ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。(第一部、第二部、第三部)

濃子

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強国バルド編 (ファンタジー系)

第18話 強国バルド 2 国の矜持

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 扉が閉められる。特殊な結界により、扉は開かなかった。ハオル達が国に帰るまで閉じ込めるつもりだろう。

「トードゥ」

 治癒魔法をかける。

「殿下ぁー。すみません!」

「いや、悪いのはあそこの二人だ。不甲斐ない」

 アレクセイの言葉にアダマスが反論した。

「おまえがすぐに来ないからだ。何をしてたのだ」

「父上ーー」

 何情けない事言ってるんですかーー、とクリステイルが萎れる。

 縄を外し合い、王族達は項垂れた。

「もう!パパが人質になんかなるからー!」
「すまない、ラルジュナ。弱いパパで……」

 ラルジュナが父親を睨んだ。

「ハオルって、あんな奴だったっけー?」

 眉を顰めてラルジュナがアスラーンを見た。

「どういう奴と言われても難しい。そう仲がよかったわけでもないし」

 アスラーンが、面目ない、とアレクセイに謝る。



「アレクセイ、取り返すのだろ?」

 知己の言葉に、アレクセイは深く頷いた。

「あの国の王都の結界は強固かつ堅牢だ。破ろうとすると、攻撃が飛ぶ」

 アスラーンは語る。

「破ろうとしたのか?」

「ちょっと前に結界が変わったと聞いてな。何かおかしいんだ、あれは。パターンが変わるというか、いけると思ったら弾かれる。厄介だぞ」

 アスラーンの話を聞き、アレクセイは言う。

「何とかする」



 

「教皇、ヒョウマがルートのスペアというのは本当なのか?」

 アダマス小声で問う。

 ミハエルは聖女の証を掲げ、女神様に祈りを捧げた。

「私ははじめて聞くが、その為に、今回は6人も来たのか?」

 クリステイルも目を細めた。最悪の事態は回避されたがーー。



「陛下も甘いですねー」

 ミハエルは、深く息を吐き、悲しそうに笑った。

「そんなの、嘘に決まってるでしょ?聖女様の度胸が据わっていることは、陛下もご存知のはずーー」

「あっ」

 アダマスは、言葉をなくした。

「自分の生命をかけて、博打を打たれたんですよ」



 国の為にーー。皆様の生命の為にーー。



 東堂が、立ち上がる。

「あいつら強かったなー」

「ほんと」

「大丈夫か、おまえ殴られてただろ?」

「平気よー。もっと訓練しといたらよかったーー」

 美花は泣き出した。

「マジそれな。ーー殿下」

「何だ?」

 アレクセイのまわりの空気に押されながら、東堂は言う。

「俺、すぐにトルイスト大隊長と、マジャ砦に行きます。あそこを制圧して、うちの駐屯地にしちゃいましょう」 

「あぁ。頼む」

 ミッドガルのマルス王子が扉を確かめると、簡単に開いた。琉生斗が強国バルドに入ったからだろう。ハオルは約束を破る男ではなかったようだ。

「帰ろう」

 王族達は慌てて帰路に着く。

 アレクセイ達に頭を下げる者もいるが、大抵な者はそそくさと去って行った。



「アレクセイ、悪いけど、ボクも自国に帰るよー。バルドが仕掛けるとしたら、まずはうちか、アジャハンだからねー」

 ラルジュナが真剣な眼差しで言う。

「あぁ」

「応戦するよ」

 言いにくそうに、だが、彼はバッカイア国を守らなければならない王太子だ。

「あぁ」

 琉生斗の芝居の意味を、ラルジュナとアスラーンはしかと受けとめた。

「まぁ、ハオルの事だから、疑心暗鬼に陥って何も仕掛けられないかもしれないねー」

「頭がいい奴ほど、ああいう策にはまるからな」

 アスラーンが頷いた。

「アレクセイ、ハオルは毒草の研究家だ。結界を毒で溶かしたのかもしれない」

「なるほどー。ルートも変な臭いがする、と言っていたな」

 毒草の臭いだったのかもしれない。

「魔法も使えたのかもねー。ルートが聞いたときに調べればよかったよー」

 ラルジュナが肩を竦めた。

「そうだな」

 思ってもみないことは突然ではない、何かきっかけが隠れている場合もある。
















 魔法が使えるようになると、アレクセイは友に別れを告げ、アダマス達と自国に帰った。

 アダマスとクリステイルは落ち込んだままだった。

 話を聞いた兵馬は呆れたが、琉生斗らしい、と半笑いだ。

 東堂と、大隊長達はすでに立った。

 あまり大人数で行くとバルド国に気付かれる為、今回は最低限の人数だ。

 今頃は、マジャ砦を攻略中だろう。

「ヒョウマ。マチコを呼んでくれ、結界の解析をさせたい」

「わかった!僕も付いて行くからね!」

 アレクセイは頷いた。

「殿下、我々もお供致します」

 アンダーソニーが言うと、ヤヘルとルッタマイヤが頭を垂れた。

「おまえ達は国を守れ」

 アレクセイの言葉に、アンダーソニーは首を振った。

「いいえ、ついていきます」

 眉を顰めたアレクセイに、アンダーソニーは続けた。

「ーーあのとき、殿下をお一人でバルドに行かせた我々を信用できないのは当然の事」

 ヤヘルとルッタマイヤが、拳を強く握りしめている。

「我々は、二度と殿下をお一人で戦地に送り出す事はしないと誓っております。どうぞ、お連れください」

 将軍達は真摯に頭を垂れている。

「殿下、国は私が守りますから、士長達をどうかお連れ下さい」

 パボンが言った。

「近衛兵団もなかなか強いんですよ」

 魔法騎士には敵いませんがー、と言うと、近衛兵達が困った顔をした。

「ーーわかった」

 アレクセイが一言いう。

「徹底的にやるぞ」



 二度とそんな考えを起こさないようになーー。



 アンダーソニーや、将軍達が頭を垂れた。



「はい、兵馬。これ借りてきたからね」

 美花が、袋を兵馬に渡した。

「あ、うん……」

 兵馬は引きつりながら、それを受け取った。



 

 












 強い、やっぱり強いなーー。

 東堂は、バルド国の兵士と交戦中だった。

 ひとりひとりが、まるで戦車のようなパワーを誇る、強国バルドの兵士達。歩兵でさえこの強さなら、魔法騎士などでてきたら、自分では太刀打ちできないだろう。

 二階建てのマジャ砦の一階部分で、東堂とマリアは戦っていた。

 さすがは大隊長、トルイストとファウラに引けを取らない。マリアは、次々と敵を撃破していく。破竹の勢いと言うやつだ。

 大人数をさばくのに、狭さを利用してタイマンに持ち込んだり、あり得ない角度から剣を振るったり。

「すげぇー」

 素直に驚く。

 一対一では絶対に負けない。たとえ魔法が使えなくてもだ。

 しかし、向こうは魔法をガンガン撃ってくる。

「魔法、撃てないんじゃなかったんすか!」

「向こうはともかく、こちらは無理ね」

 マリアが壁際を走り、魔法を避け、兵士の足を斬る。足を斬られた兵士は、片膝をつきながらも、東堂に魔法を撃つ。  

 魔法を避けて走り、死角を狙って斬りつけ、素早く移動する。

「動きがいいわね」

「うす!」

 東堂に合わせてマリアは移動してくれている。

 私もまだまだだから、と謙遜されるが、三人の中では一番古い大隊長だ。

「歳なだけよ」

 と、言うが年齢は、ルッタマイヤ同様非公式らしい。

「鉄の森の精霊がいたのでしょう?彼らに協力させて魔法を使えるようにしたのかしら」

「あぁ、エント、つうのと、ドリアードってやつですね」

 斬り込みながら、会話をする。

「トルイスト大隊長達、どこまで行ったんだかー」

「強いのよね。昔からーー」

「でも、ファウラ大隊長、殿下に全然でしたよ」

「そうね。あの方は、人をやめたのかしら?って思うほど強いわよね」

 ぷっ、と東堂は、吹き出した。

「こんなときに、笑かさないで下さいよー」

 ひゃーおかしい。

「あらあら。トードォ、まだ甘いわね」

 マリアは、艶っぽく笑った。

 人妻なのが残念だ、と東堂は思った。



「上は制圧したぞ。全員牢屋に放り込む」

 トルイストが兵士を引きずりながら現れた。

「はい!」

 ファウラも無造作に兵士の足を持ち、引きずっている。

「私は二十人やったぞ」

「おや、私は二十一人倒しましたよ」

「そんな事で張り合わないで」

 マリアが嗜めた。

 ほー、これはパボン師団長には無理な関係だなーー、と揃った大隊長に、東堂は目を丸くした。

「私とトードォで、三十人じゃ、たいしたことないわね」

 マリアが片目を瞑った。

「いやいや、ほとんど大隊長のおかげっす」

 東堂は、頭を掻いた。

 

 強国バルドの国境、マジャ砦は、静かに制圧された。

 

 東堂は、地下の牢屋に兵士達を投獄した。

 人数が多いため、骨が折れる仕事だ。どんな戦い方をすれば、外傷なく意識だけ奪えるのかーー。大隊長が倒した敵を見て、東堂は溜め息をついた。

「あそこは独房だなーー」

 一番端の牢屋は狭く、真っ暗な場所にあった。

 そこから、異臭が漂っている。東堂は生ゴミが、さらに腐ったような臭いだと感じた。

 鼻をつまみながら近づいてみる。



「誰かいるのかーー?」

 東堂は注意深く声をかけた。 



 陰が、独房の壁にもたれている。

「ーーわたしが誰か知らんのか。きさまはバルドのものではないなーー」

 弱々しい声が聞こえた。

「あぁ、そうだ。この砦は落ちたぞ」

「そうか」

「あんた、バルド国の人か?」

 ぐったりとした男は、はっきりとした声を出した。

「わたしはカルヤン。強国バルドの、第一王子だ」
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