78 / 284
ルートとアレクセイ編
第74話 来世でも一緒になると誓おう☆
しおりを挟む『おれは、おまえと会えてよかった。大好きだった』
「殿下ぁ!」
治療室にヤヘルが飛び込んできた。
「何事だ!」
アダマスが怒りを見せた。
ヤヘルは陛下の方には行かず、アレクセイの側に走り寄る。
「殿下!大変ですぞ!セージ殿下が、聖女様に告っておりましたぞ!」
「なんと、それは一大事!」
アンダーソニーまであらわれる。
「殿下!よいのですか!まだまだしたい事、あるでしょう!!」
「そうですわ!わたくし達、アレク✕ルート派ですのよ!セージ✕ルートはありえません!」
ルッタマイヤとマリアが、力を込めて叫ぶ。
「妻よ」
パボンは嘆いた。
「おまえ達!ここから出て行け!」
当然、アダマスは怒った。ここまでの激昂は、今までなかっただろう。
「出ていきません」
アンダーソニーがきっぱりと言った。
「我らは、陛下に忠誠を誓う魔法騎士」
「なればこそ、主君の過ちは、全力で阻止致しますわ!」
扉の外からも、兵士達の声があがった。
「殿下ぁーー!しっかりして下さい!」
東堂が叫ぶ。
「がんばって、ルートの危機よ!殿下ぁー!」
美花も声を枯らす。
「聖女様の為に!」
「殿下ぁぁ!」
「「「「殿下ぁぁぁぁぁ!」」」」
兵士達の叫びは、いつまでも続いた。
『なぁ、アレクーー』
『ーー来世でも、一緒にならねえか?』
「ーーああ。もちろんだ」
アレクセイは起き上がった。
すぐに何かに気付き、彼にしては珍しく苛立った表情を見せた。
「クリス」
「はい!」
クリステイルは大粒の涙を流し、鼻をすすりながら、兄に剣を渡す。
「行ってくる」
魔法で服を替え、アレクセイは消えた。
眼の前で、アレクセイが起き上がるのを見た兵馬は、突然すぎて固まっている。
「??ーーー?」
兵馬はまともに話せない。
アダマスも、呆然としたまま、口を開けている。
「どこにー?」
「決まってますぞ」
ヤヘルは頷いた。
「愛の力ですわー」
ルッタマイヤとマリアは乙女の眼になる。
「さすがは、ルート様ですな」
アンダーソニーが頷いた。
扉の外では、皆が笑い、抱き合い、殿下の回復を喜んでいた。
ストームドラゴンが、牙を振り下ろすときには、すでに琉生斗の中に、恐怖はなかった。
神風のように、彼は現れた。
琉生斗を抱き寄せ、燃える剣を振る。
ストームドラゴンの身体が、真っ二つに割れた。
「げっ」
セージが苦虫を噛み潰したような顔になる。
ティンは、笑顔を見せた。
「アレクゥーー」
琉生斗はアレクセイに抱きついた。
きつく、きつく抱きついた。
「ルート、怪我はないか」
「あるわけないだろ、おまえがいるんだからー」
アレクセイは琉生斗をしかと抱きながら、思いきりセージを睨みつけた。
「ちっ。もうちょいだったのに。素直に死んでろよ」
悪態をつくセージを、アレクセイは睨みながら、琉生斗にキスをする。
「ちょ、おい。人前だろーー」
「かまわない」
勝ち誇った表情で、セージを見る。
セージは、やさぐれた。
「陰気!陰険!マジで死ね」
「おまえが死ね」
はじめて見るアレクセイに、琉生斗は、かわいい、と感じた。
ーークリスとはやんねえのに、セージとはケンカすんだー。
すげぇー、かわいいー。
東堂が聞いたら、おかしんじゃね、と言うような事を琉生斗は考えている。
「身体は大丈夫なのか、アレクセイ」
ティンが、姿隠しの魔法を解いていた。
セージが、えっ?という顔をする。
「聞いていないのか、父上の従兄弟殿だ」
「はぁ?」
魔導師室長がーー?
