118 / 208
強国バルド編 (ファンタジー系)
第21話 強国バルド 5 毒と薬
しおりを挟む
「何?毒であいつのいうこと聞いてるの?」
腹持ち草を噛りながら、尋ねる。ドライアドは首を振った。
「ワタシたち、元々毒木の精霊」
そうなんだ、と琉生斗は思う。
「鉄の森の木、一本一本についている精霊です。ワタシ達を束ねているのが、エントです」
「何本ぐらいあるの?」
「一億本ぐらいでしょうかー」
「ーーふぅん」
神聖ロードリンゲン国も王都ですら緑地が多く、建物も悠々と建てられている。バルド国は強大国と言われるぐらいだ、さらにスケールが大きいのだろう。
そこに、鉄の森の面積は、含まれていなかったはずだ。鉄の森は片側でざっと1,000,000キロメートル。縦に横断するなら距離はぐっと短いはず。アレクセイや魔法騎士達なら、一日はかからないはずだ。
「それって、アレク達が来たら攻撃するの?」
「もちろんです。聖女様は渡せません」
いや、おまえらのものじゃないしーー。
「魔法使えないんだろーー。おまえら卑怯だね」
琉生斗の言葉に、ドライアドは沈黙した。
「ワタシ達が卑怯ーー」
「卑怯じゃん。攻撃したら駄目なとこ狙うわ、おれを人質に取って、他国を攻めようとするわ、誰が喜ぶの?おまえ達は自分の主がそんなんで、うれしいのか」
鉄色をした木の精霊は、琉生斗の言葉に萎れていくようにも見えた。
「ワタシ達は誰からも望まれません。ハオル様だけです。ワタシ達を必要としてくれるのはーー」
ドライアドは悲しげに、目を伏せ出て行った。
んー、難しい話だな、と琉生斗は眉を寄せた。毒を喜ぶってのはなーー、何かに使えるのだろうか。
毒殺ーー。
うん、却下だな。だが、硝酸とかは危険なものだが、薬になるはずだ。青カビなんかもー。こちらの世界でも頭痛薬とかは売っているし、毒だって要らないわけはないのだろうがーー。
ーー勉強不足だな、と琉生斗は息をついた。
今まで誰からも必要とされていない存在が、誰かに必要とされたとき、その人を心酔してしまうのは、琉生斗にもわかる話だ。
けれどーー。
自分はアレクセイの元に帰りたい。
ここへ来る事を自分で選んだが、やはり帰る場所はあそこだ。アレクの側にいないと、駄目なのだ。
さて、アレクはどこかなーー。
こめかみに指を当て、次元の間から、愛しい旦那様を探すー。
光を使って、琉生斗は言葉を飛ばす。
受信されないー。まだ遠いのかーー。
大好キアレクーー。
早ク抱イテーー。スッゴク欲シイーー。
「ぷっ」
届いてないと思うと、好き放題送ってしまう。
琉生斗はひとりで大笑いだ。
「あー、おかしい~」
「ーー何を笑っている」
突然話しかけられ、声の方に顔を向けた。
ハオルがすぐ近くにいた。転移魔法だろうが、気配を感じなかった。
しかし、全然会いたくない奴が、会いにくる。苦行だな、と琉生斗は苦々しく思う。
「聖女は薬草に詳しいのか?」
ハオルに尋ねられ、きょとんとする。
「いいや」
返事を返すと、変な顔をされる。ハオルは懐から、神農がドライアドに渡した、毒消し草を出した。
「これは、よほどの事がない限り手に入らない薬草だ」
ハオルが真剣な眼差しで琉生斗に問う。
水玉草を隠していてよかった、と琉生斗は思った。珍しい植物を見つけると、収集したくなるタイプかもしれない。
「そうなんだ。じいちゃんにもらったんだ」
「ーーおまえの祖父がここにいるのか?」
なかなか鋭い。
「ミハエルじいちゃんだよ。教皇様」
琉生斗の答えに、ハオルは、なるほど、と言った。
「素晴らしい薬草だー」
ハオルは毒消し草をまじまじと観察している。
「おい、聖女。おまえは私の事をどう思う?」
「はあ?誘拐犯だろ」
「私と結婚しろ」
ハオルの言葉に、琉生斗は唖然とした。
何をどうしたらそういう考えになるのかーー。
あっ、そうか、こいつ。アレクは来ない、と思ってるのかーー。
「おまえの替えがいる以上、ロードリンゲンに戻る必要はない。私の后として、ここで暮らすがいい」
ここでーー!
