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不穏なる鳴動編
第11話 仲間
しおりを挟む兵舎近くまで戻ると、フルッグが走ってきて東堂に抱きついた。
「ートードォーー」
涙で何も言えないフルッグの背中を、東堂はばしっと叩いた。
「気にすんな、とは言えねぇー」
「う、ん」
「けど、俺たちは、仲間だ」
「うんーー」
ありがとう、とフルッグは涙を流し続けた。
「聖女様、この度は、誠にありがとうございました」
トルイストが琉生斗に頭を下げた。
「いえいえ、どういたしまして」
心底嫌そうに琉生斗は答えた。
「大隊長!」
東堂が真面目な顔をして、トルイストに頭を下げた。
「大隊長にはすっげー!お世話になりました。俺は、大隊長の下で動く機会をいっぱいもらえて、すげぇー嬉しかったです」
「ーーそうか」
トルイストの目が優しく揺れた。
「違うとこ行っても、俺はーー」
「東堂ーー」
「なんだよ、黙れよ」
東堂は、口を挟んだ琉生斗を睨んだ。
「上にあがるだけだ」
「はぁ?上?」
東堂は空を見た。
「何言ってんのおまえーー」
「察しが悪いなーー。パボンさんが、育児の為に、陛下の近衛兵長一本でいきたいらしくてね、トルイストが師団長にあがるの!」
まったくソニーさんは、と琉生斗はぶつぶつ言った。
「あ、そうなんだー」
東堂は気が抜けた。
「また、よろしく頼む」
「あ、はい」
「そうだ。聖女様。マジャ砦の中にいた兵士達が、ずいぶんとふざけた奴らでしてね」
「ふーん」
「やりたい放題でしたが、この薬が落ちていました」
琉生斗は錠剤が入った瓶を渡される。
「ーー何の薬なのよ?」
東堂は、だんだん笑いが込み上げてきた。
「やらしい薬です。マンネリ解消にはよろしいかと」
トルイストは乱痴気パーティをしていた兵士を思い出し、溜め息をついた。
「余計なお世話だーーー!」
琉生斗は瓶を握りしめて叫んだ。
使うのかーー、と東堂は大笑いだ。
「トルイストはこんなん使う相手もいないのか?」
琉生斗の切り込みに、東堂は、ナイス!と心の中で友を讃えた。
「いまは、いません」
「ふーん。作らないの?」
「十四のときに幼馴染みがいなくなりました」
琉生斗と東堂は口を閉じた。
「来世でも会おうと約束しました」
トルイストは何でもない事のように言った。
「エンディ侯爵は何も言わないのか?」
「ええ。兄が継ぎますから、気楽なもんです」
侯爵だなんて、よく覚えてるなー、と東堂は感心した。
「トードォ、小隊長に推薦しておく」
「えっ?俺をですか!」
東堂は目を丸くした。
「ファウラは二十五歳で大隊長になった。おまえが奴を抜く事を期待している」
「は、はい!」
トルイストが去ると、東堂は飛び跳ねた。琉生斗が片手を出すと、そこに、バチンっとハイタッチだ。
「ひゃっほー!」
「こんな魔蝕に弱い坊っちゃん小隊長にするとはねー。騎士不足かぁ?」
「いやいや、実力に決まってんだろ!」
東堂は笑顔でよくわからん踊りを踊っている。
「よっぽどファウラが嫌いなんだなー」
琉生斗が言うと、東堂は動きをとめた。
「嫌いと言うより、何かあるぜあの二人。トルイスト大隊長が、ミハナの事を心配してたからな」
「心配?」
「いちゃついてんなら結婚したら、みたいな」
「へぇー」
「まぁ、できないなら別れさすか、とも言ってたけど」
トルイストらしい台詞に、琉生斗は笑った。
「公爵家だからなー。あそこの親父はバリバリ貴族だぞ。王妃か公侯爵家、それ以下はない家柄だ」
「はぁー。美花も厄介なのに惚れたな」
おまえ、どうにかできないの?と、東堂は聞く。
「花蓮が王妃になるぐらいだから、おれ達の地位は悪くないと思うんだけど。どこにでもジョーカーはいるからな。価値観の違う奴と結婚してもなー」
「あっ、大隊長と同じ事言ってる」
「例えば、おれはこれから、花蓮にダンスや教養何かを教えなきゃならないんだが」
「おまえが習うんじゃないんだ」
お后様教育だろ?
「あぁ。それに葛城も付き合わせて、そこそこ恥かかないレベルになったとする」
「おぅ」
「クリスや、陛下はそれでよくても、ハーベスター公爵は家柄重視なら、もはやお手上げだ」
「そうかー」
「第一、おまえから見てファウラってどうなの?」
「大隊長が言うには、何とも思ってない女に物は贈らないって」
「あぁ、あの剣。家紋が入ってたなーー」
琉生斗はしばらく黙っていた。何かを考えている。
「王妃様、兵馬の事は気に入ってんだけどな」
「あの詐欺師。そのうち、この国、掌握されんぞ」
「おれもそう思う」
うーん、と琉生斗は唸った。
「まぁ、ちょっと公爵と話してみるかー」
さすが、聖女。
難しい事はよろしく、であるーー。
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