ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。(第一部、第二部、第三部)

濃子

文字の大きさ
上 下
109 / 410
不穏なる鳴動編

第12話 琉生斗と兵馬と美花 ☆やや18禁

しおりを挟む
 薄々は気付いていたが、アレクって性欲やばくないかー?



 その日の朝、琉生斗はサントの花に水をあげていた。後ろから抱きつかれたので、鍛錬から帰ってきたアレクセイだな、と振り向く。
 彼はそれよりも早く、琉生斗の首の後ろにキスをした。

「ひゃあ!」

 変な声が出た。

「ルート……」

 せつなげに名を呼ばれる。唇が首筋を這っていく。

 ちょっと待ってくれよーー、今日の予定が素早く脳裏にあらわれ、琉生斗は拒もうと身をよじった。

 だが、アレクセイの鍛錬後の身体の熱さに包まれていると、自分の身体が反応してしまう。

「ーーアレク」

「何だ…?」

 優しく問われ、はっきりと返す。

「十五分しかねえ。時間押したら夜はねえからな」

「わかった」

 

 ソファの上で服を脱がされ、夜の行為の名残に潤んでいる孔に、手早く挿れられる。

 意外に最低だなーー、と思わなくもないが、彼いわく、「ずっとルートと繋がっていたい」のだから、時間があればこうしたいのだろう。もっとも、アレクセイの場合、比喩ではなく事実なのだから困ったものなのだが。

「ルート、愛してる……」

「うんうん。おれも」

「ーーー……」

 返事が気に食わなかったのか、アレクセイは腰を激しく動かしてきた。
 だが、琉生斗としても脳を冷静に保っておかないと、すぐに快楽に負けてしまうのだ。

 その結果ーー。

「あん!いいっ!アレクぅー」

 やらしい声が自然に出る。何でだろうなー、と琉生斗は思うーー。 

 絶頂に達するときだった、アレクセイは孔から強引に抜いたものを、琉生斗の口に含ませた。

「!」

 液が口の中に出される。

 琉生斗はアレクセイを睨みつけた。

「ーー最低だな」

 下半身の疼きが止まらない。もうちょっとでイケたのにーー。琉生斗は口から垂れたものを拭った。その匂いにも感じてしまう自分がいる。

「どうする?」

 アレクセイの美しい双眸が、楽しげに揺れた。

「挿れろ」

 琉生斗の言葉にアレクセイは笑った。

「かわいく言ってほしい」

 くそが!

 とっときをかましてやんぜ!びびんなよ!





「ーーねえ、アレクぅー、アレクのちょうだぁいー……」

 上目遣いだ、どうだこの野郎ーー。



 と、身体を張った琉生斗だが、威力が抜群すぎてすぐに後悔することになった。

 





「まぁ、聖女様。ピアノを弾いてくださるんですの?」

 王妃ラズベリーは可憐な少女のように、うっとりとしている。申し込んだ時間よりかなり遅れるという失礼な嫁だが、気にする様子もない。

 アレクセイが、遅れると、連絡してくれたおかげなのだろうが。

「えぇ。その代わりお願い聞いてくれます?」

 琉生斗は手を合わせた。

「どんな事ですの?」

「お兄さんも音楽が好きですよね?」

 琉生斗の問いに、ラズベリーは頷いた。

「ええ。カレンさんの歌も、聞きに行ってますのよ」

「呼んだら、来ていただけませんか?」

「あら、よろしくてよ」

 ラズベリーは、すぐに手配をしてくれた。

「では、この日、コンサートホールでお待ちしております」

 琉生斗は招待状を渡すのに、優雅にお辞儀をした。





 王宮内にあるコンサートホールは、当たり前の事だが、王族や貴族が楽しめるような造りになっている。

 ゆったりとした座席は言わずもがな、美しい装飾、壁面には低音までも反射する天然木が使われ、ヴォールト天井と呼ばれる、アーチを平行に押し出した形状を特徴とする天井様式は、どこまでも音を美しく響かせる。



 ステージの真ん中にピアノは置かれていた。

 琉生斗は進んで行って、立ち止まり、お辞儀をする。

 拍手が起きた。



 真正面に国王夫妻、とハーベスター公爵であろう人物が座っている。左側には、クリステイルと花蓮。その後ろに、ミントとセージとアスター。

 右側には琉生斗の旦那様が、紺色のウエストコートを着て座っている。髪の毛もあがっていて、琉生斗はすでにノックアウトされている。

 琉生斗の衣装は、黒一色だ。とはいっても、黒地に牡丹の大きな柄が刺繍で入り、飾りボタンが中央に付いた、中華服のような見た目だ。

 タキシードはもう着れないらしい。

 かといってドレスなどご勘弁である。

 色々選択肢が絞られて、着られる服がどんどん無くなっていく。最終的にズボンもどうか、と言われたが、そこは最後の砦だ。マーサに泣きついて、許してもらった。



 琉生斗はピアノの前で構えた。

 ひと呼吸つく。



 自分のタイミングではじめる。



 はじまりは小さな前奏。そして鐘の音が響き渡る。指の走りに、驚く息が聞こえた。



 リストの『ラ・カンパネラ』

 

 さぁ、驚いて下さいよーー。これは見る方が楽しいですからねー。

 

 琉生斗は鐘を叩く。黒鍵を指が飛ぶ。

 飛んで、飛んで、自分も最高に楽しめる曲だ。

 こんなに、綺麗な音が出るピアノは、はじめてだ。神殿で使ったものよりも、素晴らしい音色を響かせてくれる。

 繰り返し登場する音、レ♯。これが鐘の音を表す音。鐘の音を強調するかのように、キラキラとした世界を紡いでくれる。
 あまり手は大きくないが、指は長い方なので、3音もピタリと弾く。鋭い鍵盤感覚で、鍵盤を見ることもなく、指を飛ばす。

 天井へ響く音。

 何より、観客が魅了されているーー。

 曲自体は短めだが、インパクトは強い。

 揺れる鐘を聴かせた後、終幕は駆け抜けるように、指が暴れる。琉生斗の指は鍵盤を飛び続けた。

 

 最後の1音を鳴らし、指をピアノから離し、呼吸を整える。



 あれ?拍手ないーー。

 まぁ、いいかー。



 少しさみしい気持ちもあるが、琉生斗は2曲目の準備に入ろうとしてーー。

「すごいわー、さすがルートくん!」

 花蓮が手を叩いてくれた。

 ありがとう、おれの花蓮ーー。

 そう思ったとき、ラズベリーが立ち上がって、

「素晴らしいですわ!聖女様!」

 と、頬を紅潮させて誉め称えた。

 琉生斗はにっこりと微笑んだ。ちらり、とアレクセイの方を見ると、彼の目が、自分を見る目が、ヤバいほど潤んでいた。

 なんだ、あいつーー、乙女かーー。

 

 2曲目

 ベートーヴェン ピアノ・ソナタ第14番《月光》第3楽章。

 ベタな選曲だが、こちらにはない音楽だ。

 とにかく技巧を見せつける。楽章はまさに「激情」とも言える楽章、終始激しく指が動き回る曲だ。

 指の動きに、驚くような気配を、琉生斗は感じた。



 3曲目

 ショパン ノクターン 第8番 Op.27-2



 言わずと知れたショパン大先生のピアノ曲。

 身分の高い彼女に捧げたことから、「貴婦人の夜想曲」と呼ばれることもある。

 左手の伴奏形が難しく、大きな跳躍を含む分散和音の伴奏型が用いられている。
 右手の単旋律で見られる装飾的変化も印象的で、非和声音を盛り込んだ即興的なパッセージ、演奏が進むごとに、それらのパートの使用頻度が高くなっていくため、体力的にもきつい曲だーー。



 さすがに飛ばし過ぎたなーー。

 

 練習不足で申し訳ないーー。



 曲が終わると、琉生斗は立ち上がってお辞儀をした。

 ラズベリーが、残念そうな顔をしている。もっと聴かせて欲しい、と目が訴えてくる。





 そのとき、ステージに、ヴァイオリンをもって、兵馬と美花があがってきた。兵馬はタキシード、美花は薄い水色のドレスを着ている。

 三人で揃ってお辞儀をする。

 場が少しざわめいている。

 4曲目

 ビバルディ 協奏曲第1番ホ長調 RV 269「春」

 ヴァイオリン二人に、ピアノしかいないので、琉生斗の編曲により、奏でられる。

 ない楽器をピアノで補うが、ピアノにできないことはない、と言われるぐらい、うまく曲を弾いている。

 そして、驚くべきは、双子のシンクロ率である。

 音のユニゾンの気持ちの良い音色に、皆が酔いしれる。高音の伸びやかさ、明るい音色、春の暖かさや、突然の嵐など、表現力のいる曲だ。

 

 三人の息が合った演奏に、アレクセイは少し嫉妬する思いをした。



 5曲目

 ビバルディ 四季 4. 協奏曲第4番 「冬」 第2楽章。

 続けて、冬を演奏する。

 美花のもっとも得意な曲でもある。

 

 満ち足りた静かな日々を暖炉の前で過ごす

 外はと言えば雨が降りしきっている



 弦をはじく音、ピチカートが雨の音を表現する。美しく響くヴァイオリンの音色。



 優しい冬を、表現する二つのヴァイオリン。

 伸びやかに、澄んだ音が美しく奏でられる。

 最後まで弾き終わると、割れんばかりの拍手と賛辞が沸き起こった。



 三人は頭を下げた。

「もう一曲だけ、ねっ?」

 ラズベリーに可愛くせがまれては、やらないわけにはいかない。

 琉生斗は元気になった。

「どんな曲にしましょうか?」

「ラ・カンパネラがいいですわ~」

 琉生斗と兵馬は視線を合わせた。

「よし、ガチンコだな」

 琉生斗は指をほぐした。

「僕の速さにはついてこれないでしょー」

 兵馬は、ヴァイオリンを構えた。美花も、やれやれ、という顔で構える。



 曲がはじまると、全員が釘付けになった。

 兵馬と美花の正確無比の弓さばき、琉生斗の速弾き。三人が自分を見ろ、と言わんばかりに音を奏で、響かせる。


 ピアノの音色がコンサートホールを揺らさんばかりに響く。澄んだヴァイオリンの音色が重なり、一つの音のように聞こえる。

 この速さで、ピタリと合わす。この双子の面白いところはここだよな、と琉生斗は思う。

 弓の動きのシンクロに、観客は目を丸くしている。

 鐘が鳴る。鳴り響くーー。

 荒れ狂うエネルギーが、彼らから奏でられていく。

 琉生斗の指が面白いぐらいに速く飛ぶ。





 終わるのが勿体ないぐらいの、鐘が鳴りやんだ。



 ふぅー、誰かが息をついた。



 その後を拍手が追った。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

とある文官のひとりごと

きりか
BL
貧乏な弱小子爵家出身のノア・マキシム。 アシュリー王国の花形騎士団の文官として、日々頑張っているが、学生の頃からやたらと絡んでくるイケメン部隊長であるアベル・エメを大の苦手というか、天敵認定をしていた。しかし、ある日、父の借金が判明して…。 基本コメディで、少しだけシリアス? エチシーンところか、チュッどまりで申し訳ございません(土下座) ムーンライト様でも公開しております。

神子の余分

朝山みどり
BL
ずっと自分をいじめていた男と一緒に異世界に召喚されたオオヤナギは、なんとか逃げ出した。 おまけながらも、それなりのチートがあるようで、冒険者として暮らしていく。

