ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。(第一部、第二部、第三部)

濃子

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不穏なる鳴動編

第11話 仲間

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 兵舎近くまで戻ると、フルッグが走ってきて東堂に抱きついた。

「ートードォーー」

 涙で何も言えないフルッグの背中を、東堂はばしっと叩いた。

「気にすんな、とは言えねぇー」

「う、ん」

「けど、俺たちは、仲間だ」

「うんーー」

 ありがとう、とフルッグは涙を流し続けた。

 

「聖女様、この度は、誠にありがとうございました」

 トルイストが琉生斗に頭を下げた。

「いえいえ、どういたしまして」

 心底嫌そうに琉生斗は答えた。

「大隊長!」

 東堂が真面目な顔をして、トルイストに頭を下げた。

「大隊長にはすっげー!お世話になりました。俺は、大隊長の下で動く機会をいっぱいもらえて、すげぇー嬉しかったです」

「ーーそうか」

 トルイストの目が優しく揺れた。

「違うとこ行っても、俺はーー」

「東堂ーー」

「なんだよ、黙れよ」

 東堂は、口を挟んだ琉生斗を睨んだ。

「上にあがるだけだ」

「はぁ?上?」

 東堂は空を見た。

「何言ってんのおまえーー」

「察しが悪いなーー。パボンさんが、育児の為に、陛下の近衛兵長一本でいきたいらしくてね、トルイストが師団長にあがるの!」

 まったくソニーさんは、と琉生斗はぶつぶつ言った。

「あ、そうなんだー」

 東堂は気が抜けた。

「また、よろしく頼む」

「あ、はい」

「そうだ。聖女様。マジャ砦の中にいた兵士達が、ずいぶんとふざけた奴らでしてね」

「ふーん」

「やりたい放題でしたが、この薬が落ちていました」

 琉生斗は錠剤が入った瓶を渡される。

「ーー何の薬なのよ?」

 東堂は、だんだん笑いが込み上げてきた。

「やらしい薬です。マンネリ解消にはよろしいかと」

 トルイストは乱痴気パーティをしていた兵士を思い出し、溜め息をついた。

「余計なお世話だーーー!」

 琉生斗は瓶を握りしめて叫んだ。

 使うのかーー、と東堂は大笑いだ。



「トルイストはこんなん使う相手もいないのか?」

 琉生斗の切り込みに、東堂は、ナイス!と心の中で友を讃えた。

「いまは、いません」

「ふーん。作らないの?」

「十四のときに幼馴染みがいなくなりました」

 琉生斗と東堂は口を閉じた。

「来世でも会おうと約束しました」

 トルイストは何でもない事のように言った。

「エンディ侯爵は何も言わないのか?」

「ええ。兄が継ぎますから、気楽なもんです」

 侯爵だなんて、よく覚えてるなー、と東堂は感心した。

「トードォ、小隊長に推薦しておく」

「えっ?俺をですか!」

 東堂は目を丸くした。

「ファウラは二十五歳で大隊長になった。おまえが奴を抜く事を期待している」

「は、はい!」

 トルイストが去ると、東堂は飛び跳ねた。琉生斗が片手を出すと、そこに、バチンっとハイタッチだ。

「ひゃっほー!」

「こんな魔蝕に弱い坊っちゃん小隊長にするとはねー。騎士不足かぁ?」

「いやいや、実力に決まってんだろ!」

 東堂は笑顔でよくわからん踊りを踊っている。

「よっぽどファウラが嫌いなんだなー」

 琉生斗が言うと、東堂は動きをとめた。

「嫌いと言うより、何かあるぜあの二人。トルイスト大隊長が、ミハナの事を心配してたからな」

「心配?」

「いちゃついてんなら結婚したら、みたいな」

「へぇー」

「まぁ、できないなら別れさすか、とも言ってたけど」

 トルイストらしい台詞に、琉生斗は笑った。

「公爵家だからなー。あそこの親父はバリバリ貴族だぞ。王妃か公侯爵家、それ以下はない家柄だ」

「はぁー。美花も厄介なのに惚れたな」

 おまえ、どうにかできないの?と、東堂は聞く。

「花蓮が王妃になるぐらいだから、おれ達の地位は悪くないと思うんだけど。どこにでもジョーカーはいるからな。価値観の違う奴と結婚してもなー」

「あっ、大隊長と同じ事言ってる」

「例えば、おれはこれから、花蓮にダンスや教養何かを教えなきゃならないんだが」

「おまえが習うんじゃないんだ」

 お后様教育だろ?

「あぁ。それに葛城も付き合わせて、そこそこ恥かかないレベルになったとする」

「おぅ」

「クリスや、陛下はそれでよくても、ハーベスター公爵は家柄重視なら、もはやお手上げだ」

「そうかー」

「第一、おまえから見てファウラってどうなの?」

「大隊長が言うには、何とも思ってない女に物は贈らないって」

「あぁ、あの剣。家紋が入ってたなーー」

 琉生斗はしばらく黙っていた。何かを考えている。

「王妃様、兵馬の事は気に入ってんだけどな」

「あの詐欺師。そのうち、この国、掌握されんぞ」

「おれもそう思う」

 うーん、と琉生斗は唸った。

「まぁ、ちょっと公爵と話してみるかー」

 さすが、聖女。

 難しい事はよろしく、であるーー。
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