ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。(第一部、第二部、第三部)

濃子

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不穏なる鳴動編

第7話 正義と悪 最終話 ☆

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 事件から数日後、教皇からこんこんと説教を受けてきた琉生斗が、帰るなりアレクセイに抱きついた。

「なぁ、アレク」

「どうした?」

 優しく、優しくアレクセイは琉生斗を抱きとめる。

「おれさ、おれが救う世界はキレイなんだって思ってた」

 アレクセイが頷く。

「そりゃあ、悪い奴だっていたけど、そんなの少ないだろうって思ってたんだよ」

 琉生斗の髪の毛を、アレクセイは撫でた。

「あそこは違ったな。悪い奴しかいなかった。おれ、マジで死ね、って思ったわ」

 アレクセイは琉生斗を抱き上げる。琉生斗は彼の首に腕をまわした。

「そしておれには力があった。あいつらを皆殺しにできる力がーー」

 囁くように琉生斗は告げる。

「こえーな、アレク。暴君だって、最初は暴君じゃねえ、何かのとっかかりで、坂を転げるみたいに、気付いたら取り返しがつかなくなるんだ」

 腕に力がこもる。

「罪悪なんかわかねー。やっときゃよかった、って思うよ」

 アレクセイが、きつく琉生斗を抱きしめる。

「こえーなぁ。力ってーー」

「そうだな」

「おまえは、すごいなぁー」

 琉生斗は独り言のように呟いた。

 ベッドに横たえ、アレクセイは琉生斗のシャツのボタンを外した。

「ま、しょうがないわな。おれができるのは人を救う事じゃねえ、魔蝕の浄化だ」

 望んでばかりではきりが無い。

「獣人族は、私の領地に好みの土地があったらしく、しばらくはそこで暮らしたいそうだ」

「そっかー」

「彼らにあった、学び舎を作ろうと思う。デズモンド国や他の国にいる獣人達も、来れるようにはしたいと考えている」

 琉生斗はアレクセイの目を見た。

「私の前では何でも言ってくれ」

 うん、と琉生斗は頷いた。

「なぁ、アレク」

「あぁ」

「どこでもさ、どんな国でも、おまえがいるから、きらきらとキレイに見えるのかもなーー」

 アレクセイが動きを止めた。



 彼の深い海の藍色の瞳をじっと見つめ、琉生斗は頬を寄せた。

「どんな世界でもいいんだ。アレクが側にいてくれるんなら」

 二人は激しくキスを繰り返した。

 琉生斗は泣いた。

 アレクセイが愛し過ぎて、涙があふれた。





 どんな世界でも、おれの側にアレクがいればいい。

 

 それ以上は何も望まないーー。





「誕生日プレゼント?」

「あぁ、探してんだけどよー」

 まあ、日が過ぎまくってんですがーー。

 朝食の時間。花子(雌牛)の乳とバナナで作ったバナナオレの美味しさに、聖女様はご満悦だ。

 浄化の帰りに服屋へ寄った理由を追及され、とうとう白状させられる。
 まあ、獣人への興味の方が強かったのだがーー。

「何がいいかなーって、考えてたら、日ばっかり過ぎちゃってよー」

 気恥ずかしそうに、琉生斗は横を向いた。

 そんな奥さんに、アレクセイはキスをする。バナナオレの味がした。

「では、ルートをプレゼントしてもらおう」

「なんだよ、その肩たたき券みたいな扱いは」

 おまえの奥さんなんだし、プレゼントにならねぇーだろ、と琉生斗は続ける。

「もっと好きにしたいー」

 耳たぶを甘咬みされる。

「これ以上何ができるんだかーー。そこから離れてくれ」

 琉生斗は拒絶はしなかった。むしろ身体はウェルカムであるが、これはプレゼントではないだろう。

「トードゥが教えてくれたのだがなー」

 アレクセイは琉生斗の耳元で囁いた。

「ーー。それ、何がいいんだ?あいつの話に耳を貸すなよ。変なのばっかり観てるんだから」

 どうやって観るのか、アレクセイは悩んだ。

「トードゥは誰かのを見たのか?」

 いい趣味ではないな。

「あっ、そっか、エロ動画とかないもんなー、おれはばあちゃんに禁止されてたけどさーー」

 あっちにはそういうものがあって、と説明をする。

「おれも、ちょっとは観とけばよかったなー」

「なぜだ?」

 他所の男女のそういうモノを見たかったのか、とアレクセイは眉根を寄せた。

「いや、参考にさー。アレクにもっと色々してやれたかもしれねーじゃん」

 もっとも、おばあちゃんの許可があったとしても、ゲイの方は観なかっただろうがーー。

「ルートーー」

 アレクセイがうれしそうに、きつく身体を抱き締める。

 何度もキスを繰り返し、そろそろ会議の時間だと、アレクセイは残念そうに身体を離した。

「すまないな」

「いやいや、お仕事がんばってね、旦那様」

 キスをして、旦那様は王宮へ出て行く。

 琉生斗は大欠伸をしてから、

「寝よう」

 と、魔導洗濯機をセットしてから寝室に戻った。

「いやはや、タフだねー、アレクは」

 琉生斗は髪の毛を掻いた。



 おれをプレゼントって、おれをプレゼントって、



 なんじゃそりゃーー。



 思わずにやついてしまう。

 もう、アレクったらー、と琉生斗はうれしそうに布団の上ではしゃいだ。

 気付けば、ヤバい時間まで寝ていた聖女様は、洗濯物を洗い直したそうだーー。



 王都中を駆けた噂の終焉は、ルッタマイヤの一言だった。

「なんでも、殿下は聖女様が愛しすぎて、何も手につかず、仕事もできなくなってしまったので、少し距離をとったらしいですわ」

「きゃあああー!」

「きゃーーん!」

 イリアとヒッタルナの悶絶と悲鳴。

 噂は一日で広がり、やはりそうだったか、とアダマスは胸を撫で下ろしたそうだ。



「噂があれで収まるって、もしかしてアレクってヤベー奴なのか?」

「うん。君もね」

 兵馬は相手にしなかったというーー。
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