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ルートとアレクセイ編

第70話 絶望は突然おこるもの☆

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 転移魔法で、移動する。



 とは、言ってもアレクセイもはじめての場所なので、近場まで行き、そこから浮遊魔法で移動した。

 自国より、はるか彼方の、小さな島らしい。

 遠くに黒い大陸がうっすらと見える。

 暗黒大陸と言うそうだ。



 時空竜の女神様は、この遺跡から、暗黒大陸を見張っているとも言われているらしい。



「あったけー」

 琉生斗は上着を脱いで、いつもの胡服になる。

 青い花が無数に咲き誇る。

 やや小さい花弁だ。

「これ、タイスっていう花?」

 と、アレクセイに尋ねると、彼から返事がしない。

 琉生斗がおかしいと思って顔を向けると、アレクセイは無言で立っていた。

「どうしたんだ?」

 心配になって声をかけると、ハッとしたようなアレクセイ。

「美しすぎて、見惚れていた」

 ふーん。まぁ、あんだけ観葉植物育ててるぐらいだから、花は好きだわなーー。と、琉生斗は思った。

「いや、これはプルンバの花だ」

 本来は秋までだが、暖かいから、まだ咲いているのだろう。

「違うのかーー」

 だが、この花しか群生していないようだが。

 花を踏まないように歩きながら、遺跡まで進む。

「大きいな。近くで見ると、すごい迫力だ」

 長い石の柱がいくつも並んだ遺跡。入口だけでも相当な広さだ。

 かなり年限は経っているのだろう、石畳は欠けている部分が多く、石も表面が削られたようになっている。
 それでも、柱はしっかりと建っていた。上部の欠けこそ見えるが、元の装飾は残っている。



 先へ進むも、遺跡の他には何もなく、石のないところには、プルンバの花が咲いていた。

「休憩しよう」

 アレクセイが、琉生斗を安全な場所へ座らせた。

「この遺跡、二千年昔のものなんだろ?どういう世界だったんだろうな」

 琉生斗はアレクセイの手に、自分の手を重ねた。なんか、触っていたいお年頃だ。

「そうだな。ロードリンゲンも建国して間もない頃だ。その頃の保存魔法も、効果があるものと失くなるものにわかれるな」

 文献で見るより、過去へ飛んで事実を見たいのは、あっちもこっちも変わらないだろう。

 アレクセイの手がからんでくる。

「ん?」

 アレクセイがキスを求めてきた。

 こいつも好きだよなー。と琉生斗は少し呆れる。



 応じながら考える。

 時空竜の女神様が、いるとして、何を言えばいいのか。聖女の証を通せば、語りかけてくれるのではないのか。

 考えても、どちらも琉生斗の考えには当てはまらなかった。

 用事があるからと、ほいほい呼び出せるものじゃない。何と言っても、女神様だ。聖女の象徴、国の信仰対象だ。

 パワーアップしたいんです。これも素直に応じてくださるかはわからない。

 会ったところで、かもしれないが、一度きちっと本体に挨拶はしなければと思っていた為、会えたならば良い機会だと思う事にする。

「おいっ」

 琉生斗は下を脱がされて驚く、何やらかしてんの?

「ここで」

「できるか!めっちゃ外やん!」

「誰もいない」

「そんな事言ってんじゃねえよ。外でするもんじゃないだろ」

「そうか」

 あほなのか、こいつ。

 腕を押さえるが、あっさりと外される。

 こら、しつこい。諦めないなー。


 ん?


 まさか、


 まさかこいつ、外でした事あんのかー。


 おれ以外とーー。



 ものすごいショックが琉生斗を襲った。

 考えればわかることだが、初心者の琉生斗と違って相方には何某かはいたわけで、アレクセイの中ではそれが自分との比較対象になるというーー。



 ーー最悪だ、考えたくなかった。

 

 別に童貞同士で恋人になろうとは思っていなかったが、時折覗く過去の片鱗からは目を背けていたい。



 くそっ、むかつく。 



 本当に考えれば考えるほど嫌になってくる。

 こんな事、前の恋人にもしたのかと思うと、そいつを始末してやりたくなる。

 今もそいつがアレクセイを見て、あのときああだった、なんて考えているかと思うと、そいつの一族ごと滅ぼしたくなるーー。



 げに恐ろしきは、初心者の恋心である。 



「あん、やめろって」

 と、言いながら許してしまうのは、元恋人の上書きの為だ。



 おれが全部消してやるーー。おまえに残ってる前のもの、全部消してやるからなー。

 琉生斗は、さらに決意する。

 自分て嫉妬深いなぁ、と自覚はあるのだがーー、考えれば考えるほど寛容になれない。




 休憩の後、また奥へと進み出す。

 屋根の骨が残る、大広間へと二人は進んだ。
 


「変わったところはないかー」

 布団と違って腰がかなり、痛い。

 上からアレクセイに腰を支えられていた為、思っていたより深くアレが入ってしまい、よがりがひどかったように思う。
 連日のおいたが祟って、たいした量は出なかったがー。


