ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。(第一部、第二部、第三部)

濃子

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結婚編

第93話 四月二日 晴れのち花 最終話

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「か、花蓮!」

 琉生斗は仰天した。

 花蓮が王妃様が着ているような、ウエストを詰めた淡い桃色のドレスを着ている。

 ふわふわな髪の毛も、トップに束ねている。

 クリステイルが、少しにやけた。琉生斗と目が合うと、盛大に吹き出す。

「ま、まさかーー」

「陛下、王太子殿下から、紹介したい方がおられるという申し入れがありましたわ」

 ラズベリーが頭を下げた。

「よい。名を申せ」

「はい。門真花蓮と申します。よろしくお願いいたします」

 花蓮はかわいらしくお辞儀をする。

「陛下、私が結婚を考えている者です」

「そうか。めでたい話だ。カレン、王太子をよろしく頼む」

 アダマスはクリステイルの考えを理解したのか、上機嫌になった。

 信じられないのは聖女様だ。

「お、おい、花蓮」

「なあに、ルートくん」

「おまえ、何考えてんだよ!おまえはおれの花蓮だろ!」

「うん。ルートくんの花蓮じゃないわ」

「おまえ、王妃だぞ、わかってんのか!おまえがマリア・テレジアになるのは無理だ!あいつは絶対、不誠実だ!あの親父の血が一番濃いぞ!すぐに浮気するぞ!いいのか!」

 琉生斗は必死で止める。

「うーん。ルートくん、知らないの?」

「何を」

「男はそういう生き物なのよ」

「花蓮ーー。おれはおまえには幸せになって欲しい、ナスにはやらねえが、おまえになら来世のアレクを譲ってもいい!」

 聖女は混乱している。

「ほら、父上。もう、来世の兄上も自分のものと思ってるんですよ。怖すぎません?」

 というクリステイルに対して、当然、という顔をしている息子のほうが怖いだろ、とアダマスは感じた。

「ルートくん、幸せは自分でなるものよ」

 花蓮ーー。と琉生斗は泣き出しそうである。

「だいたいおまえ、王太子妃の仕事なんかできるのか?」

「兵馬君が、できない事はルートくんがしてくれるって。だって、本当は、ルートくんのお仕事でしょ?」



 ん?



「それは、まさか、アレクが兄貴だからという事を言っているのか?」

「うん。ルートくんなら大丈夫」

 クリステイルーー。

「おまえ、改心したと思いきや、アレクが王位に立たないこと、恨んでねえかぁ?」

「さて、どうでしょうか?」

 にこにことクリステイルはかわす。

「てめー、どういうつもりだ。花蓮泣かしたら国沈めるぞ」

 琉生斗は眉をしかめて、クリステイルに詰め寄った。完全に悪役聖女様である。

 おー、怖いーー。

「泣かさなかったらいいんですよね?」

「無理!おまえには無理!」

「教皇には許可をもらいました。喪があけ次第婚約発表をしますから」

「花蓮ーー」

「諦めたら?」

 兵馬が部屋に入ってくる。

「失礼します。陛下」

「かまわん」

「王太子は最初から花蓮狙いだよ」

「へっ?」

「外れたとき、落ち込んでたじゃん」

 琉生斗は一年前の記憶を辿った。

「女子が聖女じゃなかったからじゃねえのか?」

「それなら姉さんのときに、もっと落ち込んでるはずなんだよねー」

「そういやおまえ、アレクがおれに告ってきたとき、やたら反応が早かったなーー」

 こいつの性格なら、驚いたり、自分が代わります、とか言いそうなもんだがーー。

「意外に一途なんです」

 クリステイルは笑った。

「兄上が、まさかあんな事を言い出すとはーー。わからないものですよね」



 そこは兄弟だったかーー。

 

 琉生斗は落ち込んだーー。



「なるほど、これで聖女様は仲間を置いて、国を出る事はないな」

 一件落着、アダマスは手を叩いた。

 

