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ティンのダンジョン編 (ファンタジー系)
第60話 ティンのダンジョン 4 ティンの思惑
しおりを挟む階段途中の扉を開けると、一面の氷の世界だった。
「ひゃー、寒さを感じるぜ」
琉生斗は少し震えた。
「兵馬、すべんなよ」
べちっ、と兵馬は転んだ。
「ーー大丈夫かー」
「眼鏡は無事だよ」
兵馬は腰を擦る。美花は辺りを見回す。
「どこに向かうのかしら?」
「スケート靴欲しいな」
ないかなー、と琉生斗は探す。
「スケートもやってたっけ?」
「あぁ。リンク通うのにタクシーで二時間かかるからよ、ピアノ優先したいって言って、中学入る前にやめた」
「嫌味なブルジョアー」
ペッペッ、と美花は舌を出した。
「おい、葛城。おまえこそ、ミントのとこに混ざってダンスのひとつでも覚えた方がいんじゃねえ?」
靴で滑ってみるが、ちっとも滑らない。
この靴優秀だなーー、さすがアレク製ーー、ぶっ、と琉生斗は自分の言葉に受けた。
「なんで?」
女だからーー?
琉生斗はきょとんとした美花を見て、唖然とした。
「おまえ、まさか知らないのかーー」
突如、雹が降る。
「うわ!いて!」
「や、屋根ない!」
「どうすんだよ!魔法使えんのか!」
「はい、ビニール傘~」
町子が透明な傘を配る。
「こんなんで、どうすんだよ!」
琉生斗は傘をさす。
ボン、ボン、ボン、と雹がぶつかるが、破れはしなかった。
「えっ、すげぇー」
「町子さんお手製の、リバース傘ですよ~」
おおぅ!拍手が起こる。
「出口どこかなー?」
見渡す限り氷の世界だ。
「ん?なあ、町子。雹が集まってねえか?」
地面に落ちた雹が、同じ場所に転がっていく。それは次第に大きくなり、形作られ、動くようになった。
「ーーあれは、魔物か」
「そうみたいー」
「おれ、武器ねえけど」
下がってていいか?と聞くと、町子に剣を渡される。
「おおー、軽いじゃん」
「そう?一般的な重さよ」
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美花が驚く。
「あぁ、こんなん羽根みたいなもんだ」
「なんで?殿下全然マッチョじゃないじゃない」
むしろ痩せ型。
「あんなほっそい腕で、重い剣なの?魔法で軽くしてんじゃない?」
「いや、毎日朝晩あほほど振ってるぜ」
うそぉ。と美花と町子。
「ーーただの変態じゃなかったのね」
「芯のある変態だったみたいね~」
「あ、アレクを変態って!」
琉生斗は女子に噛み付く。
「変態よねー。せっかくカッコいいのに」
「ホント、観賞用のみよね~」
「変態と胡散臭い、ってこの国どうなってんだろう」
兵馬は氷の魔物から目を離さなかった。
「来るよ!姉さん!」
美花は結界を張った。氷が勢いよくぶつかる。続けて美花は唱える。
「天上の炎!」
炎の渦が氷の魔物を取り囲み、蒸発させる。
「おお!さすが!」
琉生斗と兵馬は手を叩いた。
「んじゃ、がんばって」
琉生斗の指差した方向から、次々と氷の魔物が出来てくる。
「町子、結界やるか攻撃やるかどっちがいい?」
「もちろん~攻撃~」
「あたしもだわ!」
「破壊!」
「炎の鳥!」
女子二人が最高位の魔法を撃ちまくる中、琉生斗と兵馬は出口を探した。
「ないなー」
「変わったとこ気付いた?」
「しいて言うなら、氷の色が違うところがある」
「どこ?」
琉生斗は二か所色が違う氷に指差した。
「微妙な色違いだ。よくわかったねー」
「後、二か所あるのかもな」
「なら、十字だね」
「ああ」
色の違う氷を探すと、ちょうど十字になるように、四枚の氷が見つかった。
「おい、葛城、町子。おれらの真正面に色が違う氷があるだろー。踏んでみてくれー」
派手な戦闘が終わった二人に指示を出す。
「はーい」
と、美花は兵馬の前に、町子は琉生斗の前に、十字になるように立った。色が違う氷が光り、真ん中に光が走った。
ドアがあらわれる。
「ひゃー、かっけー!」
「すごいね」
琉生斗と兵馬がはしゃぐと、町子はにんまりと笑う。
「ね、すごいでしょ~」
「おい」
ドアを開けて、琉生斗は真っ青になった。
「引き返すぞ」
「無理よ~」
町子が答えた。
「なんでだよ」
「氷が奥から消えていってる~」
引き返せないようだ。
「うそーん」
「うわ、こりゃぼくらは無理だよー」
広い洞窟に出た。
足場が細い、長い道。
落ちれば、下に広がる溶岩。
「あの、マグマ、本物かなーー」
「この熱風じゃ、本物っぽいよ」
熱いー。とにかく風が熱い。
「いや、風だけ本物で、下はクッションとかー」
「本物のマグマを、移動させてるね~」
「なんで、そんなクオリティー高いんだよ」
「お師匠様は本物志向なの~」
「イケメンなのに、意地が悪いなー」
「「えっ?」」
双子が声をあげた。
兵馬と美花が顔を、見合わせた。
ほんと、似てないのよ、あたし達。
「失礼だけど、ルートのイケメンの定義、広いね」
兵馬が言うと、美花も、「そうねー失礼だけど」と言う。ワカメ頭の青白い顔の人としか、覚えていないけどーー。
琉生斗は、あっ、と声を出す。
「もしかして、言っちゃ駄目なやつか?」
町子に確認する。
「この場だけなら大丈夫よ~。お師匠様は姿隠しの魔法を使っているの~。立場上でね~」
「そうなの?あんたそんなのわかるの?」
美花は目を丸くした。
「そういうのを見破るのは聖魔法の領域だろ」
「え?あんた、そっち側なんだー」
「ーーおれ、いちお神殿のトップなんだけど」
「え?教皇じゃないの?」
「ーー姉さんー。ルートの方が立場は上だよ。教皇の上の位が聖女だから」
うそぉ、と美花は呟いた。
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琉生斗は、うーん、と考えた。
「いや、あの人は知らない」
「それより、町子。浮遊魔法」
「無理~、ここ魔力が掻き消される~」
「落ちたらどうすんだよ!」
「大丈夫よ。こんだけ道広いし」
「どこがだよ」
エバンス山脈の崖道よりはマシである。
「あたしの通ったところを、踏むようにね」
「姉さん。騎士っぽいね」
「冗談で騎士やってる訳じゃないんだな」
あんた達、落ちろ!
「父上、これはどういう事ですか?」
アレクセイの追求に、アダマスは言葉を濁した。
「なぜ、帰ってきた」
「クリスが役に立たないので置きに来ました」
ひどいーー。クリステイルは泣きそうだった。
「私を追い出して、何をしているのですか?」
アレクセイはティンの千里眼クレヤボヤンスに映る、琉生斗達の事を尋ねた。
「いや、ティンが、確認したい事があると……」
「ティン。個人的な会話を、盗み聞きするのは」
たちが悪いー。
琉生斗達も後で知ったら、いい気はしない、逆にマイナスだろう。
将軍達は、アレクセイの発する圧力に、下を向いている。その中、ティンが口を開く。
「気になって仕方なさそうですがー」
そう、揶揄した。
アレクセイは、彼を睨んだまま、父に意見をする。
「父上、ルートの信頼を損ねますー」
兄の方が正しいのに、父は何をやっているのだろうかー、クリステイルは疑問を浮かべる。
「ーー私の調べでは、聖女になる方の、あちらでの家庭環境は最悪らしいです」
ティンが語る。
「こちらに来て、未練が起きないように、そうなっているそうですよ」
ーー変だ。
アレクセイは違和感を感じる。
ならば、琉生斗は、生まれながらに聖女である事が決まっていたのか?
「……」
そうだ、スズ様は、アレクセイの聖女を見てきた、と教皇に話しているーー。
「聖女は次の聖女の存在を、女神様から伝えられるそうです」
アダマスは驚いた。ティンが口を開くとは。
「干渉はできないそうですが、スズ様は、何らかの方法で接触したのかもしれない。私はその方法が知りたいのですーー」
アレクセイは、反論をやめた。
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