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日常編2

第48話 お后教育 3 ☆

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「なぁアレクーー」

 部屋を出る前に、琉生斗はアレクセイに話しかけた。

「どうした?」

「ーー公式の場だと、おれの服装はどうなる?」

 アレクセイは黙った。

「まさかとは思うけどーー」

 視線を走らせたが、全員目を合わせてくれない。

 琉生斗は溜め息をついた。

「なんだ、結局おれ公式の場には出られないなー」

「ルート……」

「そんな顔してもドレスは着ませんー。あっ!」

 琉生斗は心底嫌そうな顔で、アレクセイを見た。

「結婚式はしないからな。籍だけ入れりゃいいだろ」

 きっぱりと言い切っておく。


 瞬間、クリステイルは見た。

 兄が、すべてにおいて完璧な兄が、琉生斗の言葉に泣きそうな顔をした。それは一瞬で、すぐにいつもの兄の無表情な顔へと戻ったのだがー。

 兄上かわいそうーー。

 ちょっと聖女様って融通きかなさすぎーー。


 兄がいいなら外野がどうこう言うことではないだろうがー。いい方法はないのだろうか、とクリステイルは思った。



 



 琉生斗と出て行くアレクセイの姿を、何もできずにナスターシャは見送った。父の過去や数々の非礼を謝らなければ、と思いはしたのだがーー。

 ナスターシャは涙を堪えた。

 アレクセイが琉生斗を愛しているのは、誰が見てもわかること。
 アレクセイを好きでいる為には、それに耐えなければならない。あの聖女と別れる可能性に、期待しなければならない。


 けど、永遠に別れが来なければ?

 自分の想いは、どこに向かえばいいのだろうーー。




「なぁなぁ」

 アレクセイの腕の中で、琉生斗は気になった事を聞いた。

「どうした?」

 琉生斗の髪の毛を撫でていたアレクセイは、何を言われるのか少し構えた。

 ベッドの中、シャツだけのアレクセイは、異常な色っぽさで、心の鼻血がブーの琉生斗である。

 こいつも、汗かくんだなーー。

 最後までやらないにしろ、そこそこの事をすれば、アレクセイでも汗がでるのか、と琉生斗は思ったものだ。

 いや、汗かかないのって、身体には悪いよな。夏でも涼しい顔してるけど。

 そもそも、神聖ロードリンゲン国が涼しい。

 冬、すっごい寒いのかもしれないー。

「ミントが言ってたお后教育って、やっといた方がいいやつ、ある?」

 アレクセイはしばし止まった。

「ミントの事は、ほっておけ」

 あまり関わって欲しくない、とアレクセイは思っている。彼にとって王族は、琉生斗と結婚できる権利を持つ、ライバルでしかない。

 アレクセイがキスをする。琉生斗はそれを払う。

「いやだってー」

「私は気にならない」

「おれはいやだってー」

 ナニを舐めた後でキスをするのはいや。

 だって、おれの舐めたり飲んだりしてんのよ。キスしたら、おれ、間接でおれのもの舐めることになるじゃん。

 譲れないところは譲れない。

 アレクセイは溜め息をついて、ベッドの横のチェストに置いたガラスの水差しをとって、コップに水を注ぐ。

 水を飲む。

 なんで、そう仕草がいちいち色っぽいのよー。

「ほら、おまえが困る事があると、嫌じゃん」

「ルートは食事のマナーも、ダンスも、ピアノもできる。後は何ができるんだ?」

「んー。ヴァイオリンに生け花と、お茶ぐらい?」

 抹茶も紅茶も両方いけますよー。和菓子も洋菓子も作れますー。なんならお琴と三味線もひけますが、知らねーよな。

「むしろ、何が苦手なんだ?」

 さすがにアレクセイは呆れた。多才だとは思っていたが……。

「あー、マジすごいのは兵馬よ。おれ、保育園から小学生まで、週七習い事してたんだぜ。できて当然なの。で、あいつはおれより後にヴァイオリン習ったのに、練習もしねーのに、すげぇー上手いの。あいつとダチやってると、いかに自分が平凡か悲しくなるね」

「彼は別格だな」

「だろ?そういえば、あいつ職業なんだったんだろ」

「聖女の証に触れてないのか?」

「最後にあいつとおれが残って、同時に触ろうってなって、裏切られたんだよ」

 ふふっ、とアレクセイが笑った。

「兵馬が聖女だったらどうだった?」

 他のやつらだったら。

「そうだな。ルートとこうなってしまった後では、何も思わないが」

 まぁ。そうか。

「やはり。君を見て、君なら良かったのに、と思うのかもな」

 この、たらし。

 琉生斗は、アレクセイの首に腕を回す。自分からキスをしながら、再び行為に誘ってしまった。

「よし、二回戦だ!」

「そろそろ、終了までさせて欲しい……」

 アレクセイが懇願するように琉生斗を見つめる。

「親父に禁止されたんだろ?」

 くそ親父ー。

 アレクセイの初めての暴言に、琉生斗は腹がよじれるほど笑った。
    
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