 他の者が琉生斗と行こうと、王妃になった花蓮は出ては行かないだろう。  
 早めに子供を作るのもいいかもしれないーー。

 自分よりも仲間を重んじる彼の事だ、それは十二分に利用しますよ、とクリステイルは思っている。

 しかし、琉生斗は諦めなかった。

「花蓮、この国はひでー国だ。あっちが浮気して別れる場合でも、慰謝料は相談だし、財産はくれないんだぜ。貧乏まっしぐらだ」

「あら、ルートくん、私貧乏は大丈夫よ。それに、追い出されてもミハエルさんが帰ってきてもいいっていうもの」

「なんて、けなげなんだ。やっぱり女は職がなきゃいけねー」

「私どれだけひどいやつなんですかーー」

 クリステイルは剥れた。

「くそ、東堂が聖女だったらーー」

 クリステイルは苦笑し、アレクセイは、ないな、と思った。

「兵馬!おまえ、今からでも聖女にならねぇか?」

 琉生斗は兵馬に聖女の証を押し付けた。

 バチッ、と聖女の証が水色の光を放った。

「あっ、つけたな」

 兵馬が、忌々しそうに琉生斗を睨んだ。

「クリス、水色は何だ?」

 琉生斗がクリステイルを見ると、彼は何かを考えているような顔をした。

「ん?聖女関係か?」

 彼らしくない表情に、琉生斗がどうしようと思っていると、兵馬に呼ばれる。

「ルート、花蓮の資産の話」

 兵馬が話を変えた。

「おぉ」

 さすが兵馬。花蓮に資産を与えて、無一文で放り出されるのを防ぐ考えだ。

「アンデラ山の近辺の山、買いまくって調べたよ」

「金額いけたか?」

「たいしたことなかった」

 兵馬はあっさりしたものだ。

「で?」

「あったよ。ルートの読み通りだ」

「やっほー!花蓮の名義にできるか!」

「任せといて」

 二人は手を叩いて喜んだ。

「アレク、あいつに連絡しろ。宝石大好き王太子」

「ラルジュナか」

「ペイン石いるか聞いてくれ」

「ペイン石だと!」

 アダマスが大声を揚げた。

「まさか、本当にペイン石が!」

「お、陛下もこの石をご存知でーー」

 琉生斗は研磨が終わったオレンジ・レッドの石を、アダマスに渡した。

 アダマスは石をじっと見て、興奮している。

「本物だ!」

 極めて希少価値が高い宝石だ。まだ、採れるところが少ないはずなのにーー。

「なんだ、陛下も欲しいのかーー。兵馬」

「まあ、これ一つで、この値段です。はい絶対まけません。いらないなら他を当たるだけですから」

 アダマスは、喉から手が出るほど欲しい宝石に、今まさに飛びつこうとしている。

「採掘もやりすぎないようにな」

「なぜ、わかったのだ?」

 アダマスが尋ねた。

「あぁ、アンデラ山に登ったときに見つけて、そこで会った南地表の女神様が、他にも同じ石があるってたくさんくれたんだ。もしかしたら、近隣の山でも採れるかなーって」

 これで、花蓮もスーパー金持ちだぁ、と琉生斗は大喜び。

「なんで、女神様方は、ルートに甘いかなーー」

 アダマスは盛大な溜め息をつく。

「あんな奴、いつでも別れていいからな」

 琉生斗は花蓮にしつこく言う。

「花蓮がいいなら、僕はいいんだけどねーー。あっ、殿下、王太子と話ついたー?金額このぐらい」

 兵馬は諦めがよかった。

   

 くそ、やっぱりむかつくな、うまいこと人を出し抜きやがってーー。

 

 花蓮の近くにいるクリステイルに、蹴りをかましたい琉生斗さんだ。



 可哀想にミントは、琉生斗の籍を入れた発言にショックを受け、何も考えられなくなっていたーー。



 早すぎる、失恋ですわーー。









「おっ、すげぇーな」

 断崖絶壁のシルビア岬。

 はじめて訪れてから、度々来ている琉生斗お気に入りの場所だ。

 夕日に赤く染まった断崖絶壁、眼下に広がる海。

「危ない」

 アレクセイがいつもと同じ心配をする。

「平気だって」

 だって、おまえにくっついているんだしーー。

 腕を絡ませて、琉生斗はアレクセイに身を任せている。

 色々あったなー、この一年ーー。



 まさか、男と結婚するとは思わなかったのだがーー。



 アレクセイがキスをしてくる。

 

 唇が離れ、琉生斗は少し不満そうな顔をした。



 短い。



 伝わったのか、アレクセイがくすり、と笑う。

「あれから、もう一年が経とうとしている」



 そうだ、あのとき、アレクはすごく辛そうだった。そのまま抱き締めたいのを、我慢したのだろう、今ならわかるーー。

「アレクは本当、おれが好きだなーー」

 琉生斗は笑う。

 夕日が眩しくてしょうがない。



 そのとき、突然、花吹雪が舞った。

 近くに花なんかないのにーー。女神様だな、と琉生斗は上を見上げる。

 だが、女神様の姿を、琉生斗は見ることが出来なかった。涙があふれて視界が滲んだからだ。

 きっと涙が出るのは、夕日が目に染みたからだろうーー。

 

 

 四月二日、天候は晴れのち花。



 琉生斗とアレクセイは、この日家族になったーー。
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