ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。(第一部、第二部、第三部)

濃子

文字の大きさ
上 下
98 / 410
不穏なる鳴動編

第1話 正義と悪 1☆ やや18禁

しおりを挟む

 その店で男は待っていた。

 毎週同じ時間に同じ席でー。

 もとより来てもらえるとは思っていない。だが、万が一、もしかしたらがあるー。

 煙が立ちのぼる店内に、一人の少年が足を入れた。服は黒い長めのローブ、顔は頭からベールをかけていて見えない。

 少年は男の席の前に立つ。

 男は笑った。

「ーー来て下さったんですね」

 騒がしい店の中、少年の声はよく通った。

「あぁ、よろしく」

 聖女ルートは男の目の前に座った。





 本物だ、すごいぞ。

 警備隊、上級警備長オルセは、喉を鳴らした。

 剣技、魔法とも最強と謳われるアレクセイ殿下の寵愛を、一身に受ける聖女ルート。
 二人が並んだとしても、殿下の美貌に劣る事のない美しさ。

 うまくやろうー。

 オルセは逸る鼓動と、たぎる下半身を押さえつけるのが大変だった。

「ここを出ましょう」

 オルセの言葉にルートは頷いた。

「はい~」

 少し間延びした返事に、オルセは首を傾げた。

「ついて来てください」

 ルートはオルセの後ろを歩いた。

 やったぞー。信じられるか?聖女ルートがもうすぐ俺のものにーー。

 またしても、オルセの喉は鳴った。

「ーー殿下は?」

「最近、ちょっとね……」

 そうかー、噂話は本当なのだなー。

 公の場で二人揃って見る事がなくなった、との噂を聞いた。

「俺、いえ、わたしがお慰めいたしますからね」









「なぁ、アレク。最近うちの国で獣人を見ねえか?」

 琉生斗の言葉にアレクセイは頷いた。

「そうだな、元々自国ではあまり見ないのだがー」

 赤子への加護の帰り、気になっていた事を話す。アレクセイは相槌を打ってくれたが、特に問題にするような事ではないのだろう。

「観光かな?」

 琉生斗はアレクセイの腕にしがみつくように、ピタリとくっついている。

「王都は観光名所が少ない」

「そうだよな。城なんか一般公開日以外入れないもんな」

 話しているうちにも、獣人が通り過ぎた。獅子の顔を持つ男性だ。

「夏は暑そうだ」

「気温に適応する調節機能が、体内にある」

「アレクは何でも知ってるな」

「留学先の近くに獣人の国があった。友好国として科目になっていたからな」

 へー、琉生斗は目を丸くした。自分の話をするなんて珍しい。

「ちす、殿下!よぅ、ルート!」

 前から東堂が、モロフとフルッグと歩いてきた。

「おぉ、東堂達。相変わらずつるんでんな」

 少し羨ましい。

「そっちこそ、距離感おかしくねえか?」

 アレクセイにくっつく琉生斗を見て、東堂は呆れる。

「そうかな?」

 もはや、琉生斗の感覚が崩壊している。
 誰も注意ができないのだから、そうなってしまうのだろう。

「おまえら、休暇なのか?」

「おぅ。フルッグが親父さんに手紙出すっていうから、それ出してから飯行くんだ」

「親父さんに手紙出すんだー」

 えらいなー、と琉生斗は感心する。

「フルッグの親父さんは、北国境ガンド領のヨハン砦の勤務だよな?」

 琉生斗が尋ねると、フルッグが目を丸くした。

「よく、ご存知ですね」

 驚かれて琉生斗はピースサインをする。

「フルッグはマメだぜー、しょっちゅう書いてんの。よくそんなに書くことがあるよな」

「いやいや、トードォ達が来てから書くことが増えたよ」

 フルッグがにやけている。琉生斗は目を細めた。

「ーー東堂だけにしとけよ」

 フルッグは目を泳がせた。

 やってんなー、こいつー、と琉生斗は頬を引きつらせた。

「そういや、最近まで桜が咲いてただろ?こっちは花見とかしねえんだな」

 東堂は少しがっかりしたように言う。

「あれ、桜じゃねえよ。アーモンドだよ」

 えっ?という顔を東堂はした。

「まぁ、厳密に言うと品種は向こうとは違うけど、アーモンドの花だよ」

「食べるヤツだよな?」

「そう。チョコレートとかに入ってる」

 違いがわかんねーな、と東堂は頭を掻いた。

「四月より三月の方が行事が少ないから、来年は花見も考えるか」

 琉生斗はアレクセイの顔を見る。旦那様は琉生斗を見て頷いた。

 花見計画も、頭の中の年間スケジュールに入れなきゃなーー。

「おまえはイベント屋にでもなるのか?」

「いいな、それ。職業聖女だけじゃ、将来があやしくてしょうがない」

 東堂は声を出して笑った。

 アレクセイに頭を下げて、三人は郵便屋の方向へ歩いて行った。

「なんだよ、アレク。なんかおかしかったのか?」

 薄く笑っているアレクセイに、琉生斗は眉を顰めた。

「いや、ルートが来年の話をするときにー」

 おかしいのか?生きてるのかわかんないから?

「私も側にいるのだろう?それが、嬉しくて」

 やっだー、アレクったらーー、と琉生斗は道端でアレクセイに抱きついた。

 通行人達は、微笑ましくその光景を見守った。

 





 ただ、その直後二人に不穏な噂が立ち込めた。



 ーーおい、アレクセイ殿下と聖女様、別居寸前らしいぜ。

 ーー聞いた聞いた。聖女様のわがままに殿下が耐えられなくなったらしい。

 ーー魔蝕の浄化もあるのに、どうするんだろうな。



 噂が王都を駆け抜けた。





「アレクセイ、おまえどうなっているのだ?」

 すぐに息子を呼び出したアダマスは、噂について言及した。クリステイルも不安な顔をしている。

「ルートのわがままなど、おまえにとっては何でもない事だろ。別居の噂まで出ているが、どうなのだ?」

 父に詰め寄られ、アレクセイは溜め息をついた。

「いまは話せません。いずれ」

 アダマスとクリステイルは目を見張った。アレクセイは執務室を出た。

 いつもの覇気に似た圧がない。

「お、おい。クリステイル。どうする?」

「いやー、いずれ、って言われてますから、しばらく様子を見たほうがー」

「次は離婚の報告かもしれないのだぞ!」

 アダマスは頭を抱えた。その姿を見てクリステイルは息を吐いた。

 もう少し信用したらいいのにーー。





 マシュウと廊下を歩いていた琉生斗は、前から歩いていこうくるアレクセイを見て、視線を落とした。軽く頭を下げる。
 アレクセイは一瞥もせずに静かに立ち去った。



 それを見た、メイド達は腰を抜かした。

 ーーちょっと本当よ!

 ーーいやーん!

 彼女達はその日、仕事にならなかったらしい。



 魔法騎士団も噂に荒れた。

「嘘だよな?」

「いや、目も合わせないらしいぜ」

「どうなんの?」

 誰も訓練に身が入らない。

 東堂と美花は質問責めにあった。しかし、彼らも答えられる事がなく、首を振るしかなかった。



 すれ違っても目も合わせないのだ。
 異常すぎる光景に、皆が噂を信じるしかなかった。





 

 の、だがーー。



「あっ、アレクーー」

 琉生斗はアレクセイの頭を抱きながら、彼に乳首を舐められていた。

「ちょっとそれ、ヤバいーー」

 逃げようとするが、しっかりと身体を押さえ込まれていて動けない。快感の逃げ場がない。

「ルート、挿れていいか?」

「うんーー。やん!一気に挿れんなよ!」

「まちどおしすぎてーー」

 キスが繰り返される。

 二人はいつものように愛し合っていた。

「アレクー、好きだー」

 琉生斗はしがみついた。

「あぁ」

 余裕がないのか、アレクセイは短い返事だけをした。愛くるしい妻が、自分のもたらす行為に、頬を上気させ喘いでいる。

 こんなにも愛しい妻と、別居だとーー? 



 たとえ逃げだそうと、世界の果てまで追いかけるがなーー。



 琉生斗が眠った後、アレクセイは剣の鍛錬に外に出た。剣を構え、魔法で重量を増やす。

 斜めに構え振りおろした後、すぐに次の攻撃に移る、剣の動きは止めない。足捌きといい、アレクセイは動きを止めることがない。常に攻撃し続けるのだ。

「殿下ーー」

 低い声が響いた。

「どうした?」

 アンダーソニーが姿を見せる。

「ーー接触に成功しました」

「そうかー」

「ではー」

「すぐに行く」

 アンダーソニーが去った後も、少しの間アレクセイは、剣を振り続けた。本来は、納得いくまで振り続けるのだが。

「さて、どうなるか」
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

とある文官のひとりごと

きりか
BL
貧乏な弱小子爵家出身のノア・マキシム。 アシュリー王国の花形騎士団の文官として、日々頑張っているが、学生の頃からやたらと絡んでくるイケメン部隊長であるアベル・エメを大の苦手というか、天敵認定をしていた。しかし、ある日、父の借金が判明して…。 基本コメディで、少しだけシリアス? エチシーンところか、チュッどまりで申し訳ございません(土下座) ムーンライト様でも公開しております。

神子の余分

朝山みどり
BL
ずっと自分をいじめていた男と一緒に異世界に召喚されたオオヤナギは、なんとか逃げ出した。 おまけながらも、それなりのチートがあるようで、冒険者として暮らしていく。

一級警備員の俺が異世界転生したら一流警備兵になったけど色々と勧誘されて鬱陶しい

司真 緋水銀
ファンタジー
【あらすじ】 一級の警備資格を持つ不思議系マイペース主人公、石原鳴月維(いしはらなつい)は仕事中トラックに轢かれ死亡する。 目を覚ました先は勇者と魔王の争う異世界。 『職業』の『天職』『適職』などにより『資格(センス)』や『技術(スキル)』が決まる世界。 勇者の力になるべく喚ばれた石原の職業は……【天職の警備兵】 周囲に笑いとばされ勇者達にもつま弾きにされた石原だったが…彼はあくまでマイペースに徐々に力を発揮し、周囲を驚嘆させながら自由に生き抜いていく。 -------------------------------------------------------- ※基本主人公視点ですが別の人視点も入ります。 改修した改訂版でセリフや分かりにくい部分など変更しました。 小説家になろうさんで先行配信していますのでこちらも応援していただくと嬉しいですっ! https://ncode.syosetu.com/n7300fi/ この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

せっかく美少年に転生したのに女神の祝福がおかしい

拓海のり
BL
前世の記憶を取り戻した途端、海に放り込まれたレニー。【腐女神の祝福】は気になるけれど、裕福な商人の三男に転生したので、まったり気ままに異世界の醍醐味を満喫したいです。神様は出て来ません。ご都合主義、ゆるふわ設定。 途中までしか書いていないので、一話のみ三万字位の短編になります。 他サイトにも投稿しています。

幼い精霊を預けられたので、俺と主様が育ての父母になった件

雪玉 円記
BL
ハイマー辺境領主のグルシエス家に仕える、ディラン・サヘンドラ。 主である辺境伯グルシエス家三男、クリストファーと共に王立学園を卒業し、ハイマー領へと戻る。 その数日後、魔獣討伐のために騎士団と共に出撃したところ、幼い見た目の言葉を話せない子供を拾う。 リアンと名付けたその子供は、クリストファーの思惑でディランと彼を父母と認識してしまった。 個性豊かなグルシエス家、仕える面々、不思議な生き物たちに囲まれ、リアンはのびのびと暮らす。 ある日、世界的宗教であるマナ・ユリエ教の教団騎士であるエイギルがリアンを訪ねてきた。 リアンは次代の世界樹の精霊である。そのため、次のシンボルとして教団に居を移してほしい、と告げるエイギル。 だがリアンはそれを拒否する。リアンが嫌なら、と二人も支持する。 その判断が教皇アーシスの怒髪天をついてしまった。 数週間後、教団騎士団がハイマー辺境領邸を襲撃した。 ディランはリアンとクリストファーを守るため、リアンを迎えにきたエイギルと対峙する。 だが実力の差は大きく、ディランは斬り伏せられ、死の淵を彷徨う。 次に目が覚めた時、ディランはユグドラシルの元にいた。 ユグドラシルが用意したアフタヌーンティーを前に、意識が途絶えたあとのこと、自分とクリストファーの状態、リアンの決断、そして、何故自分とクリストファーがリアンの養親に選ばれたのかを聞かされる。 ユグドラシルに送り出され、意識が戻ったのは襲撃から数日後だった。 後日、リアンが拾ってきた不思議な生き物たちが実は四大元素の精霊たちであると知らされる。 彼らとグルシエス家中の協力を得て、ディランとクリストファーは鍛錬に励む。 一ヶ月後、ディランとクリスは四大精霊を伴い、教団本部がある隣国にいた。 ユグドラシルとリアンの意思を叶えるために。 そして、自分達を圧倒的戦闘力でねじ伏せたエイギルへのリベンジを果たすために──……。 ※一部に流血を含む戦闘シーン、R-15程度のイチャイチャが含まれます。 ※現在、改稿したものを順次投稿中です。  詳しくは最新の近況ボードをご覧ください。

龍の寵愛を受けし者達

樹木緑
BL
サンクホルム国の王子のジェイドは、 父王の護衛騎士であるダリルに憧れていたけど、 ある日偶然に自分の護衛にと推す父王に反する声を聞いてしまう。 それ以来ずっと嫌われていると思っていた王子だったが少しずつ打ち解けて いつかはそれが愛に変わっていることに気付いた。 それと同時に何故父王が最強の自身の護衛を自分につけたのか理解す時が来る。 王家はある者に裏切りにより、 無惨にもその策に敗れてしまう。 剣が苦手でずっと魔法の研究をしていた王子は、 責めて騎士だけは助けようと、 刃にかかる寸前の所でとうの昔に失ったとされる 時戻しの術をかけるが…

どこにでもある話と思ったら、まさか?

きりか
BL
ストロベリームーンとニュースで言われた月夜の晩に、リストラ対象になった俺は、アルコールによって現実逃避をし、異世界転生らしきこととなったが、あまりにありきたりな展開に笑いがこみ上げてきたところ、イケメンが2人現れて…。

某国の皇子、冒険者となる

くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。 転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。 俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために…… 異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。 主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。 ※ BL要素は控えめです。 2020年1月30日(木)完結しました。

処理中です...