この塔の中でずっと暮らせってかーー。
「服もたくさん用意した」
あの女物の服はやはりおれ用なのかーー。琉生斗は頭痛と目眩を覚えた。
「おまえは幸せだ」
あほだこいつーー。おれの事なんか、心底聖女っていう、物扱いなんだ。
「きっぱり、断る」
琉生斗がはっきり言うと、ハオルの顔色が変わる。
「何が問題だ。役に立たないおまえを、后にすると言っているのだぞ」
「嫌だね。おまえ、好かない」
睨みつけると、ハオルは歯ぎしりをした。
「はっ、アレクセイにも見捨てられたくせに」
近付いてくる陰気な男から、逃げようとして琉生斗は後ろにひっくり返った。
たが、うまい具合に足首が、屈んだハオルの顎に入った。
「き、きさま!」
ぐらつきながら顎を押さえる。
「うっさい!この変態!」
「はっ?アレクセイとて、男だろ!」
「当たり前だろ!あいつが女だったら、国沈めたい放題だわ!」
本を手当たり次第に投げると、頭にぶつかりハオルはよろけた。運動神経悪いな、こいつ。
「こ、このー」
「うっさい!ヘビ眼鏡!さっさと出で行け!」
もう一つおまけに分厚い図鑑をぶつけると、ハオルは逃げるように退散した。
腹持ち草を噛りながら、尋ねる。ドライアドは首を振った。
「ワタシたち、元々毒木の精霊」
そうなんだ、と琉生斗は思う。
「鉄の森の木、一本一本についている精霊です。ワタシ達を束ねているのが、エントです」
「何本ぐらいあるの?」
「一億本ぐらいでしょうかー」
「ーーふぅん」
神聖ロードリンゲン国も王都ですら緑地が多く、建物も悠々と建てられている。バルド国は強大国と言われるぐらいだ、さらにスケールが大きいのだろう。
そこに、鉄の森の面積は、含まれていなかったはずだ。鉄の森は片側でざっと1,000,000キロメートル。縦に横断するなら距離はぐっと短いはず。アレクセイや魔法騎士達なら、一日はかからないはずだ。
「それって、アレク達が来たら攻撃するの?」
「もちろんです。聖女様は渡せません」
いや、おまえらのものじゃないしーー。
「魔法使えないんだろーー。おまえら卑怯だね」
琉生斗の言葉に、ドライアドは沈黙した。
「ワタシ達が卑怯ーー」
「卑怯じゃん。攻撃したら駄目なとこ狙うわ、おれを人質に取って、他国を攻めようとするわ、誰が喜ぶの?おまえ達は自分の主がそんなんで、うれしいのか」
鉄色をした木の精霊は、琉生斗の言葉に萎れていくようにも見えた。
「ワタシ達は誰からも望まれません。ハオル様だけです。ワタシ達を必要としてくれるのはーー」
ドライアドは悲しげに、目を伏せ出て行った。
んー、難しい話だな、と琉生斗は眉を寄せた。毒を喜ぶってのはなーー、何かに使えるのだろうか。
毒殺ーー。
うん、却下だな。だが、硝酸とかは危険なものだが、薬になるはずだ。青カビなんかもー。こちらの世界でも頭痛薬とかは売っているし、毒だって要らないわけはないのだろうがーー。
ーー勉強不足だな、と琉生斗は息をついた。
今まで誰からも必要とされていない存在が、誰かに必要とされたとき、その人を心酔してしまうのは、琉生斗にもわかる話だ。
けれどーー。
自分はアレクセイの元に帰りたい。
ここへ来る事を自分で選んだが、やはり帰る場所はあそこだ。アレクの側にいないと、駄目なのだ。
さて、アレクはどこかなーー。
こめかみに指を当て、次元の間から、愛しい旦那様を探すー。
光を使って、琉生斗は言葉を飛ばす。
受信されないー。まだ遠いのかーー。
大好キアレクーー。
早ク抱イテーー。スッゴク欲シイーー。
「ぷっ」
届いてないと思うと、好き放題送ってしまう。
琉生斗はひとりで大笑いだ。
「あー、おかしい~」
「ーー何を笑っている」
突然話しかけられ、声の方に顔を向けた。
ハオルがすぐ近くにいた。転移魔法だろうが、気配を感じなかった。
しかし、全然会いたくない奴が、会いにくる。苦行だな、と琉生斗は苦々しく思う。
「聖女は薬草に詳しいのか?」
ハオルに尋ねられ、きょとんとする。
「いいや」
返事を返すと、変な顔をされる。ハオルは懐から、神農がドライアドに渡した、毒消し草を出した。
「これは、よほどの事がない限り手に入らない薬草だ」
ハオルが真剣な眼差しで琉生斗に問う。
水玉草を隠していてよかった、と琉生斗は思った。珍しい植物を見つけると、収集したくなるタイプかもしれない。
「そうなんだ。じいちゃんにもらったんだ」
「ーーおまえの祖父がここにいるのか?」
なかなか鋭い。
「ミハエルじいちゃんだよ。教皇様」
琉生斗の答えに、ハオルは、なるほど、と言った。
「素晴らしい薬草だー」
ハオルは毒消し草をまじまじと観察している。
「おい、聖女。おまえは私の事をどう思う?」
「はあ?誘拐犯だろ」
「私と結婚しろ」
ハオルの言葉に、琉生斗は唖然とした。
何をどうしたらそういう考えになるのかーー。
あっ、そうか、こいつ。アレクは来ない、と思ってるのかーー。
「おまえの替えがいる以上、ロードリンゲンに戻る必要はない。私の后として、ここで暮らすがいい」
ここでーー!
この塔の中でずっと暮らせってかーー。
「服もたくさん用意した」
あの女物の服はやはりおれ用なのかーー。琉生斗は頭痛と目眩を覚えた。
「おまえは幸せだ」
あほだこいつーー。おれの事なんか、心底聖女っていう、物扱いなんだ。
「きっぱり、断る」
琉生斗がはっきり言うと、ハオルの顔色が変わる。
「何が問題だ。役に立たないおまえを、后にすると言っているのだぞ」
「嫌だね。おまえ、好かない」
睨みつけると、ハオルは歯ぎしりをした。
「はっ、アレクセイにも見捨てられたくせに」
近付いてくる陰気な男から、逃げようとして琉生斗は後ろにひっくり返った。
たが、うまい具合に足首が、屈んだハオルの顎に入った。
「き、きさま!」
ぐらつきながら顎を押さえる。
「うっさい!この変態!」
「はっ?アレクセイとて、男だろ!」
「当たり前だろ!あいつが女だったら、国沈めたい放題だわ!」
本を手当たり次第に投げると、頭にぶつかりハオルはよろけた。運動神経悪いな、こいつ。
「こ、このー」
「うっさい!ヘビ眼鏡!さっさと出で行け!」
もう一つおまけに分厚い図鑑をぶつけると、ハオルは逃げるように退散した。
90
お気に入りに追加
231
あなたにおすすめの小説
(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成)
エロなし。騎士×妖精
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
いいねありがとうございます!励みになります。
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
竜血公爵はオメガの膝で眠る~たとえ契約結婚でも…
金剛@キット
BL
家族を亡くしたばかりのクルシジョ子爵家のアルセΩは、学園で従弟に悪いうわさ話を流されて、婚約者と友人を失った。 味方が誰もいない学園で、アルセはうわさ話を信じる不良学園生から嫌がらせを受け、強姦されそうになる。学園を訪れていた竜の血をひくグラーシア公爵エスパーダαが、暴行を受けるアルセを見つけ止めに入った。 …暴行の傷が癒え、学園生活に復帰しようとしたアルセに『お前の嫁ぎ先が決まった』と、叔父に突然言い渡される。 だが自分が嫁ぐ相手が誰かを知り、アルセは絶望し自暴自棄になる。
そんな時に自分を救ってくれたエスパーダと再会する。 望まない相手に嫁がされそうになったアルセは、エスパーダに契約結婚を持ちかけられ承諾する。 この時アルセは知らなかった。 グラーシア公爵エスパーダは社交界で、呪われた血筋の狂戦士と呼ばれていることを……。
😘お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。どうかご容赦を!
😨暴力的な描写、血生臭い騎士同士の戦闘、殺人の描写があります。流血場面が苦手な方はご注意を!
😍後半エロが濃厚となります!嫌いな方はご注意を!
運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…
こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』
ある日、教室中に響いた声だ。
……この言い方には語弊があった。
正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。
テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。
問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。
*当作品はカクヨム様でも掲載しております。
お前が結婚した日、俺も結婚した。
jun
BL
十年付き合った慎吾に、「子供が出来た」と告げられた俺は、翌日同棲していたマンションを出た。
新しい引っ越し先を見つける為に入った不動産屋は、やたらとフレンドリー。
年下の直人、中学の同級生で妻となった志帆、そして別れた恋人の慎吾と妻の美咲、絡まりまくった糸を解すことは出来るのか。そして本田 蓮こと俺が最後に選んだのは・・・。
*現代日本のようでも架空の世界のお話しです。気になる箇所が多々あると思いますが、さら〜っと読んで頂けると有り難いです。
*初回2話、本編書き終わるまでは1日1話、10時投稿となります。
乙女ゲームが俺のせいでバグだらけになった件について
はかまる
BL
異世界転生配属係の神様に間違えて何の関係もない乙女ゲームの悪役令状ポジションに転生させられた元男子高校生が、世界がバグだらけになった世界で頑張る話。
男鹿一樹は愛を知らないユニコーン騎士団団長に運命の愛を指南する?
濃子
BL
おれは男鹿一樹(おじかいつき)、現在告白した数99人、振られた数も99人のちょっと痛い男だ。
そんなおれは、今日センター試験の会場の扉を開けたら、なぜか変な所に入ってしまった。何だ?ここ、と思っていると変なモノから変わった頼み事をされてしまう。断ろうと思ったおれだが、センター試験の合格と交換条件(せこいね☆)で、『ある男に運命の愛を指南してやって欲しい』、って頼まれる。もちろん引き受けるけどね。
何でもそいつは生まれたときに、『運命の恋に落ちる』、っていう加護を入れ忘れたみたいで、恋をする事、恋人を愛するという事がわからないらしい。ちょっとややこしい物件だが、とりあえずやってみよう。
だけど、ーーあれ?思った以上にこの人やばくないか?ーー。
イツキは『ある男』に愛を指南し、無事にセンター試験を合格できるのか?とにかく笑えるお話を目指しています。どうぞ、よろしくお願い致します。
転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる
塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった!
特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる