ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。(第一部、第二部、第三部)

濃子

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不穏なる鳴動編

第3話 正義と悪 3

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 どんな状況でも魔蝕は出る。

 火山のように噴き上がる黒い闇に、結界師達が青ざめながら結界を張っている。

 逃げ遅れた人々の安否が気になる中、聖女はあらわれた。今回の発生場所は自国の西側、ルナ修道院に近い町だ。山が近い為、陰も多くなるのだろう。

「頼むぜ、アレク」

 アレクセイは頷き、強力な結界をかける。

 闇の噴き上がりが抑えられていく。

 結界前に跪き、琉生斗は聖女の証に祈りを捧げた。


 光があふれ、闇を覆い尽くしていく。

 まばゆい光の中へと闇を追いやり、強い輝きをもって、琉生斗は魔蝕を浄化させた。

 取り込まれていた人達も、無事な姿を見せる。

「よかった。久々だったけどな」

「そうだな」

「おまえの結界はやっぱりすげぇーよな」

 琉生斗は唸った。

 おれはあんまり成長しねえなー、と琉生斗は心臓に手をやる。

 時空竜の女神様の鱗、二枚になって、ちゃんと機能しているのだろうか。
 腐ってないか、心配になってくる。



「はあー、町子大丈夫かな?」

 おれが行きたかったなー、と琉生斗は呟いた。

「行かせない」

 行かせるわけがない、とアレクセイがきつく言った。

「女の子よりおれのがいいだろー」

「対人なら、マチコの方が強い」

 まー、そうですけど。



「聖女様と殿下、ヤバいんだよね?」

「殿下と別居中なんじゃー」

「普通だね……」

 ひそひそと町の人の声が聞こえる。

 琉生斗は慌ててアレクセイから離れた。

 ーー町の外れで落ち合うぞ。

「ばーか!ひとりで帰れよ!」

 まわりに聞こえるように大声で叫んだ。

 ーーわかった。


 アレクセイは深く溜め息をついた。なぜ、こんな目に合わなければならないのか。

 理解に苦しむーー。



 町の中を走る琉生斗は、フワフワな耳を持つ獣人とすれ違った。

 結構いるんだな、と見ていると、獣人は服屋に入って行く。

 良い物あるかな?と興味にかられ、琉生斗は後を追った。


 店はどこの国の服を売っているのか、原色の衣服が並んでいる。そこに、大粒のビーズで作った長いネックレスがかかっていた。見ると、貝殻だ。

「へー、しゃれてんなー。こういうのはーー」

 アレクには合わないな、と秒で考え直す。

 先程の獣人は、服を持って試着室に入った。

 試着できるんだ、と真っ赤な綿の無い半纏のような服を見ていると、



 ゴトッ、という音がした。



 何の音か、素早くまわりを見回すが、店は静かなままだ。 



 しばらくして、獣人が気になり試着室の方を見た。

 さっきの人、出てきてねえよなーー。

 

 琉生斗は試着室に近付いて声を掛ける。

「すみません、代わって欲しいんすけど」

 返事がない。見ると先程までいた店の店員もいない。

 琉生斗はカーテンを少し開けた。



 誰もいない。

 入ってみると、特に変わったところもなく、鏡と掃除道具が置いてあった。

「いつ、出た?」

 カーテンぐらい開けとくものだがーー。

 琉生斗は試着室の中に足を入れた。



「いっ!」

 急に床がへこんだ。足元から琉生斗は落ちる。咄嗟に、掃除道具のモップを掴む。

 琉生斗は奈落に沈んだ。

 



「えっ?施工ミス?」

 下に落ちた琉生斗はまわりを見渡す。

 店の店員が気付き、琉生斗に近付き眉を顰めた。

「なんだよ、人間かよ」

 まあ、たしかにそうだ。

「獣人にしか反応しねえのにー」

 腕に蛇の入れ墨をした男は、拘束具を使って琉生斗の手足の自由を奪った。

「えっ?」

 なんだ、こりゃ。

「これぐらい集めればいいだろう。出るぜ」

 どこにだろうかーー。



 うわ、アレクどうしようーー。



 転移魔法により、琉生斗は移動させられた。

 気持ち悪さを我慢しながら目を開けると、目の前に船があった。

 自国には海がないから、川から船が出て海へと合流する。神聖ロードリンゲン国は大きな川が多い。大型船もよく行き交っている。

 琉生斗は落ちたときに、偶然頭にのった白いモップにより、髪の毛と顔の半分が隠れている。

 この誘拐犯達が自分の顔を知っているかは知らないが、面を隠せるのはありがたい。

 

 彼らは、勝手に人をさらって外国に売り飛ばす、奴隷商人だろうかーー。

 試着室の底、って七不思議じゃなかったんだなーー、と琉生斗は思う。

 男が先ほどの獣人と琉生斗を船に乗せた。見た目は普通の船だ。
 特徴もない。

 

 ただ、琉生斗は内心、焦っていた。

 アレクセイと通信ができないのだ。

 ーーなんで答えてくれねーんだよ!



 船は出航した。



 おれはどうなるんだよーー!
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