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日常編2

第54話 聖女は修道院を去る ☆やや18禁

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「あんたのせいじゃないんでしょ?」

 美花は励ましてくれたが、琉生斗の心は重いままだ。フリエッタもバルド国の兵士達も、自分が関わったせいで亡くなっているのは事実だ。


 世界助けて、人殺してりゃ意味ねーなぁ。


 ふと、琉生斗は胸の辺りを押さえた。

「いてっ」

 しまった!

 琉生斗の心臓の中の魔蝕が、光で包みこんでいるはずの魔蝕が、そこから出ようと暴れている。
 

 やっばーー。光だ、光だーー。光で押さえねえとーー。
 

 おれのせいで人が死んだーー。おれが来なければーー、みんな生きてたのにーー。



 考えては負けるー。だがー、自分に非がないとは思えないーー。


 琉生斗は倒れ込んだ。カルディは叫ぶ。

「ミハナ!殿下を!」

「はい!」

 カルディは琉生斗に声をかける。

「聖女様!すぐに殿下が参られます!どの体勢が楽か、ありますか!」

 琉生斗は手で止める。うずくまっている方が楽だ。

 随分と苦しそうだ。カルディは緊張しながらアレクセイを待つ。

「ルート!」

 アレクセイが部屋に入る。カルディはその場から立ち上がる。

「ルート、胸か!心臓か!」

 琉生斗はアレクセイに目で訴えた。

「カルディ、席を外してくれ」

「はっ!必要な事があればいつでもおっしゃって下さい!」

 カルディは出て行く。外で待っていた美花に、少し離れようと指示する。

「え?まさか、イチャイチャタイムですか?」

「しっ!」


 琉生斗はアレクセイと唇を合わせ、魔力を大量に吸い取った。アレクセイも琉生斗が神力に変換しやすいように魔力を流す。

 光の出力をあげて、魔蝕を堅く光で包む。

 とにかく光でガチガチに固めといてやるーー。


 アレクセイとキスをしていると、気持ちが落ち着いてくるのを感じる。彼の為にも、自分は強くあらねばならないーー。
 

 心が安定すると、魔蝕の暴走はとまった。

 

 いけたーー。もう大丈夫だ。

 魔蝕はおとなしく、光の中に収まった。



 琉生斗はアレクセイから唇を離した。

「はぁー、アレク、ありがとう」

 と、言いつつ、琉生斗の目は泳いでいる。

「ルート……」

 アレクセイの美しい瞳が、琉生斗を厳しく睨んだ。


 ありゃー、バレたかーー。


 琉生斗は頭を搔いた。

「なぜ、そんな事になった?」

 アレクセイが額を押さえた。

「えっと、まぁ成り行きで取り込んじゃったんだけど、浄化しても、すぐに帰ってくんの。ペットみたいだろ?」

「ペットにしては凶悪過ぎるー」

 魔蝕をー、なぜ聖女が魔蝕を心臓に取り込んでいるのだ。

 アレクセイも考えが追いつかない。

「ーー捨てる」

 溜め息をつきながらアレクセイは立ち上がった。なんとか方法を考えないとー。

「やっ、捨てないでくれよ!」

「ルート!」

 アレクセイに怒られるのがはじめての琉生斗は、なんだか悲しくなって追い縋った。

「ごめん、おれが悪かったから!捨てないで!」

 泣きそうになりながらアレクセイに抱きつく。それをされると弱いのがアレクセイだ。

「ルート、言う事を聞きなさい」

「だってーー」

 かわいそうだろ?

