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聖女の塔編 (ファンタジー系)

第80話 教皇の話

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「おす。東堂!うーす!兵士の皆さん!ご心配かけまして、すみません」

 と、にこやかに聖女様は現れた。

 大闘技場で訓練中だった東堂は、剣を振る手を止めて、友達に駆け寄った。

「おい、殿下大丈夫だったかーー?」

「おぅ、全然元気にしてるぜ」

「なら、いいけど。前に見たとき、空気が違ってたからさ」

 東堂の後ろから、アンダーソニー達がやってくる。

「聖女様。お身体は大丈夫ですか?」

「ありがとう。すっかり元気になった」

「何かお見舞いを考えていたんですが、好物はありますか?」 

 ヤヘルが豪快な身体に似合わず、繊細な事を尋ねた。

「とんでもねーよ。おれが何かしないと!」

 琉生斗は慌てた。

 ホント、そういうヤツだな、と東堂は思う。

「そうだーー。アレクがこの前誕生日だったんだって」

「えっ!マジ!何かしたのかー」  

 東堂は驚いた。

「先王の葬儀の日ですなー」

 アンダーソニーが言った。

「ありゃ、運がわりいなー」

「なー」

「で、クリスももうすぐ誕生日らしいんだ」

「へー」

 まぁ、どうでもいい話。

「なんと、あの二人、同い年だって」

 はっ?なんじゃそりゃ、と東堂は言いかけた。

「あっ、母親違ったかー。それにしても、親父さん仕込み間違えたなーー」

「なぁー」

 アレクセイがやや老けで、クリステイルがやや童顔。

「たいして離れてねえなーとは思っていたが」

 同じ年で、弟が、王太子。

「何か闇が深そーだな」

「なぁ。前に、お兄ちゃんはのんきだ!って怒ってたけど」

「はーー。常に死地にいろってか。大変な事言う坊ちゃんだな」

「どうやら、思うところがあったようですーー」  

 ヤヘルが、クリステイルを庇った。

「あぁ、仲直りしたんだ。陛下は?」

「ーーお二人共、父親の愛情が欲しい歳では、ありませんからな」

 がははっ、とヤヘルは笑った。

「あぁ、よくいる親父だな。若い頃は好き放題してて、いざ捨てられそうになると家族面するヤツ」

「家庭において、父親とは難しいものです。私も、仕事だけしてくれたらいいと、娘に言われました」

 アンダーソニーが悲しそうに言った。

「そ、そうなんだ。娘さんいくつ?」

「十九になりました」

「早い子は、お嫁に行っちゃうなー」

 ちなみに、おれ親父十九のときの子、と琉生斗が言うと、東堂は、こいつの兄貴と姉貴はいくつのときの子だよ、と首を捻った。

「どうでしょうかー。今が楽しい、とは言ってますが」

「学生さん」

「いえいえ……」

「失礼致します。聖女様、アレクセイ殿下が用事が終われば来てほしい、と」

「ああ。レノラさん。葛城が世話になってます」

「とんでもございません。最近は、ファウラ様ばかりで、さみしいです」

「そりゃ、叱っとくわ」

 レノラはくすりと笑った後、アンダーソニーに顔を向けた。

「聖女様に、変な事言わないでよ」

 と、言い去っていく。

「えっ?娘さん」

「はいーー」

 アンダーソニーが照れた。

「お父さんと同じ職に就くって」

「いうて、嫌われてませんぜーー」

 琉生斗と東堂は頷いた。



「聖女様!」

 琉生斗が帰ろうとすると、トルイストが走ってきた。

「なんだ?」

「渡したいものがありまして!」

 トルイストが袋から、それを取り出した。

「何がいいか考えていましたら、町の警備の者が、以前聖女様にお渡しして、大変喜ばれたと聞きまして」

 

 お尻の薬ーー。



「大隊長ぉ!」

 東堂が叫び。

「おまえはほんとに、もう」

 アンダーソニーが盛大に溜め息をつき。

「がははははははっ」

 ヤヘルは笑い死んだ。



「誰が喜ぶかーー!」

 琉生斗は薬を握り締めて、怒鳴った。

 使うのかよ、と東堂は苦笑いだ。

「ええぇーー!町の者も協力して、一番良い物を選びましてーー」

 トルイストの弁明に、琉生斗はくらくらした。

「ソニーさん。あいつ飛ばそう、本当にものすご~い不便なとこに」

「考えておきましょうーー」

「えっーー!」

 そんなー、とトルイストは悲鳴をあげた。

 後日、アレクセイの離宮に、町から同じ薬が大量に届いたという。





 



 クリステイルの成人の儀は、国をあげて盛大に行われた。

 ちなみに、年は変わっているが、先王の崩御により、新年行事は行われなかった。

 王太子の成人の儀だけは、なんとしても、との陛下の意向であり、その他の行事については一年間は行われないそうだ。
 
 神殿にて行われたそれは、琉生斗から見てあり得ないぐらいの本人負担だ。

 豪奢な衣装を重たげな様子もなく着こなし、教皇から祝いの言葉を戴く。

 金色の長い天鵞絨ビロードのマントの裾を持つ少年二人は、どこかの貴族の息子らしい。かなり、緊張していて、クリステイルが歩きだしているのに、止まっていてマントを引っ張ってしまったり、逆に弛ませてしまったり、練習してねぇなー、と琉生斗は苦笑した。

 そして、丸一日かけて国民からお祝いの言葉をもらう。その長蛇の列に、顔色も変えずに、クリステイルはお辞儀を繰り返した。

 

 あいつああいうところはすげぇーな、と琉生斗は感じる。

「聖女様」

 琉生斗が花蓮と話していると、法衣の男に呼び止められた。

「イワン司祭」

 顔見知りの神官だった為、琉生斗は警戒を解く。

「歓談中申し訳ありません。教皇がお呼びです」

 イワンは頭を下げた。

「えー。またお祈りに来る日が少ないとかそんなん?」

「話の内容まではーー」

 そりゃそうだ。

「わかった。アレクに声をかけてから行くわ」

 髪を掻きながら琉生斗は答えた。

「イワン司祭、花蓮よろしく」

「もちろん」

 神殿の連中は、聖女の自分より花蓮を心酔している。当然だわな、どう見ても花蓮の方が聖女だーー。

 

 

 琉生斗は、クリステイルの左側の席に座す、生ける美の彫像と化した婚約者に合図を送る。

(どうした?)

 精神で会話はできるが、自分がすぐに行けないときは姿を確認したい、彼の要望だ。

『教皇に呼ばれたから、行ってくる』

(そうか。何かあればーー)

『大丈夫だってー』

 アレクセイの眼光が鋭くなった。

 いらんことを言われる前に、琉生斗はその場を離れた。

 
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