「従叔父殿だ」
「また、オレだけ除け者?」
「安心しろ。ミントもだ」
「あのバカ女と一緒にすんな。おい、あいつルートの事バカにして、ヒョロ兄貴から平手くらってたぜ。あのヒョロ兄貴が、だぜ」
「やるな、クリス」
何なんだろ。仲良しなのか。
「そもそもルート。知らない人にあれだけ近づくなと言っているだろ」
「アレクの弟だろ」
「前に、ルートのコップに金属片を入れたーー」
「わああぁー。あれ、なし。なしにしてよ、ルート」
セージがかわいく微笑む。
本当の弟に見えて、琉生斗は少し嬉しい。
「どうした」
笑っているのがバレたらしい。
「いや、おれ、末っ子だから、弟っていいなぁ、って思ってさ」
「はぁー。弟じゃねえよ、旦那さんだろ」
「消えろ」
「うぜー」
「はいはい。遊んでないで、帰りますよ。アレクセイ、帰って落ち着いてからでいいので、説明をお願いしますよ」
ティンが呆れたように話す。
セージは、へっ?と不思議そうな顔をした。
「はい」
アレクセイの、その美貌がさらに凄みを増したようにティンは感じた。
「アレク、ちょっと待って、なぁ」
服をはがされる。
「ルート、こんなに痩せて」
アレクセイが、琉生斗の身体を触って溜め息をついた。
「だから、体力がー」
「何もしなくていい」
そういう訳にはいかないだろうーー。
「じゃあ、アレクにくっついとく」
琉生斗は甘えた。
そして、後悔したーー。
「頼むから、やーー!あん!あっ、あん!こらぁ!」
琉生斗は逃げ遅れたーー。
「ドラゴンより、おまえの方が凶悪だぁ!」
くそっー。
くそっー。
大好きだあぁぁぁぁぁぁ!
ーー陛下が、呼ばれても来ないそうだ。
ーーなんでも聖女様のお身体が、悪いらしい。
アダマスは溜め息をついた。
「アレクセイは?」
パボンに尋ねるが、首を振られる。
「殿下がお悪いんでしょ?」
みんなひどくないーー?
聖女が体調を崩したと聞いた国民からも、心配の声があがっている。
何かお好きなものはないか、と兵士達からも、東堂達は詰め寄られた。
「あいつ、すげぇー人気だな」
「あたしも質問攻めで、しんどい」
東堂と美花はぐったりしている。
「兵馬どうしたよ」
「あいつ、殿下の補佐官になったのよ。領地視察とか、殿下の代わりに行ってるみたい」
「ようわからんが、出世したなー」
美花は水を飲んだ。
「そのうち税金の横領とかしないかしら」
東堂は爆笑した。
「それにしても、腐れ聖女、町の人にも人気だな」
人気職か?
「病気の人の支援とか、子供の保護とか、赤ちゃんに加護を授けるとか、あれだけ色々やればねえーー」
「ぷっ」
「何よ」
東堂は吹き出した。
「あんだけ最初から聖女な奴も珍しいよな」
美花も頷く。
「ねぇ、6分の1の確率なんて、最初からなかったわよね」
ほんとーー。
しばらくして、先帝スフェーンの崩御の知らせが、神聖ロードリンゲン国を駆け巡った。
「えっ?おじいちゃん?おじいちゃんが、亡くなったの!」
「あぁ」
黒の礼装にアレクセイは着替えた。
「そりゃ、そうか。おまえの親父若いもんな」
お祖父さんも、そこまで歳ではなさそうだ。
「危篤のときとか、行ったのか?」
「元々、私は祖父の宮には入れない。卑しい身分の者はお好きではない」
はぁー。この家族も闇が、ふけーなーー。
「コランダムさんのお兄さんなんだろ?」
「顔しか似てない」
コランダムさんは、立派な方だったんだろうなーー。
琉生斗は返答に困った。
「おれ、行かなくていいのか?」
「国葬ともなると、三日かかる長丁場だ。今のルートの体力ではもたないだろう。埋葬した後にーー」
「あぁ、お参りだけ行くよ」
自然にそう言ってくれる。会った事もない自分の祖父にーー。
その天性の気遣いに、アレクセイは常に救われる思いを抱く。
長い間、キスをして、アレクセイは出て行った。
アレクセイの気配が完全になくなると、琉生斗は深い溜め息をついた。
食事がとれない。
食べるが、すぐに戻してしまう。
無理して飲んでいた栄養剤の副作用なのか、琉生斗の身体は食べ物を受け付けなくなっている。
思っていたよりも、心身共に、ダメージが大きい。
いや、まあ、そうかーー。
恋人を失いかけたんだ、これぐらいですんで、ラッキーだと思わないとーー。
お皿の上にはりんごのすり潰したものが、途中で放置されている。
子供の頃、やってもらえなかった事を、この歳になってはじめて経験するとはーー。
「病気になってもほられてたのになー」
一匙にも満たない量を口に運ぶ。
うっ、ときて琉生斗は食べるのを止めた。
今じゃ国民の皆から心配される身だ。
与えられただけ、返せる人間になりたいー。
いや、
与えられなくても、与えられる人間になりたいー。
聖女の証が、ほんのりと光った。
「ん?何、女神様。超今更だなー」
鱗外ソウカーー。
ん?
身体キツイーー。
「えっ、それでなの?」
じゃあ、慣れるまでこのままなんだ。まじかよ。
恋人を失いかけて、とかロマンチックな理由じゃなかったのか。ちょっと残念。
「おれ、食には卑しいから、変だとは思ったけど」
小さい頃は、親父によく飯抜きにされたなーー。たまに、ゴミみてーな飯食わされたけど。
ばあちゃんもそんときは助けてくれなかったー。
「どこの馬の骨ともわからぬ身の上でーー」
とか、ドラマでよく聞くけど、両方親が揃ってる時点で、どこの馬の骨でもないだろうにーー。
卑しい身分か、アレクもきついだろうな。自分は関係ないのにーー。
「で、どうしたらいいのよ。おれ」
琉生斗の目の前に、小さな小瓶が現れた。
ことっと音がなった。
水ノムトイイーー。
「ありがとうー。女神様」
琉生斗は小瓶に入った水を飲んだ。
すっ、と身体に馴染んでいく。
「うまいーー。ありがとう、女神様」
アンデラ山ノ山頂水ーー。
「あー、だいぶ元気出たー」
琉生斗は伸びた。
「女神様、アレクに何したんだ?」
嫌いだから、とかじゃないだろ、と琉生斗は続ける。
本人ワカッテルーー。
「あ、そう」
琉生斗は地図を見た。
アンデラ山、アンデラ山ーー。
「クルセイド遺跡に近いんだーー」
琉生斗は眉根を寄せた。
楽シイ国ーー。
「へぇー」
行こうかなーー。
イイヨーー。
「へっ?」
景色が、変わった。
雪景色ではない。
目の前を、薄い衣服の者が通り過ぎていく。
肌はやや濃い茶色。行き交う人々の顔も、彫りが深い気がする。
女神様に縋った。
反応がないー。
じゃあ、
琉生斗はアレクセイの名前を必死で念じた。
反応がないーー。
何かに阻害されている。
しかも、アレクセイは葬儀の為、三日離宮に帰って来ないーー。
「うそだぁーー!」
琉生斗は叫んだ。
106
お気に入りに追加
241
あなたにおすすめの小説
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件
白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。
最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。
いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
禁断の祈祷室
土岐ゆうば(金湯叶)
BL
リュアオス神を祀る神殿の神官長であるアメデアには専用の祈祷室があった。
アメデア以外は誰も入ることが許されない部屋には、神の像と燭台そして聖典があるだけ。窓もなにもなく、出入口は木の扉一つ。扉の前には護衛が待機しており、アメデア以外は誰もいない。
それなのに祈祷が終わると、アメデアの体には情交の痕がある。アメデアの聖痕は濃く輝き、その強力な神聖力によって人々を助ける。
救済のために神は神官を抱くのか。
それとも愛したがゆえに彼を抱くのか。
神×神官の許された神秘的な夜の話。
※小説家になろう(ムーンライトノベルズ)でも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる