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結婚編
第91話 四月二日 晴れのち花☆
しおりを挟む「役目を終えられた神竜は、こちらの新たな守護竜になられます」
「えっ?」
琉生斗は目を見開いた。
「お好きなものの守護竜になるそうです」
「そうなんだーー」
「ちなみに、両親が亡くなられるまでは人間界におられます」
琉生斗は肩の力が抜けていくのを感じた。
「まさか」
アレクセイが何かに気付いた。
「そう、スズ様にいつもくっついておられた子竜、あの方が、スズ様とコランダム殿下の神竜です」
「ペットだと、仰っていたがーー」
「そういうしかないでしょうねーー。今は、薬草の守護の勉強をされていると、ティン殿から伺っています」
えっ?
薬草、って何か今閃いたぞーー。なんだっけーー。
「あっ」
ティンさんのところにいた美少年。
「もしかして、歳とらない?」
「神竜ですから、寿命はなごうございます」
あ、そうなんだ、そうなんだ。
琉生斗は考えがまとまってきていた。
「妊娠の時期も重要です。何年かに一度魔蝕の少ない年があります。それを調べてなさる方がよろしいかと。ちなみに、スズ様は、三十三歳のときに神竜をお産みになられました」
「へー、何歳で結婚したの?」
興味津々で、琉生斗は尋ねた。
「コランダム殿下が、二十三歳、スズ様は二十歳であられた」
「そうなんだ」
「聖女様と同じ歳にこちらにこられましたが、その純潔を、結婚まで守られたそうです」
琉生斗とアレクセイは黙った。聞かなきゃよかった。
琉生斗は嬉しい気持ちになり、アレクセイに抱きついた。
夫婦は子供どうこうじゃないが、アレクセイとの間に子供が生まれるなんて、ちょっとドラマチックだ。
「必ず神竜を宿していただかないといけません。ましてや、聖女様は男性。女性でも身体をこちらに変えるのが負担になりますし、過去にもおられましたが、なかなか難しかったと聞きます」
教皇の言葉に、琉生斗は口をへの字に曲げる。
それは、プレッシャーだなーー。
「でも、おれ以外に男の聖女いたっけ?」
年表をさらっても覚えがない。
「聖女ヨシノ様がいらっしゃるでしょ?」
「あぁ、国王ロードクロサイトのときの」
「本名は良之新様とおっしゃいます」
「そうなのかーー」
女性の名で残るのかーー。おれの名前の場合、どうすんだろー。
「えぇ、残る文献では、四十五歳で神竜を出産なされたご様子でーー」
「ーーめっちゃ焦っただろうな」
心から同情する。
「がんばって、妊活するよーー」
そんな問題に直面するとはな、まったくおれってやつはーー。
幸せなやつだよなーー。女神様ーー。
琉生斗とアレクセイは景色の良いところを選んで転移した。人もいない僻地を選んだので、したい放題キスをする。
「アーモンドの花って、桜の花に似てるな」
千本以上のアーモンドの花が並ぶ小高い丘で、琉生斗は花に見下されながら、アレクセイに抱き締められている。
正装のアレクセイに顔を赤らめながら、琉生斗は手をゆっくりと動かした。
「アレク……。おれ、アレクがすごい大事だ……」
シャツのボタンを外し、琉生斗はアレクセイの胸に頬を寄せた。
「私も、言葉にできないほど、ルートを愛しているーー」
アレクセイは、手際よく、琉生斗の法衣のケープを外し、服を簡単に脱がす。
「もっと好きになってーー」
滑らかな肌を、アレクセイの手が撫でる。
「これ以上は気が狂うなーー」
アレクセイの指が、琉生斗の身体の芯を弄ぶ。
「アレクー。あんっ!」
長い間二人は、二人の時間を楽しんだーー。
アーモンドの女神様も、呆れて、時空竜の女神様に愚痴をこぼしておられたというーー。
日は過ぎて、
四月二日。
お日柄も天候も良く、アレクセイと琉生斗は、早朝から神殿に足を運び、婚姻許可証と婚姻届けを教皇ミハエルに渡した。
「はい。たしかに。これはお造りした聖女様のグレートシールです。はい、ここに」
ミハエルの指示に従って溶かした蝋の上に印を押しつける。自分の名前が、格好良い字体になっている。
「えへーー」
琉生斗は顔がニヤけた。
「本当に国民に知らせなくていいのですか?」
「喪中中だしねー」
ミハエルは、国民は知りたいと思いますが、と続けた。
「これ以上、恋敵が増えるのはーー」
「そんな変わり者、殿下のご兄弟だけですよ」
琉生斗は、セージの事かー、と思った。
まぁ言うてあいつは兄ちゃんに対抗してるとこあるよなー。
教皇は、こほん、と咳払いをし、厳かに声を張り上げた。
「アレクセイ・ライト・ブルーガーネット・ロードリンゲン、汝は聖女カガ・ルートを妻として迎える事を、女神様に誓いますか?」
教皇が粋なはからいをする。
「はい」
アレクセイが答えた。
「聖女カガ・ルート、汝はアレクセイを夫として、病めるときも健やかなるときも、貞淑な妻として尽くす事を女神様に誓いますか?」
教皇は、貞淑な妻に力を込めた。
「ーーはい」
琉生斗の声は涙に滲んだ。
「では、誓いのキスをーー」
そのキスは、いつもと同じ唇の感触だったのだが、二人の中ではこれから永遠に残る、キスの思い出になった。
「いい加減、離れてはどうです?殿下、それ以上はおやめなさい!」
琉生斗はアレクセイがはめてくれた、指輪を見ながら、彼の話を聞いていた。
あまり邪魔にならないように大きすぎず、だが、愛情のこもった指輪を、アレクセイは琉生斗に贈った。
何と言っても旦那様の手造りだ。
蒼に近いアレキサンドライトの両隣にダイヤが並ぶ。平たく作ってあるので、普段から付けていても大丈夫だ。逆に婚約指輪は石がデカすぎて使い所が難しい。まぁ、箪笥の肥やしだろうがー。
「なんだよ、陛下に呼び出されてんの?」
「もうすぐ、例の集まりがある」
アレクセイは、あっさりとしたシルバーの指輪だ。石の配置は琉生斗のと同じだが、左で剣を持つ事もあるので、いたってシンプルに造ってある。
すっげー、虫除け。と琉生斗はにやにやが止まらない。
「世界聖女連盟ね」
あぁ、痛いネーミングのやつ、と琉生斗は思い出す。できれば来てほしくなかった会合。名前だけ変えられねえかなぁ、と琉生斗は考える。
「じゃあ、それが終わってから新婚旅行に行こう」
「そうだな」
アレクセイはいつもより甘い顔を、琉生斗に見せる。
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