ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。(第一部、第二部、第三部)

濃子

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日常編2

第52話 聖女、修行中

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 散歩の後、琉生斗はひとりで川に来た。美花達は女子会で盛り上がっているので、クッションをベッドの上に並べ布団を被せて、抜け出してきた。

 白衣を着たまま、川に飛び込む。夏とはいえ、水は思った以上に冷たい。

 だが、気を失うほどではないーー。


「なるほどねー」

 琉生斗は泳ぎながら空を見る。星が濃さを増したように輝いている。


 琉生斗は泳いで川を下る。流れはゆっくりだが、たまに速い場所もある。

 気持ちがいいなあー、このまま流れてどこに行くのかーー、ってこっちはロードリンゲン国の方だって知ってるけどさーー。

 そろそろ聖魔法の結界外だ。たぶん出られないだろう。

 案の定、琉生斗の身体は何かにぶつかり動きがとまる。

「出れねえかーー」

 軽く叩くが、そもそも魔力のない琉生斗には結界を破ることはできない。

「ーーアレク、何してんのかなー」



「そうだなー、書類を片付けていた」



 琉生斗は声のする方を見た。アレクセイが宙に浮いている。騎士服ではなく、部屋着の白シャツに黒のズボンだ。

 おい、エグいぐらいエロくねえかーー。

 絶世の美女モナルダが、隣りで初体験を打ち明けてくれても反応がなかったそこが、アレクセイを見ただけでなんだか元気になってくる。

 もう、おれは男じゃねえのかもしれないー。

 ちょっとがっかりする事実だ。

「聖魔法の結界内って入れるのか?」

 たしか、神殿では魔法が使えないはずだ。

「使用できるものは限られているが、たいした事はない」

「なんだ、じゃあここまで下って来なくてもいけたんだー」

「あぁ」

 アレクセイは琉生斗を抱き上げ、キスをした。岩場へ飛ぶ。

「冷えている」

「いいさ、これから熱くなるんだしー」

 琉生斗はアレクセイの首に腕をまわした。

「ん、んうー」

 舌の熱さがとても気持ちがよく、琉生斗は夢中でアレクセイの舌を吸った。


 おれを死なせない覚悟かー。アレクも大変だよなーー。


 アレクセイが、琉生斗の白衣に手をかける。ピタリと張り付いている衣服を襟元から割ろうとして、アレクセイの頬が赤らんだ。

「綺麗だーー」

 何がだろー、と琉生斗が思った瞬間だった。





「はい!聖女様アウト!」

 灯りとともに、教皇ミハエルの声が響いた。


「えっ!」

 マジー!、と琉生斗は頭を抱えた。

「アレクセイ殿下、結界の入り方が甘いですよ」

「そうか、しくじったかー」

 心底悔しそうに、アレクセイがミハエルを睨んだ。

「どうせ来ると思って甘く張っといたんですが、本当にいらっしゃるとはーー」

 ミハエルは深く溜め息をついた。

「このまま帰れば父上には黙っておきますよ」

「服を乾かしてあげたい」

「殿下なら、1秒でできるでしょ」

 はい、どうぞ、と促される。

「部屋に運びたい」

「はいはい、わかりました。そこまでですよー」

 ミハエルが呆れて返事をした。



 琉生斗は部屋に戻された。素早くアレクセイとキスをする。

「また、明日ー」

 名残惜しそうに目を伏せ、アレクセイはふっと、宙に消える。

 頷きながら、琉生斗はベッドに横になった。

「まじ、カッコいいーー」

 どうしよう、おれーー、と琉生斗は枕に顔を埋めて、黄色い悲鳴をあげた。

「んー、ルートどうしたの?」

 寝ぼけながら美花が部屋のドアを開けた。

「ーー何もねえよ」

「あっそう。迷惑かけないでねー」

 パタン、と扉がしまる。

「護衛失格だなーー」

 ファウラを叱っとこ、と琉生斗は思った。



「本当に、聖女様。三日ですよ、たった三日!なんで我慢できないかなー」

 最後の方はもはやぼやきである。

「おれ達には付き合うときに決めた約束があって、一日一回以上のキスをする事になってるんだ」

 草取りをしながら琉生斗は答えた。呆れた顔でミハエルは、琉生斗に麦わら帽子を渡す。

 帽子を被り日差しの強い中、硬い土を掘る。

「なんでこんな放ったらかしの場所をおれがーー」

 硬いなーー。

「こんなに硬いんじゃ使い道がないだろー?」

「バーンを放し飼いにしようと思うので、ドッグランを作りたいのです」

「そうなんだー」

 じゃあ、がんばるか、と琉生斗は真剣に草を取る。

 ミハエルは、くくくっ、と忍び笑いをした。

 

 本当に、聖女らしい性格をなさっておられるーー。



 終わらねえなぁーー、さすがに今日と明日だけじゃ無理があるーー、琉生斗は草だらけの空き地を見て、困った表情になる。

 何と言っても土が硬い。朝からやってもタタミ6畳分ぐらいしか出来ていない。

「聖女様、お昼ですよ」

 フリエッタが呼びに来る。美花が後ろにいる。

「では、ミハナ様、よろしくお願い致します」

「はあいー。いってらっしゃいー」

 フリエッタは買い物袋を持って、修道院の入口に向かって行った。

「ここからどこに買い物に行くんだろーー」

「外に出れば転移魔法が使えるじゃないーー」

 転移聖魔法らしいけど、と美花は続ける。

「そんなに違うのか?魔法と聖魔法って?」

「ファウラ様が言ってたけど、お互いに何でそれが使えるかわからないんだって」

 ほーん。

「わかりやすいな。さすがだな」

「でしょー。ファウラ様ってすごいわよねー」

 美花は鼻高々だ。

 どうしてそうなるのか、元が違うんだろうーー、と琉生斗は考えた。魔法は魔力器官、聖魔法は聖魔力器官があると言う訳だ。


「ーーファウラ……」

 いつの間にそこにいたのか、モナルダが小さな声で呟いた。琉生斗が振り向くと、慌てたように表情を取り繕う。

「聖女様は働き者ですね。後は聖魔法で耕しますからーー」

 冷えたタオルを渡してくれる。何という気遣い。

 ーーまさか、だよなーー。 


 琉生斗は美花の顔を、見る事ができなかった。

「そういえば、フリエッタさんは?」

 モナルダが美花に尋ねた。目が、硬い感じがする。

「買い物があると出かけましたよ」

 美花は元気に答えた。

「ーーそうですかー」

 モナルダは視線を外へ向けた。
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