 もう、製造終了だぜー。

 だいたい、ああいう場合は後ろからなんじゃないのかーー。

「なぁ」

「どうした?」

「一個聞くぞ」

「あぁ」

 すぐに言わないとは、ろくな事じゃないな、とアレクセイは感じた。

「そのー、エッチって、毎日するものなのか?」

 恥ずかしそうにする琉生斗に、とりあえずキスをする。

「さあ?」

 なんでやねん。

「ルート以外と、付き合った事がないから、わからないなーー」



 りんごぉぉぉぉーん。



 あっ、鐘が鳴った。


 歓喜の歌よ、鳴り響くのはまだ早い。

 これは、あれだ、色魔兄貴と一緒だーー。

「恋人はいないが、セフレなら三桁いる。ワンナイなら四桁だ」

 人として終わってんなーー、とよく思ったものだ。


 あんな不誠実ではないにしろー、何にもないのは疑わしいー。



 いやいや、今何しに来てんの、おれ。

 レベルアップしに来てんのに、恋人の元カノか元カレの憶測ばっかりするなってーー。

 琉生斗は遺跡に集中する。



 恋をすると人は愚かになる、とは、よく言ったものだ。



「ルート、少し床がもろい」

「どこ歩いたらいい?」

 琉生斗は立ち止まった。アレクセイが床を見て何かを考えている。

 風が古い砂の匂いがするなー、後潮が混ざったみたいなー、と琉生斗はほんの少し足を動かした。

 突然足元がぐらついた。底が抜ける感覚に、琉生斗は空を掴んだ。その手をアレクセイが掴む。

 浮遊魔法で浮く。

 その途端、床が一気に抜けた。



 下から青い光が見えた。

「アレク、下」

 ゆっくりと落ちて行く。アレクセイは琉生斗を抱えた。気配が変わる。注意深く辺りを見回す。



 臨戦態勢だ。

 
 こういうとこすごいよな、と琉生斗は感心する。

「うわぁ」

 青く光る花だ。見渡す限り青が咲きほこる。

「ホタル硝子見てぇ」

 琉生斗ははしゃいだ声を出した。

 青くキラキラ光るホタル硝子。それが花になったようなのである。

「きれいだなー、アレク」

 恋人の顔を見ると、彼は他は見ずに、自分の顔を見ていた。

「あぁ」

 短く答える。



 しばらく見つめ合ったまま、お互いに何も言えなかった。

 

 愛シ子ヨーー。



「!」

 琉生斗は、ハッとして顔をそちらに向けた。

 目を見開く。

 アレクセイの腕から、降りる。

 

 時空竜の女神様が、光の中に在られた。



 聖女召喚の間の壁画そのままだが、美しく気高いその姿に、二人は自然に腰をおる。

 翼をはためかせ、時空竜の女神様は琉生斗に問う。

 

 何ヲ聞キタイー。



「女神様、このままじゃだめだ、いずれ死んじまう。どうしたら強くなれる?」



 愛シ子ニ強サハイラナイー。

 弱イ者ハ去レー。



 アレクセイは下げていた頭を上げた。圧力が、痛い。

「発言のお許しを。何があっても、私はルートの側を離れません」



 愛シ子ヨ、ソレハ望カーー。



「ぶっちぎりに望みだ!」

 琉生斗は答えた。



 時空竜の女神様は、沈黙なされた。



 コレヲ受ケ取リナサイー。



 琉生斗が手を差し出すと、竜の鱗が一枚置かれた。それは、自然に琉生斗の身体の中に入り、消えていった。


 逆鱗ノ部分ダ。使エルトハ限ラナイー。



「ありがとう。女神様ー」



 なんとかしねぇとなー。



 琉生斗が気を抜いたときだった。

 時空竜の女神様が目の前で、琉生斗に向かって、鋭い鉤爪を振り下ろそうとしていた。


 あっ!

 と、思ったのは一瞬。


 振り下ろされる鉤爪を避けることもできずーー。


 だあぁん!


 琉生斗は吹っ飛んだ。いや、彼によって鉤爪から助けられたのだ。

「アレク!」

 琉生斗の眼の前で、アレクセイは膝をついた。

「け、がは…ない?」


「何言ってんだよ!」

 怪我をしたのはアレクセイの方だ。怪我などとかわいものではない。

 転ぶように彼の元に駆け寄る。  
 抱きとめて、傷を見る。右肩がえぐれて、血が吹き出していた。

「ル、ゥ…トー」

「アレク!おい!アレク」

「あ、いし、て…い…る……」

「おれもだよ!なあ、なんでだよ。なんでだよ女神様ぁぁ!」

 琉生斗は叫ぶ。


 時空竜の女神様は、翼を強く羽ばたかせ、空へと帰っていった。


「なんで、なんで!」

 アレクセイから力が抜けていくー。


「アレクーーー!」

 琉生斗の絶叫が遺跡に響いた。


 それはある日突然ーー。


 別れは、一瞬で訪れるーー。
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