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ティンのダンジョン編 (ファンタジー系)
第55話 魔導師室 室長ティン ☆やや18禁
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「どうしたのだ?アレクセイ」
アダマスが首を傾げる程、兄の様子がおかしい、とクリステイルは感じた。
口を開きかけてやめ、何かを思案するように黙り、また口を開こうとする。隣に座った琉生斗は、視線が泳いでいるしーー。
「最後までしたのかー」
報告を受けても困るのだがーー。
「ーーいえ、良い報告ならいいのですがー」
それは良い報告ではない、とアダマスは息子の言葉に呆れた。
「そうだ。バルドの話をティンにしたら、直接話を聞きたいらしい。もうすぐ来る」
終わったーー。
琉生斗は項垂れた。町子の師匠、魔導師室長ティンは、あらゆる魔法のエキスパートだ。琉生斗の異変など、すぐに気が付くだろう。
「失礼致します」
執事長ヘイデンに案内されて、魔導師室長と町子が国王の執務室に入ってくる。
「あっ、こんにちは~。ルート君~」
町子と同じ黒いローブを着ているその人は、緑がかった黒い髪の毛が目の下まであり、顔がわかりづらかった。
「失礼。聖女様にはお初にお目にかかります。町子を預かっております、魔導師室室長のティンです。どうぞよろしくお願い致します」
年齢もわからない、なんだ、この人ーー。琉生斗は眉を顰めた。なんだかはっきりしない人だ。まるでフィルター越しに顔を見ているみたいに。
あれ?
この人、町子の事なんて言った?
アレクセイでもマチコのチの部分が、外国の人の名前みたいになるのに、チ、で止めたよなーー。
ちょっと試してみますかー。
「はじめまして、加賀琉生斗です」
へっ?
クリステイルが驚いて、琉生斗を見た。
ちーす、とか、おいーす、じゃない。なんだろう、その普通の挨拶はーー。
本名そうなのかーー、とクリステイルはそこにも驚いている。
「加賀、琉生斗さんですか。町子は神楽坂だったね」
「そうです~。苗字なんて、久々に聞いたわ~」
「あちらの名前は面白いですね」
「そうですね。発音が正確で、驚いています」
アレクセイは、視線をティンから外さなかった。クリステイルは兄の様子を不安気に見た。
ティンは真っ直ぐに、琉生斗の心臓付近を見ていた。琉生斗は、目が泳ぎだす。
「アレクセイ殿下。どうするおつもりですか?」
ティンに問われ、アレクセイが盛大に溜め息をついた。
「どうすればいい?浄化しても戻るらしい」
アレクセイの言葉に、ティンは笑った。
「国王陛下、王太子殿下、皆様がおっしゃる通り、規格外の聖女様ですねー。魔蝕を心臓に取り込んでいる」
「「はあぁぁぁ!」」
アダマスとクリステイルの絶叫が、執務室に響いた。何事かと、近衛兵が飛んで来たが、アレクセイが手で下がるように制した。
琉生斗は頭を掻いて舌を出す。
「申し訳ありません。私が気付かなかったのが問題でーー」
「そんな訳ないだろ!ルート、何を考えている!」
「兄上の責任な訳ないでしょ!聖女様!」
二人から責められ、アレクセイの後ろに隠れる。
「こら!ルート!」
「兄上、庇わないで下さい!」
ひとしきり説教を食らった後、町子が言った。
「まぁまぁ~。ルート君も反省してますよ~。ちょっと目が腫れぼったいし、殿下に怒られたの~?」
ああ、そういえば、とアダマスとクリステイルは顔を見合わせた。
「兄上がお叱りになられたのなら、これ以上言う事はありませんがーー」
クリステイルは溜め息をついた。アダマスも頷く。
「そうだな」
この二人、アレクに対する信頼度でけーな、と琉生斗は感心する。
実際のところ、セックスの最中、琉生斗の孔をいじるアレクセイの指がよすぎて、よがりによがって泣いただけなのだが。
うん。最高だったーー。よっぽどアレを挿れてくれって言いかけたけどーー。
琉生斗は心の中でうっとりしている。
「それにしてもすごい。魔蝕を操れますか?」
ティンが興味深く琉生斗を観察した。
「まぁ、少々」
「やはり、闇魔法の信者達を一時魔蝕に取り込みましたね?」
町子の師匠にはバレるか、やっぱり。
「はい」
誤魔化せる人物ではなさそうだ。
「聖女様にとっては闇魔法を取り除いて病気を治すより、魔蝕の中で浄化した方が、早いですからね」
ーーそうだと思いました。
「だが、そう都合よく魔蝕がでる訳がないと思っていたので、不思議に思っていましたが」
まさか、持っていたとはーー。
「おっしゃる通りで」
琉生斗は頷いた。
「危険この上ない。どういう判断でそうなりましたか?」
「うーん。浄化した魔蝕が、残りたいって言ってきたから。まぁ、浄化済みだし、いいかって。おれだって、本当にヤバいことはしないって。あんときは死にかけてたし、女神様に、その都度確認はしてるし」
「女神様に?」
ティンの声が上擦った。
「あぁ。そのとき触ると、これはダメ、あれはいける、みたいな判断をしてくれるんだよ」
ティンは鋭い目付きで琉生斗の心臓を見ている。
「えーと」
「面白い。完全に浄化の光で魔蝕を包んでいる。もはや、魔蝕と言えるのか……」
考え込むように、ティンは琉生斗を見つめる。
「イメージはペットなのよ」
何を飼うつもりなのか、スズ様のように子ドラゴンを飼うほうがどれだけましか、アダマスは眉間に皺を寄せた。
「浄化してもーー」
「いつの間にか、帰ってきてるんだ」
ふーむ。ティンは唸った。
「一週間に一度は魔導師室に顔を出して下さい。どういう状況か、観察しますから」
「えっ、いいの?」
「ダメだと言ったら、他の方法を考えるでしょ?あなたはそういう人だ。時空竜の女神様が放置しておられるのなら、わたしがとやかく言うものでもないでしょうし」
誉められてはいないな、と琉生斗は感じた。
「ティンが、そういうのならば、この件はティンに任せる」
アダマスが結論を出した。
規格外な事をやるとは思っていたが、ここまでとはーー。
「なぜ、取り込んだときに気が付かなかった?」
アダマスはアレクセイに尋ねる。
「アレクじゃない。あのときはクリスが同行してくれたからで」
あのときかーー。
クリステイルは父の攻撃に備える。
「なるほど、聖女様もアレクセイがはっきりせんから苛々していたときかー」
図星を突かれて琉生斗は黙った。
「兄弟揃って、修行し直せ」
「ーーはい」
クリステイルは返事をし、アレクセイは頭を下げた。
「ティン、ルートの事はよろしく頼む」
アダマスがティンに言った。
「わかりました。聖女様、午後から講義が多いと聞きましたので、来られるときは朝一に魔導師室にお越し下さい」
琉生斗はティンの顔をじっと見て、眉を寄せた。
「どうしました?」
ティンが尋ねた。
「んー。そんな訳ないよなー」
「何がです?」
「うーん。知ってる人に似てるんだ」
「え?」
ティンは目を丸くした。
「ーー誰です?」
琉生斗はアレクセイに目を向けた。彼は何も言わない。
「なら、違うよなー」
琉生斗はそれ以上、何も言わなかった。
「魔導師室長にお願いしていたものだ」
アレクセイは、アレキサンドライトで出来た耳飾りを琉生斗に見せた。
楕円の耳飾りを見て、
「ん?おれがつけるの?」
と、尋ねる。
「私だ」
ふーん。なんでおれにわざわざ見せるんだろ?、と琉生斗が思っていると、アレクセイに顎を持ち上げられた。
「唇を噛んでいいか?」
「ん?いいけどー」
と、言った瞬間、唇に痛みが走った。
「痛っ!」
血がポタリと落ちた。アレクセイはじわじわ出てくる血に、耳飾りをあてる。
耳飾りが光りながら、琉生斗の血を吸い込んでいく。
耳飾りを自身の耳に付ける。重たげに、石は揺れた。アレクセイは琉生斗の傷を、舐めて治癒した。
聞いていいのかどうしたものか、と思っているとアレクセイが話し始めた。
「ルートの血を保存しておく、魔導具だ」
ほーん。闇魔法を使われたときの為の保険かーー。
「明日から、クリスと共に、ある場所に向かう」
「えっ?」
「その間、ティンのところで世話になるように」
「ええっ?」
アレクとクリスで、修行のやり直しかーー。楽しそうだ。いいなぁ、おれ行っちゃ駄目だろうかー。
「どのぐらい?」
「未定だ」
手早く収納カバンに衣類等を詰め込んでいく婚約者に、後ろから抱きつく。
「駄目だ」
やっぱり駄目かー。
琉生斗はアレクセイの背中にくっついたまま、しばらく離れなかった。
「ごめんー」
「いや、あのときは私が悪かったのだから。ルートに余計な事を考えさせた」
本当にそうだーー。恋愛初心者に、あんなボスイベントは早すぎた。
琉生斗の腕をほどき、アレクセイは正面から抱き締めた。
「愛している、と何万回言おうが、ルートは信じないのか?」
真摯な瞳は、疑われるのは心外だ、と語っている。
「ーー信じるけど」
心配なのは今じゃないーー、この先だ。
なぜ先の事を心配しなきゃならないのかと言われると、これから五十年の間、彼と魔蝕の浄化に行かなきゃならないからだ。
「ーーアレクは大丈夫だと思うのか?」
琉生斗は今まで怖くて聞けなかった事を、口に出した。
飽きるとか飽きられるとか、他の人が好きになる、とか、出来心で浮気とか、恋愛には障害イベントが盛り沢山だ。
ナスターシャだってもう少し歳がいけば、絶世の美女になるだろう。きっと、アレクセイだって振り返るほどのーー。
「ああ。きみの一生を愛している。いや、一生では足らないな」
琉生斗は固まった。何なんだ、この自信は。
逆に怖いんだけどーー。
「ありがとうーー」
そんなに好かれる事したっけ?と、疑問は残る。
だがー、好きな人に同じように想われるって、感動だな、と琉生斗は思った。
あーー、おれアレクの事、すげぇー好き。
キスをねだった琉生斗に、アレクセイは包み込むような、愛のこもった口吻をするーー。
「なぁ」
裸になってお互いを愛撫し合う。幸せなひととき。
琉生斗の手が、アレクセイの腹の下を弄る。
「どうした?」
アレクセイは、琉生斗の髪の毛を優しく撫でる。汗ばんだ髪が、より艶めいて見える。
「ーー最後まで、ね」
「何?」
可愛くて、可愛いすぎて、べたべたに甘やかしてあげたい。
「ーーして、アレク」
琉生斗の言葉に、アレクセイは固まった。琉生斗の指が、自分の太腿の際で遊んでいる。
もう少し、下まで触って欲しいが、絶妙なところで指の動きはとまる。
いや、待てー。
ーー最後までして?
いや、聞き間違えかもしれない。
待ちに待ちすぎた言葉に、耳がおかしくなったのか。幻聴を拾うとはー。
「アレクー」
キスをねだる顔の艶然たる事。
「ダメ?」
アレクセイは完全に理性を失ったーー。
アダマスが首を傾げる程、兄の様子がおかしい、とクリステイルは感じた。
口を開きかけてやめ、何かを思案するように黙り、また口を開こうとする。隣に座った琉生斗は、視線が泳いでいるしーー。
「最後までしたのかー」
報告を受けても困るのだがーー。
「ーーいえ、良い報告ならいいのですがー」
それは良い報告ではない、とアダマスは息子の言葉に呆れた。
「そうだ。バルドの話をティンにしたら、直接話を聞きたいらしい。もうすぐ来る」
終わったーー。
琉生斗は項垂れた。町子の師匠、魔導師室長ティンは、あらゆる魔法のエキスパートだ。琉生斗の異変など、すぐに気が付くだろう。
「失礼致します」
執事長ヘイデンに案内されて、魔導師室長と町子が国王の執務室に入ってくる。
「あっ、こんにちは~。ルート君~」
町子と同じ黒いローブを着ているその人は、緑がかった黒い髪の毛が目の下まであり、顔がわかりづらかった。
「失礼。聖女様にはお初にお目にかかります。町子を預かっております、魔導師室室長のティンです。どうぞよろしくお願い致します」
年齢もわからない、なんだ、この人ーー。琉生斗は眉を顰めた。なんだかはっきりしない人だ。まるでフィルター越しに顔を見ているみたいに。
あれ?
この人、町子の事なんて言った?
アレクセイでもマチコのチの部分が、外国の人の名前みたいになるのに、チ、で止めたよなーー。
ちょっと試してみますかー。
「はじめまして、加賀琉生斗です」
へっ?
クリステイルが驚いて、琉生斗を見た。
ちーす、とか、おいーす、じゃない。なんだろう、その普通の挨拶はーー。
本名そうなのかーー、とクリステイルはそこにも驚いている。
「加賀、琉生斗さんですか。町子は神楽坂だったね」
「そうです~。苗字なんて、久々に聞いたわ~」
「あちらの名前は面白いですね」
「そうですね。発音が正確で、驚いています」
アレクセイは、視線をティンから外さなかった。クリステイルは兄の様子を不安気に見た。
ティンは真っ直ぐに、琉生斗の心臓付近を見ていた。琉生斗は、目が泳ぎだす。
「アレクセイ殿下。どうするおつもりですか?」
ティンに問われ、アレクセイが盛大に溜め息をついた。
「どうすればいい?浄化しても戻るらしい」
アレクセイの言葉に、ティンは笑った。
「国王陛下、王太子殿下、皆様がおっしゃる通り、規格外の聖女様ですねー。魔蝕を心臓に取り込んでいる」
「「はあぁぁぁ!」」
アダマスとクリステイルの絶叫が、執務室に響いた。何事かと、近衛兵が飛んで来たが、アレクセイが手で下がるように制した。
琉生斗は頭を掻いて舌を出す。
「申し訳ありません。私が気付かなかったのが問題でーー」
「そんな訳ないだろ!ルート、何を考えている!」
「兄上の責任な訳ないでしょ!聖女様!」
二人から責められ、アレクセイの後ろに隠れる。
「こら!ルート!」
「兄上、庇わないで下さい!」
ひとしきり説教を食らった後、町子が言った。
「まぁまぁ~。ルート君も反省してますよ~。ちょっと目が腫れぼったいし、殿下に怒られたの~?」
ああ、そういえば、とアダマスとクリステイルは顔を見合わせた。
「兄上がお叱りになられたのなら、これ以上言う事はありませんがーー」
クリステイルは溜め息をついた。アダマスも頷く。
「そうだな」
この二人、アレクに対する信頼度でけーな、と琉生斗は感心する。
実際のところ、セックスの最中、琉生斗の孔をいじるアレクセイの指がよすぎて、よがりによがって泣いただけなのだが。
うん。最高だったーー。よっぽどアレを挿れてくれって言いかけたけどーー。
琉生斗は心の中でうっとりしている。
「それにしてもすごい。魔蝕を操れますか?」
ティンが興味深く琉生斗を観察した。
「まぁ、少々」
「やはり、闇魔法の信者達を一時魔蝕に取り込みましたね?」
町子の師匠にはバレるか、やっぱり。
「はい」
誤魔化せる人物ではなさそうだ。
「聖女様にとっては闇魔法を取り除いて病気を治すより、魔蝕の中で浄化した方が、早いですからね」
ーーそうだと思いました。
「だが、そう都合よく魔蝕がでる訳がないと思っていたので、不思議に思っていましたが」
まさか、持っていたとはーー。
「おっしゃる通りで」
琉生斗は頷いた。
「危険この上ない。どういう判断でそうなりましたか?」
「うーん。浄化した魔蝕が、残りたいって言ってきたから。まぁ、浄化済みだし、いいかって。おれだって、本当にヤバいことはしないって。あんときは死にかけてたし、女神様に、その都度確認はしてるし」
「女神様に?」
ティンの声が上擦った。
「あぁ。そのとき触ると、これはダメ、あれはいける、みたいな判断をしてくれるんだよ」
ティンは鋭い目付きで琉生斗の心臓を見ている。
「えーと」
「面白い。完全に浄化の光で魔蝕を包んでいる。もはや、魔蝕と言えるのか……」
考え込むように、ティンは琉生斗を見つめる。
「イメージはペットなのよ」
何を飼うつもりなのか、スズ様のように子ドラゴンを飼うほうがどれだけましか、アダマスは眉間に皺を寄せた。
「浄化してもーー」
「いつの間にか、帰ってきてるんだ」
ふーむ。ティンは唸った。
「一週間に一度は魔導師室に顔を出して下さい。どういう状況か、観察しますから」
「えっ、いいの?」
「ダメだと言ったら、他の方法を考えるでしょ?あなたはそういう人だ。時空竜の女神様が放置しておられるのなら、わたしがとやかく言うものでもないでしょうし」
誉められてはいないな、と琉生斗は感じた。
「ティンが、そういうのならば、この件はティンに任せる」
アダマスが結論を出した。
規格外な事をやるとは思っていたが、ここまでとはーー。
「なぜ、取り込んだときに気が付かなかった?」
アダマスはアレクセイに尋ねる。
「アレクじゃない。あのときはクリスが同行してくれたからで」
あのときかーー。
クリステイルは父の攻撃に備える。
「なるほど、聖女様もアレクセイがはっきりせんから苛々していたときかー」
