84 / 208
聖女の塔編 (ファンタジー系)
第80話 教皇の話
しおりを挟む「おす。東堂!うーす!兵士の皆さん!ご心配かけまして、すみません」
と、にこやかに聖女様は現れた。
大闘技場で訓練中だった東堂は、剣を振る手を止めて、友達に駆け寄った。
「おい、殿下大丈夫だったかーー?」
「おぅ、全然元気にしてるぜ」
「なら、いいけど。前に見たとき、空気が違ってたからさ」
東堂の後ろから、アンダーソニー達がやってくる。
「聖女様。お身体は大丈夫ですか?」
「ありがとう。すっかり元気になった」
「何かお見舞いを考えていたんですが、好物はありますか?」
ヤヘルが豪快な身体に似合わず、繊細な事を尋ねた。
「とんでもねーよ。おれが何かしないと!」
琉生斗は慌てた。
ホント、そういうヤツだな、と東堂は思う。
「そうだーー。アレクがこの前誕生日だったんだって」
「えっ!マジ!何かしたのかー」
東堂は驚いた。
「先王の葬儀の日ですなー」
アンダーソニーが言った。
「ありゃ、運がわりいなー」
「なー」
「で、クリスももうすぐ誕生日らしいんだ」
「へー」
まぁ、どうでもいい話。
「なんと、あの二人、同い年だって」
はっ?なんじゃそりゃ、と東堂は言いかけた。
「あっ、母親違ったかー。それにしても、親父さん仕込み間違えたなーー」
「なぁー」
アレクセイがやや老けで、クリステイルがやや童顔。
「たいして離れてねえなーとは思っていたが」
同じ年で、弟が、王太子。
「何か闇が深そーだな」
「なぁ。前に、お兄ちゃんはのんきだ!って怒ってたけど」
「はーー。常に死地にいろってか。大変な事言う坊ちゃんだな」
「どうやら、思うところがあったようですーー」
ヤヘルが、クリステイルを庇った。
「あぁ、仲直りしたんだ。陛下は?」
「ーーお二人共、父親の愛情が欲しい歳では、ありませんからな」
がははっ、とヤヘルは笑った。
「あぁ、よくいる親父だな。若い頃は好き放題してて、いざ捨てられそうになると家族面するヤツ」
「家庭において、父親とは難しいものです。私も、仕事だけしてくれたらいいと、娘に言われました」
アンダーソニーが悲しそうに言った。
「そ、そうなんだ。娘さんいくつ?」
「十九になりました」
「早い子は、お嫁に行っちゃうなー」
ちなみに、おれ親父十九のときの子、と琉生斗が言うと、東堂は、こいつの兄貴と姉貴はいくつのときの子だよ、と首を捻った。
「どうでしょうかー。今が楽しい、とは言ってますが」
「学生さん」
「いえいえ……」
「失礼致します。聖女様、アレクセイ殿下が用事が終われば来てほしい、と」
「ああ。レノラさん。葛城が世話になってます」
「とんでもございません。最近は、ファウラ様ばかりで、さみしいです」
「そりゃ、叱っとくわ」
レノラはくすりと笑った後、アンダーソニーに顔を向けた。
「聖女様に、変な事言わないでよ」
と、言い去っていく。
「えっ?娘さん」
「はいーー」
アンダーソニーが照れた。
「お父さんと同じ職に就くって」
「いうて、嫌われてませんぜーー」
琉生斗と東堂は頷いた。
「聖女様!」
琉生斗が帰ろうとすると、トルイストが走ってきた。
「なんだ?」
「渡したいものがありまして!」
トルイストが袋から、それを取り出した。
「何がいいか考えていましたら、町の警備の者が、以前聖女様にお渡しして、大変喜ばれたと聞きまして」
お尻の薬ーー。
「大隊長ぉ!」
東堂が叫び。
「おまえはほんとに、もう」
アンダーソニーが盛大に溜め息をつき。
「がははははははっ」
ヤヘルは笑い死んだ。
「誰が喜ぶかーー!」
琉生斗は薬を握り締めて、怒鳴った。
使うのかよ、と東堂は苦笑いだ。
「ええぇーー!町の者も協力して、一番良い物を選びましてーー」
トルイストの弁明に、琉生斗はくらくらした。
「ソニーさん。あいつ飛ばそう、本当にものすご~い不便なとこに」
「考えておきましょうーー」
「えっーー!」
そんなー、とトルイストは悲鳴をあげた。
後日、アレクセイの離宮に、町から同じ薬が大量に届いたという。
クリステイルの成人の儀は、国をあげて盛大に行われた。
ちなみに、年は変わっているが、先王の崩御により、新年行事は行われなかった。
王太子の成人の儀だけは、なんとしても、との陛下の意向であり、その他の行事については一年間は行われないそうだ。
神殿にて行われたそれは、琉生斗から見てあり得ないぐらいの本人負担だ。
豪奢な衣装を重たげな様子もなく着こなし、教皇から祝いの言葉を戴く。
金色の長い天鵞絨のマントの裾を持つ少年二人は、どこかの貴族の息子らしい。かなり、緊張していて、クリステイルが歩きだしているのに、止まっていてマントを引っ張ってしまったり、逆に弛ませてしまったり、練習してねぇなー、と琉生斗は苦笑した。
そして、丸一日かけて国民からお祝いの言葉をもらう。その長蛇の列に、顔色も変えずに、クリステイルはお辞儀を繰り返した。
あいつああいうところはすげぇーな、と琉生斗は感じる。
「聖女様」
琉生斗が花蓮と話していると、法衣の男に呼び止められた。
「イワン司祭」
顔見知りの神官だった為、琉生斗は警戒を解く。
「歓談中申し訳ありません。教皇がお呼びです」
イワンは頭を下げた。
「えー。またお祈りに来る日が少ないとかそんなん?」
「話の内容まではーー」
そりゃそうだ。
「わかった。アレクに声をかけてから行くわ」
髪を掻きながら琉生斗は答えた。
「イワン司祭、花蓮よろしく」
「もちろん」
神殿の連中は、聖女の自分より花蓮を心酔している。当然だわな、どう見ても花蓮の方が聖女だーー。
琉生斗は、クリステイルの左側の席に座す、生ける美の彫像と化した婚約者に合図を送る。
(どうした?)
精神で会話はできるが、自分がすぐに行けないときは姿を確認したい、彼の要望だ。
『教皇に呼ばれたから、行ってくる』
(そうか。何かあればーー)
『大丈夫だってー』
アレクセイの眼光が鋭くなった。
いらんことを言われる前に、琉生斗はその場を離れた。
103
お気に入りに追加
231
あなたにおすすめの小説
(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成)
エロなし。騎士×妖精
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
いいねありがとうございます!励みになります。
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
嫌われ公式愛妾役ですが夫だけはただの僕のガチ勢でした
ナイトウ
BL
BL小説大賞にご協力ありがとうございました!!
CP:不器用受ガチ勢伯爵夫攻め、女形役者受け
相手役は第11話から出てきます。
ロストリア帝国の首都セレンで女形の売れっ子役者をしていたルネは、皇帝エルドヴァルの為に公式愛妾を装い王宮に出仕し、王妃マリーズの代わりに貴族の反感を一手に受ける役割を引き受けた。
役目は無事終わり追放されたルネ。所属していた劇団に戻りまた役者業を再開しようとするも公式愛妾になるために偽装結婚したリリック伯爵に阻まれる。
そこで仕方なく、顔もろくに知らない夫と離婚し役者に戻るために彼の屋敷に向かうのだった。
王命で第二王子と婚姻だそうです(王子目線追加)
かのこkanoko
BL
第二王子と婚姻せよ。
はい?
自分、末端貴族の冴えない魔法使いですが?
しかも、男なんですが?
BL初挑戦!
ヌルイです。
王子目線追加しました。
沢山の方に読んでいただき、感謝します!!
6月3日、BL部門日間1位になりました。
ありがとうございます!!!
竜血公爵はオメガの膝で眠る~たとえ契約結婚でも…
金剛@キット
BL
家族を亡くしたばかりのクルシジョ子爵家のアルセΩは、学園で従弟に悪いうわさ話を流されて、婚約者と友人を失った。 味方が誰もいない学園で、アルセはうわさ話を信じる不良学園生から嫌がらせを受け、強姦されそうになる。学園を訪れていた竜の血をひくグラーシア公爵エスパーダαが、暴行を受けるアルセを見つけ止めに入った。 …暴行の傷が癒え、学園生活に復帰しようとしたアルセに『お前の嫁ぎ先が決まった』と、叔父に突然言い渡される。 だが自分が嫁ぐ相手が誰かを知り、アルセは絶望し自暴自棄になる。
そんな時に自分を救ってくれたエスパーダと再会する。 望まない相手に嫁がされそうになったアルセは、エスパーダに契約結婚を持ちかけられ承諾する。 この時アルセは知らなかった。 グラーシア公爵エスパーダは社交界で、呪われた血筋の狂戦士と呼ばれていることを……。
😘お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。どうかご容赦を!
😨暴力的な描写、血生臭い騎士同士の戦闘、殺人の描写があります。流血場面が苦手な方はご注意を!
😍後半エロが濃厚となります!嫌いな方はご注意を!
騎士団やめたら溺愛生活
愛生
BL
一途な攻め(黒髪黒目)×強気で鈍感な受け(銀髪紫目) 幼なじみの騎士ふたりの溺愛もの
孤児院で一緒に育ったアイザックとリアン。二人は16歳で騎士団の試験に合格し、騎士団の一員として働いていた。
ところが、リアンは盗賊団との戦闘で負傷し、騎士団を退団することになった。そこからアイザックと二人だけの生活が始まる。
無愛想なアイザックは、子どもの頃からリアンにだけ懐いていた。アイザックを弟のように可愛がるリアンだが、アイザックはずっとリアンのことが好きだった。
アイザックに溺愛されるうちに、リアンの気持ちも次第に変わっていく。
設定はゆるく、近代ヨーロッパ風の「剣と魔法の世界」ですが、魔法はほぼ出てきません。エロも少な目で会話とストーリー重視です。
過激表現のある頁に※
エブリスタに掲載したものを修正して掲載
運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…
こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』
ある日、教室中に響いた声だ。
……この言い方には語弊があった。
正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。
テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。
問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。
*当作品はカクヨム様でも掲載しております。
お前が結婚した日、俺も結婚した。
jun
BL
十年付き合った慎吾に、「子供が出来た」と告げられた俺は、翌日同棲していたマンションを出た。
新しい引っ越し先を見つける為に入った不動産屋は、やたらとフレンドリー。
年下の直人、中学の同級生で妻となった志帆、そして別れた恋人の慎吾と妻の美咲、絡まりまくった糸を解すことは出来るのか。そして本田 蓮こと俺が最後に選んだのは・・・。
*現代日本のようでも架空の世界のお話しです。気になる箇所が多々あると思いますが、さら〜っと読んで頂けると有り難いです。
*初回2話、本編書き終わるまでは1日1話、10時投稿となります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる