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ティンのダンジョン編 (ファンタジー系)
第63話 ティンのダンジョン 最終話 ティンとスズ ☆
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「ねぇ、ルート。どれが錫か、わかる?」
「兵馬何言ってんの?鈴なんかないわよ」
あっ!そうか。
琉生斗はわかった。
「ティン、って錫の事だな」
「元素記号Sn、錫でしょう」
「てっきり、時代的にすずはひらがなかと思ってたんだけど、錫さんだったのかーー」
琉生斗は鍵を一つ一つ確認した。
「重い、これは金で出来てるな、これもそうだ。こっちは銀だな。融かしゃ早いんだけど、元に戻せねぇよな」
「ここなら、戻る使えるよ~」
「じゃあ、町子、これとこれとこれを、232℃で融かしてくれ」
「ーー何℃って?」
「錫の融解温度の232℃、家庭用のガスでも融ける金属は、こいつぐらいだ」
「はぁ~い~」
町子が鍵を浮かせて、炎を出す。
三本の真ん中の鍵が、融け出した。
「おっ、錫があったぞ」
町子が、戻るの魔法をかけた。
「これが、私の鍵だ」
琉生斗は鍵穴に鍵を差した。柔らかい金属なので、壊さないように、変に力を入れないように、慎重にまわす。
ガチャリ。
鍵が開いた。
「おし、もう最後だといいなー」
「ぼくらホントに向いてないよね」
疲れ切った二人組が言う。廊下に靴音だけが響いている。
「しかし、体力つけなきゃな。運動部でも作るか?」
「そうだねー。騎士候補生とか、誘ってみる?」
「あの子達は、すごい運動神経だ。おれらはもっと下だ」
偉そうに言われても。
「ねえ、よく鍵がわかったわね。ティンさんが、錫って、なんで確信したの?」
「あぁ、おれ向こうで先代に会ってる」
「えっ!」
三人が目を剥いた。
「幽霊みたいだったし、夢だと思ってたんだけど、ティンさんと顔そっくりだわ。あの人、スズさんの息子だろ」
「当たり~!」
町子が手を叩いた。
「どんな方法か、お師匠様が、知りたがってるけど、わかる~?」
「あぁ」
琉生斗は何かを考え込んでいる。
「えー。それって、いつの話」
兵馬が尋ねた。
「ばあちゃんと姉貴が死んだ後だな」
「あー、唯一病んでた時期ね」
「そうそう、夜な夜なヤンキー相手にケンカふっかけてたときよ」
何やってんだよーー。
兵馬は悲しそうに友達を見た。
「僕がいくら言っても聞かなかったのに、他所のおばあちゃんの話は聞いたんだ」
「亀の甲より年の功ってな。すげぇー、威厳のあるばあちゃんだったのよ。品がいいとかそんなレベルじゃねえ、歴戦の猛者みたいな」
「たしかに、本当にその人が先代なら、五十年以上は戦ってきた人だよね」
あー、あの貫禄が自分では出せるかどうかー。
「バカな事はやめなさい。もうすぐ、家から出られるから、もうちょっとがんばりなさい、っ怒られたんだよ。だから、ばあちゃんの知り合いが、引き取ってくれるのかなーぐらいに思ってたわけ」
「幽霊に?」
「幽霊みたいに、色が白かった。この人、どこかが悪いなーって思った」
「何か病気だったのかな、ルートは大丈夫かな」
「アレクなら知ってるかもな。てか、親戚なのに知らないって、ティンさんの存在って?」
「秘密にされてるみたい~。誘拐か何かを警戒してたって~」
そりゃそうだわ、と琉生斗は頷く。
「てか、子供できるんだなー。おまえらも気をつけろよーー」
余計なお世話である。
「しかし、長くないか?この廊下ー」
「もうすぐ終わりよ~」
「なんだよ、ティンさん。たいした話が聞けないから、やめたのか?」
「そうかもね~」
琉生斗と町子が話していると、部屋の床が動き出した。ガタガタ動き出す。
床が、崩れ落ちて行くーー。
「おい!これは攻略方法は!」
落ちながら、琉生斗は叫んだ。
「知らない~」
町子ぉぉぉーー!
「っと!」
琉生斗は床に激突を予想したが、誰かに受け止められた。
この匂いはーー。
「アレクーー」
どこだ、ここ?
「痛ー!殿下、ぼくは!」
「すまない」
助けてよ、ホントに。と、兵馬が、怒った。
ふわりふわり、箒に乗って、町子と美花が現れた。
「いいもん乗ってるー」
「魔女のシンボルよ~」
「ルート、気分は?」
「ぼちぼちだよ。何だ帰って来たのか?それとも、おれらの方が日が経ってるのか?」
琉生斗は降りようとしたのだが、アレクセイが離してくれない。
「一時、帰ってきた」
「ふぅん」
なんか、様子が変だ。
琉生斗は、まわりの気配に、異様なものを感じた。
会議室だよなー。陛下がいるしー。ティンさんもいるー。クリスはなんで青い顔してるんだーー。
「会議中?邪魔したなー」
降ろせよ、と琉生斗ははっきり言う。
「父上、御前失礼致します」
「ーーあぁ」
なんだ、この緊張感。
「ん?ちょっと待て」
琉生斗は気付いた。
「なんでおまえ、おれに気分は、って聞いたの?」
アレクセイが、しまった、という表情を一瞬浮かべた。
琉生斗は会議室にいる面々を見て、悟った。
「さては、おまえら、見てたなー」
琉生斗はティンを睨んだ。
「見ないとは、言ってませんよ」
ティンは笑った。
「そりゃそうだ。確認したい事があったんだよな。お役に立てたかわかりませんが」
くそったれ。
「どこからだよ」
アレクセイに噛み付くように言葉を発した。
「どこから見てたんだよ!」
琉生斗は強く言った。アレクセイは視線を横に外す。
琉生斗はアレクセイの腕の中から無理やり降りた。
全力で走り去る。
「ルート!」
アレクセイが後を追う。
「ルート、足は速いんだよ」
「陸上部でもないのに、100メートル11秒だっけ?」
「ぼくらも帰ろう。町子、ちょっと悪趣味すぎない?」
兵馬が町子を睨んだ。美花はどうしたらいいのか、という目だ。
「うん。ごめんね~」
「何か理由はあるんだろうけど、知ってたなら、教えて欲しかったよ」
「うん」
「町子は悪くありません。私だけと思っていたのですからー」
ティンが町子を庇った。
「で、見たいものはみれたの?錫さんの息子さん」
兵馬が切り込んだ。
「そうですね。母がどうやって、琉生斗と接触したのか、方法を知りたかったのですが」
「ルートはわかってるよ。教えてくれるかはわからないけど」
ティンは笑うのをやめた。
「ーーそうですか」
くそったれー!
すぐにアレクセイに捕まった琉生斗は、頭に血は登っていたが、よく考えればわかる事だったと、反省もしていた。
ムカつくのは、こいつだ!
「なんで、止めなかったんだよ!」
「すまない」
「いつから見てたんだよ!」
最後の方なら仕方ない。
「金婚式、ぐらいから」
「思いっきり、最初だろー!」
その頬をはたいてやりたい、でもはたけないー、琉生斗は、くそったれー、と呟いた。
転移魔法を、使用できるエリアに出ると、アレクセイは離宮前の庭園に移動した。
夜だ。
ほのかな灯りの外灯が、暗闇に浮かんで見えた。
長い間遊んでいたんだなー。のんきによー。
琉生斗はやさぐれた。
町子が自分より、ティンを取ったことにも腹が立つ。
「おい」
琉生斗はベンチに腰をかけて、アレクセイを指で呼んだ。アレクセイは無表情を無理やり作ったような顔をしていた。
そんなアレクセイの顔を掴んで、キスをする。
思いっきり魔力を貰う。
琉生斗はアレクセイの目をじっと見つめた。
アレクセイの魔力では、魔力酔いは起きない。自然に、琉生斗にあった魔力に変換されている。
「ルート……」
そんな、悲しそうな顔されてもなぁー。おれだって、泣きたいのよ、と琉生斗は思う。
考えもまとまらないしーー。
こういうときは、すっきりしよう!
