ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。(第一部、第二部、第三部)

濃子

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強国バルド編 (ファンタジー系)

第17話 強国バルド 1 起り☆

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 二人の王太子と別れ、アレクセイに用意された客間で、アダマスやクリステイルを待っている最中、琉生斗は気になった事を、キスの合間に話した。

「なんか、変な臭いなんだ…。うっ」

 アレクセイに組み敷かれ、琉生斗は彼の愛撫に身をよじる。

「前の、魔蝕でも、あんな臭いがしたん、だ。薬が、きつい、って、いうのかなー、ああっ!んぅ!」

「ーー何だろうな……」

 真面目な話をしながらやる事はやる、そこは新婚さんだ。

「ハオルは、薬草学等を研究していたがーー」

 薬草などで結界がどうなる訳でもないだろうがーー、だが、聖魔法結界に侵入した例もあるーー、アレクセイは琉生斗の身体をきつく抱いた。

「あんっ」

 

 琉生斗は汗を拭った。

「部屋涼しいけど、やっぱ服着たままはダメだな」

「そうだな」

「陛下達おせーな。生きてる?」

 水を飲みながら、ひどい事を言う。

「様子を見て、先に帰るか」

 温めたタオルで琉生斗の顔や首筋などを拭き、アレクセイは自身の衣服を整えた。

 琉生斗はそこに後ろから抱きついてじゃれたり、バカップルこの上ない。



 いいさ、こんな時期は少ないんだから。

 琉生斗はもはや開き直っている。

 思い出は多い方がいい。たとえどんな事でもだ。



 部屋から出て、アレクセイは視線を下に動かした。

「ーー結界が、一部壊されているー」

「え?」

 今日の結界は、教皇や枢機卿達が張る、魔法では解析不可能なものだと言っていたがーー。

 壊されるなどそんな事があるのか、とアレクセイは琉生斗をしかと抱く。周囲に目を走らせ、自身の魔力が練れるか確認する。

 魔法は使えない。

「ルート」

 アレクセイは琉生斗を抱え、風のような速さで駆け抜けた。

 琉生斗の脳裏には陰気なヘビのような目をした、バルド国の王太子の顔が浮かんだ。

 





 教皇達がいる大会議室、その部屋の異常さはすぐにわかった。

 バルド国の兵士が、部屋を囲むように立っている。

 兵士の数がおかしい。

 今日は最小限の数の兵士しか、ここには入れないはずだ。

「おい、来たぜ」

「通せとの仰せだ」

 兵士達が扉を開けた。

「ルート!来んな!殿下!」

 扉の向こうで東堂が声をあげた。縄で縛られ、かなり痛めつけられている。

「東堂!」

「ルート、逃げて!」

 傍らにいる美花も、顔が腫れている。

「おい!どういう事だよ!」

 琉生斗とアレクセイのまわりを兵士が取り囲んだ。アレクセイならわけがない人数だが、気になるのはーー。

「父上、王太子殿下」

 アダマスやクリステイルもだが、枢機卿、各国の国王や王子まで縛られ、兵士に剣を向けられている。
 教皇は縛られてはいなかったが、兵士が背後にいて何もできそうもない。

 アスラーンとラルジュナは目隠しをされた挙句、手枷足枷をされた状態だった。よほど用心されていたのだろう。

「ようやく来たなー、聖女様」

 陰気な顔をしたハオルが、にやにやして琉生斗に近付いた。 

「何の真似だよ」

 睨みつけると、ハオルは琉生斗の首に剣を突き付ける。



 

 突如、ハオルの顔が歪んだ。気付けば自分の首にも背後からアレクセイの剣先が突き付けられている。

 いつの間にーー。

 バルド国の兵士達は息を呑んだ。

「反逆などと、可愛らしいものではないな」

 静かに告げる。

「おまえは、父親や弟がどうなってもいいのか?」

 ハオルの声は、緊張していた。

「あぁ」

 アレクセイは即答した。何の躊躇いもない声に、バルド国の兵士に動揺が走る。



 もっとも、ロードリンゲン国の民は皆が思った。



 だよねーー。



「ここで、おまえに自由を与えた方が、国の為にならない」

 アレクセイは何事もないかのような顔で、ハオルの首に剣を突き刺そうとした。兵士達も、アレクセイの間合いには入れない。ハオルの口から、悲鳴が漏れー。



「お待ちください、アレクセイ殿下ーー」

 嗄れた老人の声が聞こえた。

「これが見えませんか?」

 小さな木の精霊が琉生斗のまわりを浮遊している。

 アレクセイは眉根を寄せた。

「エントかー」

「えぇ、わたくしは鉄の森の精霊、エントでございます。これらはドライアド達です。ハオル様を殺すなら、聖女様を殺します。よろしいですか?」

 琉生斗のまわりに浮いた精霊達が、鉄色の幹の先端を構えている。

「精霊が悪事に加担するとはな」

 アレクセイは剣を収めた。

「父上、どういうつもりです」

「何がだーー」

「私が来る前に、なぜ自害しなかったのですか」

「すまないー」

 アダマスは項垂れた。クリステイルも何も言えなかった。

 アレクセイは溜め息をついた。ハオルを見据える。



「要求はなんだ?」

 アレクセイは尋ねた。





 マグナス大神殿に、新たな兵士が侵入してくる。

 どうして結界が破られたのか、教皇ミハエルも理解が追いつかなかった。

 自分や、枢機卿達で作りあげる最強の結界だ。壊せるはずがない。それはミハエルだけでなく、バルド国の枢機卿ラエルも同じ気持ちだ。

「ハオル王子、こんな事はおやめください」

 優しげな顔立ちを歪ませて、ハオルを諌める。グルだとは思いたくないがーー。

「王子ではない、王太子だ!」

 ハオルは激昂した。

「ここにいる者の生命と引き換えだ。聖女は我が国に連れて行く。今後は我が国で住んでいただく」

 ハオルは宣言した。

「えーー。お断りだけど」

 琉生斗は言った。

「聖女様、死にたいんですか?」

 鉄の森の精霊エントが言うと、琉生斗は片眉をあげた。

「殺す気ないのにー?」

「ハオル王太子に従っていただきます」

「えー、アレクも一緒にいい?」

「・・・・・・」

 精霊達は黙った。

「そんなわけないだろ!」

 ハオルは切れた。

「他の国に、攻め込まないなら考えてやる」

「ルート」

「立場をわきまえたらどうだ」

 兵士が、東堂の首に剣を突き付けた。

「おい、東堂、根性が足りねーぞ」

「わかってるわ!俺達の事は気にせず、殿下と帰れ!」

 

 ぐさっ。



 東堂は声をあげなかった。肩に突きつけられた剣に、美花は悲鳴をあげそうになる。顔をゆがませて耐えている東堂の為にも、悲鳴はあげてはならない。美花は歯を食いしばった。

「うわ、卑怯だね」

 琉生斗は睨んだ。

「はっきりいって、おまえは信用できない。まずは人質を安全に解放しろ。うちの国のもんだけ残せばいいだろう」

 琉生斗の話にハオルは、首を振る。

「今逃がせば、皆で我が国を攻撃してくる。おまえを我が国に転移させた後に、必ず解放する」

 

 琉生斗がバルド国に入ってしまえば、どこの国もバルド国には手が出せない。

 だがーー。

「そして、おまえ達は、好き放題侵略するのだな」

 アスラーンがハオルに言った。

「聖女を抑えれば世界が手に入る。ロードリンゲンがそうしないのが不思議でならんよ」

 ハオルはにやついた。



 王族達は苦々しい思いで、ハオルを睨む。自分達もチラっと考えはするが、誰も実行する者はなかった。

 魔蝕の浄化は、世界の権利だ。ひとつの国が独占するものではない。

 しかし、これからはどうなる?



 魔蝕が起きても浄化はされるのか。ハオルが魔蝕の場所まで連れて行くのかーー。



 聖女を人質にすれば、その問題が浮上する。自国の為に、自分達の生命を諦めるべきだろうがーー。



 エントは琉生斗の手に手錠をかけようとした。

「あっ、ちょっと待って。ミハエルじいちゃんに話がある」

「どうしました、聖女様?」

 琉生斗は囲まれながら、ミハエルに近付いた。兵士が常に剣を突きつけている。

 

 緊張が走る中、琉生斗は聖女の証を外す。



 ハオルは眉を顰めた。

「兵馬に渡して」

「はっ?」

「あいつ、おれのスペアだろーー?」

 ミハエルは、目を見張った。琉生斗はミハエルの目をじっと見た。

 ミハエルはその目から逃れるように、そのまま、視線を落とす。



「ーー気付いておられましたかーー」



 ミハエルは深い溜め息をついた。

 教皇は聖女の証は持つ事が出来ないので、保存聖魔法をかけ重くならないようにした。

「魔蝕の浄化は、聖女の証が教えてくれるから。アレクがいれば、なんとかなるだろー」

「ーーわかりました。聖女ルート様。今までお疲れ様でございましたーー」

 ミハエルは頭を深く下げた。



 はあっ?

 

 ハオルは驚愕のあまり言葉が出なかった。

「なっ」

 どういう事だ。他の王族達もどよめきがおさまらない。

 これでは聖女を連れて帰ってもーー。



 攻める事はできるが、どの国も応戦してくるーー。ハオルの思う侵略とは、違う道ができてしまい、彼は困惑した。

「ほら、約束だぞ。おれが行くから人質は安全に解放しろよ」

 琉生斗は、手を出した。エントはハオルの顔を見ながら、琉生斗に手錠をかけた。

「ルート」

「あぁ、アレク。兵馬よろしくなー」

「ルート」

 肩に触れる。



 早ク迎エニ来テネーー。

  

 琉生斗の思念にアレクセイは、溜め息をついた。



 キスをして、アレクセイは言った。

「ではー」

「うん」

 短いやり取りで、琉生斗は兵士に囲まれて連れて行かれる。

 ハオルは、ぶつぶつ何かを言っている。エントが、彼を促した。兵士達も素早く引き、残ったのは、場の嫌な空気だった。
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