「何が」

 アレクセイはあっさりと流した。

「殿下!陛下より、聖女様帰還命令です!」

 トルイストが報告にきた。

「わかった」

「えーー」

「えー、じゃない」



 琉生斗はモナルダを探した。

 お礼を言わなければーー。

 モナルダはフリエッタの葬儀の為、忙しくしていた。頭巾を深く被り、顔色もわるかった。

「ごめん、モナルダさん。おれが来なきゃフリエッタさんはー」

 モナルダは微笑んだ。

「お優しい聖女様。そんな事は考えないで下さい。負けたのはフリエッタの方です。聖女様の身を危険な目に合わすとは、修道女としてあるまじき行い」

 琉生斗は目を伏せた。

「死んで償ったのです。どうかお許し下さい」

 深々と頭を下げられる。他にもいた修道女達も次々と頭を下げる。

「許すも何もーー。フリエッタさんの次が、幸せならいいと願っているよーー」

「聖女様!殿下がお待ちですよ!」

 うるさい、無神経男。

 琉生斗はトルイストを睨む。

「何をやらかしたんですか?殿下の機嫌がすこぶる悪いーー」

「おまえがデリカシーのねえ発言したんじゃねえの?」

「覚えがありません。はい、早く殿下の機嫌をとって」

「おまえ、クリスにいいつけて、地方に飛ばしてやるからな!」

「いいですね。一新兵からやり直しましょうか?すぐに戻ってやりますがーー」

 たしかに、この男ならそうなるだろう。

 琉生斗は苦虫を噛み潰したような顔で、トルイストを睨んだ。そのやり取りに、モナルダが小さく吹き出した。

「修道女の皆さん、この聖女様がお世話になりました」

「この、ってなんだおまえ!」

 修道女達は、深く頭を下げてそれに答える。本来、男性と話す事ができない彼女達だが、トルイストという男前を前に、色めき立っている様子だ。

「あぁ、モナルダさんて、剣の腕すごいんだな」

 琉生斗が言うと、モナルダはピクリ、と肩を震わせた。

 華奢に見えるが、女性にしてはしっかりしている身体だ。剣術を嗜んでいるのだろう、と琉生斗は感じた。

「ほうー、修道女なのに、そんなに強いんですか?」

 トルイストの言葉にモナルダは首を振る。

「聞くなよ、おまえ。モナルダさん達はおまえと話せねえの」

 なぜだ?とトルイストは首を傾げた。

「安定の馬鹿だな」

「ちょっとルート!殿下が怖いんだけど!」

 美花が真っ青な顔で走ってきた。

「一発芸でもかましてやれよ」

「ルートが申し訳ありましぇ~ん。ってやったらすごい目で見られたわ」

 美花のふざけた顔にトルイストが吹いた。

「おっ、受けたな」

「ファウラ様にもやってみようかしら」

 美花の言葉に、琉生斗はバレないようにモナルダに視線を走らせる。

 ん?笑ってるーー。

 違うのか、いや、自分の方が知っている、と思っているのかもなーー。




 琉生斗は修道院から出て、離宮に帰宅した。アレクセイは不機嫌なままだったのだがーー。 

「ね?アレクー。サービスするからぁー」

 怒んないでよー。

 風呂の後、シャツ一枚でアレクセイの上に乗る。

 アレクセイはぐらついた。

「ーーサービスとは?」

「うーん。ーーこれじゃダメ?」

 琉生斗は頬を赤らめながら、指を二本揃えて立てて見せた。

 アレクセイは頷いた。

「ーー私の力不足と父上に申し上げよう」

 おまえちょろすぎねえかー?
 琉生斗は逆に心配になる。

「いけそうなら三本いれよう」

 琉生斗は固まった。

 アレクセイの目を見ると、すでに攻撃態勢に入っていることがわかる。

 アレクセイは指を琉生斗の口の中に突っ込む。指で口の中をいじりながら、薄く笑った。

「ルート、愛しているーー」

 どんな事があろうとも、私はきみを手放したりはしないーー。

 飽きる、などとは、かわいらしい発想だ。


 そう、琉生斗は失念しているが、バーンの散歩道は修道院外の為、モナルダとの会話はアレクセイに筒抜けだったのだ。

 スズと神殿の交流の事は知らなかったが、そんな事を話していたとはーー。

「は、はれくー」

 琉生斗はせつなげにキスをねだった。口から出たアレクセイの指が、下におりていく。その入口を指で触れると、琉生斗の身体が震える。

 愛らしい恋人の姿に、アレクセイは満足気に溜め息を漏らす。

「やめて、は無しだ」

 琉生斗の耳に、アレクセイは囁く。

 頷いた恋人は、キュッと目を閉じてアレクセイの首に腕をまわした。唇を重ねながら、アレクセイは琉生斗の中へ指を一本いれる。琉生斗の頬が上気していき、恥ずかしげに首を振った。かわいさのあまり、アレクセイの行為も激しさを増していくー。


 さあ、壊れるぐらい、愛し合おうかーー。


 アレクセイの狂気にも似た愛情を、琉生斗はまだ知らないーー。
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