幼い精霊を預けられたので、俺と主様が育ての父母になった件

雪玉 円記
BL
ハイマー辺境領主のグルシエス家に仕える、ディラン・サヘンドラ。 主である辺境伯グルシエス家三男、クリストファーと共に王立学園を卒業し、ハイマー領へと戻る。 その数日後、魔獣討伐のために騎士団と共に出撃したところ、幼い見た目の言葉を話せない子供を拾う。 リアンと名付けたその子供は、クリストファーの思惑でディランと彼を父母と認識してしまった。 個性豊かなグルシエス家、仕える面々、不思議な生き物たちに囲まれ、リアンはのびのびと暮らす。 ある日、世界的宗教であるマナ・ユリエ教の教団騎士であるエイギルがリアンを訪ねてきた。 リアンは次代の世界樹の精霊である。そのため、次のシンボルとして教団に居を移してほしい、と告げるエイギル。 だがリアンはそれを拒否する。リアンが嫌なら、と二人も支持する。 その判断が教皇アーシスの怒髪天をついてしまった。 数週間後、教団騎士団がハイマー辺境領邸を襲撃した。 ディランはリアンとクリストファーを守るため、リアンを迎えにきたエイギルと対峙する。 だが実力の差は大きく、ディランは斬り伏せられ、死の淵を彷徨う。 次に目が覚めた時、ディランはユグドラシルの元にいた。 ユグドラシルが用意したアフタヌーンティーを前に、意識が途絶えたあとのこと、自分とクリストファーの状態、リアンの決断、そして、何故自分とクリストファーがリアンの養親に選ばれたのかを聞かされる。 ユグドラシルに送り出され、意識が戻ったのは襲撃から数日後だった。 後日、リアンが拾ってきた不思議な生き物たちが実は四大元素の精霊たちであると知らされる。 彼らとグルシエス家中の協力を得て、ディランとクリストファーは鍛錬に励む。 一ヶ月後、ディランとクリスは四大精霊を伴い、教団本部がある隣国にいた。 ユグドラシルとリアンの意思を叶えるために。 そして、自分達を圧倒的戦闘力でねじ伏せたエイギルへのリベンジを果たすために──……。 ※一部に流血を含む戦闘シーン、R-15程度のイチャイチャが含まれます。 ※現在、改稿したものを順次投稿中です。  詳しくは最新の近況ボードをご覧ください。

龍の寵愛を受けし者達

樹木緑
BL
サンクホルム国の王子のジェイドは、 父王の護衛騎士であるダリルに憧れていたけど、 ある日偶然に自分の護衛にと推す父王に反する声を聞いてしまう。 それ以来ずっと嫌われていると思っていた王子だったが少しずつ打ち解けて いつかはそれが愛に変わっていることに気付いた。 それと同時に何故父王が最強の自身の護衛を自分につけたのか理解す時が来る。 王家はある者に裏切りにより、 無惨にもその策に敗れてしまう。 剣が苦手でずっと魔法の研究をしていた王子は、 責めて騎士だけは助けようと、 刃にかかる寸前の所でとうの昔に失ったとされる 時戻しの術をかけるが…

どこにでもある話と思ったら、まさか?

きりか
BL
ストロベリームーンとニュースで言われた月夜の晩に、リストラ対象になった俺は、アルコールによって現実逃避をし、異世界転生らしきこととなったが、あまりにありきたりな展開に笑いがこみ上げてきたところ、イケメンが2人現れて…。

某国の皇子、冒険者となる

くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。 転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。 俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために…… 異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。 主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。 ※ BL要素は控えめです。 2020年1月30日(木)完結しました。

一級警備員の俺が異世界転生したら一流警備兵になったけど色々と勧誘されて鬱陶しい

司真 緋水銀
ファンタジー
【あらすじ】 一級の警備資格を持つ不思議系マイペース主人公、石原鳴月維(いしはらなつい)は仕事中トラックに轢かれ死亡する。 目を覚ました先は勇者と魔王の争う異世界。 『職業』の『天職』『適職』などにより『資格(センス)』や『技術(スキル)』が決まる世界。 勇者の力になるべく喚ばれた石原の職業は……【天職の警備兵】 周囲に笑いとばされ勇者達にもつま弾きにされた石原だったが…彼はあくまでマイペースに徐々に力を発揮し、周囲を驚嘆させながら自由に生き抜いていく。 -------------------------------------------------------- ※基本主人公視点ですが別の人視点も入ります。 改修した改訂版でセリフや分かりにくい部分など変更しました。 小説家になろうさんで先行配信していますのでこちらも応援していただくと嬉しいですっ! https://ncode.syosetu.com/n7300fi/ この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

せっかく美少年に転生したのに女神の祝福がおかしい

拓海のり
BL
前世の記憶を取り戻した途端、海に放り込まれたレニー。【腐女神の祝福】は気になるけれど、裕福な商人の三男に転生したので、まったり気ままに異世界の醍醐味を満喫したいです。神様は出て来ません。ご都合主義、ゆるふわ設定。 途中までしか書いていないので、一話のみ三万字位の短編になります。 他サイトにも投稿しています。

処理中です...