図星を突かれて琉生斗は黙った。
「兄弟揃って、修行し直せ」
「ーーはい」
クリステイルは返事をし、アレクセイは頭を下げた。
「ティン、ルートの事はよろしく頼む」
アダマスがティンに言った。
「わかりました。聖女様、午後から講義が多いと聞きましたので、来られるときは朝一に魔導師室にお越し下さい」
琉生斗はティンの顔をじっと見て、眉を寄せた。
「どうしました?」
ティンが尋ねた。
「んー。そんな訳ないよなー」
「何がです?」
「うーん。知ってる人に似てるんだ」
「え?」
ティンは目を丸くした。
「ーー誰です?」
琉生斗はアレクセイに目を向けた。彼は何も言わない。
「なら、違うよなー」
琉生斗はそれ以上、何も言わなかった。
「魔導師室長にお願いしていたものだ」
アレクセイは、アレキサンドライトで出来た耳飾りを琉生斗に見せた。
楕円の耳飾りを見て、
「ん?おれがつけるの?」
と、尋ねる。
「私だ」
ふーん。なんでおれにわざわざ見せるんだろ?、と琉生斗が思っていると、アレクセイに顎を持ち上げられた。
「唇を噛んでいいか?」
「ん?いいけどー」
と、言った瞬間、唇に痛みが走った。
「痛っ!」
血がポタリと落ちた。アレクセイはじわじわ出てくる血に、耳飾りをあてる。
耳飾りが光りながら、琉生斗の血を吸い込んでいく。
耳飾りを自身の耳に付ける。重たげに、石は揺れた。アレクセイは琉生斗の傷を、舐めて治癒した。
聞いていいのかどうしたものか、と思っているとアレクセイが話し始めた。
「ルートの血を保存しておく、魔導具だ」
ほーん。闇魔法を使われたときの為の保険かーー。
「明日から、クリスと共に、ある場所に向かう」
「えっ?」
「その間、ティンのところで世話になるように」
「ええっ?」
アレクとクリスで、修行のやり直しかーー。楽しそうだ。いいなぁ、おれ行っちゃ駄目だろうかー。
「どのぐらい?」
「未定だ」
手早く収納カバンに衣類等を詰め込んでいく婚約者に、後ろから抱きつく。
「駄目だ」
やっぱり駄目かー。
琉生斗はアレクセイの背中にくっついたまま、しばらく離れなかった。
「ごめんー」
「いや、あのときは私が悪かったのだから。ルートに余計な事を考えさせた」
本当にそうだーー。恋愛初心者に、あんなボスイベントは早すぎた。
琉生斗の腕をほどき、アレクセイは正面から抱き締めた。
「愛している、と何万回言おうが、ルートは信じないのか?」
真摯な瞳は、疑われるのは心外だ、と語っている。
「ーー信じるけど」
心配なのは今じゃないーー、この先だ。
なぜ先の事を心配しなきゃならないのかと言われると、これから五十年の間、彼と魔蝕の浄化に行かなきゃならないからだ。
「ーーアレクは大丈夫だと思うのか?」
琉生斗は今まで怖くて聞けなかった事を、口に出した。
飽きるとか飽きられるとか、他の人が好きになる、とか、出来心で浮気とか、恋愛には障害イベントが盛り沢山だ。
ナスターシャだってもう少し歳がいけば、絶世の美女になるだろう。きっと、アレクセイだって振り返るほどのーー。
「ああ。きみの一生を愛している。いや、一生では足らないな」
琉生斗は固まった。何なんだ、この自信は。
逆に怖いんだけどーー。
「ありがとうーー」
そんなに好かれる事したっけ?と、疑問は残る。
だがー、好きな人に同じように想われるって、感動だな、と琉生斗は思った。
あーー、おれアレクの事、すげぇー好き。
キスをねだった琉生斗に、アレクセイは包み込むような、愛のこもった口吻をするーー。
「なぁ」
裸になってお互いを愛撫し合う。幸せなひととき。
琉生斗の手が、アレクセイの腹の下を弄る。
「どうした?」
アレクセイは、琉生斗の髪の毛を優しく撫でる。汗ばんだ髪が、より艶めいて見える。
「ーー最後まで、ね」
「何?」
可愛くて、可愛いすぎて、べたべたに甘やかしてあげたい。
「ーーして、アレク」
琉生斗の言葉に、アレクセイは固まった。琉生斗の指が、自分の太腿の際で遊んでいる。
もう少し、下まで触って欲しいが、絶妙なところで指の動きはとまる。
いや、待てー。
ーー最後までして?
いや、聞き間違えかもしれない。
待ちに待ちすぎた言葉に、耳がおかしくなったのか。幻聴を拾うとはー。
「アレクー」
キスをねだる顔の艶然たる事。
「ダメ?」
アレクセイは完全に理性を失ったーー。
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