ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。(第一部、第二部、第三部)

濃子

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日常編3

第66話 王都日和 3

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「これは、良いらしいですわよ。わたくしの部下のいちおしです」

「そうなんだ。わりーな。こんな事頼んで」

 薬屋にて、おすすめの薬を教えてもらう。

「こちらは、感度があがるそうですわよ」

「あぁー。もうちょっとプロになってから使うよ」

 いちお、買っておこうー。おいおい、おれは女性の前で何を買ってんだよ、と琉生斗は苦笑いだ。

 琉生斗は会計をすまし、店から出る。

「マリアさんは、何が好きとかあんの?」

「そうですわね。お風呂が好きですわ」

「入浴剤とかいいかなー。けど、赤ちゃんがいるから駄目かな」

「もう、復帰するぐらいですから、大丈夫ですわ」

 そうなんだ。

 ただ、こちらのお風呂は広いので、普通の入浴剤じゃあ駄目だろうな、と琉生斗は思った。 
 ましてや、師団長の奥さんで、奥さんも大隊長とは、すごい夫婦もいたもんだ。

「仲良いのか」

「ええ、女性兵士が少ない中、貴重な友達ですわ」

 たいていは出産で引退しますの、とルッタマイヤは続けた。

「軍将、デートですか?」

 城下町の警備隊だろうか、ルッタマイヤに軍服の男達が声をかけた。

「おまえ達、言葉に気をつけろ、聖女様だ」

 そんな、印籠をつきつけるつもりはないのだがーー。

「「えっー!」」

 警備隊は右へ左へ大騒ぎだった。

「あの、聖女様ですか!」

「アレクセイ殿下のお心をとらえて離さない!」

 興奮して話しかけられる。

「どうも」

 と、琉生斗は挨拶をする。

 どんな噂がまわってるかは知らないが、彼らは好意的に見えた。

「あの!聖女様」

「はい」

「使って下さい!」

 何をだよー。と、薬のサンプルを渡される。

「自分のお気に入りです」

 若い兵士が目をぎらぎらさせている。

 狙われてないよな、おれーー。

「ど、どうも」

 あっ、コンドームまである。やっぱりこっちにもあるんだなー。琉生斗は興味深くそれをみた。

「いつ、使うんだ?」

 女性に使うんじゃないのか?と、琉生斗が不思議そうな顔をしていると。

「多数とするときは必須ですよ」

 琉生斗は固まった。

「おまえたち、もう行きなさい」

「では!」



「ルッタマイヤさん」

「はい」

「多数ってどういうことだ?」

「その日たくさんの相手といたすことです」

「ええっーー!」

「聖女様にはご関係のない話ですが、彼らはパートナーを変えるのは、普通の事みたいですわよ」

「へぇ」


 琉生斗はその情報を、うまく消化できなかった。



 マリアさんの好きな焼き菓子と、入浴剤と、赤ちゃんのおもちゃを買って、パボン邸へ、琉生斗は行くーー。



「ようこそ、いらっしゃいませ、聖女様」

 マリアは背の高い、まるで男装の麗人のような女性だった。ルッタマイヤが、ウェーブのロングヘアに対し、マリアはバッサリショートヘアだ。

 この二人が並んだら、すごい美の迫力だなぁ、と琉生斗は思った。

「主人がお世話になっております」

 広い洋館の女主人に、深々と頭を下げられる。ここの国の人は、上の立場になるほど、自分を丁寧に扱ってくれるなー、と琉生斗は思っている。

「とんでもないです」

 その後ろから、五人の子供が顔を出した。一番大きな女の子が、赤子を抱いていた。

「こんにちは、聖女様」

 しっかりしている。ちょっとパボン似だなー。意外に若い師団長を思い出して、吹きそうになる。

 いや、みんなパボン似だ。赤ちゃんまで、パボンだ。

 吹き出すと、マリアも笑った。

「皆、主人そっくりなんです」

 ちょっとがっかかりした口調になる。

「すごいな。体力もつの?」

「最近、全然駄目なんです。軍人やってる方が楽ですわ」

 そうだろうなー。半年たって、ようやくリズムが整うようなもん、ってばあちゃんも言ってたよなー。

 まぁ、うち乳母ナニー三人いたけどー。

「一人で?」

「主人の母が、手伝ってくれます。うちのメイド達も」

 それでも、五人は大変だよなー。琉生斗は思う。



 赤ちゃんを抱かせてもらうと、ミルクのいい匂いがした。
 赤ちゃんに接するのは、中学校での職業体験で保育園に行って以来だ。
 幸せな眠る顔を見ていると、かわいいより羨ましい気持ちが先に立つ。


 こんな、小さいものを、母は捨てたのかーー。

 誰かもわからないから、考えようもないが、よくできるよな、そんな事ーー。


 琉生斗は笑った。

「これ、お祝いでーす」

「とんでもない!」

「赤ちゃんが気に入ってくれるといいけど」

 包装された、音がなる知育玩具を取り出した。マリアは微笑んだ。

「ありがとうございます」


 幸せであれよー。君はーー。


 琉生斗は赤子に祈りを捧げた。

 それは光になって、赤子を包む。



 ん?


「聖女様、もったいのうございます!」

 マリアが慌てた。

「聖女の加護を得るとは、素晴らしき赤子ですね、マリア」

 なんか、加護を授けてしまった。


 捨て子のおれが、赤子の加護なんてな。

 
 捨てられない加護でも、ついたのだろうかーー。



 

 琉生斗はルッタマイヤに見送られ、離宮に帰ろうとすると、東堂が走っているのに気付いた。

「おーい。遅くまでごくろーさん!」

 すごい汗だ、どれだけ走っているのか。

「おぅ。腐れ聖女。ダンジョンは楽しめたか?」

「いや、向いてないな」

「そうかー。俺も殿下にアルカトラズ連れてってもらいてぇなー」

 東堂は、一段と逞しくなった。身長も伸びたようにも思う。

 最近は、魔物の討伐にもよく出ているそうだ。

「180あるのか?」

「あー、もうちょいだな」

 おまえ、いくつなの?、と東堂が聞く。

「四月に計って、165だった」

 それから、伸びた様子がない。

「案外低いよなー」

「そうだな」

 東堂は、何かに気付いた。

「何かあったのか?」

「なぁ、東堂、あそこの塔って登ったことあるか?」

「うん?監視塔か?そりゃあるぜ」

 王城より小高い丘に建てられた、敵を見張ったりする為の、監視塔を指差す。

「おまえはいいなー。行動に制限がなくて」

「なんだよ、それ」

「おれなんか、町に買い物行くにも護衛付き、どこにいても、ほら」

 前方からアレクセイが歩いてくる。

「あー、そうだわな」

 窮屈さを感じる時期かー。感知魔法でどこで何をしているかわかるなんて、かなりしんどいよな、と東堂は思う。

「よぉ、アレク」

「ちす、殿下」

「あぁ。おかえり。トードゥも遅くまで感心だな」

「殿下ー。俺もアルカトラズに行ってみたいです」

「次は連れて行こう」

 おし!と東堂はガッツポーズをした。

「またな」

 琉生斗は笑顔を見せた。

「おぅ」

 から元気か、と東堂は苦笑した。
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