「風呂入る」
「あぁ、用意を」
「洗って」
ちらりと見る。
「もちろん」
「アレクも、全裸な」
後ろの気配が動揺するのを感じる。
「あ、あぁ」
「嫌ならいいよ」
仕返しのような事はしたくないが、嫌な事をするぐらいは、くさくさしている。
アレクセイがそういうときでもシャツを着たままなのは、この国の作法もあるのだろうが、一番は身体の傷が原因なんだろうと、琉生斗は思っていた。
まったく見えない事はないから、完全に隠したい訳でもなさそうだが、大っぴらに見せたいものでもないのだろう。
特に、背中の傷がひどい。
鋭い爪を持つ魔物にでもやられたのか、三本線の酷い古傷がある。腹には火傷の痕も。
琉生斗がお湯を掛けていると、アレクセイが、困った様な顔で、湯殿に入ってきた。
おっ、ちゃんと全裸じゃん。
正直、細めではあるがいい身体である。
ただ、筋肉に関しては、東堂や、他の騎士の方がしっかりしているように感じる。
アレクセイは琉生斗の髪から洗い始めた。
いつものように優しい指で、琉生斗の身体は洗われていくーー。
ベッドに倒れ込んでキスをする。
ーーなんだ、このエロ展開は。
自分が誘っててなんだが、この状況で誘いにのるなよ、とアレクセイを責めたい気持ちが満載である。
それにしても、身体が馴染む、って本当だ、アレクに伸しかかられても、それに対して普通の事だと思う自分がいる。他の人なら、恐怖なだけなのにーー。
「ルート……」
囁やきが、脳天を直撃する。
部屋はいつもより暗いー。そんなに嫌かよ、と琉生斗は思った。
「ルート。本当にすまない」
「まぁ、いいよ。おれも嫌な事をやってる自覚はあるから、許してはやる」
けど、と続ける。
「シャツを着てようが着てまいが、背中に手回したら、傷があることぐらい、わかるんだけど」
ボタン外してるんだし、腹の火傷痕も見えてましたよー。
「そうだな」
背中を撫でると、アレクセイは気持ち良さそうに微笑んだ。
「おれの事、知りたかったのか?」
かわいいからサービスだ、と琉生斗はアレクセイの乳首を舐めた。
「そうだな。知りたかった」
感じている吐息がもれる。
「聞きゃよかったのにー」
アレクセイは目を見開いた。
「よかったのか?」
「ネタ家族の事だろ?別に聞かれても平気だよ」
「そうか。私は臆病だからな」
えっ?琉生斗はアレクセイの顔をまじまじと見た。
「知りたいが、ルートの嫌がる事はしたくない」
アレクセイは、琉生斗を抱きしめて、激しくキスを繰り返した。
「大切で、大事すぎて、どうしたらいいかわからない」
溜め息混じりに言われ、琉生斗は真っ赤になった。
「おれも」
琉生斗はアレクセイの首に腕をまわした。
「アレクがすげぇー好き」
「ルート」
アレクセイは、琉生斗の身体を起した。
「?」
琉生斗が不思議そうな顔をした。
「ルート、二人で家族になろう」
琉生斗の時が止まった。
「どういうのが家族と言うのか、実は私もよく知らない。ただ、」
アレクセイは涙をこぼした琉生斗の頬を優しく包んだ。
「きみと家族になりたい。二人が、思うような家族になろう」
ありがとうーー。
ホントにおまえはよーー。
琉生斗は一晩中泣き明かした。
アレクセイに八つ当たりもしたし、キスもセックスもした。
「そんとき、くそ親父がなーー」
「ひどい父上だな」
語り明かして、朝が来て、琉生斗はいつの間にか、アレクセイの腕の中で、幸せに眠ったーー。
いままでの人生もそう悪くはないさーー。
そうじゃなければ、いま彼の横にはいないのだからーー。
「兵馬何言ってんの?鈴なんかないわよ」
あっ!そうか。
琉生斗はわかった。
「ティン、って錫の事だな」
「元素記号Sn、錫でしょう」
「てっきり、時代的にすずはひらがなかと思ってたんだけど、錫さんだったのかーー」
琉生斗は鍵を一つ一つ確認した。
「重い、これは金で出来てるな、これもそうだ。こっちは銀だな。融かしゃ早いんだけど、元に戻せねぇよな」
「ここなら、戻る使えるよ~」
「じゃあ、町子、これとこれとこれを、232℃で融かしてくれ」
「ーー何℃って?」
「錫の融解温度の232℃、家庭用のガスでも融ける金属は、こいつぐらいだ」
「はぁ~い~」
町子が鍵を浮かせて、炎を出す。
三本の真ん中の鍵が、融け出した。
「おっ、錫があったぞ」
町子が、戻るの魔法をかけた。
「これが、私の鍵だ」
琉生斗は鍵穴に鍵を差した。柔らかい金属なので、壊さないように、変に力を入れないように、慎重にまわす。
ガチャリ。
鍵が開いた。
「おし、もう最後だといいなー」
「ぼくらホントに向いてないよね」
疲れ切った二人組が言う。廊下に靴音だけが響いている。
「しかし、体力つけなきゃな。運動部でも作るか?」
「そうだねー。騎士候補生とか、誘ってみる?」
「あの子達は、すごい運動神経だ。おれらはもっと下だ」
偉そうに言われても。
「ねえ、よく鍵がわかったわね。ティンさんが、錫って、なんで確信したの?」
「あぁ、おれ向こうで先代に会ってる」
「えっ!」
三人が目を剥いた。
「幽霊みたいだったし、夢だと思ってたんだけど、ティンさんと顔そっくりだわ。あの人、スズさんの息子だろ」
「当たり~!」
町子が手を叩いた。
「どんな方法か、お師匠様が、知りたがってるけど、わかる~?」
「あぁ」
琉生斗は何かを考え込んでいる。
「えー。それって、いつの話」
兵馬が尋ねた。
「ばあちゃんと姉貴が死んだ後だな」
「あー、唯一病んでた時期ね」
「そうそう、夜な夜なヤンキー相手にケンカふっかけてたときよ」
何やってんだよーー。
兵馬は悲しそうに友達を見た。
「僕がいくら言っても聞かなかったのに、他所のおばあちゃんの話は聞いたんだ」
「亀の甲より年の功ってな。すげぇー、威厳のあるばあちゃんだったのよ。品がいいとかそんなレベルじゃねえ、歴戦の猛者みたいな」
「たしかに、本当にその人が先代なら、五十年以上は戦ってきた人だよね」
あー、あの貫禄が自分では出せるかどうかー。
「バカな事はやめなさい。もうすぐ、家から出られるから、もうちょっとがんばりなさい、っ怒られたんだよ。だから、ばあちゃんの知り合いが、引き取ってくれるのかなーぐらいに思ってたわけ」
「幽霊に?」
「幽霊みたいに、色が白かった。この人、どこかが悪いなーって思った」
「何か病気だったのかな、ルートは大丈夫かな」
「アレクなら知ってるかもな。てか、親戚なのに知らないって、ティンさんの存在って?」
「秘密にされてるみたい~。誘拐か何かを警戒してたって~」
そりゃそうだわ、と琉生斗は頷く。
「てか、子供できるんだなー。おまえらも気をつけろよーー」
余計なお世話である。
「しかし、長くないか?この廊下ー」
「もうすぐ終わりよ~」
「なんだよ、ティンさん。たいした話が聞けないから、やめたのか?」
「そうかもね~」
琉生斗と町子が話していると、部屋の床が動き出した。ガタガタ動き出す。
床が、崩れ落ちて行くーー。
「おい!これは攻略方法は!」
落ちながら、琉生斗は叫んだ。
「知らない~」
町子ぉぉぉーー!
「っと!」
琉生斗は床に激突を予想したが、誰かに受け止められた。
この匂いはーー。
「アレクーー」
どこだ、ここ?
「痛ー!殿下、ぼくは!」
「すまない」
助けてよ、ホントに。と、兵馬が、怒った。
ふわりふわり、箒に乗って、町子と美花が現れた。
「いいもん乗ってるー」
「魔女のシンボルよ~」
「ルート、気分は?」
「ぼちぼちだよ。何だ帰って来たのか?それとも、おれらの方が日が経ってるのか?」
琉生斗は降りようとしたのだが、アレクセイが離してくれない。
「一時、帰ってきた」
「ふぅん」
なんか、様子が変だ。
琉生斗は、まわりの気配に、異様なものを感じた。
会議室だよなー。陛下がいるしー。ティンさんもいるー。クリスはなんで青い顔してるんだーー。
「会議中?邪魔したなー」
降ろせよ、と琉生斗ははっきり言う。
「父上、御前失礼致します」
「ーーあぁ」
なんだ、この緊張感。
「ん?ちょっと待て」
琉生斗は気付いた。
「なんでおまえ、おれに気分は、って聞いたの?」
アレクセイが、しまった、という表情を一瞬浮かべた。
琉生斗は会議室にいる面々を見て、悟った。
「さては、おまえら、見てたなー」
琉生斗はティンを睨んだ。
「見ないとは、言ってませんよ」
ティンは笑った。
「そりゃそうだ。確認したい事があったんだよな。お役に立てたかわかりませんが」
くそったれ。
「どこからだよ」
アレクセイに噛み付くように言葉を発した。
「どこから見てたんだよ!」
琉生斗は強く言った。アレクセイは視線を横に外す。
琉生斗はアレクセイの腕の中から無理やり降りた。
全力で走り去る。
「ルート!」
アレクセイが後を追う。
「ルート、足は速いんだよ」
「陸上部でもないのに、100メートル11秒だっけ?」
「ぼくらも帰ろう。町子、ちょっと悪趣味すぎない?」
兵馬が町子を睨んだ。美花はどうしたらいいのか、という目だ。
「うん。ごめんね~」
「何か理由はあるんだろうけど、知ってたなら、教えて欲しかったよ」
「うん」
「町子は悪くありません。私だけと思っていたのですからー」
ティンが町子を庇った。
「で、見たいものはみれたの?錫さんの息子さん」
兵馬が切り込んだ。
「そうですね。母がどうやって、琉生斗と接触したのか、方法を知りたかったのですが」
「ルートはわかってるよ。教えてくれるかはわからないけど」
ティンは笑うのをやめた。
「ーーそうですか」
くそったれー!
すぐにアレクセイに捕まった琉生斗は、頭に血は登っていたが、よく考えればわかる事だったと、反省もしていた。
ムカつくのは、こいつだ!
「なんで、止めなかったんだよ!」
「すまない」
「いつから見てたんだよ!」
最後の方なら仕方ない。
「金婚式、ぐらいから」
「思いっきり、最初だろー!」
その頬をはたいてやりたい、でもはたけないー、琉生斗は、くそったれー、と呟いた。
転移魔法を、使用できるエリアに出ると、アレクセイは離宮前の庭園に移動した。
夜だ。
ほのかな灯りの外灯が、暗闇に浮かんで見えた。
長い間遊んでいたんだなー。のんきによー。
琉生斗はやさぐれた。
町子が自分より、ティンを取ったことにも腹が立つ。
「おい」
琉生斗はベンチに腰をかけて、アレクセイを指で呼んだ。アレクセイは無表情を無理やり作ったような顔をしていた。
そんなアレクセイの顔を掴んで、キスをする。
思いっきり魔力を貰う。
琉生斗はアレクセイの目をじっと見つめた。
アレクセイの魔力では、魔力酔いは起きない。自然に、琉生斗にあった魔力に変換されている。
「ルート……」
そんな、悲しそうな顔されてもなぁー。おれだって、泣きたいのよ、と琉生斗は思う。
考えもまとまらないしーー。
こういうときは、すっきりしよう!
「風呂入る」
「あぁ、用意を」
「洗って」
ちらりと見る。
「もちろん」
「アレクも、全裸な」
後ろの気配が動揺するのを感じる。
「あ、あぁ」
「嫌ならいいよ」
仕返しのような事はしたくないが、嫌な事をするぐらいは、くさくさしている。
アレクセイがそういうときでもシャツを着たままなのは、この国の作法もあるのだろうが、一番は身体の傷が原因なんだろうと、琉生斗は思っていた。
まったく見えない事はないから、完全に隠したい訳でもなさそうだが、大っぴらに見せたいものでもないのだろう。
特に、背中の傷がひどい。
鋭い爪を持つ魔物にでもやられたのか、三本線の酷い古傷がある。腹には火傷の痕も。
琉生斗がお湯を掛けていると、アレクセイが、困った様な顔で、湯殿に入ってきた。
おっ、ちゃんと全裸じゃん。
正直、細めではあるがいい身体である。
ただ、筋肉に関しては、東堂や、他の騎士の方がしっかりしているように感じる。
アレクセイは琉生斗の髪から洗い始めた。
いつものように優しい指で、琉生斗の身体は洗われていくーー。
ベッドに倒れ込んでキスをする。
ーーなんだ、このエロ展開は。
自分が誘っててなんだが、この状況で誘いにのるなよ、とアレクセイを責めたい気持ちが満載である。
それにしても、身体が馴染む、って本当だ、アレクに伸しかかられても、それに対して普通の事だと思う自分がいる。他の人なら、恐怖なだけなのにーー。
「ルート……」
囁やきが、脳天を直撃する。
部屋はいつもより暗いー。そんなに嫌かよ、と琉生斗は思った。
「ルート。本当にすまない」
「まぁ、いいよ。おれも嫌な事をやってる自覚はあるから、許してはやる」
けど、と続ける。
「シャツを着てようが着てまいが、背中に手回したら、傷があることぐらい、わかるんだけど」
ボタン外してるんだし、腹の火傷痕も見えてましたよー。
「そうだな」
背中を撫でると、アレクセイは気持ち良さそうに微笑んだ。
「おれの事、知りたかったのか?」
かわいいからサービスだ、と琉生斗はアレクセイの乳首を舐めた。
「そうだな。知りたかった」
感じている吐息がもれる。
「聞きゃよかったのにー」
アレクセイは目を見開いた。
「よかったのか?」
「ネタ家族の事だろ?別に聞かれても平気だよ」
「そうか。私は臆病だからな」
えっ?琉生斗はアレクセイの顔をまじまじと見た。
「知りたいが、ルートの嫌がる事はしたくない」
アレクセイは、琉生斗を抱きしめて、激しくキスを繰り返した。
「大切で、大事すぎて、どうしたらいいかわからない」
溜め息混じりに言われ、琉生斗は真っ赤になった。
「おれも」
琉生斗はアレクセイの首に腕をまわした。
「アレクがすげぇー好き」
「ルート」
アレクセイは、琉生斗の身体を起した。
「?」
琉生斗が不思議そうな顔をした。
「ルート、二人で家族になろう」
琉生斗の時が止まった。
「どういうのが家族と言うのか、実は私もよく知らない。ただ、」
アレクセイは涙をこぼした琉生斗の頬を優しく包んだ。
「きみと家族になりたい。二人が、思うような家族になろう」
ありがとうーー。
ホントにおまえはよーー。
琉生斗は一晩中泣き明かした。
アレクセイに八つ当たりもしたし、キスもセックスもした。
「そんとき、くそ親父がなーー」
「ひどい父上だな」
語り明かして、朝が来て、琉生斗はいつの間にか、アレクセイの腕の中で、幸せに眠ったーー。
いままでの人生もそう悪くはないさーー。
そうじゃなければ、いま彼の横にはいないのだからーー。
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