。結界の破り方が閃かない。ティンも同じ気持ちなのか、困惑した表情を浮かべている。

「適当に撃ってみます~」

 町子が言って、結界を魔法で撃つ。

 白い部分に雷を当てると、町子に雷が返ってきた。

「ダメ~」

 結界を展開しながら、町子はしょげた。

「町子、いまので結界の色が変わった部分があります」

「え~。ホントですね~」

 全部で6色の色が見える。

 それがバラバラに配置されている。

「黄色に雷とか、赤に炎とか、当ててみます~?」

「ああ」

 町子は色に魔法を当てる。



 魔法は返って来ず、色が変化した。

「ん~。殿下どうです~?」

 町子の問いに、アレクセイも首を傾げた。

 色に魔法を当てるのは間違いない。カウンターがないなら、合っているのだろうが。

「当て続けるか」

 黄色に雷、赤に炎、青に水の魔法、白に光の魔法、緑には風の魔法、オレンジには土を当てる。

 魔法は返って来ずに、色が変わった。

「間違いではないのだろうがー」

 アレクセイは動きをとめた。

 目を見開く。





「どういう事だ!」

 ハオルが怒鳴り散らしながら、大軍を率いて近付いてくる。

 その手には鎖があり、アレクセイの妻が引きずられるように歩かされている。

「ルート……」

 あまりのショックに、皆が動きを止めた。

 琉生斗の口のまわりが腫れ上がり、血がにじんでいる。

「ハオル!きさま!」

「アレクセイ!落ち着いて下さい!結界に素手で触らない!」

 ティンが必死でアレクセイを抑えた。

「いいざまだな、アレクセイ。これがそんなに必要かーー」

 鎖を持ち上げると、琉生斗は呻いた。

「やめろぉ!」

 アレクセイが怒鳴った。
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